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『youthfuldays 』 ... ジャンル:リアル・現代 恋愛小説
作者:のりこ
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あらすじ・作品紹介
大人だって大人じゃない。同時に子どもだってただの“子ども”じゃない。 青っ洟な年頃がまっすぐで鈍くて何よりも一番人間らしい時なんじゃないか。 その時一瞬一瞬を一生懸命成長しようとする、子どもでも大人でもない私たち。 そんなマージナルピープルな私たちがお互いの良さを知り痛みを知り自分を知ろうとする物語。
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勉強なんて定期テストの前に真面目な生徒のノートを借りて猛勉強すればいい。みんな真剣に書写しているように見せかけて教科書に漫画を隠して読んだり、机の下で携帯をいじくったりしている。この閉鎖的な空間にだらだらと流れていく一分一秒の暇をどうやり過ごそうかみんなも必死なのだ。一限が五十分、休憩は十分で昼休みは四十五分きっかり時計の針で一日を分断している。まるで監獄にいる囚人のように自由がない。だから私たちは自分の生活にスリルを与えようとする。
メモ用紙に折り目を丁寧につけ器用に苺型にする。その表面に持参した色鉛筆で丁寧に色づけをすると丸文字を意識して「DEAR,チヅル」と書きハートを付け足した。我ながら力作だと自賛し先生の動作を意識した。先生は生徒側を向き教科書の熱弁を力説している最中だった。あの先生はあまり板書をしないからなかなか黒板の方に頭を向けない。授業中に手紙を回すスリルを味わうのは楽しいがそれはバレないということがルールなんだ。
斜め三つ前の千鶴はさりげなく私に流し眼を送り、私は手紙を持った右手をひらつかせた。千鶴は口角を挙げ合図を送る。そしてまた前を向いて頬杖をついた。千鶴の上品なポニーテールがその反動で左右に小さく揺れた。
隣の席に座るガリ勉で有名なクラス委員長がせっせとシャーペンで問題を解いていた。右手の小指が鉛筆の芯で黒くなり蛍光灯の光を鈍く反射させていた。今時ぱっつんに揃えた前髪とえりあし付近でひとまとめにした長い黒髪姿は昭和の女学生が現代に息を吹き返したみたいだ。その前髪と度がきつそうな大きい眼鏡のおかげで顔半分は隠れている。華の女子高生がもったいない。目を伏せた時に委員長の睫毛が意外と長いことに気付いた。
私がまじまじと見つめていたのがわかったのか委員長は視線だけこちらに流した。私は咄嗟に視線に逸らし委員長の開いてある教科書に視線を落とした。数学の教科書は細かい数字だらけでちゃんと予習がなされてあった。気付かないうちに三ページも進んでいた。どうせ真面目に聞かないとわかっていてもとりあえず自分の教科書を捲った。いつ書いたのか覚えていない捲り絵が姿を見せる。一学期の時、教科書の隅っこに絵を描いて捲って遊んでいたっけ。
視界の隅っこで何かが動いたかと思いきや、千鶴が首を曲げ顎を前後に微動させた。先生が黒板に板書をしている。
「ねぇねぇ、拓幸。これ回してよ」
前のめりになって、前に座る拓幸の背を手紙でつついた。
「またかよ。毎回毎回いい加減にしろよな」
湾屈した背中を起こし拓幸が低い地声で唸った。目が赤くなっている。どうやら寝ていたのを起こされて気が立ったらしい。拓幸の右頬に右腕の学ランのシワがついている。珍しく授業を聞いているのかと思ったらやっぱり寝ていたのか。バスケ一筋の拓幸は授業後の体育に向けて授業中に睡眠をとるのが日課なのだ。
拓幸は振り返って無造作に手紙を引っ掴むと斜め前に座る女子に手渡してくれた。その一連の動作の間、拓幸の横顔や寝癖のついた髪、そして指先を食い入るように眺めた。しなやかな指、バスケ馴れした大きくてごつごつした私の大好きな指だ。あの指で私を触ってほしい。呆然と考えた。
