-
『崩れた日常』 ... ジャンル:ファンタジー 異世界
作者:桃瀬
-
あらすじ・作品紹介
記憶を全て失った冬凪。親と幼馴染を殺され暗殺者に育てられた白露。暗殺者に親兄弟全てを殺され不運に生き残った元公主春霖(シュンリン)。――この三人は出会い、お互いを知らずに友達へとなる。しかし、それは悲しい運命を伴って。
123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
プロローグ.理不尽な神様へ
どうしてですか。
神様はいらっしゃらないのですか。
それとも、いらっしゃるのですか。
私には分かりません。
神様は、何故、私に手を差し伸べてくれないのですか。
何故、このような仕打ちをうけなければならないのですか。
私に、罪があるのですか?
父に、罪があるのですか?
分かりません。
どうしても、分かりません。
幾ら考えても、どんなに思考をめぐらせても、全然答えは見つかりません。
怖いと、縋る相手は居ず、夢は手からすり抜けました。
この手についた、生ぬるく、暖かい、赤褐色の液体はなんなのですか。
この目の前にいる、冷たく、凍った者は本当に存在していたのですか。
信じたくない。
神様、どうか、今すぐ、この悪夢から私を起こしてください。
こんな現実を、受け入れられるほど、私は強くありません。
序幕.殺人鬼遭遇
いくつもの国の中で、大国と称される由羅国。
その、国を成り立たせる5つの州のうち、由羅国北東に位置する田舎とも都会ともいえぬ、慶羅州東禰。地区という所に少年は居た。
慶羅州は5つの州のうちでも、冬が長く、夏は涼しく短いという場所で、極端な場所ではない。
少年は、恐らく18年間、その地区で過ごしていた。
木々は桜が、きれいに咲き誇り、あるいは散っている。空先には、上弦の月が見守るように空に掲げてあった。
その日は、春休みに入った次の日のこと。
秋簾 冬凪は、たまたま夕御飯の材料を買うのに時間がかかり、日が暮れた後に岐路に付くことになってしまった。
もっとも、本屋さんで立ち読みしたのが一因であるが、一人暮らしの冬凪にとっては取るに越したことがない。
それに、彼はそれこそ孤児院で中学生まで過ごしたが、高校生になってからは、成人として扱われる。つまりは、孤児院にも居られなくなるので、国から生活補助金を貰いながら、それなりの生活を送っていた。
高校に通うことは、義務ではないが、無償化だったので受けることにして、何となく通っている。
別にやめても良いのだが、それだと楽な生活がなくなり、働かなければならない。
国は、高校生だから、たんまりと補助金をくれるが、一般の人間になったら一日中働けるので、補助金はそれなりの額しかくれないのだ。
何はともあれ、冬凪はマフラーに口を埋めながら、足を速めていた。
春であれ、北東に位置する禦尊州東禰地区は冬がまだ続いている。
一般的には春といえど、身に叩きつけられる寒さは冬と同じだった。かといって、北方面の伊豆埜州よりはマシな寒さなのだが。
桜がどんなに美しく、月が空に掛かり、雪が舞っていようと、寒さに変わりはない。
早く家に帰りたい一身でいた。
コートのポケットには幾らかあったかいが、耳と鼻は劈く(つんざく)ように痛い。
そんな時に――。
風が、押し戻すように前から強く吹いて、桜の花びらが押し寄せてきた。冬凪は、反射的に腕で顔を多い、防御体制のようなものをとる。風がやんで、顔から腕を離せば、目の前に飛び込んできたのは、人と、死体。
思わず、呆けた。
無表情鉄仮面の少女らしき人が、ピクリとも動かない――恐らくは死体――、の前に立っているのだ。ましてや、救急車とあわてて携帯電話を手に取る様子も無く、ただ、何も感情を伺わせない表情で其処に立っていた。
(―――ヤバイ)
