『Blood of Regalia』 ... ジャンル:リアル・現代 ファンタジー
作者:ベル                

     あらすじ・作品紹介
七月二十九日――――。夏休み前夜、確か誰かの誕生日、謎の連続殺人、そして浅海潤也の運命が崩壊し生まれた日。普通の高校生『浅海潤也』は謎の殺人事件を不審に思うと同時に何かを恐れていた。その予感は的中し、潤也の歯車は狂い。導かれし運命が交差し、物語は運命を覆す。真理と神罪器が作り出す衝撃のストーリー、今開幕――――。

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
一章『現実のCrack and collapse』


『昨夜桜交差点で殺人事件が起こりました。亡くなったのは椿区の五十嵐経介(いがらしけいすけ)さん――――』

 ビルに取り付けられた巨大なモニターを見て浅海潤也(あさなみじゅんや)は少し驚いていた。
 桜交差点といえば潤也が立っている向日葵区からそう遠い場所ではなかったからだ。
『犯人は今も逃走中、警察は事情聴取と共に事件の捜査を開始しています』
 アナウンサーが言い終えた所でCMに入った、人気俳優が新発売のパンの宣伝をしている、爽やかだ。
 大変だな、と純也は呟いた所で肩に重みがかかった。
 横目で見るとそこに茶髪の少女が純也の肩にもたれかかっている。
 少女は溜息をつき。
「そんな事より私は夏休みの補習が心配なんだけどどう思うよ純也君?」
「碧さぁ……俺は補習よりお前の脳内思考の方が心配だわ」
 純也も溜息をつき返すと制服のポケットの中に手をいれ飴を二個取り出し碧に渡した。
「それは酷いんじゃない? 私だって流石に心は痛むわよ」
 飴玉を受け取った少女の名は藍川碧(あいかわみどり)と言い会話を見れば分るとおり彼女は少し抜けている、数学の時間での「方程式? なんですかそれ」はもはや格言となって学園中に知れ渡っている。
 しかし純也の親友でもあり多分……恋人だ。
 多分というのは告白が曖昧だったのと、一部女子からは男子が悪戯でラブレターとか作ってそれで何か勘違いから進展して付き合った、と言う噂が在ったり無かったり。
 まぁ碧はやはり純也の恋人だった。
 純也は飴玉の袋を開けると摘み口の中へ放り込む。

「それより、そろそろ帰らないといけないんじゃないか? 暗くなってきたし、それに……」
 
「それに……?」
 碧が促す、すると純也はニッと笑い
「殺人鬼が来るかもしんねぇぜ?」
 ハハッと笑い飛ばし純也は走っていった。
「ちょっと! 何よそれっ!?」
 後を碧が追っていく、夕日が二人を眩しく照らしていた。

 *

 そのまま純也と碧は学校規定の下校時間手前で分かれた。
 純也の通う「神咲高校」の下校時刻は夜の七時まで、しかし中には他校の生徒と混じってカラオケとかに行く者も少なくは無い。
 勿論純也は夜遊びはしない。別に親が怖いと言う訳ではない、母は水商売をして親父は死んでる。
(死んでる……? いや……親父は……)
 笑い飛ばしたくなったがやめた、テンションはそこまで高くないし寧ろ低い。
 今笑い飛ばせば俺の中にある者全て吹っ飛ぶわけでもない、吹っ飛んでくれたらかなり嬉しいけど。
 チッ、と純也は舌打ちした。嫌だこんな弱気な自分は自分でも嫌になる。
「やーめたやめた……ポジティブシンキンッ――」
「ちょっと君」
 叫ぼうとした潤也に声がかけられる。
 見ると自分を止めたのは初老の警官だった、思わず冷や汗が走る。
「神咲高校の学生さんだね、下校時間を過ぎているから早く帰りなさい」
「あっ……はい、わかりました」
 条件反射で潤也は早足でその場を立ち去る。警官と話すのはやっぱり怖い。
(やっぱり昨日の桜交差点の事件で警備が強まってんのか? 夜遊びしてる奴は大変だな)
 やれやれと苦笑しつつも純也は今の状況が少々心配だった。
 桜交差点は向日葵区から約二キロメートル、かなり近く犯人が向日葵区に潜伏している可能性は限りなく高いだろう。
(確か事件が起こったのも午後七時頃……不味いな、早く帰ろう)

