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『月と夕日』 ... ジャンル:恋愛小説 ショート*2
作者:ケイ
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あらすじ・作品紹介
高校生の香奈は、幼馴染の拓也に好意を抱いているがその気持ちをなかなか伝えられずにいて……
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「俺さ、美紀と別れたんだ」
高校からの帰り道、幼馴染の拓也の声に、違う世界に入っていた私は呼び戻される。
美紀、美紀。美紀って誰だっけ? あっ、そうか、拓也の彼女だっけ。
「へぇ」
私は拓也にだけ聞こえるほどの声で呟いた。二人乗りをしている自転車はどこか悲しげな悲鳴を上げながら、ふらふらと信号の前で止まった。日は半分沈み、隣には買い物帰りのおばさんが、エコバッグから葱をはみ出させながら立っていた。ちょうど私達の正面に夕日が浮かび、私と拓也は目を細める。
「気にならねえの?」
拓也は体を動かさず静かに尋ねてきた。私は途中でずれたお尻を元の位置に戻す。
うん、実はもの凄く気になる。
私の心はそう呟く。でも口にはしない。
「別に」
あくまで興味のない振りをする。信号が青になり、「よっ」という掛け声と共に、拓也はペダルを漕ぎ出す。風に吹かれて私の制服が揺れる。
「実は内心嬉しかったりした?」
拓也はおどけた口調でそう言うと、わざとらしく声を上げて笑った。
うん、嬉しい。
そう思っても口にはしない。心の奥に仕舞い込む。
「うーん、あんまりかな」
「何だよ、冷たい奴」
そう言って二人でクスリと笑った。
「じゃあさあ、アタシが付き合ってあげよっか?」
さり気無く聞いてみる。他人が聞けば、ただの冗談にしか聞こえないはずだ。それでも、私の声は震えていた。
「何言ってんだよ、何かの冗談?」
拓也はそう言って乾いた笑い声を上げた。それは、少し肌寒い秋の風に乗って、私の胸に届く。それに反応するかのように、トクンと胸が動く。
「うん、冗談」
精一杯の笑顔を作って答える。でも、ちゃんと笑顔になっているか自信はない。もしかしたら涙が零れているかもしれない。もしかしたら消えてしまいそうなほど儚げな顔をしているかもしれない。でも、拓也は前を向いたまま自転車を漕ぎ続けた。
「香奈もさ、俺にばっかりくっついてないで他の男とも仲良くなれよ。彼氏出来ないぞ。悪くない顔なのに勿体無いよ」
拓也なりに精一杯の優しさを込めたのだろう。不器用な言葉が胸に沁みる。最後の部分に喜んでしまう自分がいて、何だか情けなくなる。さり気無い告白をして、完全にフラれたのに、私って単純だな。
「人の心配してないで自分の心配したら? 美紀ちゃん以外に、拓也と付き合ってくれる人なんていないよ」
いるよ。ここにいる。拓也の後ろにいるよ。
心の声が必死に叫ぶ。実際の私にはこんな主張なんて出来ない。出来ないからこそ、小学生の頃から拓也と幼馴染としてしか接することが出来なかったのだろう。
「まあ何とかなるよ、俺もお前も」
拓也は茜色に染まった空を見上げて呟いた。
「そうだね」
私も空を見上げる。一日の終わりを告げる夕日が、私の気持ちと変に合っていて、何だか涙が零れそうになった。
拓也はペダルを漕ぎ続ける。あの夕日を追い抜けるかな。不意にそんなことを思った。
「拓也」
あまり会話をしないまま、私達の家の近くへと差し掛かったとき、私は思っていたより大きな背中に呼びかけた。
「んー?」
すっかり暗くなり、さっきまで茜色だった空には儚げに光る星と月が広がっていた。そんな空の下で、ペダルを漕ぎ続ける拓也は気の抜けた声で答えた。
「……」
呼びかけてみたものの、自分が何を言いたかったのかよくわからない。
「何?」
「ううん、何でもない」
結局私は俯いて黙り込んだ。自転車が進むと、後ろに流れていくアスファルトをぼんやりと眺める。
「着いたぞ」
数分後、拓也に言われて顔を上げると、私の家の前だった。痛むお尻を持ち上げて自転車から降りると、久しぶりに足にアスファルトの冷たい感触が感じられる。
「じゃあ、また明日な」
拓也はそう言って籠に入れてあった私の鞄を渡した。
「あのさ」
ペダルに足を掛けた幼馴染に声を掛ける。
「ん?」
「……」
「何?」
「……幼馴染って……難しいよね」
本音だった。久しぶりに拓也に本音を話したような気がする。
「難しい……のか?」
「そうだよ。距離が近すぎるって言うか、兄妹みたいって言うか」
「そういうもんなのかな」
「うん。だからアタシも言えないんだと思う」
「香奈?」
拓也が心配そうに私の顔を覗き込む。月を見上げて零れそうな涙を堪える。そして拓也からも目を逸らす。
「私達って夕日と月みたいだよね」
「へ? どういう意味?」
「私が夕日で拓也が月。いつも近くにいるけど、それ以上は近づけない。どんなにもがいても決して一緒にはいられない」
「香奈……」
月を見上げても堪えきれない涙が零れて、私は慌てて後ろを向く。
「何でもない、気にしないで。また明日ね」
私は必死に冷静を装いながら言った。
「香奈の思ってることはわかった。でも、俺――」
「いいの」
「……ごめん。香奈とは一生仲良くしていたいんだ」
遠回しな言い方。でも言ってることは容赦なく私を傷つける。
「ごめん」
拓也はそう言い残して自転車と一緒に闇に溶けた。私は震える瞼を持ち上げて、儚く光るを月を見上げる。
「星がよかったのにね」
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2009/03/22(Sun)15:13:22 公開 / ケイ
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■作者からのメッセージ
最近ショートの恋愛小説を書いていて、そのとき浮かんだアイディアの一つです。もう一つの「君と空と入道雲」も読んでもらえると嬉しいです。最近悲しい話ばかり書いている気がします(汗)感想をお待ちしております。
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