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『天の神様の言うとおりっ!』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:日陰日向
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あらすじ・作品紹介
――ある小さな島で育った俺は、親父の転勤で東京に移ることになった。受験、親の海外赴任、寮生活を乗り越えて初の登校日『入学式』、そこで俺は一人の女神に出会う。偶然助けただけのそんな関係、お互いの名前も聞かずに分かれたはずなのに、彼女は入学式の壇上に立った。そして彼女の口から発せられた言葉は「私は、雨宮樹君を神官として指名します」固まる俺とざわめく生徒……ドSの女神様と巻き込まれ神官、二人の行く末はどうなる!?
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―― プロローグ ――
君は神という存在を信じるか? 自分で言っていて実に馬鹿馬鹿しい質問だと思う。まず神という存在の定義はなんだろうか、世界中を見回しても多種多様が神が存在する中で、ただ漠然と神を信じるか? なんて言われても答えなんて出るはずがない。そもそも神をこの目で見たことがないのに信じられるわけがないと、ちょっと前の俺なら考えていた。
まず神というのが曖昧な存在だからいけないのだ。唯一絶対神、三位一体、そして八百万の神……これら漠然とした存在に畏怖を抱くのも無理はないと思うのだが、やはり一番怖いのは人、つまり人間だったりするのではないか? 俺は最近になってそう考えるようになってきた。こういうことを言うってことは俺にはもう信じる神……いや、信じさせられる神的な存在がいるわけで。思い出したくもないのだが少し語ろうと思う。
俺はある島国の生まれだった。人口の八割が腰の曲がったおじいさんやおばあさんで、島中の子供を集めて学校に詰め込んでも十二人、そのうち中学生はたったの三人という高齢者地帯。それが普通の日常だった俺には何の疑問も抱かなかったわけだが、ある日唐突に訪れた人生の分岐点によって俺の日常はあっけなくぶち壊されてしまう。
親父《オヤジ》の転勤が決まったのだ。中学三年、もうそろそろ学校の中で高校生の教育課程に入ろうかというところだった。
当然俺は反対したのだが、東京という憧れの都会という魅力と、歩いて五分でコンビニとかいう何でも売っている店があるということだけでついに折れてしまった。転勤が決まった一週間後にはもう新居に荷物が運び込まれていて、島に居たときは無かった俺の部屋という城まで用意されていた。もちろん俺は喜んで秘密基地のように改築を始めたのだが、そんな楽しい時間も長くは続かなかった。
受験……全国の中学生が必死になって勉強し、目標の高校へと入るというある意味では大人への通過儀礼。俺は島で育ち、島の教育に慣れていたため、勝手にどこかの高校に入れるものと思っていた。受験の存在を知らされたときはとても驚いたものだ。しかもその受験日まではあと二週間ちょっとしかないというタイトなスケジュールに加えて、時期的に推薦入試も受けられないという二重の運の悪さ。この時ばかりは自分の不幸を呪ったものだ。
しかし、俺は元から要領が良かったのか、はたまたやれば出来る子というヤツだったのか、無事に一般入試で進学校と言われるような高校に入学を果たし、これから始まる新しい毎日に胸を膨らませていた。
そして合格が決まってから数日後のある日、三回目の不運が俺を襲う。
急に親父が海外赴任されることになったのだ。親父は会社でもそこそこの地位に着いていたため、海外の子会社を一つ任されることになったという。喜び勇んで移住する用意をする親父の横でお袋が呟いた。
「お父さんが心配だから私も行こうかしら……」
トランクケースにパンツやらタオルやらを詰め込んでいる親父の背中を見ながら頬に手を当ててそんなことを言い出したお袋を俺は懸命に止めたが、ついに俺の意見は通ることがなかった。理由はいたって簡単、だって心配じゃない? あなたはもう大きいんだし自分のことは自分でできるわよね? だそうだ。このとき俺は完全に忘れていた。親父とお袋は島でも一番と言われたほどの仲の良さ、親父が海外に行くとなればお袋も付いていくに違いないことを。
