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『誰かが誰かのサンタさん(読み切り)』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:鋏屋
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あらすじ・作品紹介
サンタクロースなんていやしねぇ! でも……
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「ばっかだなぁ、お前サンタ信じてんの? まじ引くわ〜 あのな、サンタなんているわけねぇじゃん。プレゼントなんて親が買ってんだぜ? 俺今年ゲーム買って貰うんだ」
そんな友達の言葉にカチンときた俺はそいつの顔面を思いっきりぶん殴った。周りに見ていた生徒がわあわあと騒ぎだし、馬乗りになって相手を打ち続けるそんな俺にヤバイと思ったのか、数人の生徒が職員室から担任の先生を呼んできて、俺は取り押さえられた。
その後職員室で先生から理由を聞かれても俺は黙っていた。言いたくないとかじゃなく、何故自分があんなに腹が立ったのか自分でも良くわからなかったからだ。
当時俺は、俺が殴ったヤツと同じでサンタクロースを信じていなかった。だが、アイツと同じ理由ではなかった。ウチには本当にサンタクロースが来ないのだ。
「ウチにはサンタさん来ないねぇ……」
毎年25日の朝に、寝る前に吊した空っぽの靴下を振りながら、そう言って寂しそうに笑う4つ下の妹を見るたびに、悔しい気持ちでいっぱいになった。
ウチは貧乏だった。
親が離婚し、俺達兄妹は母親に引き取られた。だが女手一つで育てるのには、母親は水商売をするしかなく、毎年この時期は色々と店のイベントがあり母親は家に居ることがなかった。毎日生活するのに精一杯だった当時、俺の家ではクリスマスはテレビの中の出来事と同義だったのだ。
クリスマスに無償で子供達にプレゼントを配る不思議なおじさんサンタクロース。
本当に居るなら、何故毎年妹は空っぽの靴下を見てこんな寂しそうに笑わなければならないんだ。
親が金で買い与えるクリスマスプレゼント。
そう言って自慢げに話すクラスメイトが、俺にはどうしても許せなかった。それと同時にこんな日にまで仕事で返ってこない母親と、妹に何も出来ない自分が許せなかった。
サンタクロースなんかいやしない……
俺は自分の不甲斐なさを誤魔化したくてそう思っていたのかもしれない。小学生の頃の話だ……
あれから25年、俺は父親になっていた。
「ねえパパ、私、サンタさんからリカちゃんのハンバーガーショップ貰うのよ」
今年幼稚園に入園した娘はそう言って、先日覗いたデパートのオモチャ売り場で貰ったリカちゃん人形のカタログを開いて俺に見せた。
「へ〜、でもこれ、結構高いぞ。こんな高いのサンタさんくれるかなぁ」
そのカタログに載ってた品物は、俺の想像していた金額の倍の値段だった。
「大丈夫、サンタさんは凄いお金持ちなんだから」
娘はカタログを見せながらそう自慢げに言った。
「それにチカちゃんのウチなんて、お兄ちゃんがDS貰って、チカちゃんがプリキュアのココロポット貰って、妹のマイちゃんはぬいぐるみ貰うんだよ? ウチは私一人だもん絶対大丈夫よ」
チカちゃんとは幼稚園で一緒のお友達だ。今年の運動会で一緒にお弁当を食べたのを思い出す。俺より3,4つ年輩のお父さんだった。たしか物流会社の営業さんだと言っていたっけ、安月給で大変だとぼやいていた気がする。この時期は色々な意味で大変そうだな。
「チカちゃんの家に配っちゃったら、プレゼント無くなっちゃうんじゃないか?」
俺は少し意地悪な質問を娘に投げた。
「そんなの大丈夫。言ったでしょ、サンタさんはお金持ちなんだって」
そう言って口をとがらす娘は、少し心配そうな顔をしていた。それを見た俺は慌てて娘に言った。
