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『高校1年生』 ... ジャンル:リアル・現代 サスペンス
作者:昨日のジョー
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あらすじ・作品紹介
将来の夢で悩む主人公と、それを想うヒロイン。オンラインゲームを軸に回転していく、ギルド同士の殺戮。高校生の間で広まる、「新・口裂け女」の噂。そして、駅前ミュージシャンの都市伝説。カワバタドラッグの蔓延と、それを追う任侠暴力団。
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1話 羊 Aries
Personas
桐浜 真人(きりはら まさと):主人公。
源 雪 (みなもと ゆき):ヒロイン的な人。中学から一緒。
小川 康生(おがわ こうせい):高校に入ってから知り合った友人。
ぱらり、と1枚の紙が前の席の小川から配られてきた。
僕はそれを1枚手に取り、後ろに配った。
(進路調査…か)
配られた紙にはゴシックでそう書かれていた。
(別にまだ決まってないんだけどな)
希望する進路、将来なりたい職業、それらを選んだ理由。その3つの欄と、名前を書くスペースだけの、ただただシンプルな紙。
周りの奴らはみんなすらすらとペンを動かしている。それが、祐一の心を痛めた。
(みんな色々考えてこの学校受けたのかなぁ)
この学校は、少しは名の知れた市立高校である。その為、受ける数は多いし、落ちる数も多い。
(俺なんて、親や先生に言われてきただけなのに。落ちた奴に悪いかな)
そんなことを考えていると、前の席の小川がこちらを向いた。
「お前、進路、ど……白紙じゃねーか」
小川は俺の調査書を見て、半ばあきれた声で言った。
「うっせ。お前はどうなんだよ。見せてみ」
俺は少し体を伸ばして前の机の紙をとった。
「国立……将来は…医者? 」
「親父が跡継げって言うもんだから」
そういえば、小川医院ってあったな。あれかな。
「いいなぁ。進路に悩まなくて」
「何言ってんだ。代わりに自由が無いんだ」
すこし怒っていたようだった。
「自由って、そんな大げさな。どのみち、何も決めてなくたって適当に大学いって適当に就職して適当に結婚して適当に死んでいくだけだろうよ」
「君、夢が無いなあ」
後ろから声を掛けられた。中学から同じの、源さんだった。
「…でも、人生って、そんなもんじゃない? 」
小川が味方してくれた。
「だよな。…源さんは何を書いたか見せてよ」
少しでも参考になれば、と思い、紙を取り、覗き込んだ。同時に、深く衝撃を受けた。
「地質学者……」
頭の中で、シュミレーションされる。
「御職業は何を? 」
「地質学者です」
(どう考えても参考にはならないな……。というより、俺には向いてない。絶対)
「これって、夢あるか? 」
「うっさいなぁ。小川は口を慎みなさい」
小川と源さんが口論してる間、本気で将来について考えた。
(俺は、何をしたい? 適当に大学いって適当に就職して適当に結婚して適当に死んでいくのか? )
多くの人々がそうしてきただろう。だが、単調な生活に、耐えれる自信がなかった。
1、2回シャーペンを回した後、全ての欄に「未定」と書いた。
風呂から出た直後、携帯からBORN TO LOVE YOUのイントロが流れた。小川からだった。
「お、もしもし? 俺だけど」
「おう。何かあった? 」
「ちょうどいいオンラインゲーム見つけたんだ。ほら、お前この前そういうの無いかって言ってたじゃん」
「あー、言った気がする」
「戦国オンライン、って言うんだけど、国産RPGだからチュートリアル親切だしおもしろいぜ」
「解った、やってみる」
PCを立ち上げ、検索エンジンで「戦国オンライン」と検索した。1発でヒットした。
「あー。あったあった」
「アイテム課金だから無料なんだと」
カチカチと数回クリックして、登録は終わった。
「これ登録楽だな」
「だな」
登録は簡単だったが、ゲームのダウンロードに時間がかかった。
それが終わると、3D風の2D画面が映った。タイトルに大きく、戦国オンライン と書いてあった。
「サーバは近畿サーバでやろうよ」
「何かあるの? 」
「初心者向けなんだと。wikiにあった」
「なんでもかんでもwikiに頼るのはよくない」
「初心者はwikiで知識を付けるべきだろ」
「いや、初心者は経験を第一にすべき」
討論しながらも、キャラクター作成まで来ると、すこし楽しみになってきた。
「お前何にした? 」
「とりあえず槍使ってる」
「何故? 」
「wiki」
刀にした。
(こういうのは慣れていけばいいさ)
ログインすると、サイトの画像よりも綺麗に見えた。なにより、あまり高性能でない僕のPCでもさくさく動いているのが嬉しかった。
「ログインしたか? 名前教えてくれ」
「☆川端康成☆にした」
「エロ…いや、渋いな。俺は 哀☆戦士小川 にしたから」
「痛い」
「ほっとけ」
「とりあえずチュートリアルこなしてるから」
「あ、俺も今プレイしてるから、…伝言送ったぞ。それに返信して」
「わかった」
電話を切り、PCの横に置いた。
「ようこそ、戦国オンラインへ!俺は百人隊長の田上だ。これからお前の上官をつとめることになる。よろしくな」
出から熱いキャラだった。
「敵との戦い方はわかるか? …お前の武器は、刀 だな。刀の場合は、相手に近づいて、左クリックだ」
まず現実では聞く事の無い言葉を見ながら、初期クエストをこなした。
「よし、基本は解ったようだな。では、志願のしるしに、これをやろう」
>錆びた刀x1 錆びた鎧x1 錆びた兜x1 きびだんごx10 をもらった
(錆びたのあげてどうすんだよ…。嫌がらせか?)
