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『安藤さんのお隣さん』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:ケイ
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え? 何? お兄さん、私のことが気になってる? こんな小汚い路地裏で寒そうに震える可哀想な私のことが。でもこっちだって好きでこんな暮らししているわけじゃありませんよ。三丁目に安藤さんのお宅があるでしょ? そう、この道真っ直ぐ行って、三つ目の角を左に曲がったとこ、そう、そこ。その安藤さんの家の隣のお家。私は以前あそこに住んでたんですよ。結構立派なお家でしょ? 今? 今は違いますよ。ええ、ご近所と問題がありましてね。はい、それで出て来たんですよ。あっ、そういえばお兄さん。御飯を奢って貰えませんかね? ここ数日何も食べてないんですよ。え? 何ですか、それ? おいしい棒? 何味? そうですね。やっぱりサラミ味ですかね、え? コーンポタージュ? 何ですかその横文字一杯のやつは。駄目です。私は五文字以上の横文字は受け付けられません。「五文字横文字あれるぎー」ですから。ええ、そうですよ。コーンなんちゃらなんて食べた日には、体中痒くなって、腹壊しちゃいますよ。え? あ、はい。そうなんですよ。あれるぎーは平仮名です。はい、そうしないと説明も出来ないんで。え?ああ、要りませんよ。その変な臭いのおいしい棒は要りません。さっさと食べるなり仕舞うなりしてください。あれるぎーが出て来そうですよ。チョコならどうだ? お兄さん。あんたはお菓子ばっかり持ってるんですね。駄目ですよ、そんな生活してちゃ。今流行のメタボなんちゃらになりますよ。……ええ、ええ。そうですよ。メタボの後に続く言葉は知りません。あれるぎーですから。それよりチョコも仕舞ってください。甘いものも嫌いなんですよ、私。
もう食べ物はいいですから、飲み物ありませんかね。そう、飲み物。え? コーラ? 駄目ですよ、ホントに、お兄さん。おいしい棒にチョコにコーラ? メタボへの道まっしぐらじゃないですか。私は炭酸なんか飲めませんから。コーラ? そんな物知りません。ペットなんちゃらに入ったシュワシュワする飲み物なんて知りません。全く、最近の若い奴は……おっと失礼。すいませんね、お爺ちゃんみたいなこと言って。私はまだそんなに歳じゃないんですけどね。あれ? 今何歳でしたっけ? ちょっと忘れちゃいましたね。ごめんなさい、今度思い出しときます。
そういえばお兄さんは何してるんですか? こんな時間に一人で私なんかの相手をしていると、他の人から変な目で見られますよ。そうなっても私のせいにしないでくださいよ、ホントに。あれ、学生さんですか。ほら、そのバックから予備校のテキスト見えてますよ。英語……ですか。私には縁のない話ですね。横文字も満足に読めませんからね。はい、そうです、あれるぎーですよ、はい。え? リンゴを英語で? 知りませんよ。アップ……? はい、はい。もういいですよ。やめにしましょう、英語の話は。ほら、足が痒くなってきましたよ。どうしてくれるんですか? これ。もう知りませんよ。食べ物も飲み物も満足に持ってないみたいですし。これくらいでおさらばにしましょうよ。はい、私もどこかに行きますんで。では、さようなら、お兄さん。
ちょっと、ちょっと、お嬢さん。食べ物くださいな。私ここ数日何にも食べてないんですよ。ええ、さっき予備校帰りのお兄さんに会ったんですけどね。メタボ予備軍でしてね、おいしい棒とチョコしか持ってなかったんですよ。私、甘いものは嫌いですからね。え? 飴? お嬢さん馬鹿言わないでくださいよ。私がそんなもの食べれると思ってるんですか?飴は駄目です。タブーです。おいしい棒、コーンなんちゃらより駄目です。え? コーンなんちゃら? ああ、私あれるぎーなんですよ。横文字がね、駄目なんですよ。最近の流行についていけなくてね。国際化が進んでも私は困るんですよね。横文字が増えるだけですし。ええ、困ったもんですよ。ホントに。
そういえばお嬢さん。何で私なんかと話してるんですか? お母さんは? ああ、そう。買い物ですか。すぐそこのデパートに。大変ですね、お嬢さんも。おばさんってどうしてデパ地下が好きなんですかね? 理解できませんよ。そこのデパートがオープンした日なんて凄かったですよ。ホントに。おばさんが群れを作って並んでましたから。恐ろしいですよ、ホントに。