本能的に思った。
冷や汗が額に浮かび、心臓の鼓動が太鼓の音のように響く。思わず、後ずさりする。
「…………」
何も思わない表情が、冬凪のほうに向けられた。
電灯の下、雪のように白い肌をもつ少女がいて、その碧色の瞳が射抜く。
「見たわね……」
底冷えするような、冷たい静かな、だが凛とした声だった。少女の片手に、光に反射する一本の、刀――…。
本物だと、すぐに察知できた。レプリカではんく、本当に光に反射して鈍く光っている。
「嘘、だ……ろ?」
唇をかみ、後ずさりする。まさか、と思った。一気に表情が青ざめる。
この世の中に銃刀を所持することは赦されているものの、こんなにあらかさまな方法は誰もとらない。驚きと困惑の表情が、冬凪の顔ににじみ出た。
「仕方ない。仕方ないから、殺すわ」
「――っ!!」
少女が走り出すと同時に、冬凪も走り出した。
こんなところで、死ぬわけにはいかないんだ、と。でも、無論、逃げれるわけが無かった。
彼女の足は異様にはやく、あっという間に追いつかれ目の前に立たれる。彼女に片手をつかまれ、容赦なく腹を蹴られた。
「いっ!?」
感じたことの無い激痛に、腹をかかえ膝をついた。しかも、その手には血糊がついた一本の刀がある。随分重いようで、両手で持っている。
謝罪ひとつもなく、当たり前のように、彼女の刀が振り上げられ――。
だが、次の瞬間。
「見つけたっ!!白露!!」
冬凪と、少女――、白露の間に金髪を有した青年が割り込んできた。
その手には、銀色に光る銃。少し、白露の表情が動揺する。
あまりのことに、呆然と口をあける冬凪は、理解できる範囲内ではなかった。
青年の顔を見えなかったが、何か黒い制服のようなものを羽織っている。学校には金髪やら緑やら赤やら色々な髪色を有した人が居るが、見た覚えが無い雰囲気をまとっていた。多分、学校であったら必ず覚えてるか、あるいは記憶の片隅にとどまっていそうな雰囲気。優雅で何処と無くピリピリした何かがあった。
「ふん、随分速いご到着ね……」
怪訝そうに白露が言い捨てる。
「ここらの近くで盗聴器もろもろ壊されたからな」
白露が眉をひそめて舌打ちをして、その濃紺の長い髪を掻き揚げた。
「ま、いいわ……。それにしても、あんた等、ほんっとストーカーね。……私だって正義の名の下にヤってんだから」
「お前のは正義って言わねぇんだよ。糞が」
「だったら、私を殺す前に殺人犯捕まえなさいよ……。ばぁか」
「俺らは敵討ちの名の下だ。それにお前だって既に殺人罪だ。わかってんのか? おっと、低脳で教養ないおめぇには分からないか」
含み笑いする青年に、そうだったわね、と白露が面倒臭そうに呟いて刀を構えた。同時に青年も銀の銃を構える。
「おい、餓鬼んちょ。さっさと行け。邪魔だ」
青年が後ろに居る冬凪に向けて冷たく言い放った。目は依然と白露に向けられている。冬凪は少し困惑した表情でいたが、すぐに頷いて、立ち上がると震える足の中、走り出した。
後ろで忌々しげな白露の舌打ちが聞こえて、すぐに銃声が鳴り響く。大きい鼓動は相変わらず鳴り止まないし、手の汗は半端なかった。足も震える、表情は引きつる。
怖くてたまらないはずなのに、明日はきっとこのことの話題で新聞を飾られるのだろうと冷静に考える自分も居た。
1幕.形容しがたいソレ
某アパート 3階402号室
ズ、ズズッ
朝、炬燵に入りながらカップラーメンを啜っていた。
何もかも面倒なときは3分飯に限ると思う。寝起きのぼんやりとした思考回路のなかでTVを眺める。
青色の髪は寝癖が酷くボサボサで、目元はうっすらと隈ができている。昨日の出来事のせいで、全然眠れなかったのだ。もしかして、あの殺人鬼が家に押しかけてくるかもと、思えば寝ては起き寝ては起きの繰り返し。
そのせいで、微妙な寝起きになってしまった。
