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『密度』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:青川佐助
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あらすじ・作品紹介
ある冬の都会で見つけた小さな感動とそれを知ったがゆえに当たり前のように存在する別の冷たい世界に絶望を抱いてしまう孤独な大学生。
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青白い光で目覚めた。
部屋は真っ暗で寒く、その光が余計私を身震いさせた。
昨日は何をしていたか、意識を整理して思い出そうとしたが目の前のパソコンは何も教えてはくれない、
それに思い出そうとしたところで何もしてないと知るだけなのでやめた。
今は冬、家から一歩外に出れば私の体は反射的に縮こまり、
その腕はドアノブへ伸び、私を一気に部屋の中へ引きずり込むだろう。
そんなどうでもいいことをこう鮮明に描くことができるほど
私は日々を通り過ぎる風のように過ごしているようだ。
そんな私も大都会の中では比較的静かなアパートに一人で暮らしてもう二年に差し掛かる。
今日は大学が休みのため、人通りの多いところへ出向くことにした。
寒いからと毎日自宅に身を篭らせるのは健康面からしてよろしくない。
たまには俗世へ下ろう、と馬鹿らしい理由を後付けし、凍えながら駅へと向かった。
しかし日頃使うことなく貯まったお金を世のため開放するのだ、とまた馬鹿らしく意気込み
私は少し興奮気味でもあった。
地下鉄の切符を買う時にふと心がはずんだ。かつて修学旅行で訪れた際に感じたものに似ている。
まだ何も始まってはいなかった、私はこれより何かをなすのだと妙に自信が付いた。
朝早くに家を出たので三時頃にはもう歩き疲れ、駅前にあった広場のベンチへ腰を下ろした。
行き交う人々は皆思い思いに着飾り、喋り、味気ない街並を鮮やかに染めていた。
すると同じ色の服を着た三十後半ほどの男女数人、
それに囲まれたスーツに名前を書いたタスキを掛けた男がこちらへ向かって来る。
そういえば衆議院選挙の期間であった。
まだ十九の私には選挙権はない。
すまないが貴方の話を真摯に聞いてやるしか私にはできることはないのだ、
と誰に言うでもなく呟き、彼の演説に耳を傾けることにした。
政治家の演説を生で聞くのは生まれて初めてなので少し緊張していた。
彼はどうやら最近立ち上がった新党の党首らしかった。
新党の演説と聞くと、現在の政権党の問題点や、
その党首の発言の揚げ足取りを長々と聞かされるのだとばかり思っていたが、
それに関しては要点を絞り的確に述べ(私はそう感じた)、
その後は実務に関することを分かりやすく説明していた。
良い意味での予想外に出会い、私はとても清々しい気分で自宅へ着いた。
しかし帰宅してパソコンをつけると
そこにはそれの放つ青白い光よりも肌寒さを感じさせる冷たい世界が待っていた。
文面だけで交わされる情報伝達、それにより様々な解釈が行われるそこに色はなかった。
ニュースを見てみると、私の帰った後に駅前で傷害事件が起きていたり、
拝聴した演説への細かい批評が一覧化された書き込みに並んでいたりした。
今日、私が見たものは誰にも共感されることはないのではないか、と不安を覚え、私は外へ飛び出した。
もう午後七時を過ぎ、あたりは静寂に包まれている。
救いを求めるようにわななく体を動かし向かう雑踏にあったのは、
ネオンに照らされ青白くなった人達のためのお墓のようなビルだけのように思えた。
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2011/05/07(Sat)00:01:33 公開 / 青川佐助
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■作者からのメッセージ
部活の方で「パソコンを通して」というお題を頂き書きました。
初めて書いた作品で、推敲を繰り返した結果です。
文法的なものから内容的なものまでどのようなご批評でも
構いませんので是非お願いします。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。