 地を蹴り家までの帰宅路を走る、途中躓きそうになったが純也には気にしている暇も無かった。
 背筋を冷たい指で触られているようにゾクリと震え心臓がバクバクと音を立てる。
 今の自分の感情は「恐怖」だと思う、ただ純也にはそれ以外にも何かを感じている気がしてならなかった。
 恐怖の正体が何かは分らなかった、だが今の潤也には、


 本当の恐怖が待っているような気がしてならなかった――――。

 *
 
 純也の帰宅路の途中には廃ビルがある。
 二年前にビルが建設される筈だったのだが事情により中止になって放置したままだ。
 そして純也はその横を通って更に表通りに出てそこを更に走っていかなければならないので面倒だ。
 家はビルの中を突っ切って行った方が勿論早い。
 が、純也は入りたくなかった。
 何故なら一ヶ月前から噂を聞いたからである。

 『廃ビルに死神が住んでいる』と言う噂が――――。
 最初は信じていなかったがこの廃ビルから飛び降りる人が後を絶たない事を知っている。
 だから入り口には柵で閉ざされている、柵と言っても背の高い人なら余裕で飛べる程度の高さなのだが。
 純也は迷わずその柵を登って廃ビルど入り口へと入っていく。
 立ち入り禁止の看板が見えたが気にしてられない、どうせ死神何て噂に過ぎない。
 そして一刻も早く帰らなければこの不安は取り除けないような気がして仕方が無かった。
 そこで純也はある異変に気づく。

(あれ……) 
 手が震えている……いや、体が震えている。
(何で震えてんだ?)
 残念ながら今は寒さからかけ離れた七月二十四日。夏休み前夜。
 寒さからの震えでは決して無い、絶対違う。
(違う、寒いんじゃなくて、これは……!?)
 五感が感じ取るが理性がそれ全てを否定している。

          『視線』
 
 今時分が誰かの視線に対して震えていることを理解するのに純也は時間がかかった。
 憎悪を込めた目で見られている事を確認するのには時間はかからなかった。
 
 そして――――、

 誰に見られているのかは全く分らなかった。
 
 後ろに誰か居る。
 人の気配は無い、と理性は告げる。
 だが誰かが居る、と言う直感は凪ぐ事ができずにいた。
 気が狂いそうだった。心臓を鷲掴みにされるような感覚がとても気持ち悪かった。
(一体誰が……?)
 意を決して振り向く。
 恐怖で足が縺れかけたが辛うじてバランスを取った。
 果たして、そこにいた。
 黒髪の少女がそこに立っていた。ロングヘアの髪が風に靡く。
 そして真紅の瞳が潤也を見透かすように見つめている、小さな少女なのに存在感は異様だった。
 綺麗な人。それが第一印象だったがその印象は今は無い。
 
 怖い。
 
 その雪の様に白い肌も漆黒の髪も血の様に紅い瞳も黒いゴスロリの服も。
 全てがこの世界を否定し拒絶しているように見えたのが潤也には果て無く恐ろしく感じた。
 
『ねぇ……』
 
 少女が口を開け言葉を発した。
 それだけの動作に潤也は肩を震わせた。
(情けねぇ……)
 自嘲する、自分を情けなく思うのと自分を勇気付けるための自嘲だ。
(普通の女の子かも知れない……そうだ、幽霊なんている筈が無いだろ!? ハハハ馬鹿だなぁ俺、ヒャッホー!)
 だから潤也は答えた。
「な、何?」
 すると少女は無表情で、

『貴方は何故此処に居るの?』
 意味が分らなかった。
『此処には結界が張ってあった筈よ? それなのに貴方は何故此処に居るの?』
 何を言っているのかが全く。
『貴方は誰なの? 『ハンター』? それとも『レジスタンス』?』
 会話の内容を脳が処理しきれていない、そんな感覚だった。
『それに……』
 少女が続ける。