こうして住み始めて二ヶ月も経たない新居は引き払われ、親父とお袋は聞いたこともない国へと移住、俺は高校の寮へと移ることになった。当然学費と生活費は毎月講座に振り込まれるという約束付きで……だが。
さて、問題はここからだ。別に両親とも海外に行ってしまったとか、俺が高校の寮に入ったことが問題なわけじゃない。そこは今の俺の置かれている状況からすればホントに些細な問題に過ぎない。
まず問題の第一点だが、俺の入学した私立神城《かみしろ》高等学校には他の高校にはない制度が存在した。
『神様制度』
初めて聞いた人にはいったいどんな制度なのか全くわからないと思う。心配しなくても俺にも全然わからなかった。簡単に説明するならこうだ。
『全校生徒と教員、事務員を含む学校全体で一斉投票を行い、その内第一位に選ばれたものに絶対的な権力を与える。それは教員や校長を凌ぐ絶対的唯一のものであり、誰であったとしても学校に存在する限り反抗することを許されない』
つまりだ、私立神城高等学校という場所は文字通り神の城、選ばれた一名による独裁的な社会形態を学校の中で築いているということだ。もちろん、その『神様』が命令すればどんなことでも逆らうことが許されず、もし『神様』が授業を中止しろと言うならば即刻授業は中止になる。もっと大きな事を例に挙げるなら、『神様』が学校のデザインが気に食わないから改築しろと命を発すれば恐らく二〜三日中に学校は現存の風貌とは全く異なった姿を見せることだろう。
それほどに神様の権力は絶対的なものだった。ゆえに投票には厳戒態勢で一票たりとも不正を許さない防衛線が張られ、仮に不正を行ったものが現れた場合は即退学処分、ひどい場合は起訴されるそうだ。未だかつてそのような不正をした者はいないようだが。
そして、このあまりに破天荒な『神様制度』が現代社会でも生き残っている理由はもう一つある。それが全校生徒と教員と事務員すべてが投票に参加する、という制度の決まりごとだ。つまりは自分の学校生活をより良く健やかなものにしてくれそうな人間を一人一人が選び、結果的には人望が厚い者、真面目な者が選ばれるというわけだ。絶対権力を持っていたとしても生徒会長をやるような人間ならそんなに無茶なことはやらないだろう……そんな安易な考えが手に取るようにわかる。
そしてここから問題の第二点に繋がるわけだ。
俺がまだ島の狭い環境で気心の知れた仲間と遊びまわっている時期、二年生でありながらも全校生徒八百人のほとんどを懐柔し、その中で着々と権力を強め、ついには『神様』の座を射止めてしまった女がいた。
別にここまでなら大した問題ではない。勝手に権力を振るおうが校舎のデザインを変えようが俺にはさほど影響はないからだ。しかし、俺自身が巻き込まれるとなると話が変わってくる。
時は俺の入学式当日、城下町から城へと登る坂の途中、まさかそんな所で俺の運命の分岐点が待ち構えているとは思ってもいなかった。
桜が舞っていた。神城高校の玄関口にたどり着くには寮からずっと続く長い坂道を延々と登らねばならず、まだ四月で肌寒いというのに額には玉のような汗がぽつぽつと付きはじめ、素肌の上に直接着たシャツは不快にも張り付いては離れて冷えると言う悪循環を繰り返している。周囲を見渡せば坂道に沿うように植林された桜並木が鮮やかなピンク色を発しているが、そんなものに目をくれている余裕はない。何よりも早くこの坂を登りきって水道の水でもいいからガブガブ飲みたい気分だった。
ブレザーの前ボタンを全て外してシャツをパタパタとあおぎながらえっちらおっちらと気だるい歩みを続けてひたすらに学校を目指していると、やたらと後ろのほうが騒がしくなってくる。振り返る労力さえ惜しかった俺は前を睨みつけながら後ろに耳を傾けるという器用な芸当をやってのけた。
「女神様よ! 今日も美しいわあ……」
「女神様だ、新学年の初日からお目にかかれるなんて光栄だよ……」
おおよそ学校生活にはふさわしくない『神様』という単語、俺は思わず歩みを止めて振り返ってしまった。
俺の目に飛び込んできたのは一人の美しい女子生徒だった。何よりも目を引くのが腰まで伸ばして綺麗に揃えられた黒髪、確か天使のリングと言うんだったか? とにかく艶めいていて、四月の柔らかな朝日を反射してきらきらと輝きながら歩調に合わせて上下していた。それから視線を少し上に上げると顔が目に入る。ぱっちりと大きな目、筋の通った鼻に少し薄めの唇……『女神』がそこにいた。