いつのまにかチャイムが鳴り、教室がざわつき始めていた。心地いい教室の人熱と、ちょうど眠たくなるお昼時だ。いつのまにか転寝してしまっていたようだ。また私のノートのページは同じページで留まってしまった。今学期もノート代が無駄になりそうだ。まだ真新しいままのノートを荒く閉じ、ペンケースからはみ出した筆記用具を押し込むと机に掛けておいた鞄の中からランチボックスを取り出した。
「お腹空いたー。今日の由良のお弁当は何かな」
お弁当箱を片手に千鶴が私の席へやってきて声をはずませた。
「また私のお弁当狙ってるでしょ。お弁当箱大きくしてもらいなさいって言ってるじゃん」
千鶴は前の席から無造作に椅子を引っこ抜くと私と向かい合わせになって腰をすえた。彼女はお昼休みと部活の時が一番イキイキとしているし行動が機敏になる。拓幸と同じタイプの人間だ。男顔負けなくらい男らしい千鶴はいつも無地やルーズでダボダボな服を着ている。その印象が強くて、いつも千鶴が下げてくるランチボックスのお弁当箱はピンク色で可愛らしい猫のプリントがいつも悪目立ちしているのだ。
「バッカねー。これ以上大きい弁当箱持ってきたら大食い女と思われるわ!」
「もう十分千鶴の印象はガッツく女の子だって思われてるわよ」
箸箱から取り出した箸の先を千鶴に向けて鼻で笑った。千鶴の細く整った眉が虫が起き上がったように反る。それから二人で微笑んだ。千鶴のお弁当箱は色とりどりでどれも美味しそうだった。私のお弁当はきっと昨日の残飯とレトルト食品で埋め尽くされている。私の母は手を抜くのにかけては天才的な人だから。
「由良のエビフライもーらい」
私がご飯に手をつけていると千鶴が否応なくエビフライを摘み口へと一直線に運んだ。
「あぁ! 今日の弁当のメインだったのよ! バカ!」
私が立ち上がって起こると千鶴の頭の向こうに拓幸が見え呆れた顔で私の顔を見ていた。悪戯した後の子どもを見るようなうんざりしたような眼だ。
「何よ、拓幸」
「別に。毎回毎回飽きないなって思ってるだけ」
私と目が合うと拓幸は頬杖をついてそっぽ向いた。すると拓幸の前に座っていたカジがこちらへ振り向いてニヤついた。
「違う違う。こいつきっと藤間のこと見とれてたんだよ」
カジが頭上でご飯粒のついた箸をちらつかせた。カジの言葉を聞いた千鶴がエビのシッポを噛み千切りながらカジと同じように憎たらしいくらいの笑みを浮かべた。
「そうよね、木村くんこの間A組の青山律子をフッちゃうくらい由良にゾッコンだもんね」
糸のような細い眼で私と拓幸を交互に見てから千鶴はカジにウインクした。ゾッコンという言葉やウインクといいいまどき古い仕草が簡素すぎて余計に苛立たしい。
「あんたバカじゃないの!?学年一清楚で可愛らしいあの青山律子をフッたの!?」
私が声を荒げたせいでクラス中が顔を見合わせた後いっせいにこちらへ向き直した。
「バカ!そんな大きな声で言うなよ。噂になっちまうだろ、ちょっとは考えろよ」
拓幸が顔を赤らめて回りを見渡した。お弁当タイムが拓幸の詮索タイムに変わった。クラスの女子が主に小言で何かを言い合って微笑しながら私と拓幸に注目した。
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2009/07/25(Sat)04:10:23 公開 / のりこ
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■作者からのメッセージ
落チルコトナカレと並行して書いていこうかなと思っています。
落チルコトナカレとは違ってこっちでは青春を謳歌していく高校生たちの
甘酸っぱい話を書いていこうかなと思っています。
ティーンエイジャーを経験した人なら理解できる懐かしい感情をここで描いて
いけたらなぁと思っています。
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