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『文字』 ... ジャンル:ショート*2 ホラー
作者:TAKE
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あらすじ・作品紹介
世にも奇妙な物語。
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原稿用紙を前に、男は悩んでいた。
作家業を営んでいるのだが、この日はストーリーが全くもって思い浮かばない。コーヒーを飲み、好きな音楽を聴いて気分転換をしても効果は無い。
どうする? 締め切りが迫っている。来月の雑誌掲載分の小説を早いところ済ませなければ、書き進めている長編に移る事が出来ない。
男は閃いた。短編なのならば、今現在の自分を主人公にすればどうか。実際に自分が直面している危機を描けば、きっと楽に書けるに違いない。
男はスランプに悩む作家を描き始めた。
原稿用紙を前に、男は悩んでいた。
男の綴る文字で構成された主人公が、同じ文面の小説を書いている。
どうする? 締め切りが迫っている。来月の雑誌掲載分の小説を早いとこ済ませなければ――。
男は悩んでいた。
小説の中の男が書く小説の主人公も、同じ文章を書いていた。
どうする?
そしてそれは延々と、際限なく繰り返される。
原稿用紙を前に――
思い浮かばない。
雑誌……
短編なのならば――
男は閃いた。
今の自分自身を――
合わせ鏡のように何度も、幾重にも、コピーされてゆく。
突然、文字が蠢き、黒で縁取られた映像となった。
男が机に向かうところを上から見下ろした画面の中に、また同じ画面。その中にも、また画面。
果てしなく続いてゆく。
男は恐れ、筆を手から離した。
一体何が起こっている?
口から出た言葉も、文字となった。それは原稿用紙に吸い込まれ、中に居る何百人という同じ男にも、その現象は繰り返される。
一体何が――
何が……
起こって――
起こっている?
文字が増えるごとに、紙の上の線は増殖し、輪郭に厚みを帯びてくる。
一種の恐怖が空間を、心を支配する。
わけが分からない。
すると考えただけで、黒い線が更に盛り上がった。
怖い。
とうとうその細い文字の塊は、原稿用紙をはみ出そうとしている。
逃げ出したい。
文字は傍らにあった万年筆を蝕み始めた。音も無く、木製の軸が消えてゆく。
男は弾けるように、椅子から離れた。
何も考えるな。考えれば、それだけこいつは大きくなる。
考えるな。考えるな。考えるな――。
何も考えないようにするという事を考えてしまい、文字が部屋を支配する範囲は更に広がった。
机を喰らい、引出しの中へと侵入し、大蛇のようにのたうちながら移動してゆく。そして全てのモノを、消し去ってゆく。
部屋から出なければ。
男はドアへ向かい、ノブに手を掛けようとした。
しかし、文字はそれに気付き、触れる前に喰らい尽くした。
窓から出ようにも、部屋は地上5階に位置し、足掛かりになる物体は皆無である。
どうしようというのか。
更に文字が増殖した。
電話に手を伸ばした。受話器を取り上げる。
誰に掛ける?
親、友人、雑誌の編集者……。
助けを求めたところで――
誰が信じる?
そこで、また考えてしまった自分に気付く。
文字の塊は既に、男を喰らうのに充分な大きさにまで成長している。
どうする――?
思考が化け物に吸い取られる。
どうする――?
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2009/09/07(Mon)01:25:11 公開 / TAKE
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■作者からのメッセージ
学祭用に短編書かなきゃいけなくて、ネタが全く思い浮かばなかった時に書いたものです。
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