『時……』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:人の火の粉                

     あらすじ・作品紹介
時間により、変わっていく人の物語

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 扉に……部屋の扉に行くたびに見える、幻覚が。
 ノブを廻そうと近づく度に、俺の目の前に現れてくる。無視して廻せばいいのに、廻せない。別に恐怖感があるわけではない。ただ……異様な威圧感にやられてしまう。
 扉から離れさえすれば、幻覚は見えない。だから、ずっと部屋にいる。
 そして布団の中に入るたびに思い出す、嫌な記憶。

 俺だって……頑張ってたんだ。
 必死こいて、世の中からはみ出ないように必死に、死にものぐるいで頑張ったさ。
 だがそれを嘲笑う連中、馬鹿にした目で見る連中。
 そいつらの無視は出来ていた。
 必死こいて働いて何が悪い。働きたくない仕事でも、働けて金を稼ぐだけで十分満足だった。人として生きてる。これを実感していた充実した日々だった。これで満足できない奴は、欲がでかすぎる奴だ。といつも思っていた。
 だが、そんな日々に嫌気がさす事件が起きた。
 上司からの嫌がらせだ。
 決して俺への嫉妬感でやっているのではないのは、すぐに察しが付いた。
 この上司は自称で永遠のライバルと呼ぶ奴がいて、そいつに異様なぐらいの対抗心を持っていた。
 その永遠のライバルが、何かでかいことをしでかしたんだろう。その嫉妬感から、多分無意識的に、俺に嫌がらせをしたんだろう。
 いや、ストレスに近い物かもしれない。とにかく怒鳴り散らかして、解消していたんだろう。だが、俺はそんな怒鳴られ続ける日々はいい加減に嫌になってきた。
 結局、辞職した。
 その後も家に帰れば、恋人が俺を暖かく出迎えて、共感してくれるはずだった。
『それは、大変だったね。でも貴方は全然悪くないよ』『いいって、いいって。次の職を探せば良いんだから』
 だが、返ってきた言葉は想像を絶する物だった。
「はぁ? 今頃プーになってどうするんだよ。馬鹿だろ。金がこないんじゃあ、此処にいる理由もないね」
 そう言って、押入からパンパンになった旅行鞄を取り出した。
「どうせ、そろそろ飽きたから出ていくつもりだったから、色んな意味で好都合だね」
 俺の……俺の堪忍袋の尾が切れた瞬間だ。
 その後、気が付けば血だからになって倒れている恋人の姿があった。もはや、顔の原型が残っていないほどにボコボコに変形していた。
 無意識とはいえ、人を咎めてしまったからには、逃げるわけには行かない。自ら自首をした。
 勿論、懲役を喰らった。だが自首というのもあるのか、懲役は予想していたより短かった。
 そして、刑務所から出てきて現在に至る。

 もう世の中に出れない。殺人というレッテルを貼られ、何処も雇ってくれない。
 もういっその事、自殺しようかと考えたが自分で自分を咎める事が出来ない臆病者に変わっていた。
 いや、自殺所ではない。何をするにしても臆病になっていた。
 だけど、此処最近になって、外の世界が気になりだした。
 もう何年も前の服、もう何年前の新聞、全てが昔のままだった。
 違うと言えば、部屋ぐらいだ。
 刑務所から出てすぐに実家に戻って、その一室を借りている。
 家の者は、誰一人俺を攻めない。まぁ当たり前か……こっちの事情はよく知っているからな。
 まぁ、新しい物が知りたいと思って出ようとしたら、幻覚だ。
 どうやら、俺を外に出したくないみたいだ。勿論、俺だって嫌だ。
 布団から起きあがり、ドアの前にやってくる。
 見てくる。緑色の尖がり帽子を被った小人が……。
 そいつは何も行動を起こさず、ただドアノブの上に座っている。
『僕は名前が無い小人。全てを失った小人』
 ついに幻聴まで聞こえてきたか……末期だなと思いかけると、小人が俺の顔を見えいる。
『僕は名前が無い小人。誰からも干渉を受けず、ただ息を吸い、吐くだけの存在。何もするせず、ただ、いるだけ』
 俺は黙って見つづける。
『僕は名前が無い小人。夢から現実、心の全てを司り、同時にその破壊を司る』
 もしかして……この小人は……。
「じゃあ……俺を元に戻すのは可能なのか」
 小人は首を縦には振らなかった。
『それは無理。貴方は僕。僕は貴方。貴方が僕を昔遠くへ投げ捨てた。今の貴方には不可能。絶望感だけが心に残り、それを司る僕がいない。いくらその気持ちを、新しき見る世界で踏み潰そうとも、消えることは無い。必ず、倍になり返ってくる』
 なるほどな……お前は俺か……。
『けど、今の貴方は昔とは変わった。時が悲しみ、絶望感を少しずつ、希望へと、好奇心へと変えていった。僕を受け入れるなら、全ては元通りだろう。時というのは面白い。流れば流れるほど、強くする事もあれば、弱くすることも出来る』
「で、受け入れたらお前はどうなる。消えるのか?」
『いいや、僕は貴方の空想の世界で生み出された形。貴方だけの世界で、夢から現実、心を司るだけ。勿論、破壊も。ただ、デメリットがある。僕を受け入れると、心は変動する。怒ったり、悲しんだり。不の感情を表に出す。だけど、受け入れないのなら、メリットとして、それを出さない。変わりに無表情になる。悲しんだり、怒ったり、そういった感情が表に出ないどころか感じない。これはこれですばらしいことだ』
 小人は立ち上がる。
『さて、どっちがいい。受け入れて不の感情を手に入れるか、それとも無表情で悲しみ、怒りを感じない心を手に入れるか。貴方はどっちがいい』
 っふっと鼻で笑う。そんなもん決まってる。
「勿論、手に入れるだ。感情が手に入ると言うことは、喜べるって事だろ? それがすばらしいではないか」
 小人も同じように鼻で笑う。
『やっぱり、そう答えるか。じゃあ、進みなよ。ドアノブを廻して、新しい世界に進め。やはり、時というのは面白いね。今までとの考え方をがらりと変えてしまうよ』
 そういうと、ドアノブから小人は姿を消し、俺は手を掛けた。

2009/01/29(Thu)21:09:14 公開 / 人の火の粉
■この作品の著作権は人の火の粉さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
時間は面白いですよね。感情を大きくさせることもあれば、小さくさせることもある
さらには、考え方すら変えてしまう力があります

さてまぁ、今回は描写が少ないと自分で感じております
まぁ私が一人称を書くときは、大体がこうなってしまいますしね
ところで、たまに思うかもしれませんが題名で『……』を使ってる理由は、結構あったりします
まず、読者に先を読ませない。かといって的外れな題を書くわけにはいかない
まぁこんな感じで使ったりします
てか、これもはや、後書きでもなんでもないですね

では失礼します

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