『少女のフィロソフィア (掌編)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:プリウス
あらすじ・作品紹介
不思議を不思議のまま受け入れなさい。
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不思議はあなたのすぐそばにある。
夏も終わりにさしかかる頃。冷たい風と温かな太陽の光。人々の心を寂しくする空気のよそよそしさ。アリスは空を眺めて飽きなかった。大きな木の下で、アリスはひざを伸ばして座ったまま。近くを流れる川の音、きれい。時間に追われるうさぎもいない。川の流れは変わらない。昨日と同じ川は無い。とても静か。とても調和の取れた世界。そういう場所で物思いにふけるのが好きだった。
男が一人、アリスの隣に腰を下ろした。三十路をやや過ぎたくらい。優しい目をしている。
「ドジソン教授」
アリスが隣の男に言った。
「わたし、とっても不思議なことがあるの」
「なんだい、アリス」
男はやはり、優しく応えて言った。
「こっちに葉っぱが一枚あって、こっちにも葉っぱが一枚ある」
アリスは腰の辺りに落ちた木の枯葉を右手と左手とに分けて一枚ずつ拾う。
「これをこうやって一緒にすると、葉っぱは二つになるわ。けれど、例えばこの一枚の葉っぱ。これをびりっと破いちゃうね。そうするとこれも二つになる。最初のは普通に足しただけなんだけど、後のはそれとは全然逆の動作よね。なのにどっちも結果として、二つのものが出来てしまう。全然違うことをしているのに、同じ結果になってしまう。それがとても不思議でならないの」
男は優しい笑みを浮かべて、アリスの頭をよしよしとなでた。アリスも嬉しそうに男に寄り添う。男は鞄の中からノートと鉛筆を取り出し、何かを書き綴ってアリスに見せた。
「ドジソン教授、これはなあに」
「これはね。友愛数というものなんだよ。ここに書かれた二つの数字はとても仲がいいんだ。互いに互いを補い合う、とても美しい数字なんだよ。だからこの数字は、お父さんとお母さん、恋人たちがいつまでも離れないようにという魔法の効果も持ってるんだ」
「まあ、なんて素敵なのかしら。数には魔法の力が宿っているのね」
「そう。だから君が抱いた疑問も、魔法の力の証明なんだ。魔法があるから、君が疑問を抱くんだ」
アリスは魔法のことを考えた。それはとても魅力的な響き。そのことをもっと知りたいと思う。甘い誘惑。
「昨日のアリスは、今の私なのかしら」
「今日の君は、明日のアリスだよ」
不思議はあなたのすぐそばにある。あなたが目覚めたとき、朝は変わりなく朝だろうか。あなたが眠るとき、夜は変わりなく夜だろうか。あなたは目覚めているのだろうか。それとも夢を見ているのだろうか。蝶になる夢をみたあの人は、どちらの世界を望んだのだろう。
2009/11/08(Sun)03:30:19 公開 /
プリウス
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■作者からのメッセージ
作風をがらりと変えてみたつもりです。
読みやすいことを至上とし、温かい雰囲気を目標としました。
タイトルの「フィロソフィア」とは「哲学」のことです。
「フィロ」が「愛する」で、「ソフィア」が「知」。
合わせて「愛知」ですが、日本に輸入された際に「哲学」と訳されました。
「友愛数(ゆうあいすう)とは、異なる2つの自然数の組で、自分自身を除いた約数の和が、互いに他方と等しくなるような数をいう。親和数とも呼ばれる」
Wikipediaから引用です。
一番小さい友愛数は220と284。
この話は確か『博士の愛した数式』や『数学ガール』に出ていたと思います。
「蝶になる夢を見たあの人」とはもちろん、中国の思想家、荘子のことを言っています。
荘子は例えば、池の魚が楽しそうに泳いでいると言ったのを友人に「何故、魚の気持ちが分かるのか」と指摘されたとき、「何故、私の考えていることが分かるのか」(つまり荘子が魚の気持ちが分からないかどうか、分からないだろうということ)と返したとか。
遊び心旺盛ですが、一歩間違えればただの嫌な奴です。
それではまた。
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