『ゼンマイ仕掛けの可愛い小鳥』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:水芭蕉猫                

     あらすじ・作品紹介
小さな可愛いゼンマイ仕掛けの小鳥ちゃんが走り回るお話。リリカルホラー(?)。

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
 ゼンマイ仕掛けの小鳥ちゃん。
 太陽はにこにこ青空もぴっかぴか。キャンディーもレンガも積み木も皆にこにこ笑ってます。
 もちろん小鳥ちゃんだって、今日もちゅんちゅく元気です。
 背中のネジをゼンマイネズミと交互にきりからきりから巻きまして、今日もくるくる地べたを走るよちゅんちゅくちゅん。
 今日は小鳥ちゃんにキャラメルのお手紙が届きました。素敵な素敵な、パーティのお知らせです。それを見た小鳥ちゃんは大喜び。
 ぴーちくぴーちくきりきりからから、パーティに向かってよたよたのたのた走りだしました。
 走るよ走る。地べたを走る。可愛い可愛い黄色い小鳥。
「おやおやかわいい小鳥ちゃん。そんなに慌ててどうしたんだい?」
 レンガと積み木とキャンディで出来た道を小鳥ちゃんが走っておりますと、赤い積み木のおうちの目の前で、細長い木で出来たのお人形が聞きました。同じ木で出来たシルクハットのお帽子がとてもよく似合った紳士です。白い椅子に座った木製紳士の前には丸くて白い小さなテーブル。その上には空っぽのティーカップが乗ってます。
「こんにちは。紳士さん。今日はパーティがあるのよ」
「ほうほう、それはどこであるんだい?」
「あのお山のむこうがわよ」
 小鳥ちゃんはその場でくるくる走りながら、黄色い翼をそびえたつガラクタ山脈に向けました。壊れたテレビやラジオやロケットや、ロボットにトースター、大きな大きなパラボラアンテナを土台にして、沢山の壊れたガラクタが山盛りに積まれた山でした。
 木製紳士はおやおやと言いました。
「おやおやかわいい小鳥ちゃん。きみはあそこを一人でこえるのかい?」
 それを聞いた小鳥ちゃんはくるくるくるくる走り回りながらオレンジ色のくちばしをぷるぷるさせて、お尻をふりふり頷きました。背中のネジも、きりからきりから回ります。
「そうよ。そうよ。だってガラクタ山脈のむこうで素敵なパーティがあるんですもの」
 木製紳士は空っぽのカップをすすり、顔に描かれた嘘のカイゼルヒゲをくるくる撫で撫で笑います。
「そうかいそうかい。それなら山を登る前、誰かにネジを巻いてもらうと良いだろう。ガラクタの中に埋もれてもつれて止まったら、ガラクタになってしまうからね」
「そうね。そうね。いい考えね」
 黙ってられない小鳥ちゃん。話が終るとあっという間に木製紳士の前を通り過ぎました。


 とっとことっとこ小鳥ちゃん。
 きりからきりから、まだまだまだまだ走ります。
「やぁやぁ可愛い小鳥ちゃん。今日はどこに行くんだい?」
 ガラスのウサギが聞きました。キャンディーの草むらにじっと座ったまま、そこから滴る緑の飴をカリコリコリと食べてます。
「こんにちはウサギさん。今日はパーティがあるのよ」
 くるくるくるくる走りながら、小鳥ちゃんが透明なガラスのウサギに言いました。
「ふぅん。一体どこでやるんだい?」
「あのお山の向こうなの」
 小鳥ちゃんがガラクタ山脈に翼を向けました。
「そうかいそうかい、あそこの山を越えるのか。大変そうだなぁ」
 カチカチに固まったままのガラスのウサギが言いました。
「えぇとても大変よ。でもパーティがあるんですもの行かなくちゃ」
 小鳥ちゃんがお尻をふりふりしながらそう言うと、ガラスのウサギは透明な体をやっぱりカチカチに固めたままで、カリコリコリとまだまだ飴の草を食べながら言いました。
「それならいたずら猫に気をつけて。紫色のお月様が蛇を振っているからすぐ解る」
「そうね。そうね。ありがとう。気をつけるわ」
 立ち止まれない小鳥ちゃん。あっというまにガラスのウサギを通り過ぎました。


