『セブンパワー』 ... ジャンル:リアル・現代 恋愛小説
作者:のばら                

     あらすじ・作品紹介
県立教進大付属中学校の仲良し二人、紅美と緑は、突然村に現れたド派手な女性に田舎の河津村をバカにされたのを悔しがり、1週間以内にバンドを結成することに…。キャラが濃すぎる5人に振り回されっぱなしの紅美と緑たちにやがて事件が…!「カッコイイ」とは何か、「本当の友情」とは何か、「大好き」とは何か。友情アリ、恋アリ、不思議アリ、爆笑アリの小さな物語。

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――あなたにとって、「カッコイイ」とは何ですか?――
それは、人それぞれ感じることだと思う。服装も「カッコイイ」人はいるし、容姿が「カッコイイ」人もいる。
だが、最近の人間には心の「カッコイイ」要素が減って、「暇」という要素が増えていると思う。
その「暇」エネルギーを、「カッコイイ」エネルギーに変換する方程式は無いのか。

これは、田舎で起こった七つの方程式を導こうとした七人の人間の物語だ。
 
第一章 「絵の具、赤」           

   
夕焼け雲が流れてゆく、学校の帰り道。カラスの鳴き声。
いつも変わらない風景。体を通りぬける風。オレンジに染まった桜。
「ああー、暇だな、今日も何か面白いことないかなー!!」と、見た目は元気な少女が言う。
「また紅美の口癖始まった。」東洋ハーフ系の長い髪の少女があきれたように言う。
「だって暇なんだもん。仕方ないし。」
と、二人で話ながら公園の前を通り過ぎようとした時、なにやら大勢の人が集まっているようだった。
かいがら公園と呼ばれるその場所は、どこにでもあるごく普通の公園だ。ブランコやすべり台、砂場などしか遊具がない。
「ん!? あれ何!? なんか公園の方に人集まってない!? 行こ、緑!」
とたんに、紅美が走りだす。
「ちょっと、待って〜!!」


公園には、大勢の人が集まっている。田舎に似合わないド派手な女性がビールの箱のお立ち台やらに立っている。
紅美と緑が人をかき分けて、列の一番前にもぐりこんだ。きつい香水のにおいがする。
服はすべて一級ブランド物。きれいな金髪は、脱色してから染めたのだろう。
「ここにいるみなさーん!! 音楽に興味はありますか〜!!」
すると、紅美が手をあげて、
「あります!! チョーあります!!」
「ちょっと紅美!!」
(この天然紅美!! 何も考えずに手あげないでよ〜!!)
「そこの女の子!! よく聞いてね。実はこの村から七人を選抜して、世界のトップに立たせたいと思うの!!」
「世界のトップだと!?」
周りのおじさんおばさんが騒ぐ。
「ヒュー!! この村から『すたー』が出るだべ〜!!」
「おおー!!」
「しっ、静かに!! これだから田舎者は!!」
「それだけではありません。この村から七人無事に選ばれると、村に援助金が一人あたり百二十五万円を国からもらえま  す!!」
「金だとお!! 七人だから、八百七十五万円もらえるさ〜!!」
「おおー!!」
「ん!?」緑があることに気づいたようだ。
「ちょっと待って。七人『無事』にって、何かオーディションのようなものを受けてからじゃないと選ばれないってことで すか?」
「何言ってるのアナタ。当然じゃないの!! 田舎者は何も知らないのね〜!!」
(さっきから田舎田舎って、この村のいいところを何もわかってないじゃん!!)
紅美の怒りがМAXになる。
「この河津村をバカにしないでくださいっ!!」
「紅美!! やめなよ!!」
「生意気な子ね。いいわ、アナタがそう言うなら、一週間以内に七人集めて、バンドを結成して、ここでライブを開いて見 せなさい!! それが出来たら、もうこの村をバカにしたりなんかしないわっ!! ちなみに、バンド構成は、ボーカル 二人、キーボード、ドラム、ベースそれぞれ一人、ギター二人よ!!」
「上等だーっ!!」
「緑っ!! 帰るよ!!」
紅美が緑の手をつかんで走り出した。
「ちょ、ちょっと〜!!」
(紅美に付き合ってると、疲れる〜!! でも、意外とやさしいとこ、あるじゃん!)


