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『白い手紙』 ... ジャンル:恋愛小説 リアル・現代
作者:漂浮
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あらすじ・作品紹介
毎日届く白い手紙。内容はいつも短いもので、面白味は無いものだったが真澄にとっては素晴らしい内容に思えた。毎日手紙を読むことが、いつの間にか真澄(ますみ)にとって日常になっていた。それから一年後、クラス替えで隣の席になった男の子に真澄は一目ぼれしてしまう。だがその男の子は親友の幼馴染だった。その日から親友との関係は崩れ始め、幸せだった日常に影が蝕んでいく。真澄はどうなるのか、一体どんな道を進むのか。日常恋愛泥沼小説。
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コトン
今日も投函される白い手紙。
その音を聞いた瞬間目が覚め、白井真澄(しらい ますみ)は目が覚めた。
まだ気だるい体をベッドから起こし、六畳一間の部屋から短い廊下を通りポストまで早足で向かう。
まだ触れられていた体温が残る手紙を手に取り、またベッドへと今度は早足で戻る。
カサリと紙が音を立てて、真澄の手によって丁寧に開けられる。
「今日から僕は高校二年生です、か」
手紙にはそれだけが書かれており、それでも真澄は充分過ぎるほどの嬉さを貰った。
真澄は手紙をまた元通りにしてベッドの横に置いてある白い箱に大切に仕舞う。
そしてベッドから降りて、いつもより明るく身支度を始めた。
白いアパートの二階からまだペンキが剝がれていない真新しい階段を降りて、長い黒髪の少女に声を掛ける。
「おはよう、深飴(みい)ちゃん」
「おはよ、真澄」
こちらを振り返る少女は吊りあがった目をしており、サバサバとした印象を抱く。
傘縫 深飴(かさぬい みい)は真澄の親友であり、手紙の事を唯一知る友人だ。
「真澄、今日も手紙貰った?」
「貰ったよ。手紙の子も今日から高校二年生なんだって」
いつもより嬉々とした真澄の声に深飴は少し驚いてから、保護者の様な柔らかい眼差しで真澄を見た。
「同い年か。なんだか運命的ね」
「……そうだね。なんだか素敵だよ」
「今日で丁度一年目かな。手紙を貰い始めて」
「そういえば、そうだったかも。うん、そうだ」
「手紙を貰ったのは高校一年生のとき、か……」
「うん……」
深飴がぼんやりと前を見るのをみてから、真澄も昔のことを思い出す。
カコン。
初めてポストから音が鳴った。
真澄は高校から親元を離れ、今日から初めて一人暮らし。緊張と新生活への恐怖を抱いて一夜を過ごした朝だった。何だろうとポストへ向かうと、白い手紙が一枚。存在感を知らしめるようにポストの隙間から漏れる光を浴びて、ぽつりと入っていた。
「好きです」
それだけ真ん中に小さく、丁寧に書かれていた。
真澄は不思議と気持ち悪さや気味悪さは無くて、少し気分が緩まった。
たまたま空っぽで置いてあった箱に入れだしたのが、今日の一年前。
それから毎日、日曜日を空けて手紙は届けられた。
「毎日、毎日凄いよね。内容もかぶらないの?」
深飴は思いだし終えたのか、口を開け昔の余韻に浸ろうとする。
真澄は真澄で、それがつい昨日の様だと高鳴る胸と共に余韻に浸っていた。
「内容はね、結構かぶったりするけど、でもつまんなくはないんだ」
「ふーん……。それって凄いね」
「うん。凄い」
前を見据えて力強く言う真澄に深飴は羨ましさをこめて「そうだね」と、言った。
「にしても、私なら気持ち悪いよ」
「何が?」
「好きです、なんて手紙が入ってたら。しかも誰かも分からない人から」
「……」
真澄は深飴の言うことに目を吊り上げ、それから下げた。
「それもそうだなぁ……。何でだろ。嬉しいって思っちゃって」
「変なの。私なら速攻破り捨てる」
深飴がビリビリと紙を破く真似をしたので真澄は苦笑した後、視線を下に向けた。
「……私ね、昔は病弱だったの。学校にもあんまり行けなくて、ずっと病院で過ごしてた。ようやく学校に行けるってなった時はもう、中学生になってた。だからかな、あんまり友達も出来なくて、馴染めなくて……運動も出来ない身体だから、ズル休み、なんて言われて虐められてた。だから好意を向けてくれたのが嬉しくて、こんな私でも好きになってくれるんだって」
突然の真澄の告白に深飴は目を見開き、はたと立ち止まった。
「……」
黙り込む深飴に真澄は慌ててフォローする。
「でも、昔の話しだし、もう気にしてないんだけどね。だって今は深飴が居るし!」
深飴は真澄の空元気な態度に眉を顰めたが、何も言わなかった。
少しの沈黙の後、深飴はまた歩き出したので、真澄もそれに続く。
「私さ……」
口を開いた深飴に真澄は「ん?」と聞き返す。
けれど一向に返事は返ってこない。
真澄は可笑しいと思って深飴の前に回り込む。
「どうしたの?深飴」
からかう様に言えば、深飴は切なそうに目を細めた。
「深飴……?」
真澄は自分が昔話を言ったから、深飴が感情移入して悲しんでいるのかと思い、また元気さをアピールする。
「深飴らしくないなあ!ほら、しゃきっとしてよ!いつもみたいにさ!」
肩をぽんっと叩くと、深飴はハッとしたように目を見開いた後、にやりと口元を歪ませた。
「そうだね、私らしくもない」
そう言ってから、深飴は真澄の手をとり無理矢理に引っ張った。
「早く学校行こう!早く行って損はない!」
いつも通りチャキチャキしている深飴に、真澄はくく、と喉の奥で笑った。
「やっぱり深飴はこれでなくちゃね」
学校に着き、真澄と深飴はクラス発表を心臓を煩く鳴らして見た。
「あー」
深飴が間抜けな声を出し、真澄をぎゅっと抱きしめた。
それから真澄もクラスが離れたことに気付き、落胆の声を出した。
「でも、たった一クラスだから、あんまり離れたって気がしないよね」
「真澄はそれで満足なの?私は絶対やだ」
「深飴ちゃん……」
珍しく我侭を言い放つ深飴に真澄は嬉しいやら迷惑で見た後、やっぱり寂しいと両肩に手を置いて悲しさを紛らわした。
行き道であんな過去話するんじゃなかった。
こんなにも深飴ちゃんを困らせてしまった、と真澄は今更後悔したが、それももう遅い。
ごめんね、と声には出さないで言った。
「真澄、ちゃんと友達作るんだよ」
「分かってる。もう今は作れるよ」
「……そうだよね。だって一年間私が真澄の人見知りを失くそうと努力したんだもん。もう、大丈夫だよね」
「あはは。そうそう、だから大丈夫!」
「……うん!じゃあ、私はもう行くね」
「ばいばい!帰りに会おうね」
走り去っていく深飴の背中が見えなくなるまで真澄は見続けた。
不安が身に纏い、本当は深飴と離れるのが一番自分が嫌だったのだと真澄は知っていたが言わなかった。
深飴にはもう沢山迷惑を掛けてきた。
人見知りで発言もろくに出来ない自分を、いつもカバーしてくれたのだ。
逃げ出したくなる足に叱咤して、自分もクラスへと入った。
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2011/03/31(Thu)17:25:40 公開 / 漂浮
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■作者からのメッセージ
初心者で表現や描写が書ききれないと思いますが、精一杯書きます。よろしくお願いします(^^)
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