『私の食事の邪魔をしたからには……死んでもらわないとね?』

 その時潤也は初めて気が付く。
 少女の背後の闇の中に赤い塊が在った。
 一瞬猫の死体か何かかと思われたそれは紛れも無く『手足をバラバラに切断された女性の死体』だった。
(――――……ッ!?)
 強烈な悪寒と吐き気が潤也を襲い慌てて口元を押さえる。
 そしてまた気づく。
 彼女の右手。
 真紅に染まったその右手に――――。
(マズッ――――!?)
 少女が歩み寄り潤也は慌てて後方に飛び退く。
 
『貴方は……私の愛しき生贄になるの……だから……』
 何時の間にか至近距離までに迫られ悪寒が増す、体は動かない。
 顎に雪の様に白い指が触れる。
 冷たい、氷をそのまま押し付けられたような感覚。
 顎をくいっと上げられ上目遣いでそっと微笑み、言った。

      『死になさい』

 瞬間、景色が逆転する。
 気づいた時には地面に叩きつけられ肺の中の息が全て吐き出される。
「げふっぁ……あぁっ!?」
 何が起きたかがわからなかった。
『無様ねぇ……?』
 少女がしゃがみ潤也の首を両手で絞める。
「く、か……あぁっ……!!」
『ありがたく思いなさい? 貴方はこのヴァルヘミアの継承者アーデ・ヴァンデルキアの生贄になるのだから……』 
 景色がぼやける。
 意識も遠のいていく。
 死ぬ?
 此処で死ぬ?
 死ぬタイミングって本当に分らないよな。
 予め死ぬ事を予測してる奴なんていないよな、きっと。
 俺はまだ……。

『生贄か……死んでも御免だな』

 バシュッ、と空気の抜ける音が鳴り響いた。
 喉が開放された感覚と共に頬に冷たい物が走る。
 手で拭ったものは紛れも無く血だった。
 潤也のものではない。

『う……あぁぁぁぁぁああぁぁぁ!?』
 少女が発狂した様に叫び慌てて右手を押さえる、右手は付け根から切り裂かれていた。
 その少女の後ろに黒いローブを被った男が立っていた。
 顔は見えないが声といい歳は多分二十代だろう。
『無様だなアーデ・ヴァンダルキア……お前が俺の生贄にでもなるか? まぁお前みたいな下衆を生贄にするほど俺は落ちぶれてもいないがな?』
 瞬間、激昂で我を失ったアーデが動く。
 ギリッと青年を睨む。
 ただし何も起こる事は無かった。
『確か……お前の神罪器(レガリア)は『全てを拒絶する女帝』だったな……自分が確定し補足した相手を確実に殺す……残念だが俺の神罪器は……お前の真理を覆す』
 少女の動きが止まる、いや少女だけではなく青年以外のこの世界の全ての時間が止まった。
 そして青年が鎌を振り下ろす。

 ドシュッ――――……。
 鈍い音が鳴り響き血が再び吹き荒れる。

『無様だな……お前は一生俺には勝てねぇよ』
 
 *

 青年が潤也に向かって手を伸ばす。
『……立てるか?』
「貴方は誰ですか……?」
『……俺はレジスタンスの黒井紅輔(くろいこうすけ)……さて、ちょっと長話になるが……』
 ふと紅輔が空を見る、時間的には八時位だろう。
『そうだな、時間も時間だし手短に話す。君は戦争に巻き込まれた、長い長い戦争にと』


「え……?」

      浅海潤也の普通は亀裂と共に砕かれた――――。

          神々の歯車によって。

2009/04/04(Sat)13:50:20 公開 / ベル
■この作品の著作権はベルさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、Blood of Regaliaを書かせていただきましたベルと言う物です。
小説を書くのは実質始めてだったりしますがそこはどうかお見逃しを(
ぇえと…何から話したほうがいいでしょうか(汗
作品説明で何か大それた事を書いちゃってますがどうでしょうか?
まだこの文章を書いている時には(4/3)でまだ第一章しか書いてませんが皆さんの評価を聞くのは凄くドキドキしてます(汗)
第二章を書くには少し時間がかかりますがそれまで温かく見守ってください。

それでは失礼します(逃

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。