(さっきはつい怒ってあんな感じで言ってしまったけど、どうやって人集めよう?)
「どうしよ〜!! 7人か〜。まずボーカルだよね〜」
「ボーカルなら問題ないじゃん。あたしたち合唱部だし」
「おお!! ナイスアイディア!!」
「あと五人は学校で聞いてみよ!!」
(紅美がノリで言うのはいつもだけど、五人も楽器得意な人いるかな〜?)
「じゃあ、明日の仲間集め、がんばろうね、バイバイ紅美〜!!」
「うん!じゃあね!」

翌日。

「おっはよー緑!! 今日ちょうど音楽集会だよ!!歌の伴奏でピアノ弾いてる人キーボードにスカウトしてみよう    よ!!」
「オッケー!!」
先生が来た。
「体育館で音楽集会があるから、移動してください。」

「起立!! 礼!! これから音楽集会を始めます。今日は、県の音楽発表会で歌う曲を決めます」
「まず、全校アンケートで人気の高かった曲を発表します」
「まずは伴奏を聞いてください」
「緑っ!! あの人じゃない!? でも前の人おっきくて見えない〜!」
伴奏が始まった。きれいな旋律。ピアノの音。紅美には、仲間集め必死で、肝心のピアノの音が耳に入ってこない。
(この人なら任せられる。絶対信じてる。)
「『世界に一つだけの花』を歌いたいと思います」
「以上で、音楽集会を終わります。起立!! 礼!!」
 
「緑っ! 放課後、だれがピアノ弾いてたか聞いてみよう!!」紅美は、いつも以上に明るかった。
(誰に聞くのよ〜!! また何も考えてないな〜。紅美は)


「まず川村先生に聞いてみよ!!」
(紅美、川村先生なんて知ってたのか。)
「うん。ところでホントに五人見つかるのかな?」
「大丈夫だいじょーぶ。見つかるさ!」


「失礼しまーす。1年B組の秋田紅美と西川緑ですが川村先生にお尋ねしたいことがあって来ました」
「どうぞ。聞きたいことって、何かな?」
川村先生は優しい女教師だが、視線がきつい。
「あの、今日の音楽集会で伴奏してた人って、何年何組ですか?」
「あ、西園寺紫ね。1年の特進クラスA番の人だよ」
「と、特進A番って、この教進大付属で一番頭イイってことですか!?」
「うん。彼女はアメリカで5歳で大学を卒業した子だからね」
「そうですか、ありがとうございました…」
「あ、ちょっと待って! バンドをやるのもいいけど、勉強もね」
(どうして先生が知ってるんだ?まさか、見たんじゃ…)
「失礼しました」
(ひとつ手がかりがつかめた。けど、緑は本当にこの西園寺って人知ってたのかな?)

廊下を歩きながら、紅美は目を輝かせていた。
「緑、西園寺紫って人、どんな人かな?」
「あたし的に、マンガでよくあるセレブ系の名前だよね。きっとお嬢様なんじゃない?」
「んー。まず会ってみないと!!」
(紅美は、なんで動いてから考えるんだろう。“考えるより先に行動”か)

特進クラス。エリートが集うガリ勉集団。なぜか放課後なのに本のページをめくる音、一生懸命シャーペンを動かす音が聞こえる。
「失礼します。こ、ここに、西園寺紫さんいますか?」
(ほ、放課後まで使って勉強してるんだ…。すごっ!!)
「ああ、彼女なら生徒会だと思うから、20分くらい待ってればくるよ」
「わ、わかりました。失礼いたしました…」

