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『ラブレター(宛ての無い)』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:奈津子
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あらすじ・作品紹介
宛ての無い手紙
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To:
私は時おりあなたをめちゃくちゃにしてしまいたい。めちゃくちゃにしてしまいたいと思う。
道徳的価値観や、憎むべき刷り込みによる下らない“良心”が、あなたの心を悩ませないのであれば。快楽が快楽以上にも以下にもならずに済むのであれば、快楽としてただ純粋に在りうるのであれば、出来る事なら私はあなたを、めちゃくちゃにしてしまいたい。こんな話をしたらきっとあなたは笑いながら、少なからず驚くでしょう。けれどもこれは恐らく欲情では無いのです。少なくとも、誰も知らないあなたを、あなたすら知らないあなたを、見たい、保存したい、そういった欲望では無いのです。私はあなたに確実に目に見える形で何かを施したい。あなたの嬉しい何かを施したい。なぜなら私は苦しいのです。いつまでも断絶されている、果ての無い深淵、身勝手な推論、思いやりという名の主観の押し売り。それが、私にはもう、
私はあなたと私の家で鍋料理を食べましたね。テレビにはオブジェとして鮮やかな配色の番組が流れており、その空間はいつも通り雑然としていましたが、クッションは清潔に柔らかく、毛羽立ったホットカーペット、の上の背の低い丸テーブル、の上には薄汚れた卓上コンロ、の上には小さな土鍋、の上には湯気、そして二つの顔。ただそれだけが、用意されたかのようにありました。白菜、水菜、えのき、鶏肉、等々、その他悪ふざけのものが数種。切り分けた具材には各々なかなかどうして見た目に癖があり、私とあなた各々の癖があり、それらがいっこの土鍋に投入されてゆき、溶けてゆきました。私もあなたもよく笑い、その頬も目元も声も投入されてゆき、溶けてゆきました。ほとんどすべてのものがあの時ほとんどに丸く、部屋は暖かくオレンジに明るく、茹でた諸々はどれも美味しく、そう。なにもかもが完璧でした。ほころびというものがどこをつついても見当たらなかった。とりわけ頬でした。あなたの頬でした。ぱっとして赤みを帯びてた。それは綺麗というものです。綺麗でした。綺麗が、湯気の向こうに見え、その向こうにカーテンの無い窓が見え、その更に外は外、はよく晴れた日の夜。その時突如ふと、空間を形成している何もかもの要素が、完璧が、私をはっと捕らえ、覆いました。その瞬間何故か何故なのか、私は、目を開けていられなくなりました。
「真空パック、若しくは冷凍保存。」
閉じられた瞼の下でわたしは衝動的に思い立ち発作的に周囲を見渡してもああ瞼は閉じられている、ああ、何も見えない。ああ。私には術がありませんでした。ああ、あなたは食べたり笑ったりしている。それなのに、私にはどの術もありませんでした、私には。なぜなら何も見えなかったから。見ることが出来なかったから。それでも、夜は続いてゆきました……そして今に至ります……しかしどこにもありません……
これで分かってもらえたでしょうか。だから私は差し込みたいのです。指を差し込みたいのです。指を差し込んで、差し込んで奥まで、そして動かしたいのです、揺らしてしまいたいのです。この隔たりに、あなた自身に、そして私に、出来うることなら、あの夜にさえ。そうして、掻き回したい。めちゃくちゃに掻き回したいのです。
私があなたに伝えたいこと。それは、気持ち良くなって下さいということ、ただそれだけです。気持ち良いは嬉しい。そんな事しか分からない私です。笑っていいですよ。だけど矢張り私には、そんな事しか分からないの。ごめんなさい。だけど分からないのそんな事しか。気持ち良いは嬉しい。そんな事しか、そんな事しか、たったそれだけのそんな事しか、分からない分からないの分からないよ私には。分からないだからごめんね。笑っていい、気持ち良くなって下さい、どうか、どうかどうかあなたが気持ち良く、私が気持ち良くあなたを、私が私が私が、あなたをあなたをあなたが気持ち良く、なって下さいどうか、ごめんね、ああ。気持ち良くなってあなたは、気持ち良くなって私は、そう、言葉なんかじゃなくて、言葉なんかに隙をつかせないで、そんなのはもうたくさんだから、もうたくさんだもうたくさんだ、言葉なんかたくさんだからだってもうたくさんだから…こんなもの…こんなもの…だからねえ私の指で、これ、この、この指で…見えるでしょ。だからねえ、なあ、気持ち良くなって、あなたが気持ち良くならなければ意味が無い、それでなければ意味が無い、本当に何も意味が無い、意味が無いのだから、どこが良いのか言って、ちゃんと言って、好きなところを言って、あなたが言って、はっきりイッて、イッて、イッてイッてイッて、ねえ、なあ、なあ、分かる?分かる?私があなたをイカせたい。分かる?私があなたをイカせたい。
私があなたに伝えたいこと。それは、気持ち良くなって下さいということ、ただそれだけです。ごめんね、言わないけどいつも思ってる、ごめんね。あなたが生まれてきたことをあなたごと愛撫したい。ごめんね。必要な時は呼んで欲しい。
From:私
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2009/02/25(Wed)23:40:44 公開 / 奈津子
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