俺がそんな女神に見とれていると、向こうもこっちに気がついたのか俺の目を見て微笑みを返してくる。島育ちの俺にはその刺激は強すぎた、一瞬で顔は真っ赤になり、下を向いて地面とにらめっこすることしかできなくなる。なんとも情けない話だ、島育ちで同年代の異性との交流なんてほぼ無かったに等しいから仕方ないといえば仕方ないのだが……。
そんなとき、自分でもにわかに信じがたいことが起こった。残りあと五十メートルくらいになっていた坂の頂上から用務員が使うリアカーのようなものが猛スピードで走ってきた。操手の手を離れ、ただ引力が働くままに暴走するリアカーはスピードを上げながら一直線に俺を目指して進んでくる。俺は後ろを確認して人がいないことを確認するとそのまま少し横にずれた。俺の後ろには雑木林があり、そこに当たって止まるだろうとの判断だ。
だが、運命ってやつはとことんいたずら好きのやつらしい。リアカーは落ちていた小石を踏みつけ、少しだけ方向を変える。俺が避けた方向とは反対に向かって走り出す暴走リアカーの先にはあの女神がいた。
「危ないっ! 避けろっ」
咄嗟に声をかける。かけてから後悔した、人間というのは本当に危険な状態に陥ったとき、危ないと言われると本能的に体が動かなくなる動物だと前に親父に聞いた。まさに女神は今の俺の言葉に萎縮して俺の顔を見つめたままカバンを両手で固く握り締めて動けなくなっている。
「くそったれ!」
もう飛び込んで体を動かすんじゃ間に合わない、どうにかしてあのリアカーの方向を変えないと……考えてる余裕なんてなかった。ただひたすらに、体が勝手に動く。俺は本能に任せて女神の前に飛び出すと、リアカーに渾身のローキックを放った。
『ガッシャーンッ!』
「きゃああああ!」
どこかにリアカーが突っ込んで破壊される音と、どこかの女子生徒が悲鳴を上げる声が同時に聞こえてきた。女神は俺の後ろで無事に立っている。どうやら俺のキックはリアカーの進行方向を変えるには事足りたらしい、道の反対側の植え込みに突き刺さって車輪だけがカラカラと壊れた風車のような音をたてていた。
「おい、大丈夫かよ?」
俺は固まっている女神に声をかける。その瞬間周りで固唾を飲んで見守っていた先輩のギャラリーから怒声が飛び始める。
「おい新入生! 女神様に向かってなんて口のききかただ!」
「そうよ! あんたなんかが気安く話しかけていいわけないでしょ、調子に乗るんじゃないわよ!」
こんなのはまだ優しいほうだ、その他にも死ねだの地獄に堕ちろだのと汚い言葉で罵られる。俺は人一人を助けたというのに理不尽にも浴びせられる罵声にイラついた。
「お静かに皆さん、私を助けてくれた方になんという口のききかたをするんですか」
たった一言、この一言で今まで蚊の大群のように耳障りだった怒声・罵声が水を打ったように止む。俺はこの女神の発言力に驚いてただ目を丸くしていた。
「ありがとうございます。あなたが助けてくれなければ私は大怪我を負っていたところです、この通り……感謝いたしますわ」
ふかぶかと、九十度に腰を曲げて丁重なお礼。ここまでされると思っていなかった俺は明らかにキョドってしまった。
「い、いや……俺も必死でしたから、というかさっきは先輩なのにタメ口ですんませんでした」
驚きすぎて敬語もままならないが、とりあえず渾身の礼儀を込めて謝礼に返す。女神は俺の言葉ににっこりと笑顔を浮かべると、すっと手を上げて周りで見ていたギャラリーに指示する。
「さあ、新学年から遅れたりすることのないように、そろそろ入学式の時間ですわ。あと美化委員会の方はいらっしゃるかしら? この台車を片付けておいていただける?」
てきぱきと指示を出す姿はなんとなく生徒会長を思わせる。だがこの女神はそれよりももっと絶対的なイメージだった。やがてリアカーの残骸も片付けられ、回りにほとんど生徒がいなくなると女神はこちらを振り返り、今までの最高の笑顔で俺にこう言った。
「重ね重ね、本当に感謝します。このお礼は絶対にさせていただきますわ。それでは私は入学式の準備があるので失礼いたします……また式場でお会いしましょう」
