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『music life 第一話』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:satou
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彼女との出逢いは衝撃的だった。僕は中学の入学式の日、教室にいたのであった。周りは割りと静かである。でもちらほら喋り声がする。俺は入学式に向かった。
入学式は終了した。そして、教室に戻った。Aが話しかけてきた。
「どこから?」
「××」
「××か。俺は××」
ここは私立中学である。
「勉強、大変だったよな」
「大変だったな」
「音楽聞く?俺、××が好きなんだよね」
××とは今流行りの音楽グループのことである。
「俺は××が好きだな」
××とは、そんなに売れてないが昔からの音楽グループである。
「××?渋いな。ところで、部活はどこ入るんだ?」
「まだ、決めてない」
「そうか。俺はやっぱりサッカーかな。女の子にモテモテだぜ」
当たり障りない会話を繰り返した。担任が入ってきた。女の先生だった。そんな中、俺は幻想を目にしたのである。長い綺麗な黒髪の澄んだ目をした少女が座っていた。それは正に幻想だった。俺は見とれた。とりあえず見とれた。そして心の中でこう思った。
「神様ありがとう」
「まずは班を作ります。」
その時、奇跡が起こったのである。何と、あの子と一緒の班。その時、俺は心の中で、こう思った。
「神様ありがとう」
「班で○○を作ってください。」
共同作業で仲良くなろう、というヤツである。班は4人だった。俺とあの子とAとある女子Bである。
「じゃんけんで分担しようか」
その時、奇跡が起こったのである。俺とあの子で作ることになったのだ。その時、俺は心の中で、こう思った。
「神様ありがとう」
「お…おれ…佐藤っていうんだ…よろしく…」
「原田です。こちらこそよろしく」
すんなりと答えた。
「原田さんって音楽とか聞くの?」
「たまに聞くかな」
「俺××が好きなんだよね」
××とは、Aが好きな今流行の音楽グループ。さっきAに××が好きと言ったら微妙な反応をされたので、反応への期待込みで本心を偽って言った。
「私、××ってあまり好きじゃないわ。何か今流行りの音楽って気がして」
「そっそう…」
あまりにもストレートな反応に躊躇してしまった。
「部活は入るの?」
「テニス部に入ろうと思ってるの」
その時、俺はこう思った。
「俺も入ろう」
作業は順調に進んでいった。そして作業を完成させた。
そしてある放課後。
「それではこれで終わります」
階段を下りると、原田さんが歩いていた。テニスバッグを持っている。
「原田さん」
「佐藤くん、どうしたの?」
「俺もテニス部入ろうかなと思ってて。テニスバッグ持ってるから」
「そうなの?じゃあ、一緒にコートに行こう?」
コートでは熱い練習が繰り広げられていた。
「新入部員はとりあえず玉拾いをしてもらう。俺はキャプテンの中田だ。よろしくな。」
俺はいままでテニスをしたことがなかったので、先輩たちの熱いプレーに釘付けになった。そして、俺は原田さんの姿を探した。原田さんは体操服姿で同じように玉を拾っていた。かわいいな。
日が進むにつれて、テニスができるようになった。ここで驚いたのが、原田さんがとてもテニスが上手いことだった。
「原田さん、上手いね。テニスやってたの?」
「小学校の時、クラブチームに入ってたの。」
俺は、原田さんと話し、テニスをがんばったり、勉強をがんばったりしている原田さんを見ていて、とても幸せな気持ちになる日々を送った。それは正に、俺にとって薔薇色の青春だった。
俺は夜、眠りにつく時、目を閉じて原田さんを思い浮かべていた。普段は落ち着いてクールなんだけど、時々笑う笑顔が眩しい。そんな女の子。
俺は、原田さんの笑顔を思い浮かべ、幸せな気持ちを抱いていた。
そして俺はあらぬことか、こんな妄想を抱いてしまっていた。
原「佐藤くん、アーン」
俺「アーン!おいしい!原田さんの手料理」
原「本当?嬉しいな」
それは普段の原田さんのテンションとは似ても似つかぬテンションだったが、自然とそんな妄想を抱いている自分を発見し、一人照れていたのであった。
