『デート』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:TAKE                

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 彼女と知り合ったのはとあるブティックだった。客である僕が客である彼女に店員と間違えて声をかけたのがきっかけだった。
 話している内に意気投合し、暇を持て余していた僕らはカラオケへ行こうという事になり、互いの好きな歌を唄った。僕の声質的に、何を歌っても山崎まさよしがカバーしているようになると、彼女は笑った。
 ついでに夕飯もカラオケの中で食べた。ピザとポテトというありきたりな組み合わせだ。ピザは生地が薄い割に意外と腹にたまり、満腹になると彼女は眠くなったと言い、ソファへ横になった。しかしどうも体勢がしっくりこないようで、モゾモゾと動いている。
「こっちに来る?」と、なんとなく思いついて膝を叩いてみる。彼女は頷き、僕の膝へ頭を乗せるとしっくりきたのか「あ、これ」と言って目を閉じた。初対面で膝枕をしているこの状況というのは、倫理的にどうなのだろうと感じながらも、僕は彼女の寝顔を見降ろしていた。
 30分程経って、彼女は眼を覚ました。「出ようか」と提案すると、彼女は頷いた。
 外は暗くなっていた。子供じゃないんだから頂けるものは頂けばいいものを、僕は彼女とアドレスを交換して別れた。

 数日後、僕らはまた会った。外は猛暑で、彼女は室内で過ごしたいと言う。映画を観ようかとも思ったが、大して気になるものも上映していない。ネットカフェに行った事があるかと訊くと、彼女は一度も無いと首を振り、興味津々だった。僕らは街を歩いてそこへ向かい、ペアシートを一室、3時間で取った。
 僕らは薄い壁で隣と仕切られた部屋に入る。「さて、どうしようか」と僕は言い、とりあえず目の前のパソコンを起動する。
 店のサイトに色々な映画が配信されていた。「何か観る?」と言うと、彼女は“イーグル・アイ”を選んだ。“トランスフォーマー”ですっかりスピルバーグに気に入られたシャイア・ラヴ―フが主演を務めている巻き込まれ型のアクション映画だ。僕のイヤホンをパソコンに接続し、二人で片方ずつ耳にはめる。やっぱり彼はパニクる演技が絶妙に上手いと感じる。
 イヤホンが耳から抜けないよう体を寄せ合ってしばらく観ている内に、なんだか変な気分になっていた。僕は彼女の腰に手を回し、彼女は僕の胸に自分の胸を押し当てている。
「キス……する?」言うと彼女は頷き、僕達は唇を重ねた。会って二度目とは思えない官能的なキスだった。互いの舌をまさぐり、唾液を交換する。そんな行為が数分続いた。
 映画はシャイア・ラヴ―フが式典会場で銃を乱射するクライマックスシーンだった。緊迫した時間が画面の中で流れているのも、僕達には関係が無かった。キスを続けながら僕達はイヤホンを外し、相手の体をまさぐっていた。彼女の柔らかな上半身に触れ、彼女は僕の太ももに掌を這わせた。
「これ……どうなのかな?」僕は訊いた。
「どうって?」キスの合間に彼女は問い返す。
「だって、ほら。付き合ってもいないわけだし」
 僕が唇を離すと、彼女は首に腕を回した。「確かに……ちょっとヤバいかも」
「だいぶ、ね」彼女の腕を取り、腰の辺りに移動させる。僕の彼女の体の同じような位置へ腕を回した。「どうする?」
「ん?」
「僕ら、付き合うの?」
「んー……」彼女はしばらく間を空けた。「分からない」
「分からないって――」
「私もこんなの初めてだから。ちょっと考えさせて?」
「そうか……分かった。僕も体に頭が追いついてないし」僕らはもう一度キスをした。「そろそろ出ようか」

