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『埋まらない隙間』 ... ジャンル：ショート*2 恋愛小説 作者：土砂降り: あらすじ・作品紹介
お酒と女性を重ねた男性とそんな男性に心惹かれてしまった女性のお話; １２３４５６７８９101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142

何も聞こえないわけじゃなくて聞こえない振りをしているだけだった。
すべて聞こえていたけれど僕は怖かった、聞いているということを認めるだけで僕は小さくなっていく気がした。

「ワイン好きだったっけ？」
彼女は不思議そうに僕の顔を覗き込むと勢いよくソファーに腰を下ろす、そして甘えたような声で言った。
ワイングラスをテーブルに置いて僕は彼女の言葉に返事を返す。

「好きって聞かれても答えに困るな、時々飲むにはいいって言う感じかな」
彼女の視線が暑苦しくて目を逸らして言葉を零す、「ふーん」と彼女はどうでもいいやって言う様な生返事を言ったかと思うとすぐに言葉を続けた「私の存在もそんな感じだったりする？」と。

彼女と出会ってもうすぐ３ヶ月になる。
僕がよくいくバーで隣同士になったことがきっかけで仲良くなった。
こんな関係になってしまったのもほんのちょっとした気の流れというかお酒の後で彼女が持ち帰って下さいというような態度を見せたから、最終的には僕の勝手な判断だけれど。その日、体を重ねて次の日に何もなかったように別れたはずだったのにまたバーで出会い、彼女に「体だけでもいいから」と告白された。僕は浅はかだったと思う、彼女が望むならと思いながらもどこか自分の欲求を満たしたがっていた。

そんな回想をしながらまたワインを口に運ぶ。
彼女は何も言わなかった。
ただ僕の一言を待っていた、まるで子犬のように。

沈黙が僕を潰そうとする、きっと僕の中のもう一人と僕が欲求から出る本音と良心の狭間で戦っている。
「急になんだよ」沈黙に耐えかねて僕は逃げようと話題を変えようとしたが彼女は笑いもせず怒りもせずゆっくりと口を開く。
「ワインじゃなくなる方法とワインを好きになって貰う方法と現状維持しながらワインでいることを後悔するのってどっちが幸せかな」今にも消え入りそうな声で彼女は言う、目を潤ませる彼女を見ながら不謹慎かもしれないけれど綺麗だと思った。そして言葉なく彼女を抱きしめていた。

そしてまた彼女を抱いた、満たされないと知りながらも。
彼女が欲しがっているものはなんとなく推測出来る、でも相手の求めるものが解っていても与えられないものだってあるのだ。求めているものを与えるために僕が何かをしたとしても本質的に彼女を満足させることが出来るはずがなかった。もしかしたら彼女はそれを知っていても求められる相手がそう僕がそこに在ることに満たされかけていたのかもしれない。愛がないとしても。

「どうして、抱いてくれるの。好きになってくれる？」
「それは…」
嘘をつくことは出来たかもしれない、彼女に一時的な安心や喜びを与えられたかもしれない。
「私、貴方のそんなところが好き」そういって彼女はまだ少し潤んだ瞳のまま笑った。
「ごめん」
「知ってたよ、でもいいの」
伝わる温もりと重ならない思いが交差する。
体を求め合えても愛を共有できるとは限らない、それを知りながらも彼女は僕を求めていた。
きっとだからこそ彼女は僕を求めたのかもしれない。
僕の腕の中で彼女は眠る、それを確認してゆっくりと腕から彼女を離した。
彼女の寝顔を見ながら飲みかけのワインを飲み干してホテルの窓を開ける、冷たい夜の風が頬をなでる。
暖かい部屋が一気に冷たくなるのを感じた。

結局、彼女に別れを切り出せなかった。
愛はわからない、でも彼女の温もりが僕を一時的に満たしてくれている気がした。

夜はまだ長いらしい。
ワインをグラスに注ぎながらワインは美味しいけれど好きになれないなと思った。; 2011/04/06(Wed)23:20:09 公開 / 土砂降り
■この作品の著作権は土砂降りさんにあります。無断転載は禁止です。; ■作者からのメッセージ
ワインという単語が頭から離れなくて、すらすら書けてしまったお話です。
前回の文章にコメントありがとうございました。
説明不足ということや描写が足りないのではないかという指摘をふまえて書いてみたのですが･･･まだやっぱり私じゃ力不足かな。
読んで貰えたら光栄です。
いろんな方々の小説を見ながら勉強してきます。; 作品の感想については、登竜門：通常版（横書き）をご利用ください。