「緑、ウチ、特進の暑苦しい空気に負けそう…」
「屋上行こうか」

まだ青い空。白い雲。少し冷たい春風。四時だというのに、まだ明るい。
「ん〜!! 気持ちイイ〜!! ねえ、緑!! 特進クラスてメガネばっかだね!!」
「西園寺紫って人もメガネかけてるのかな?」
「たぶん、メガネかけてると思う。なんたって付属で一番の天才なんだもん」
「天才ったら、あのバカ○ン?」
(バカだこいつ!!)
「違う違う!! あれはバカなの!!」
二人で楽しくおしゃべりしている途中、川村先生が来た。
「君たち。 西園寺さん、校庭で待たせたから、校庭に向かうといいよ」
「ありがとうございます! 川村先生!」
「さっ、行こっ、緑」
ふいに先生が呼び止めた。
「あ、ちょっと待って。彼女、まわりにファンクラブいるから、くれぐれもファンに迷惑かけるようなことしないでね」
「わかりました〜!!」
先生が行った後、緑が小さな声で話かけてきた。
「ファンクラブがあるってことは、きっと容姿端麗、文武両道なんだよ!!」
「なんかあたしは強気でワガママだと思う…」

(広い校庭のベンチに座っているあの人かな?)
「あ、あの人じゃない!?」紅美が走る。
「お〜い! 西園寺さーん!!」
長い髪の毛をポニーテールにして、彼女は立って一礼した。
「はじめまして!! ウチ秋田紅美と言います!!」
「西川緑です!! よろしくお願いします!!」
まるで、ハリウッド女優のような綺麗な顔立ち、細く長い手足。
「こちらこそ。西園寺紫(さいおんじ ゆかり)です。あなたたちは今日の音楽集会でこそこそ話していた子?」
「え、何でそんなこと知ってるんですか!?」
きっと見られていた。あの人数のなかでは人の視線に気づかない。
「昨日、公園であの女の人とケンカしてたのも秋田さん?」
「図星だああ!!」
(川村先生にも見られてたし、初対面の西園寺さんにも見られてたのかあ〜!!)
「紅美!! 例の件を伝えに来たんでしょ!!」
「あ、そうだった。あの、ウチらバンドやろうと思ってるんですけど、西園寺さんにバンドのキーボードをお願いしたく  て…」
「それなら別に時間と暇があればやれるんだけど、私以外のメンバーは決まっているの?」
「う…。それがまだ…決まってなくて…」
(こいつは心が読めるのか?)緑は怪しいと思った。
「とにかく。私は忙しいから、他の人が決まってからにしてちょうだい。探すのは手伝えるけど、まず、ギターとベースを 弾ける人が生徒会にいるから、明日紹介するわね」
(見るからに高飛車なカンジ。プライドがものすごく高いやつだ…紅美もあたしもニガテなタイプ…)
「あ、は、はい…」
「それじゃ、明日もこの場所でね。さよなら」
「さ、さよなら」

帰り道。今日は天気が悪い。灰色の空。今にも雨が降ってきそうな雲。生ぬるい風。
「紅美、あたしの予想通りだわ。ものすごいお嬢様だったね」
「え、何で緑がそんなこと知ってるの?」
「1か月前に聞いたのを思い出したの。パパから。西園寺って人、村の旅館『憩い』の一人娘なんだって」
「え!! あの『憩い』の!?」
旅館『憩い』は、全国に名の知られた旅館である。この河津村に最近できたばかりだ。代々続く老舗で、従業員の数は日本で三番目に多い旅館。
「ま、とりあえずあたしたちは仲間集めに急がないとね」
この仲間集めで紅美と緑は、5人の仲間に振り回されることになるのをまだ知らない。






第二章「めだま焼き」
土曜日。平穏な休日を、紅美の大声が襲う。
「おかーさん! バンドやっていい?」
「朝からうるさいわね!! アンタに音楽的センスあるの?」
「失礼なっ! これでもウチ合唱部だよ!?」
「あー。ハイハイ。残り3年間、自由にやんな」
「やったー!!」

翌日の学校。昼休み。
「失礼しまーす!! 西園寺さんいますかー?」
西園寺紫は、何か難しそうな本を読んでいる。
「ハイ。あ、昨日の」
「ギターとベースの人決まりましたか?」
「ええ、彼ら快くOKしてくれたわ。じゃあ、午後校庭で会いましょう」
「ありがとうございます!!」
「失礼しましたー!!」

紅美は久しぶりに「暇」が消えたような気がした。
それも、あのド派手な女性のおかげ――。
「ううん。そんなことない!!」
「どしたの紅美?」
「な、なんでもない。それより西園寺さん待ってるよ」

