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『水凪の国』 ... ジャンル：ファンタジー未分類 作者：七世: あらすじ・作品紹介
記憶の底に眠る青い海を求めて、三人の少年少女が繰り広げる小さな勇気の物語――。; １２３４５６７８９101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
　
――１.旅立ち――
　
　ねぇ、海はどこにあるんだろう。

１，

　いつもと同じ、嫌な声で目が覚める。
「またかよ……」
　うんざりした口調でつぶやくと、少年は薄い麻の毛布を顔までかぶる。外はもう薄暗い。
　まだ夕焼けの名残を残した空が四角い窓に切り取られた鈍い赤を、アクアは瞼の裏に映しながら丸くなる。
「いるんだろ！」
　ああ、バカだ。バカ、その１。でかいだけで、脳みそなくて、ちりちりした短い腐った色の髪の。
「おい、アクアー出て来いよ！」
　バカその２。
「お前また学校サボっただろ」
　バカその３。２も３もたいして違いはない、どっちもバカ１の子分。
　ついてくだけの、真似してるだけの。
　はあ、明日になればカタロが帰ってくるって言うのにホントうるさいな。カタロがいる時は近寄りもしないくせに。
　知ってるのかな、明日になると俺を苛められないって。だから、こんな時間までしつこくするのかな。
　そうだな、バカその１の親父さんもカタロと同じ水守(みずもり)だ。勤務が一緒ならわかるよな。
　ドン、と玄関の木の扉が開かれる音が響いた。アクアは飛び起きる。
「お前ら、カタロがいないからって好き勝手するなよ！」と怒鳴って部屋から駆け出す。
　小さな石造りの俺の家には、部屋が二つ。アクアが寝ていた寝室と、小さな竈がある大切な水のある部屋。
　三人のバカはバカだから、大切な水瓶を壊すかもしれない。それだけは、ダメだ。止めなきゃ……。
　アクアが姿を見せると、一番背の高い少年がにんまりと笑った。夕闇でその顔は半分くらいしか見えない。戸口に立つそいつをアクアは押し出そうとする。
「入ってくるなよ！　俺がカタロに殴られるんだぞ！」
　アクアの背は、低い。
「お前また学校さぼっただろ。それカタロに言いつけてやるぜ」
「頭が痛かったんだ、しょうがないだろ！　お前なんかに関係ないし、カタロはお前の言うことなんか聞かない！」
　背の高いがっしりした少年、デイズの胸を押すように両手でつっぱる。アクアの背の高さではそれがめいっぱいだ。渾身の力で押すと数歩下がった。家から追い出せたことが、すこしアクアを安心させる。
　ちらりと、隣のナムローさんが庭に出て何かしているのが見える。
　人目があれば、そう悪いこともできないはずだ。いくらバカ三匹でも。
「父ちゃんが言ってたぜ、カタロはお前の本当の父親じゃないんだってな！　なのにお前の世話してるのはカタロが変態だからだってよ！」
　アクアはデイズの顔を見上げて睨みつけ、毒付いた。
「そうさ、カタロは変態だよ！　だからデイズ、お前のとこの母ちゃんともイチャイチャしてんだ。よく来るんだぜ、うちにさ」
　デイズの顔色が変わった。夕闇の青に染まるそれは、不気味に見えた。
「なんだと！　こいつ、嘘ばっかり言いやがって！」
「やっちまえよ！」
「お前の父ちゃんなんかよりカタロの方が男前だからな！　当然だろ！」
　アクアがデイズを睨みながら言うと、ガッと殴られる。それはこめかみの少し上。
　デイズはアクアを押しのけて、家に入ろうとする。
「入るなよバカ！　ナムローさんっ、助けて！」
　家に押し入られては困る。それは大人なら分かるはずだ、止めてくれるはずだ！
　隣人は一度顔をあげた。アクアのほうをチラリと見て、また無言のまま座り込んで作業を続ける。
「ちぇッ」これだから大人は！
　バカ２と３に引きずり込まれながら、アクアは毒づいた。
「ばかやろう！　いい人面しやがっ……うわッ」
　突き飛ばされて、転んだ。硬いレンガの床に肩を打つ。もうほとんど真っ暗だった。扉が閉められ、バカのどれかがランプに火をともす。
　アクアは仰向けの体の上にデイズがドカッと座ってるのを見上げた。ガッと、今度は頬を殴られる。
「お前生意気なんだよ、はみ出し者のくせに！　父ちゃんも母ちゃんも居ないくせに！」
「カタロがいる！」
「あれは変態だろっ、お前の親父じゃない！」
　そう言ってまた殴る。頭の下の固いレンガで少し切れた気がする。殴られたとこより、頭の後ろが痛い。
　殴られるのは慣れている。どうせまた、いつものようにいたぶって帰ってく。いつもどうり、バカなこいつら。同じことしかできない。
　俺が一番ちびだから、勉強嫌いで学校も嫌いだから。
　村で嫌われてるカタロの子供だから、だから、俺を殴っても誰にも怒られない。怒られないことしかできない意気地なしだ。