そう言って、女神は一瞥もくれることなく坂を登っていく。俺はただその後姿を登りきるまでぼーっと眺めていた。気付けば、肩には桜の花びらが沢山乗っていた。シャツが張り付いて不快だったはずの汗もとっくに乾いていて、どれだけここに立ちすくんでいたかを知らされた俺は少し小走りに坂を登りだす。
それが神の城へと招待された瞬間だとも知らずに。
入学式も中盤、退屈な祝辞の読み上げも終わり、新たなる学校生活の始まりを予感させる紅白の垂れ幕にもそろそろ飽きを感じさせる時間帯に、そんな倦怠感や眠気を吹き飛ばすようなセリフが俺の耳に入った。
「それでは、神城高等学校『神様』よりお言葉です」
一瞬、俺の入った学校は宗教校だったのかとも思ったが、その疑問はすぐに晴れる。あの女神が壇上に上がった。後ろの二、三年生の席からは感嘆のため息が、新入生の席からは感動のどよめきが聞こえてくる。それほどに女神は壇上で異様なオーラを放っていた。そしてマイクの角度を自分の高さに合わせると滑らかに語りだす。
「只今ご紹介に預かりました。神城高等学校代五十七期『女神』、天野《あまの》 神代《かみよ》でございます。まずは新入生の皆様、本校へのご入学おめでとうございます。皆様がこれからの三年間、健やかに、そして伸びやかに過ごしていけるよう、女神を筆頭に教員・生徒一丸となって頑張っていきましょう。さて、本題に入らせていただきます。本校では神様制度という独特の制度を実施いたしております。これは一年に一度厳正なる投票を行い、その投票結果によって選ばれた一名がこの学校内での絶対的な権力を得るというものです」
女神はここまでをカンペも見ずに言い切った。そして教員と生徒の顔を見渡すとさらに続ける。
「そして、神にはその右腕として一名の神官を指名することができます。私は今まで必要を感じなかったため、神官を指名しておりませんでした……が、やはり補佐を担う存在は必要なのではないかと最近思い始めています。そして、私が女神に就任してからちょうど一年となり、入学式というおめでたい席ですので、今この場にて神官を発表したいと思います」
にわかに会場がどよめき立つ。先輩は悲鳴のような嬌声を上げ、新入生の一同は何がなんだかわからないといった様子で隣のヤツとヒソヒソ話している。
女神はそのどよめきを手で制すと、信じられない言葉を続けた。
「私は今朝登校している途中に坂の上から走ってきたリアカーに轢かれそうになりました。その現場を目撃している方もこの中にいると思いますが、その危機的状況から的確な判断で私を救ってくださった方がいらっしゃいます」
とてつもなく、嫌な予感がした。振り向くと先輩の何人かは新入生のほうを指差してヒソヒソと何かを話し合っている。
「その方はとても力強く私のことを守ってくれました。私はその方になら補佐を任せてもいいと考えます」
さらにどよめきが強まる。その中で俺は嫌な汗が止まらなかった、握り締めた拳もやけにぬるぬるしている。
そして、俺の運命を決定付ける一言が女神……いや、天野先輩の口から発せられた。
「私は、新入生の宮雨《あまみや》 樹《たつき》君を神官として指名します」
そのセリフに合わせるように、俺の周りをスポットライトが取り囲んだ。
俺の高校生活が女神に振り回されることが決定した瞬間である。別にめでたくもなんともない。ただ、子供のときにやった遊び……。
『天の神様の言うとおりっ!』が始まっただけのことだ。
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2010/11/30(Tue)01:17:17 公開 / 日陰日向
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■作者からのメッセージ
初投稿です。ジャンルがわからなかったのですべて未分類にしてしまいました。
縦書きエディタを使っているのでルビが変な風に表示されていますが、どうかお許しを。
どこかのライトノベル新人賞にでも応募しようかと思って書き始めたのですが、やはり意見が欲しくて投稿しました。
駄文ですがよろしくおねがいします。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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