 その後も何度か会う内に、そんな行為が僕らの間で定番となっていった。二人きりになる場所でキスをし、体をまさぐり合う。一線は越えない。
「まだ僕との事、決めかねてる?」
 5度目のデートだったろうか。僕の中では彼女と恋人になる準備は出来ていた。男が単純な生き物なのか、彼女が複雑なのか……。
「うーん……」
「何かひっかかる事があるの?」
 相変わらずその滑らかな肌を撫でながら訊くと、彼女は頷いた。「実はね、君と会うより前に気になってる人がいたの」
 その言葉の後、しばらく間が空いた。
「……その人とも、こういう事を?」訊くと、彼女は首を振った。
「そっか」なんだかホッとした自分がいた。「僕の方が優勢って事かな」
「多分ね」と彼女は言い、僕自身に触れた。
「……したいの?」
 何度か問いかけた事に、彼女は頷いた。
「最後までいけば、ちゃんと決められる?」
「んー……かも知れない」
「じゃあ、今度」言うと彼女は頷き、キスをした。彼女は歯ぐきが弱いという事をこの日に発見して、そこを舌で触った。艶めかしい声が聞こえた。

 6度目のデートまでの間連絡を取り合っていると、彼女からあるメールが来た。例の男に告白されたのだという。しかし彼は二股をかけているかも知れないという事も言っていた。

――それで、どうしたの?

――無理だって答えたら、勝手に保留にされたの。

――僕はどうすればいい?

 しばらく彼女の返信が遅れた。

――そのままでいて。

 そして6度目のデートだ。
 僕達は電車の中で話しながら、目的の場所へ向かっていた。僕らには考え事をする時に爪を噛む同じ癖がある事が分かった。実に中睦まじい会話だった。
 駅に着くと、僕らは街を歩いた。ブティックやカフェなどの看板が連なっている。
「どうしよっか」僕は訊いた。
「どうって?」
「これから行く所」
「どこか他に行きたい所あるの?」
「んー……特には」
 数分後、僕らはホテルに入っていた。部屋を取り、靴を脱いで中に入る。
 暑いねと言い合い、エアコンをつけた。ベッドへ二人で横になり、テレビをつけると、ナインティナインのバラエティ番組がやっていた。しばらく体を寄せ合いながらテレビを観ていた。
「そろそろ……?」言うと、彼女は服を脱いだ。僕も同じ行動を取る。背中を向けている彼女の下着を外す。少し控えめな胸が露わになった。
 体を重ね、キスを繰り返し、掌と指で互いを慰めた。
「ねえ」
「何?」
「本当に決められる?」
 彼女は悩む表情を見せた。
「何なら、無理しなくても――」
「いいの。大丈夫」
「……する?」
 彼女が頷き、僕らは一線を越えた。

 十数分後、エアコンの効果も虚しく僕らは汗を流しながらベッドに横たわっていた。
 息をつきながら、彼女を抱きしめた。
「……どうする?」訊くと彼女は、また分からないといった。
「ここまできたのに?」
「……ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
 沈黙。
「……あいつの事考えてた?」
 息を詰まらせながら彼女は頷いた。
「僕といても、楽しくなかったか」
「楽しい……けど」
「あいつの方が?」
 もう一度彼女は頷いた。
 僕は抱きしめる力を強め、激しいキスをした。彼女が舌で応じる事は無かった。
「……ダメなのか」
「ごめんなさい」
「別に、謝る事は無いよ」
 つい2時間ほど前までのにこやかな雰囲気はどこにも無かった。
 僕らは間違いを犯したのだと、今更気付いた。
「……出ようか」

 涙をこらえながら歩く彼女と駅へ向かった。
「それじゃあ」改札で僕は言う。
「電車、乗らないの?」彼女は訊く。
「ちょっと、街をぶらついてから帰るよ」
「そっか……」
 僕は彼女の肩を抱き、髪に触れた。「また会える?」
「……分からない」
「また分からないか」
 彼女は鼻をすすった。
「泣かなくていい」頭に掌を当て、2度ほど軽く叩いた。「じゃあ、また」
 彼女は改札を抜け、僕は街へ戻った。

 それから僕らは、連絡を取る事も無くなった。

2011/08/12(Fri)16:09:06 公開 / TAKE
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■作者からのメッセージ
多分若気の至りと呼べるような、よくある展開や結末だと思います。

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