とりあえずほかに装備するものがないので装備して、これらを着る前は全裸だったのかなとかどうでもいいことに思いを馳せつつ、伝言の返事を書いた。
>「チュート終了ーb」
数秒で返事が返ってきた。
>「俺今紀の国フィールドに居るから」
>「俺が移動しろと?」
>「フレと攻城の真っ最中だし」
>「じゃあその辺でレベル上げしてる」
>「把握 終わったらまた連絡する」
大坂フィールドを出て、大坂〜近江フィールド(山中)に入った。野生の狼やら猪やらが出てきた。それに混じって、それらより少し強めの山賊や野武士なども出てきた。
ばっさばっさと斬ってるうちに、数レベル上がっていた。
>「攻城しゅうりょーした? 」
伝言で小川にそう告げた。返事は早かった。
>「丁度良いときに連絡してくるな、お前」
>「だって超能力使えるし」
>「はいはい。 今お前レベルどのくらい?」
>「あとちょいで10 お前は?」
>「まだまだ始めたばかりだから、13くらい」
そうしているうちに夜は更けていった。
事件は、翌朝の事だった。
いつも通り通学路を歩いていると、本屋の前に人だかりができているのが見えた。
(何かあったのか…? )
気がつくと、すぐ傍に源さんがいた。
「何かあったの? 」
「…人が死んでるって」
その顔は、とても蒼ざめていた。
「…本当? 」
「…うん。…気分悪いから先に学校行ってるね」
そういうと、フラフラとした足取りで学校のほうに向かっていった。途中、数回転びそうになっていた。
(人が死んでる…? 何故? )
源さんが行ってしまってから、事件現場を覗いてみた。男の人1人が血の海の中にうつ伏せで寝転んでいた。
そのとき、アスファルトで舗装された道路が凹んでいると思ったが、そうではなく、男の前面が削られたのだと気付いた。
ほぼぴったり半分に、体を2等分されていた。その上に、一切れの紙。
『敵対はするな。レオへ、木曜日より。アリエスにて』
気分が悪くなり、公園のトイレで吐いた。
教室は、もちろんざわついていた。いつもより数倍。中には、凹んでうつむいてる人もいたが、大半は興奮した様子で喋っていた。
「うーす」
「お前遅刻だぞ」
「先生来てないしセーフだ」
「時間過ぎてるしアウトだ」
「どっちでもいいけど、小川は死体見た?」
「お前、死体死体ってあまり連呼しない方がいいぞ。源さん見てみろよ」
後ろでは、まだ蒼ざめていて、目はどこか宙を見ている源さんがくてーっとしていた。
「…………」
「…で、お前は見たのか? 」
「ああ、お陰で遅刻」
「でもアレのお陰で先生はまだ、と」
「そうなの? 」
「あんなものが学校の傍で見つかったら、学校としては何かやらないといけないんじゃん?ずっと会議してる」
「そか」
「はぁ。授業潰れるじゃねーか」
「嬉しいくせに」
「嬉しくねーよ。俺世界史好きなのに…」
「え? マジ意外」
「だって伊藤先生かわいいし」
「いっぺん死ね。不埒者め」
薄暗い室内で、一人の男がカタカタとキーを打っていた。
>「どうだ? これで満足か」
数秒してから、モニタに文字が映る。
>「すこしぬるいが、合格だ」
>「俺の仕事は終わりだ。早くくれ。気が狂いそうだ」
>「はは、いいだろう。じゃあ、いつものところで会おう」
2話 失踪 vanish
Personas