「秋田さーん!」
なんと、あの、あの西園寺紫が自分から声をかけてきたのだ。
(これも、進歩!! ウチの暇が消えたのも、進歩進歩♪)
「こちら、紹介するわね。ギターが山本蒼(やまもと そう)くん」今時のイケメンといったところだ。
「よろしく。俺、ギターあんまり上手じゃないけど」
「ベースの神崎水樹(かんざき みずき)くん」ハーフ系の顔立ちで美形だ。
「よろしく!! 俺、小さい頃からベース触ってんだ」
「よ、よろしく…!!」緑の顔が赤い。
「みーどり! 何テレてんのぉ?」
「べっ、べつに!! テレてなんかいないよ〜!」
「あの、西園寺さんはいつ日本に来たの?」
「私は小学校卒業してから…」
「ま、話は紫から聞いてるから、俺達の他に、あと二人決まってないんだろ?」
「正しくは3人だけどね」緑が口をはさむ。
「私は別にやってもいいけど」
「やった〜!! じゃ、あと二人、今日中に探そう!!」
「俺、ドラムなら知ってる。C組の『相馬橙海』っていうやつ。幼ななじみなんだ」
「俺、もう一人のギターは図書委員会委員長で特進の『橋本黄香』って人!」
「じゃ、みんなでスカウトしに行きましょう」
「最初はC組から!!」

一年C組。学力的に少し下の生徒や、問題を起こした生徒などが入るクラス。
「おーい! 橙海! ちょっと話がある〜!」
「なんだ! 蒼か」品行方正な蒼と裏腹に、校則違反の茶髪、赤いTシャツ、ピアス。
「お前、ドラム得意だよな。バンドのドラムやってくれない?」
「お安い御用だけど。この綺麗なネーちゃん、どっかで見たことが…あ、西園寺ムラサキ!!」
「ゆかりです…」
「じゃ、放課後、校庭に来いよ」
「おーう」

廊下を5人が歩いている途中、水樹が、
「まったく、この学校の『格付け制度』こりごりだぜ〜」
教進付属には、正しくは『基準制度』という制度があり、テスト、日ごろの生活態度などがポイントとして、最高で100点まである。付属には受験で入るため、成績が良かった順に、特進、B組、C組があり、特進とB組にはAからZまでの名簿のようなものがあり、A番に選ばれた生徒は生徒会長をやるのがこの学校の伝統なのだ。
「どうして私なんかがA番に選ばれたのかしら。蒼が選ばれると思ってたのに」
「だってお前、保育園のときから偏差値87だったじゃん」
「そういえば、西園寺さん、特進のA番でしたよね? じゃ、生徒会長なんですか?」
「まあ、そういうものなのかしら。蒼は副会長で、水樹は会計なの」
「あ、西園寺さん、いつから『蒼』と『水樹』って呼ぶようになったんですか?」
「あ、それは小さい頃から。私たち、3歳の頃アメリカに住んでたのよ」
「んで、俺と蒼が紫より先に日本に帰ってきたんだよな」
「ふぅ〜ん」緑がヤキモチを焼いたような顔をした。

図書室。
「こんにちは〜。誰かいますか〜?」
「橋本さ〜ん。橋本さんいますか?」
とつぜん、本棚のかげから顔を出した。
「…はーい」
「うわっ!!」
そこにいたのは、メガネをかけて、肩まで髪の毛を伸ばした賢そうな女の子。5人は全員メガネを外したほうがかわいいのに…と思った。
「…何か、用でしょうか?」
「あ、あの、橋本さんはギターが得意と聞いてやってきました…」
「は、はい…」
「実は、バンドを結成したいと思うんですが、橋本さんにギターをお願いしたくって…」
「わ、わたしにですか?そんな…自信ないです…」
「とにかく、放課後校庭に来てくださいね。待ってますから」


続く

2009/03/24(Tue)16:43:13 公開 / のばら
■この作品の著作権はのばらさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この「セブンパワー」は、小学校生活最後の学習発表会でやった劇を元に、今の若い人たちにカッコイイや、切っても切っても切れないような友情、そして甘酸っぱい初恋―。
子供から大人になるために、どんなことが必要か、また、家族の大切さを教えてもらう劇でした。
少しでもこの小説を読んでくれる人に元気のパワーが届くことを願っています。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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