『タイトル未定』 ... ジャンル:恋愛小説 リアル・現代
作者:ハル                

     あらすじ・作品紹介
たった一人の『最愛の人』本気の恋。

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「格好付けだ」
「本当だ」
「何一人で格好つけてるの?」
休み時間。
木陰で一人本を読んでいた僕にクラスメイトの子が手下を連れてからかいに来た。
(最近多いな…)
(多分またお兄ちゃんと喧嘩してイライラしてるのかな)
この子にはお兄ちゃんがいてよく喧嘩になるらしい。
お兄ちゃんはお兄ちゃんでイライラしてるとこの子に当たるらしいから…勘弁してよね。
(でも…まぁ、しょうがないことなのかな)
普通の小学生なら感情を理性で抑えたりしないし、する必要もない。
大人じゃないんだから当然。
大人だってイライラしてたら他人にきつくあたることもある。
(しかたないか…聞くだけ聞いて穏便に済まそう)
こういうときは黙って聞いておくのが一番だ。
そうしてなんとなく、その子の顔をぼぉっと見る
…すると、
「お前気持ち悪いんだよ!」
すごい剣幕で突然クラスメイトのその子が怒鳴った。
びっくりした。
「…どうしたの?」
ひょうひょうとした態度が表に出過ぎちゃったのかな…頭の中の糸を切っちゃったんだ…と思いながら言う。
「いっつもいっつもなんなんだよ!ずっと顔は変わらないし、こえぇよ!」
…あぁ。
それか。
きっと、ずっと顔色を変えないから何を考えてるのか全然分からない。
心がない。無感情で…
なのに
自分の心の中は全部見透かされているような。
小学生とは思えない…普通の子とは違う何か、得体の知れないものを持ってる。
それが怖い。
落ち着かない。
なんともいえない靄が、感情が、彼の中でパンパンになってこぼれたんだろう。
ひとつ学年が下の手下の子二人も、突然の怒鳴り声にさすがにびくっと体を後ずさりさせた。
(……またなんだ。)

「いい加減にしてぇぇぇ!いったい何なのよ、この子は!何を考えてるのか全然分からないわ!」
「薄気味悪いのよ!あなたは!」
「本当に人間なの!?私の子供なのかしら!」
「こんな子を私が産んだなんて…!これから私が育てていくなんて…うぅぁぁぁ!」
「いやぁぁ!もういやぁぁぁ!」
「どっかいきなさい!この化け物ぉぉ!」
ガラスが割れるような、耳に刺さる高音。
ヒステリックな声が響く。
この日もお母さんは夜遅くに帰ってきた。
いつもよりも遅い。
月末で仕事が忙しく、疲れとイライラが溜まってたんだろう。
お父さんとも、最初は、一刻も早く縁を切りたくて、財産分与も慰謝料もあまり考えずとりあえず別れるだけ別れたんだと思う。
この前聞いた。
…別れた後に。
住んでいた家は売りに出すことになり、お母さんも働く事になった。
お父さんはお父さんで家や車のローンでぎりぎりの生活らしい。
まぁ車はお父さんの趣味で無理して高い車を買ったみたいなんだけど。
だからお金も家も貰わず、僕の学費や生活費を多少援助するということだけで話がまとまったらしい。
お母さんはお父さんと縁を切って、新しい生活ができると浮かれてたけど
実際は…
新しい家になってからの暮らしはお母さんの想像以上だったみたいで、休みなく働いて月の給料は20万
家賃や生活費、僕の学費でぎりぎりの生活。
結局親からもお金を貰ったりしてた。
苦しい暮らしで
お父さんの影は振り切れない。
それもまた、きっと…
(…………)
最初言われたときは頭が真っ白になった。
初めては
びっくりした。
「あっ‥ぅ‥ぅあ」
(な‥んで…そんな…の…そ、そんなっ…ひっ、ひっどぃっ…こと‥っく‥ひくっ‥ぃ、ぃ‥いうのっ?)
あまりにもひどい言葉と、心臓に響くお母さんの泣き叫ぶ声が
怖くて
殺されるんじゃないかって
なぜか
そのとき、
そう思って
でも一度言われたその後は、
大丈夫。
なにかにイライラすることがある度に、お母さんは叫んでる。
だから
大丈夫。
何が
大丈夫なのかは、自分でも分からないけど
もう慣れた
から
だから
大丈夫。
ダイジョウブ…

そう。
だから、
今回も、
大丈夫…
お母さんに初めて言われたときのように心臓もひくひくしない、別に、涙も出ない。
もう、慣れた。
別に『この子だから』じゃない、
誰に言われても、
『大好きな子』でも
『親友』からでも
何を言われても、
『一番大切な人』から何を言われたって、
大丈夫。
「ごめん、ごめんね…ごめんなさいっ」
それだけ言って、後は走って逃げた。
その場にいるのはよくないと思ったから。

前は先生も心配して、最初はいろいろと聞いてくれたけど、だんだん先生も僕に近づかなくなった。
自分の手に負えないって思ったのか、もちろんそれだけじゃなくて、僕にだけかまってるわけにはいかないだろう。
先生には先生の仕事があるだろうし、先生だって人間だから、先生自身の悩みも、他の生徒のこともあるだろうし。
カウンセリングの先生を紹介してくれた後、もう何も言わず、聞かなくなった。
カウンセリングの先生は保健室にいて、その先生とも一度だけお話した。
でも保健室のドアを閉めた後に聞こえた深い溜め息と、たった一時間で疲れきったような飽きれたような、そんな顔を見て
もう行かないほうがいいだろうと思った。
そのまま中学生になっても、浮いてた。
先生も、中学は小学校ほど過保護じゃないから僕みたいなめんどうそうな生徒に、わざわざ関わったりなんてしない。
あくまで仕事として。
手に負えないような悩みをもってそうな生徒にわざわざ声をかける必要はない。
なにもしなければ害はない生徒の場合はほうっておくのが一番。
(当然のことだ)
(悪いことなんかじゃない)
だけど、先生は僕と目が合いすれ違うたびに気まずそうに顔をそらした。
高校生になってもずっとひとりだ…
(別にいまさらそんなことでは悲しまないが)
友達がいたなんて記憶は小学生の低学年の…ちょっとの間だけ…
さすがに小学生の時に感じたような、異様な、化け物を相手にするかのような張り詰めた空気は感じない。
ちょっと大人っぽい子だね、と言われて終わりだ。
だからって別に楽しい日々なんて送ったわけじゃない。
今さらなにをどうすればいいのかなんてわからなかった。
(ずっと心を消して、死んだ目で生きてきたんだ)
どんな気持ちで、何を楽しめばいいのか、わからなかった。

ピピピッ ピピピッ
ガシャン
「…朝」
目覚まし時計は7時30分。
「…また」
――これだ
(定期的に見るんだよな、この夢。ったく…いつまでも、こんなどうでもいい過去に…めんどくさい)
(大学…いかなきゃ)

2010/04/06(Tue)19:18:17 公開 / ハル
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■作者からのメッセージ
一応プロローグ、ということなのですがこの先は多分投稿しないのでこの部分だけでの評価をお願いします。
ちなみにジャンルは恋愛ですが、まだれんあいのれの字も出てきてないですね…すいません。

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