 てってこてってこ小鳥ちゃん。
 きりからきりからようやくガラクタ山脈にたどり着きました。ところがどっこいどうでしょう。つるつるがたがたぎっこんぎっこん。小鳥ちゃんよりずっとずっと高いお山はつるつるで、ちょっとでも飛び乗ると小鳥ちゃんはすぐに転げて落ちてしまいます。
「どうしましょうどうしましょう困ったわ」
 くるくるくるくるその場で回って走りながら、困った小鳥ちゃんが言いました。
「わんわん。可愛い小鳥ちゃん。こんなところに何の用?」
 その時小さなブロックの犬小屋から、でんぐり犬が出てきて聞きました。
 茶色いでんぐり犬はその場で三回でんぐり返しをしてみせます。きりぐらきりぐらぴょーんぴょーん。
 小鳥ちゃんはくるくる渦を巻きながら、ぐりぐりでんぐり返る犬に言いました。
「でんぐり犬さん。この山脈の向こうで素敵なパーティが待ってるの。でもガラクタ山脈ってばつるんつるんのつんつるてん。つるつる滑って登れない。とってもとっても困ったわ」
「わんわんわん。それなら飛んで行けば良い。君は可愛い小鳥ちゃんなんだから!」
「そうねそうね。やってみるわ」
 でんぐり犬がそう言うと、小鳥ちゃんはくるくるくるくる走りながら、ぷるぷるぱたぱた翼を振って見せました。しかしいったいどうでしょう。小さな小さな小鳥ちゃんはまだまだ可愛い雛鳥さん。ぷるぷるぱたぱたしてみせたって、まったくちっとも飛べません。
 そううちとうとうカチリと背中のゼンマイが止まってしまいます。
「どうしましょうどうしましょう。このままじゃパーティに間に合わないわ」
 小さな可愛い小鳥ちゃん。ゼンマイが止まってしまっては、ここから一歩も動けません。
「困った。困った。わんわんわん」
 でんぐり犬も困ってしまってわんわんわん。その場でくるくるでんぐり返しをしてました。
「やぁやぁ何かお困りかい?」
 その時ふわりと壊れた冷蔵庫の上に紫色のお月様が蛇をふりふり現れました。
 大きな大きな体を丸めたいたずら猫。お目めは綺麗な星のよう。お口は耳まで裂けた三日月で、しっぽはにょろにょろ蛇みたい。頭についた三角お耳はぴんと立っておりました。
 いたずら猫を見つけたでんぐり犬は怒ってわんわん吠えました。
「わんわんわん。いたずら猫め。お前なんかは呼んでない!」
「黙れガラクタ犬め!」
 でんぐり犬の三倍もあるいたずら猫が声を張り上げ尖った爪で引っかくと、でんぐり犬はキャインキャインとでんぐり返しをしながらブロックの小屋に帰ってしまいました。
 取り残された可愛い可愛い可哀想な小鳥ちゃん。ゼンマイが止まってしまって逃げられません。いたずら猫は小鳥ちゃんの傍まで来ると、猫なで声で言いました。
「やぁやぁ可愛い小鳥ちゃん。何か困ったことでもあったのかい?」
「いたずら猫さん。ガラクタ山脈の向こうのパーティに行きたかったの。でももうダメなのね。ゼンマイも止まってしまったし、もう私もガラクタなのね」
 それを聞いたいたずら猫は三日月の口をさらに細めて笑います。
「あぁ、可愛い可愛い小鳥ちゃん。それならお安い御用さ。ぼくの足ならこんな山などひとっ飛び。ゼンマイだって巻いてあげるし可愛い着物も持っている」
「ほんとほんと?」
「あぁ本当だとも。ほうら」
 いたずら猫は小鳥ちゃんをくわえると、ぴょんとガラクタ山脈をひとっ飛び。冷蔵庫もテレビもロケットもロボットも鉛筆も。ぴょーんぴょーんと飛び跳ねてあっという間に越えてしまいます。ガラクタ山脈のてっぺんまで登ると、そこには沢山の人々が集まって皆でわいわいパーティをしています。
 陶器の可愛いお人形。熊やキリンのぬいぐるみ。お菓子の形のフェルト人形。帽子を被った木製のカウボーイ。皆でわいわい楽しそう。
 小鳥ちゃんはいたずら猫の口ですごいすごいとはしゃぎます。
「ありがとういたずら猫さん! あなたのおかげでここまで来れたわ!」
 いたずら猫はにやにや笑い、口から小鳥を降ろします。
「いえいえお安い御用です。ほら背中のゼンマイを巻いてあげましょう」
 きりからきりから。いたずら猫がゼンマイをまわすと小鳥はまたぱたぱたくるくる走り回ります。
「ありがとうありがとういたずら猫さん!」
 小鳥がいたずら猫にお礼を言うと、いたずら猫は脇の間から小さな小箱を取り出しました。
「なんのなんの。ほらほらパーティが終ってしまいますよ。可愛いお召し物もあげましょう」
「何かしら? 何かしら?」
 小鳥ちゃんがくるくる背中を向けた途端、いたずら猫が小箱の中からマッチを取り出すと、しゅしゅっと炎を作ります。そして可愛い小鳥ちゃんの尾羽にぽうっと炎を灯しました。背中を見れない小鳥ちゃん。まるで気がつきません。
「自分では見れない不思議な衣装さ。さぁパーティに行っておいで。皆きっと驚くさ」
「ありがとうありがとう! いたずら猫さんありがとう!」
 羽に火のついた小鳥ちゃん。きりからきりからパーティにまっしぐら。もちろん皆、驚きました。

