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『ああ。』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:押し車
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カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。痛いほどに喉が渇いている。
「……みず」と意味もなくつぶやいた。
昨日……いや、ひょっとすると昨日じゃないのかもしれない、まだ今日の出来事なのかも。
でも、いまは朝だ……朝のはずだ。ではやはり、昨日の出来事と呼んで良いのだろう。昨日の夜の出来事……。
現実感が乏しい。とりあえず水でも飲もう。ベットから起き上がり、部屋の空気を感じる。
いつもとかわらない僕の部屋。都内でキッチンとユニットバス付きで四万ならかなりお得な物件だ。マンションの七階だし。ただまぁ、オンボロなんだが。
たとえ他の物件に住んでいようと、僕の部屋はかわりばえせず寂しいだろう。テレビもなく、エアコンもなく、ベットと、子供用といってもよさそうな小さなタンス、それとパイプベットがあるだけの部屋。寂しい部屋だが、他に何もいらないのだからしょうがない。しかし、それにしても殺風景な部屋だ。
あれ……まだ物があった。部屋の隅でマネキンが転がっている。
ずいぶんと美しいマネキンだ。いつからあるんだっけ。まあいいや。とにかく、僕は水を飲みたい。
水を求めてキッチンに行こうとしたが、僕は頭がおかしくなってしまったらしい。
ベットからキッチンがやたらと遠いのだ。もう一キロぐらい歩いた。まだまだキッチンにつきそうにない。どんな大豪邸だろうと、ベットからキッチンまでが一キロ以上かかるなんてことはないだろう。つまりは僕の頭がおかしいのだ。
しかも、さっきから地面が激しく揺れている。震度六ぐらいか? 早くキッチンに行って、ガスの元栓を締めておこう。火事になったら大変だ。
それにしてもなんて遠いキッチンなんだ。蜃気楼など僕はみたことがないけれど、いま僕が見ているキッチンこそは蜃気楼に違いない。そうだ、あれこそが蜃気楼なのだ……。
ああ。風鈴がなっている。何処からだろう。僕の部屋には風鈴なんてない。幻覚の次は幻聴か、なんて面倒な僕なんだ。
……………。
カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。痛いほどに喉が渇いている。
「……みず」と意味もなくつぶやいた。
僕はキッチンに行くと蛇口に直接口をつけ、これでもかというほど水を飲んでやった。ついでに、顔を洗う。
なんだか変な夢をみていた。キッチンにたどり着くまで一キロ以上。部屋は常に震度六。風鈴の音。あとは、マネキンが転がっていた。なんてふざけた夢なんだ、みんな滅茶苦茶じゃないか。
キッチンまではベットから数歩で着くし、部屋は揺れてない。風鈴の音なんかしていないし、マネキンなんか転がってない。
ただ、姉さんが転がってるだけじゃないか。
でもなんで? そんなところにいたら、風邪ひくよ……。
ああ。またベットで寝てる。いよいよヤバイかなぁ。
ああ。風鈴がなっている。何処からだろう。僕の部屋には風鈴なんてないのに……。
ああ。ここは僕の部屋じゃないのか。僕のベットはこんなにフカフカじゃない。
ああ。部屋の匂いも違う。薬、消毒液、そんな類の匂い。
ああ。きっとここは病院。頭がおかしいから入院させられたのかな。
ああ。誰かの話し声がする。
「心中」
「姉弟で」
「違う」
「犯して」
「弟が殺した」
「自殺」
「死に損なって」
「酷い弟」
「悪魔のような弟」
「なぜ生きている」
「死ぬべきだ」
「ああ。可哀想なお姉ちゃん」
ああ。なんだ。夢かぁ。いいや。いいや。寝ていよう。寝てしまおう。起きないでいい。それで、夢をみよう。夢をみるんだ。夢の中であなたと一緒に……。
……………。
カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。痛いほどに喉が渇いている。
「……みず」と意味もなくつぶやいた。
了
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2009/07/28(Tue)04:31:41 公開 / 押し車
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■作者からのメッセージ
ちょっと直したつもりが、なんだか違う設定に…
文章って難しい…
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