二曲目が終わった時、ステージの脇に髭右近先輩がいることに気がついた。軽音部を辞める前にはよく見せていた、他人の演奏を真剣に吟味する時の表情をつくっている。 先輩も俺たちのことが気になるのかな。と言うことは、俺たちをライバルって認めてくれたのか。なら、もっと驚かせてやるよ。俺は由綺南先輩に目配せで髭右近先輩が見ていることを伝える。由綺南先輩はステージ脇を一瞥してからウィンクしてくれた。 龍太がMCをしている間に模型部の面々がドラムの脇に荷物を運びこんでセットしていく。黒い布が剥がされると、バイオリンやチェロなどの弦楽器を構えた骸骨の人形が現れる。次の曲はEPICAの『Cry for the Moon』.。この曲には弦楽器、つまりバイオリン二台、ビオラ一台、チェロ三台が必要だ。バイオリンなら十歌部長が弾けるが、十歌部長はギターを弾かなきゃならない。だから弦楽器の分はPAの嘴藤先輩が前もって録音した音を俺たちの演奏に合わせて入れてくれることになっている。でも、録音した音をただ流すもの芸がないから、模型部に頼んで骸骨人形を六体作ってもらったのだ。骸骨人形は可動式で、曲に合わせて模型部が有線で操作してくれる予定になっている。 観客は骸骨人形を並ぶのをどよめきをもって見ている。 「最後の曲は『Cry for the Moon』です」 静かな声で龍太が言う。 由綺南先輩のベースと俺のドラムが静かに曲を奏でる…………