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『不可解なこと。』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:華南
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あらすじ・作品紹介
こんな世界を愛してる。
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梶島郁美、十五歳。
自分の今の年齢を三で割ると、人生を時間に例えた時刻が分かる。そう聞いたのはいつのことやら。
私自身、もう十五年生きたと思っていても、実は人生の時間は、まだ夜が明けてすぐの早朝五時。私の三十九歳、専業主婦の母親の人生の時間は、のんびりテレビでも見ているであろう、午後一時。私の四十二歳、サラリーマンの父親の人生の時間は、会社でパソコンとにらめっこしているであろう、午後二時。
とても不可解だ。
人間が活動しやすい時間帯は、だいたい午前九時から午後三時ぐらいまでではないだろうか。もちろん個人差はあるが。
そう考えてみると、父や母は理解できる。だが、なぜ、私たちは夜明けから活動をしなければならないのだろうか。まだ脳が眠りから覚めていないときに叩き起こされ、なぜ勉学に勤しまなければならないのだろうか。
大人、と呼ばれる人間は。
当たり前だ。それがお前たち子供の仕事だ。
と言う。
「郁美、郁美……!」
「……何? どうしたの?」
歴史の授業中、後ろの席の森口紗枝が小声で私を呼ぶ。当然私も小声で返事をして、先生がこっちを見ていないのを確認してから、後ろを振り返った。
「授業、つまんないね」
にいっ、と目を細めて笑う紗枝を見て、ああそうだねと曖昧な返事を返す。そして紗枝は笑顔のままで、歴史のノートに描いた少女マンガのような絵を私に見せた。
「わあ、上手だね……!」
そう私がリアクションすれば、紗枝は喜々としてストーリーを語りだす。内容は、実はこの女の子は天使で、一目惚れした男の子のために頑張って人間になる。そしてこの二人は結ばれる。というなんともファンタジックでありがちなストーリーだ。実際そんなこと、絶対ありゃしないのに。
因みに紗枝の将来の夢は漫画家。羨ましい。
なにが羨ましいかというと、将来の夢、をもっていることだ。
「梶島さん、森口さん、喋ってばかりじゃなくて、ノートもとって下さいね」
いつの間にか歴史担当の羽山先生は、私の前に立っていた。怒りも呆れもなく、無表情な声。大ざっぱにガタガタに切られた前髪をみると、何というか呆れてしまう。しかも一応女の先生なのに、万年ジャージは止めてほしい。
「はーい……」
「すみませんでした」
紗枝はショボンとしている。きっとまだ喋り足りないのだろう。でも、私は紗枝との会話が打ち切られてホッとしている。非現実的な彼女に呆れて、なにかとんでもないことを口走りそうだったから。
「じゃあ続けますよ」
羽山先生はそっけなく言うと、さっさと黒板の前に戻り、黒板に白いチョークで板書を再開した。
私は顔を再び前に向けた。
「ふう……」
一応シャーペンを持ってノートに書き写す仕草だけする。歴史用のノートは真っ白のまま。
なぜか。それは単に私が、歴史が大嫌いだからだ。
数学や理科はまだいい。理屈や、理論があるから。だけど歴史は、教えられれば教えられるほど、過去と今とが矛盾しすぎているから。だから、大嫌いだ。
一体だれが決めたのだろう。正義が正義で、悪が悪なんて。
もしかしたら、正義が悪で、悪が正義だったかもしれないのに。
一体だれが決めたのだろう。正しいと教えられたことが、全て正しいだなんて。
もしかしたら、あなたが知っていることは全て嘘と間違いかもしれないのに。
とても不可解だ。
人権なんて契約書、どこにもないから。平和なんて映画、どこにもないから。
嘘という現実ならある。人間という言葉が喋れる動物ならいる。
「どうすれば私、納得できるんだろう」
その答えはたぶん、一生出ないような気がする。違う。一生真っ直ぐ目を向けられないんだと思う。見据えた最後はたぶん、生きてる意味を失ってしまうから。
失って、しまうから。
とても不可解だ。
こんなに汚くて醜い世界なのに。こんなに綺麗で美しく見える。
それはたぶん。
私がそれを疑問に思っているからだ。
それはとても分かりにくく。
とても分かりやすいものだ。
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2009/03/16(Mon)20:04:46 公開 / 華南
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■作者からのメッセージ
初めまして。
これからショート作品を中心に書かせていただこうと思っています。
最近書き始めたばかりなので、これから精進していきたい!と私自身意気込んでおります(ほとんど空回りですが……)
アドバイス、感想などいただけますと、この未熟者、大変喜びますので、気が向いたら、コメントしてやって下さい。
宜しくおねがいします!
華南 拝
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。