ああ、話が逸れましたね、すいません。食べ物がないなら飲み物は? え? すぐそこに公園があるんですか。ああ、そういえばそうでしたね。すいません、忘れてました。それはそれは、御親切にどうも。水を飲んできますよ。どうもすいませんね、お嬢さん。助かりましたよ。では私はこのへんで、ええ、公園に行きます。あっ、ほら、お母さん来ましたよ。やっぱり紙袋たくさんぶら下げて。どうぞ、私のことは気にせずお帰りください。こう見えても、こういう生活慣れてますから。それより、お母さんに私に食べ物あげようとしたこと言っちゃいけませんよ。怒られますからね。わかりました? わかったなら早く行ったほうがいいですよ。私も行きますよ、公園。では、さようなら、お嬢さん。
いやあ、生き返りましたね。水はおいしいです、ホントに。あら、おじさん。こんなところで何してるんですか? いい歳してブランコで遊んでるんですか? あっ、もしかしてアレですか? そうですか、やっぱり。最近不況ですからね。御家族は? 奥さんと三歳の女の子? いいですね、一番可愛い時期じゃないですか。それでもやっぱりアレですか。大変ですね。そういえばコーヒーは? え? コーヒー買うお金も勿体無いですか? そうですよね。これからの生活大変ですもんね。奥さんには? 話しましたか? えっ、まだですか。それはいけませんよ。こういうことはちゃんと話さないと、実家に帰られちゃいますよ。ホントに。ええ、私はそういう人を何人も見てきましたから。なんせ路上生活が長いですからね。もうかれこれ、数年と数ヶ月ですかね。ええ。すいません、よく覚えてないんですよ。でもまあ、そんだけ暮らしていれば、おじさんみたいな人も何人も見ましたよ。公園のブランコに座っている人。コーヒー持ってない人はあなたが初めてですけどね。
どうやって時間潰すんですか? そうですか、本を持ってきたんですね。夏目漱石ですか。いいですね、ホントに。あっ、そういえば、夏目漱石の作品の中に私の曾祖父の親戚の知り合いがモデルの話があったんですよ。凄いでしょ? タイトルがね、忘れちゃったんですよ。やっぱり歳ですね、私も。タイトルどころか、自分の年齢もよく覚えてないんですよ。昔、安藤さんのお宅の隣に住んでたってことぐらいしか覚えてなくてね。え? ああ、そうです、そうです。三丁目の。そこを右に曲がって真っ直ぐ行った突き当りを左に曲がって、一つ目の角を右の、はい、そこです。安藤さんのお宅。そのお隣に住んでたんですよ。さっきも予備校帰りのお兄さんに教えたんですけどね、この話。まあ昔の話ですよ。気にしないで忘れてください。夏目漱石でも読んどいてください。え? 食べ物? ええ、欲しいですよ。最近何も食べてなくてね。ああ、でも気にしないでください。コーヒー買わないおじさんから恵んでもらう訳にはいきませんからね。それぐらい自分で何とかしますよ。お気遣いなく、ホントに。
ああ、そういえば思い出しましたよ。私の曾祖父の親戚の知り合いがモデルだった話。そう、夏目漱石の。えーとですね、え? 「坊ちゃん」? 違いますよ。それはおじさんが読んでる奴じゃないですか。アレです。「吾輩は猫である」ですよ。凄いでしょ?二毛子って名前なんですよ。え? 二毛子なんて出てないんですか? 三毛子なら出てる? あれ、私の勘違いですかね。すいませんね。二毛子は曾祖父の親戚の知り合いで、三毛子は安藤さんのお宅で飼われているミケ猫でした。すいませんね、読書の邪魔して。そろそろ御暇させてもらいますね。読書の邪魔になるんで、はい。では、さようなら、おじさん。
恐ろしいもんですね。自分でも気づかない間に、ボケてましたね。自分の歳も、知り合いの名前も忘れてました。でもついさっき思い出したんですよ。こう見えても小さいときは、皆に可愛がって貰ってたんですよ。お洒落な名前までつけられて。
「私は猫である。名前は、えーっと、忘れた」
もう私も歳ですね。ホントに。
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2009/04/02(Thu)23:07:32 公開 / ケイ
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■作者からのメッセージ
最近、動物をテーマにした小説を書いていて、その内の一つです。どこが動物かはわかりませんが(汗)語りで進む小説っておもしろいな〜と思って書いてみました。率直に言うと、難しかったです。グチャグチャになってしまいました。誰かさんのようにはまとまらない(泣)オチもまだ改良の余地があるかなと思います。未熟な文ですが、読んでもらえたら嬉しいです。
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