２，

「おい、もう降参かよ」
　まともに喧嘩してかなうわけがない。アクアは胸の中でつぶやいて、くったりしたフリをする。
「なんかつまんねぇな、明日父ちゃん帰ってくると夜は遊べなくなるからな。今日はたっぷり苛めてあげようと思ったのにさ」
　デイズはそう言って立ち上がった。ランプの明かりで、デイズのでかい鼻が見える。
「のど渇いたな、水もらおうぜ」
　その言葉を聞くなり、アクアは飛び起きた。
「だ、だめだ！　水はッ」
　慌ててデイズの腕を掴むアクアを嬉しそうに見つめる。
「だよなぁ、貴重な水だもんな。そりゃ俺だって知ってる。この国で水を大切にできない奴はクズだよな」
　なあ、アクアとニヤリと笑うなり、デイズはアクアの後頭部を片手でつかんだ。
「なッ……にすんだ！」
「おい、蓋開けろよ」
　バカその２が驚いた顔をする。
「デイズ水は……やばくないか」
「そッ、そうだよ水はダメだよ」
　そうだ、怒られることはしないはずだ。アクアは、ばかその２と３を味方のように感じた。が、それは一瞬だった。
「うるせぇ俺に逆らうな。一度さ、やってみたかったんだ。どうなるか……」
「おい……やめろよ！」
　アクアの静止も空しい。バカはバカだ。２も３もビクリとして、大きな水瓶の上に乗せられた木の蓋を、二人で持ち上げてずらした。
　水瓶には一ヵ月分の水が入っている。それが二つ。一つの家に二つまでしか、認められていない。
　貴重な水だから、失ったら大変だ。村で分けてもらえるこの水をなくしたら、後は高い金がないと買えない。アクアの家ではそんな金はない。もし、この水をこぼされたりしたら……
　ジタバタ反抗するアクアを尻目に、デイズはアクアの後頭部をグイッと押した。
「何すッ」
　最後まで言い終わらないうちに、どぷっと水がめに顔を押しこまれた。
「デイズ！　それは！」
　バカの２人が慌てる。貴重な水、命の水にそんなことをするのは恐ろしいことだった。
「うるさいな、どうなるか見てみたくないか？　父ちゃんがさ、水の中では息ができないって言うんだぜ。井戸に落ちて死んだ水守が居るって」
　アクアはもがいた。息が、できない……
　目をぎゅっと閉じて、水瓶のふちをしっかり掴み、顔を上げようとする。だが、びくともしない。押さえつけている力のほうが、強いのだ。
　苦しい、死んじゃう……
　気が遠くなりかけて、ぼんやりと目を開いた。
「大丈夫」
　……何？
「アクア、大丈夫」
　ぼんやりした耳に、甲高い声が聞こえる。俺、おかしくなったのかな？水に顔をつけるなんてしたから、死んじゃったのかな？
「水、冷たくて気持ちいいよ」
　もう一度聞こえた。
　気持ち、いい？……うん。なんかそういう気がする。
　水の中で声を出していた。
「でしょ？　ボク、好きなんだ。水」
「だれ？」
　不意に押さえつける力が緩んだかと思うと、強引に引っ張り上げられた。
「うッ……ゲホッ！」
　咳き込んで倒れこむアクアを、デイズが引きつった顔で見ていた。
「はぁ……本当に死んだかと思った、お前全然動かないから」
「ゲッホッ、バ…カ……こんなこと、して、ただじゃす……すまない、ぞ、ゴホッ！」
　横たわったまま、デイズを見上げるアクアをみて、バカが変な声を出した。
「うへッ、こいつ」
「お、お前なんだよ、その目……！」デイズも腰を浮かせる。
「は……？　なに、言ってんだよ」