「そうだな、サンタクロースはお金持ちだもんな。ゴメンゴメン。今頃サンタさんもお前にプレゼントを贈るためにがんばってるよきっと」
俺がそう言うと、娘は気を取り直し「うん!」と元気に頷いた。
「でもいい子にしてないとサンタさん来ないぞ?」
俺の言葉に娘は「私いい子だもん」と言い返した。
そんなとき、ふと思い出したのだ。
ウチにはサンタさん来ないねぇ……
妹の言葉を。
妹は、小学校5年生の時、肺炎をこじらせ入院し、そのまま亡くなった。その亡くなる年の最後のクリスマスの日、俺はバイトの金で妹にプレゼントを贈った。
当時流行っていた『タマごっち』という小さな携帯ゲームだった。夜、入院していた病院の先生に頼んで、裏口からこっそり入れて貰い、妹の枕元に置いた。
翌日、初めて貰うクリスマスプレゼントを手に笑う妹の笑顔が今でも忘れられない。
『いい子に入院していたから、サンタさん来てくれた!』
妹のその言葉に、当時高校生だった俺は不覚にも涙が出た。そしてその時初めて気が付いた。
サンタクロースは本当に居るんだって事に。
クリスマスイブの夜、俺はすやすやと眠る娘の寝顔の横に、ラッピングされたプレゼントを置いた。置いた瞬間、娘が笑った。
一瞬起きたかと思ったが違った。夢でも見ているのだろうか。
俺は布団から出した手を中に仕舞い眠る娘のおでこを撫で、小さな声で「メリークリスマス」と声を掛け、寝室を後にした。
翌日、朝早く娘が大声を上げながら起きてきた。手には昨日俺が置いたプレゼントを持っていた。
「パパ、サンタさん来たよ! いい子にしていたからサンタさんきてくれたよっ!!」
弾けるような笑顔で娘はそう言った。
「そうか、よかったな」
俺がそう言うと娘は興奮したように顔を上気させて「うん、うんっ!」と何度も頷いた。俺は朝ご飯の支度をしている嫁の目を見ると、嫁も笑い「はいはい、顔を洗ってきなさい」と娘に言った。
「パパは何を貰ったの?」
不意に娘が俺にそう聞いた。俺は「パパは……」と呟きながら考えた。そんな俺を、娘はキラキラした笑顔で見ていた。
「パパもとっておきのプレゼントを貰ったんだ」
ふと思いつき、俺は娘にそう言った。娘は「なになに?」と聞いてきた。
「ナイショだ。このプレゼントは教えると無くなっちゃうんだって。サンタさんの手紙に書いてあった。だからナイショ」
俺がそう言うと娘は「え〜? ナイショなの〜?」と口をとがらせたが、プレゼントを貰ったうれしさからか、すぐにまた笑顔になり洗面所に向かった。「それ置いて行きなさい」という嫁の言葉が後に続いた。
俺はその姿を見送った後、左手にある仏壇に目を向けた。そこには小学校5年生の色のない妹の笑顔があった。あのクリスマスの日、病院で撮った妹の写真だった。その笑顔が今の娘と重なる。
俺が貰ったプレゼント。それはお前のその弾けるような笑顔だ。
お前が俺にとっての小さな小さなサンタクロース。
かつて妹に初めてのプレゼントを贈ったとき、俺はそう感じたのだ。
プレゼントを贈る人も、贈られる相手も、みんなサンタクロース。
クリスマスイブ
その日は誰もが誰かのサンタクロースになる夜
おしまい。
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2010/12/27(Mon)18:47:40 公開 / 鋏屋
■この作品の著作権は鋏屋さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
皆さんのクリスマスネタの話を読み、私も1本。しかもクリスマス終わったのに……(汗
ええもう間に合わなかったさ、アホみたいに忙しいんだものw
完全にズレましたが、誰か一人でも読んで下さったら嬉しいなぁ。
鋏屋でした。
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