桐浜 真人(きりはら まさと):主人公。どちらかというとインドア派。愛称はキリマサ。現時点で帰宅部。オンラインネームは「☆川端康成☆」
源 雪 (みなもと ゆき):ヒロイン的な人。中学から一緒。元剣道部。活発を絵にした感じ。
小川 康生(おがわ こうせい):高校に入ってから知り合った友人。中肉中背で、インドア派でもアウトドア派でもない。趣味は人間観察(主に女子)囲碁部所属。オンラインネームは「哀☆戦士小川」
木村 正敏(きむら まさとし):担任。いつも赤いジャージを着ている。あだ名はジャッキー。CDショップの跡取で囲碁部の顧問をしている。生徒想いのいい先生。
「えー、皆さんももう知っているとは思いますが」
三時間目の終わりごろ、休憩時間のような状態の教室に先生がやっと戻ってきた。潰れたのは、世界史どころではなく、今度は僕の得意な化学にまで及んだ。
そこで気付くべきだったのか、それとも気付いていたが気にしなかったのか、他のクラスより僕たちのクラスの方が先生の戻って来るのが遅かった。
「ジャッキー遅かったな」
ジャッキーというのは担任のあだ名で、『赤ジャージの木村先生』を略したのだそうだ。出所は謎だが、本人はこのあだ名を気に入っているらしい。
いつも元気だが、今日ばかりはさすがに元気ではなかった。
「先程、学校の近くで殺人事件がありました。警察は大急ぎで調査していますが、犯人も凶器も殺害方法も死亡推定時刻や本当にあそこで殺されたのかすら、何もわかっていないので」
みんなは先生の話をじっと聞いている。
「犯人はまだこの近くに居るかもしれません。十二分に気をつけて帰宅してください。あと、今日は今から臨時で帰宅してください」
気をつけて の部分を強調しているぶんには、ジャッキーはいい先生だと思った。
「ねーえキリマサ」
後ろから元気な声が聞こえた。同時に、肩をとんとん、と叩かれる。
くるりと振り返ると、源さんの指が僕の頬をぷに、とついた。いらっとした。
「……さっきまでぐったりだったのに、もう回復? 」
「青春少女はいつまでも凹まないもんなの」
「さいですか」
「さいです。青春少女に敵はありません」
個人的には相当トラウマなのだが、この人は関係ないらしい。恐ろしい。
「あんだけ怖がってたのに? 」
「ちょっと考えたら解る事だし。私等みたいな善良な一般市民が、あんな変な事件に巻き込まれるわけ無いじゃん」
「善良かどうかは置いといて、まあ俺らが事件に巻き込まれるわけ無いよな。きっと」
教卓のほうからから小川の声が聞こえた。同時に、また肩をとんとん、と叩かれた。叩かれた肩とは違う方向に首をねじったら、そこでも人差し指が待ち構えていた。
「だよね」
「ねぇ、通り魔とかそんな類のものは考えたりしないの? 」
あまりに二人とものんきだったので、あきれた風に聞いてみたが、返答はこれまたのんきなものだった。
「通り魔だったらあんな手の込んだ殺し方しないしー」
「そーそー。大体、体半分とかよっぽど恨みあるやつがやったんだって。普通の通りがかった人にはやらないっしょ」
「じゃあもし通り魔だったら? 」
「ぶちのめす。そのときはお前も手伝えよ」
小川が平然と答えるが、お前には無理だ。
源さんは? と聞くと、
「んー、私の場合はキリマサを身代わりにして逃げる」
という迷惑な答えが返ってきた。ていうかなんで二人とも僕が傍に居るって前提なんですか?