 ぼうぼうごうごう。燃えるよ燃える。真っ赤に燃えて踊る炎がとっても綺麗。
 いたずら猫はガラクタ山脈のてっぺんで、あっははあははと笑います。
「綺麗だ綺麗だ。小鳥ちゃん。君はとっても綺麗だね。いやいや皆、綺麗だね。真っ赤な炎が綺麗だね」
 あっははあはは。
 キャンディーは燃えてキャラメルに。積み木は燃えて残骸に。陶器は割れてフェルトは焦げて、小鳥ちゃんも真っ黒け。皆で仲良くガラクタだ。
 あっははあはは。


 真っ赤な炎はずっとずっと燃え続け、そのうちガラクタ山脈にも飛び火して、そのままごうごう燃えました。燃えて燃えて燃え尽きて、真っ黒な地平の中に小鳥ちゃんの背中のゼンマイだけがきらきらぴかぴか残ります。
 そこへ小鳥ちゃんのお友達のゼンマイネズミがやってきました。
 背中にはゼンマイネズミと同じ大きさの青い小鳥の人形が乗ってます。ゼンマイネズミちゃんの手作りでした。
「ちゅうちゅう。みつけたみつけた」
 ゼンマイネズミは小鳥ちゃんのゼンマイを拾い上げると、ぴかぴかのそれを人形の背中に刺しました。そしてきりからきりから巻きますと、ぴょこんと青い小鳥が動きます。
「私は可愛い小鳥ちゃん。黄色い可愛い小鳥ちゃん」
「いえいえ違うのよ。あなたは青い小鳥ちゃん。青くて可愛い小鳥ちゃん」
 ゼンマイネズミがそう言うと、青い小鳥は小首を傾げます。
「そうだっけ?」
「そうなのよー」
 確かに確かに。小鳥ちゃんの体は今はお空の青でした。
「そうだった。そうだった。忘れていたわ。私は青い小鳥ちゃん。今日は何があったかしら?」
 ゼンマイネズミはキャンディーの燃え残った黒焦げのキャラメルを小鳥ちゃんに渡します。そして遥か向こうにそびえたつガラクタ山脈を指差しました。
「小鳥ちゃん。今日はガラクタ山脈の向こうでパーティがあるのよ!」
 小さな可愛い青い小鳥ちゃんは、思い出したように言いました。
「そうよそうよ。今日は素敵なパーティの日だったわ」
「背中のネジを巻きましょう。早く早く、行かなくちゃ」
 太陽はにっこにこ青空もぴっかぴか。あっちではキャンディーも積み木もレンガも皆にこにこ笑ってます。
 今日はとっても良い日になりそう。だって素敵なパーティがあるんですもの。
 ゼンマイ仕掛けの青くて可愛い小鳥ちゃんは、まだまだ黒コゲの地べたをきりからきりから走り出しました。



2010/10/25(Mon)22:55:20 公開 / 水芭蕉猫
■この作品の著作権は水芭蕉猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ははは。お久しぶりです。水芭蕉猫です。
可愛らしい話を書いたあとには凄まじい電波を書きたくなる不思議です。でも、出来上がったら物凄くありがちな設定になってしまった。
ちょっとしたリリカルホラーを目指したつもりなんですが……。
微修正しました。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。