それは俺の初恋だった。彼女と結婚し、子を産み、幸せな家庭を築きたい。そう、本気で思っていた。
ある日、Aがテニス部に入部した。そして俺に、こう言った。
「テニスも女にモテるしな!しかも女の子と一緒に部活できるなんて最高じゃねぇか!」
Bもテニス部に入部した。Bは女子で名字は村田である。
ある日、加藤Aがおもむろに俺に言ってきた。
「俺、村田さんと付き合うことになった。ウハウハだよ、マジで」
村田さんは、ギャルっぽくて口は少々悪いが、美少女で、正直、加藤を妬ましく思った。
しかし俺には原田さんという心の彼女がいたので、全く気にならなかった。彼女以外は目に入らないほど、彼女のことが好きだった。
中学2年になった。俺たちはというと平凡な日々だった。
偏差値の高い私立中学なので毎日勉強をガリガリ、放課後は部活と、
忙しい日々を送った。
俺は原田さんに告白しようと思っていた。しかし、できずにいた。
そして、2年の2学期の終わり辺りの、部活終了後、俺は原田さんに告白することを決めた。
「原田さん」
「何?」
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
俺は原田さんを人気のない場所に呼び出した。
「俺、原田さんのことが、ずっと好きだったんだ」
勇気を振り絞って、こう言った。平静を装っていたが、内心は心臓がバクバク状態だった。手に汗が滲んだ。原田さんは少し下に俯いた後、一言こう言った。
「ごめんなさい」
外は雨が降っていた。俺は気持ちが一気に沈んだ。初めての恋は見事に砕けた。しかし、俺は未練がましく、こう言ったのだった。
「好きな人、いるの?」
彼女はまた少し下に俯いて、
「ごめん」
そう言って、走り去ってしまった。俺はただ、その場に立ちすくんでいた。
俺は無気力な日々を送った。あれから原田さんとは一言も会話を交わしていない。
「あ……原田さ……」
「……」
原田さんは俺を避けている。薔薇色の日々は、薔薇ように散ったのであった。
ある日、原田さんから俺に話し掛けてきた。
「佐藤くん」
「原田さん……」
「ごめんね、最近。その……ちょっと、あって」
原田さんはその大きな目を伏せた。
「実はね、私、本当は好きな人がいるの。」
俺は息をのんだ。
「好きな人って……?」
「……その……川島先生…」
「せ、先生……?」
俺は彼女の発言が信じられなかった。先生は女である。彼女は、また大きな目を伏せた。その雰囲気から、俺はすべてを把握した。いや、しかし、そんなことって…。
その時の俺には、あまりにも衝撃的な発言だった。嘘と信じたかった。川島先生は、俺たちの担任で、テニス部の副顧問でもあった。若くて、美人で、人気のある先生である。もしかしたら先生の隠れファンも存在しているのかもしれない。顧問は、高齢の男の先生だが、部活には、 ほとんど関心がなく、あまり来たことがなかった。その変わり、副顧問の
川島先生がよく来てくれていて、皆の面倒を見ていた。
「でも、どうして…?」
「先生、楽器やってるの。私が音楽が好きって言ったら、こっそり教えてくれた。
それで、音楽室で先生のピアノ聞かせてもらったの。もう凄く綺麗な音で。先生も綺麗で…。
私、どうしたらいいんだろう…。胸が苦しくて…」
放課後、川島先生が来ていた。何食わぬ顔で涼しい表情をしている。原田さんは今日も一生懸命、練習をしている。俺は、そんな原田さんと川島先生を見合わせ、思わず、先生にテニスのボールを投げつけたい衝動に駆られた。もちろん、そんなこと、できるはずがないが。俺も胸が苦しかった。
ある日、Aが俺に、こう言ってきた。
「佐藤……やばいよ……村田さんが妊娠したって言い出したんだ……本当だよ……嘘じゃない…もう俺の人生終わった……佐藤……助けてくれ……俺、人生終わりたくないよ……」
その数日後、学校は、加藤と村田さんの妊娠騒動の話題で持ちきりになった。
その数日後、村田さんは転校、加藤は出席停止になってしまった。
俺は一本のギター買った。原田さんに、川島先生のピアノ以上の音を聴かせるためである。毎日練習し、一曲を完璧に弾けるぐらいまでに上手くなるつもりだった。手には、テニスでは作ったこともないような、マメが何箇所にもできて