「キリマサだって、犯人と出会う確率は一緒だろ」
「ぐ。それはそうだけど」
「第一、気のつけようがないじゃん」
ぐぅの音が出なかった。
「あー、私痴漢撃退スプレー持ち歩いてるから私は大丈夫かも」
相手は痴漢じゃねぇよ。
「スプレーはどこ?」
「ん? えと、たしかかばんの奥の方に……」
かばんをごそごそあさり始めた。だめだこりゃ。
「小学生の頃柔道やってて先生に毎日やられてばっかりだったから俺受身だけ異様に上手だし」
相手刃物持ってたらいくら受身上手でも意味無いと思うんですがね。知らないけど。
家に帰ると、母親がえらく心配していた。テレビで、殺されたのはどこかの暴力団の人らしいとワイドショーで報じられていたかららしい。
(組の争いとかなら一般人は関係ないよな……)
そう思いつつ、自室に戻りPCの電源を入れ、戦国オンライン を起動した。
階下のキッチンでコーヒーを淹れて戻ってくると、PCのモニタにはNOW LOADING の文字がちょうど消えた。
てくてくと歩きモンスターを狩って歩くキャラクタを見ていると、こいつはどんな気持ちでモンスターを狩っているのかと思った。
ありえないが、もし心があるなら、ということも考えた。でも、もしかして、こいつらには既に心があって、その行動と、僕の操作が一致しているだけとか。
ありえなくないけど、ありえない話。そう考えると、もしかしたら僕らを操作しているプレイヤーみたいなのが居るのではないか。こいつらが僕らを視認できないように、頭上から見降ろされていたりして。
我ながらばかばかしいと感じてきたとき、ちょうど「伝言が届いています」の文字が映った。小川からだった。そして、もう一通。聞いたことの無い人からだった。
>「暇かな」
>「暇だよ」
>「暇で思い出したけど」
>「何」
>「駅前のミュージシャン居るじゃん、えと『夕立ブラザーズSP』っていう」
(『夕立ブラザーズSP』…? 聞いたことの無い名前だな…)
というか何で『暇』で思い出したんだろう。
>「あー お前駅行かないからわからんか」
>「でも 何回か見かけたことあるかも 男の人二人のでしょ」
>「そそ、その人その人 今売れてるらしいよ」
>「売れてるって、CD出してたの? 」
>「らしいよ うなぎのぼりにヒットだって」
>「そんなに上手なの? 」
>「俺から言わせれば微妙だけど、下手じゃないと思うよ」
>「じゃあCD買って聞いてみようぜ もち割り勘で」
>「いや、たしかジャッキーが持ってた気がする 借りよう」
>「なんでお前そんな事知ってんだよ」
>「だって囲碁部の顧問がジャッキーだし」
>「お前囲碁部だっけ?」
>「おう こないだ入部した 囲碁に興味は無いが男子少ないし女子可愛いから競争率低いし」
>「死ね不埒者」
>「それ今朝聞いた」
そこで、もう一通の伝言があるのを思い出した。差出人は「明鏡」という人らしい。
>「キリマサー まだ起きてる?」
僕をキリマサと呼ぶ人は限られている。キリマサは、高校に入ってから小川がつけた名なので、それを知るのはごく僅か。なので呼ぶ人間はさらに少ない。
今の所、小川と源さんだけだ。
>「起きてるよー」
逆に向こうはもう寝てしまったかな、と考えていると、数秒で返信がきた。
>「子供はもう寝る時間でしょ」
>「僕もう大人だし」
>「私の方が大人だと思うな」
>「……ていうか、源さんも戦オンやってたんだね」
>「小川に誘われて……あれ、なんで私ってばれたの? 」
>「勘ってやつかな」
勘じゃないですがね。
>「だとしたらすごいね」
>「…………」
会話が続かない、と思っていたら、向こうから突然びっくりするような話題をふってきた。
>「んね、キリマサは好きな人とか居る?」
女子はこうもアグレッシブなのか。男子は(例:小川)女子にそんなことを聞く勇気を持たない者が多いのに。
ていうかそんなこといきなり言われてもわかんねえよ……。もうすこし脈絡作ってからにしてください。
>「源さんは居るの?」
好きな人は、と聞かれたら、こう返すとカウンターになります。役に立ちますが、自身もそれにやられないよう注意しましょう。
とか思っていたら、返事もびっくりするような内容だった。マジで二秒ほど思考停止するくらい。
>「君が好きだよ。」
チャットだから、声の調子がわからない。故に、冗談かどうかも解らない。
マルまでちゃんと打ってますが。
>「冗談だよね? 」
返事は返ってこなかった。
次の日、学校に着くと、昨日のとは別の話題で持ちきりだった。
源さんはまだ登校していなかった。
「おっす」
席に着くと小川が驚いた風に言った。
「お、今日は遅刻じゃないのか」
「珍しく早起きしたからな」
かばんを横のフックに吊るして椅子に腰掛ける。
「なぁ、また何かあったの? 」
「ジャッキーがクビになったって」
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2009/05/06(Wed)23:10:15 公開 / 昨日のジョー
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■作者からのメッセージ
学校での授業中にふわふわ浮かんでくる妄想をまとめました
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。