一方のTVでは、全然昨日のことなんてやってないし、どうなったのかさっぱりだ。
窓のそとを一瞥すれば、相変わらず太陽と流れていく雲。それに浮き島がぽつらぽつら遠くに見える。
「いいよなあ、浮き島ってぇぇええええ……」
ぼんやり呻いた。顎を机につけ、カップラーメンをかきまぜる。
浮き島は、現代科学の最先端を集めてできた天空都市で、王様や上級貴族のみ住むこと赦されているところだ。島がどんなところかは不明だが、色々すごいところらしい。なんていたって、最先端だからである。あそこは、季節によって場所を変えるから気候に一喜一憂しない。楽園それだ。
凡人には絶対いけない夢の島。その島では、魔法とかもあるのだとか。
もっとも、中級層の冬凪には関係のないことだ。
ピンポーン
軽い音が耳に届いた。
宅急便か何かだろうか、と暖かい炬燵をでる。寒さに身震いするも、しゃちほこを手にとって玄関に出た。
「はーい」
何気なく、扉を開けると、濃紺の髪をゆうした同世代の女の子がいた。
「みつけたわよ……!」
碧空色の瞳。全身の産毛が逆立った。
昨日の殺人者、白露だ。何処か、昨日より威勢が無いのはあの男と戦ったからだろう。
白露は、ずうずうしく玄関に入ると鍵をしめた。冬凪は、じりじりと後退していき、ついに炬燵のところでつっかえて転んだ。TVの音声がやけに遠くに聞こえた。
「っ……、うわあああああっ!!人殺しだああああああ!!」
ついには、腹をくくって大声で叫ぶ。どうにかして、助かりたいという一心だった。
せわしない鼓動は昨日のように。手汗も。嫌な汗だった。
「誰かああああああ、っむぐ!?」
だが、一瞬驚いた白露はすぐに炬燵の机にあったふきんで口を塞いだ。
「しゃべるんじゃないわよ」
片手で、彼女は背にかかっていた長い袋から銀色の刀を取り出す。そして、案の定刀の先を首のところに寸止めした。
「悪く思わないでね?あそこに居合わせた彼方が悪いのだから」
つめたい目で、嘘みたいにきれいな笑顔で言う。
(あれ……?)
でも、何かが重なる。何かの情景だった。
一瞬で、よくわからない。けど、何かと。
それは、白露も一緒のようで眉間にしわを寄せている。冬凪はその一瞬を見逃さずに後ろに後転した。
「は!!?」
あまりのことに、というより意外なことに白露が目を見開く。
冬凪には、逃げるすべは無かった。だけど、助かるすべはある。それは――…。
-
2011/03/05(Sat)00:24:16 公開 / 桃瀬
■この作品の著作権は桃瀬さんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
初めまして、こんにちは。
では、早速細くというか、世界観の説明です。
この場面での、世界観はほぼ現代の日本と同じで用語も同じです。しかし、何処かだんだんと違いが発覚していくので楽しみにしていただけると幸いです。(浮き島、王政など)
家屋では、高層ビルなどは麟郷州以外にしかつくれず、麟郷州方面にいくと、段々と中世ヨーロッパ風の建物になります。
まず、由羅国では5つの州があります。
まずは、北東に位置する慶羅州。北は禦尊州(ぎょそんしゅう)。西は樋州(といしゅう)。南は玖珠州(くすしゅう)。中央〜南西側は麟郷州(りんごうしゅう)。
麟郷州はまわりの科学的な州や和風すぎる州と違い、古風な感じです。携帯とかつながりますが。
あくまで、現段階なのでかわるかもしれません。
中央側の麟郷州はお城があって、たまに王様が降りてきて儀式を行ったりします。
こういう世界観のものは初挑戦なので、少しドキドキしますね……。
感想・ご意見お待ちしています。
プロローグ〜1話目 2月21日
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。