「おいっ……行くぞ、そいつおかしい！」
　三人の足音が遠ざかった。アクアは変に温かく感じるレンガを敷き詰めた床に、頬をぴったりとつけたまま深く息を吐いた。
　疲れた、だるかった。濡れた髪が頬に張り付いていて気持ちが悪い。服も濡れていて、日が暮れてからの冷たい空気にぞくぞくする。動きたくなかった。頭が痛い。と、ふいにあることを思った。
「……あの声、なんだったんだろ」
　ぼんやりとランプに照らされる大きな水瓶を眺めた。陶器のそれの下には、水をもらいに行く時に、台ごと移動できるように小さな車輪が付けられている。
　薄暗い室内には、炎に合わせて影も揺れる。二つの水瓶の隙間の暗がりから、ちらりと青い二つの目が光った。ばちくりと瞬きをしていた。
「ローロー……何してんだ、お前」
　二つの目はもう一度瞬きすると、横たわったままのアクアに近づいてきた。立ち上がるとアクアの膝くらいまである、大きなネズミ。
　ローローは、銀色の毛皮で手足は薄い桃色、目はくりくりと黒くて可愛い。大きな耳をピクピクさせて、アクアの傍によってきた。頬に滴る水をなめる。
「ふはッ、好きなだけなめろよ。いつもならちょっとしかあげられないけど、その水ならすきなだけなめてもいいぞ」
　その言葉が分かるのか、ローローはアクアの頬から耳、首に滴る水をなめ始めた。くすぐったくて、アクアは笑いだした。そのうち、我慢できなくなってローローを抱きしめる。
「ハハッ、もうやめろよ、くすぐったくて、アハハッ」
　寝ころんだまま、顔の上にあるネズミの体をなでてやる。
　ネズミのくせに柔らかい毛はふさふさしていて、短めの尻尾も毛に覆われていて、平らな形をしている。その尻尾をぴたぴたされると気持ちいい。
　ローローは珍しいネズミだ。カタロがいつか言ってた。俺の両親が可愛がってた水ネズミだって。貴重だから盗もうとするやつもたまにいるけど、俺にすごくなついていて頭も良いから、言うこともよく聞く。
　もう、たぶんおじいちゃんだと思う。だって俺が生まれた時から、大人だったんだ。カタロが俺をたまに脅かす。
「言うこと聞かねぇと、ネズミを売り払うぞ」ってね。でも大丈夫。ローローはどこにいっても、どこへ連れて行かれてもちゃんと俺のところに戻ってくるんだ。賢いんだ。
　大人みたいに嘘つかないし、バカじゃない。一番の俺の親友。; 2009/02/06(Fri)19:04:15 公開 / 七世
■この作品の著作権は七世さんにあります。無断転載は禁止です。; ■作者からのメッセージ
初めまして、七世と申す者です。
えー初投稿と言うことで、緊張しております^^;
みな様の小説が素晴らしすぎて私が書いてもよろしいのという……。

えっとですね私、七世の小説には読みにくく、未熟な点も多々あると思います。
そして意味が分からないといった場面も多いかもしれません。
そのような事があったときは、ズバズバ言ってくださると助かります！
感想等もありましたら、よろしくお願いします！
それだけで、書く気持ちが１００倍になってしまいます。単純なので。

まだまだ足りない部分がほとんどだと思いますが、どうか温かい目で見守ってやってください。
それでは、この話が少しでも皆様の心に残れることを願って……。; 作品の感想については、登竜門：通常版（横書き）をご利用ください。