いて、その何箇所かには血が出て来ていて血マメになっていた。ギターを弾いていると、手に激痛が走る。マメが潰れ破れるのである。手を見つめると、血やらマメやらでボロボロだった。それはいつか見た原田さんの川島先生の授業のノートに似ていた。そして、一曲を完璧に弾き、そして歌えるぐらいになった。この曲を原田さんに捧げたい、そう思った。
「原田さん」
俺は原田さんを呼び止めた。
「何?」
「ちょっと、いいかな」
俺は原田さんを近くの川縁に呼んだ。そこで俺はギターを持ち、あの一曲を演奏し、歌った。それは中島みゆきの「空と君との間に」である。
「君が笑ってくれるなら 僕は悪にでもなる」
俺は力強く、歌った。
「ありがとう。気持ち、伝わってきたよ。」
原田さんは笑ってくれた。
「でも、私、佐藤くんの気持ちには応えられない。ごめんね。」
そう言った。
その時、俺はなぜか幸せな気持ちになっていた。彼女のために全力を尽くし、歌った。たとえ、気持ちが届かなくても、あの時の彼女の笑顔を俺は忘れないだろう。
その頃から、俺は自分で作詞作曲するようになっていた。独学で音楽を学び、時々、ギターを買った店の、音楽に詳しい店主にいろいろと教わったりして、曲を作っていた。全ては原田さんのためだった。また、あの笑顔が見たい、その
一心で、俺はギターを鳴らし、歌った。
また、加藤が、出席停止から回復し、戻ってきた。しかし、あの事件のことは一切話さず、俺もそのことについて、加藤に聞かなかった。
俺は曲を作っては、原田さんに聞かせていた。普段の何気ない毎日からフレーズを考え出し、書いたものだが、その一曲一曲に、原田さんは感嘆し、また、あの時と同じように笑ってくれた。
それは俺にとって、第2の薔薇色の日々だった。好きな人に自分への気持ち
がなくても、その人が笑うだけで幸せを感じられるということを俺は初めて知った。
ある日、加藤が俺にこう言ってきた。
「佐藤、おまえ原田さんとできてるのか?」
「そんなわけない。それに彼女、好きな人がいるって」
「川島先生だろ」
「何で、おまえ、それ」
「そのぐらい見てればわかる」
「……」
「おまえは原田さんのことが好きなんだよな」
「……」
「俺は、原田さんが好きだ。」
「おまえ、自分が以前何やったか忘れた訳じゃないよな?」
「……」
「彼女に近付いたら、許さないぞ」
「俺は、はめられたんだ。あの女に。あの尻軽女に。俺だって、ちゃんと恋したかった。でも、誘惑に勝てなかったんだ。本当は最初から、俺は原田さんが好きだった。でも、おまえが原田さんと、いつも一緒にいるから……」
「原田さんは本気で先生が好きなんだぞ」
「そんなのすぐに冷めるさ。同姓だぞ。とにかくおまえには負けない」
そう言って、加藤は去って行った。
俺は相変わらず、曲作りに没頭していた。そんなある日、川島先生に呼び止められた。
「佐藤くん、ギターやってるんだってね」
「えぇ、まぁ」
「曲も作ってるんだって?君と仲のいい原田さんに聞いたんだけど」
「素人レベルですけど」
「でも素敵じゃない。実は私も昔音楽をやっててね。今は教師だけど、今でも音楽が好きで、楽器やってたりしてるの。もし良かったら、今度セッションなんてしてみない?音楽室とかで」
「遠慮しときます。先生に時間取らせるの、悪いので」
俺は不機嫌をほとんど隠さずに答えた。
「そうかぁ。でも、もし何か音楽のことで聞きたいことがあったら言ってね。ここだけの話、私の父、結構有名な音楽家なのよ。かなり詳しいと思うから。それじゃあね」
「ちょっと、待ってください」
「?」
川島先生は振り向いた。
「音楽家って?」
「あぁ。レコード会社で結構いいところのポジションなのよ。自身も音楽をやっててね。佐藤くんも将来音楽家になりたいのなら、父に言って見てもらってもいいわよ。なんてね」
俺は自分自身の利己心が湧き上がってくるのを肌で感じていた。
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2010/03/26(Fri)15:59:42 公開 / satou
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■作者からのメッセージ
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