『Le rêve de la roue Ferris』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:浅田明守                

     あらすじ・作品紹介
回り回り回り続けて、それで私の一生は終えてしまうのだろうか……

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 最近、自分の仕事について考えることがある。
 この仕事に就いて早や三十年が経つ。日々の手入れの賜物か、今のところ身体の中から嫌な音が聞こえる、ということはない。
 私は今まで仕事一筋で生きてきた。雨の日も、風の日も、一日たりとも欠かさずに働いてきた。それは単に子供たちの笑顔を見るためだ。たくさんの笑顔を見ること、それだけが私の生きがいと言ってもよかった。
 しかし、最近になって考えるようになってしまったのだ。自分はこれで一生を終えてしまってもいいのか、と。
 今の仕事に不満がある訳ではない。むしろこれ以上の天職はないと思うほどだ。しかしながら、私は人の笑顔を見るために三十年間もの間、同じところをぐるぐると回り続けていた。外の世界と交わることなく、この閉鎖された世界の中で、そとの世界を眺め憧れながら、ずっと動き続けてきた。
 だから……私はついに憧れるだけのこの生活に嫌気を感じてしまったのだ。
 昔はいつの日にか変わるものだと、こうして動き続けていればいつかは変わるものだと思っていた。まわって、まわって、まわり続けて、そうすればこの輪の中から出られると、そう信じていた。
 しかし、どれほどまわり続けても私がその輪から出ることは出来なかった。どれほど動いても、決してその輪から逃れることは出来なかった。
 今までずっと、人の笑顔のために頑張ってきたんだ。決して残り長いとは言えない自分の一生を自分の望む姿で過ごしたい。私がそう考えるようになったのはもはや必然だった。
 まず最初に昔から抱いていた夢が私の中で薄らいでいき、その代りに新たな夢が心の大半を占めるようになった。
 より多くの景色を見てみたい。それが今の私の夢だった。
 同期の仲間たちは「何をそんな小さな夢を」と笑うかもしれない。しかし、そんな些細な夢ですら叶えられないのが現実だった。
 わざとリタイヤしてみようか……いやでも私も年だ。どこも拾ってくれずにそのまま廃棄処分という最悪の結果も考えうる。とはいえまっとうな手段ではこの仕事から離れることは出来ないし……
 私と同じように、私の考えもぐるぐると同じところを巡り続ける。私も、私の夢も、運命という残酷な輪から飛び出すことが出来ずにいる。
 そんなことを考えているうちに今日も仕事が終わりの時間になる。いつもの手入れが終われば私の体はしばしの休息を得る。身体の隅々を点検され、観覧車である私の今日という日は終わりを迎える。
 やがて従業員も全員いなくなり、辺りは闇に包まれる。今日は風が強いのか、上の方が風に煽られて大きく揺れていた。
 少しの不安と少しの期待を胸に目を閉じたその時、どこかから『カラン』という金属製の何かが落ちてきたような音とギシギシと金属が軋む嫌な音が聞こえてきた。
 もしかしたら、私がこの仕事を離れるのはそう遠くない未来の話かもしれない……

2010/05/08(Sat)23:08:32 公開 / 浅田明守
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■作者からのメッセージ
はじめまして、あるいはこんにちは。テンプレ物書きの浅田です。
これぐらいの短さを書くのはかなり久々だったりします。話としてまとまっていればいいんだけど……とりあえずわかり辛い話ですみません(汗
テレビを見ていた時に急に思いついた話で、書き上げるのに使った時間はおよそ二十分w
タイトルの『Le rêve de la roue Ferris』はフランス語で「観覧車の夢」という意味です。ぶっちゃけタイトルがまんま小説の中身という罠。
ここまで読んでいただきありがとうございました^^

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