『Dragon summons 第四話更新』 ... ジャンル:異世界 ファンタジー
作者:蓬莱                

     あらすじ・作品紹介
ラギアノと呼ばれる世界…かつてこの世界で最も恐れられ、拒まれた能力『竜召喚』しかし、今この能力の所持者を首都の政府が集めているという…。

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 第一話 ハジマリ


 ラギアノ 中部近海の村―アデノ


 海が波打つ音が聞こえる。カモメの鳴き声もこだましている。
 そんな静かな砂浜に2人、青年が居た。
「なぁ、レデン」
「ん?」
 レデンと呼ばれた青年は砂浜に座っていた。丈夫そうな革の鎧に紅いマント、蒼い髪に黒い瞳で、腰には鞘に収まった剣が見える。
「どうした? アル」
 アルと呼ばれた青年は砂浜に立っていた。こちらはいたって標準的な服装で、薄いシャツに短パンといった服装だ。
「……首都のデルダに行くのって本当なのか?」
「……あぁ」
 レデンは短く返事をした。
「いつ、出発するんだ?」
「遅くても明日の朝に…だな」
 アルは一瞬目を見開いた。しかし、スグに俯く。
「そっか……」
 段々、日が傾き、太陽が海に掛かっている。空一面はあかね色に染まりあがり、人を何となく懐かしい様な切ない様な不思議な気分にさせる空模様だった。
「さ、村に戻ろう、アル。村長達も祭りの準備が終った頃だろうから」
「……うん」
 2人は歩き出した。
 村に戻るといっても、レデンとアルの居た砂浜は村の中で、レデンの出発祭の会場である広場も、砂浜からゆっくり歩いても1、2分で着くような距離だった。2人が歩いてる間にも空はどんどん暗くなった。
 広場はそれなりに広く、広場の中心に燃え上がる炎を囲む様に村人が立っていた。
「村長ー!」
 アルが白髪で杖をついている猫背の老人に手を振る。
「おぉ、アル、レデン、戻ったか」
 村長は2人に優しく微笑む。
「レデン、この度は首都の王宮騎士団の入団おめでとう。今夜は宴じゃ! 悲しい事も楽しい事も忘れて楽しむぞい!」
 村長がそう叫ぶと、村人から、オーッという歓声が上がる。
 それからは時間がいつもの何倍も早く感じる様な一時が流れた。人々はレデンを囲んで酒を飲みあい、踊ったり、歌ったり、村人全員が心の底から楽しんだ。

 ――次の日の朝

 結局、村人の殆どが広場で一夜を過ごした。その辺りに無防備に寝転がってる者、建物に持たれかかって寝てる者。朝日は既に地平線から出掛かっていた。
「それでは、気をつけてな」
「はい」
 レデンは村の出口で村長とアルと最後の別れをしていた。
「エルナを連れて行け、お前に最も懐いていた馬だろう」
「はい」
 レデンは村長が握っていた茶色い馬…エルナの手綱を受け取る。エルナの背には既に馬具が準備されていた。
「ここから首都まではドンくらいなんだ?」
 アルが少し声を荒げて言う。
「エルナを飛ばして3日くらいかな」
「遠いな……」
 アルはその場にがっかりとする。
「永遠にお別れじゃないんだ。また会おう」
 レデンはそういうとエルナに跨る。
「あぁ、元気でな!」
 アルはそういうとスグに広場の方に走っていった。
「行って来ます」
「気をつけてな」
 レデンはエルナの横っ腹を軽く蹴る。するとエルナはゆっくりと歩き出す。

 村の外はスグ、どこまでも続くような平原だった。所々に木が立ち、所々に岩がある。
 小鳥の囀りがそこら辺から聞こえる。そんな平穏でノドかな風景にレデンは思わず微笑んだ。
 村を出てから2時間程、平原を行くと、途中に小屋があった。
「エルナ、少しあの小屋で休もう? 馬小屋もあるみたいだし…」
 そういうと、レデンは手綱でエルナの進行方向を変える。
 小屋の外、馬小屋の前には丁度、人が居た。
「ぉ、旅人かい? いらっしゃい」
 少し小太りしたおばちゃんだった。恐らく、宿の人だろう。
「はい、この子を頼めますか?」
 レデンはエルナから降りると、そのおばちゃんに手綱を渡す。
「はいよ、また、発つ時は言ってね」
「はい」
 レデンはそのまま小屋の中へと向かった。
 小屋の中は正面カウンターがあり、部屋の所々に規則性無く、椅子とテーブルがあった。
 カウンターに、宿屋の主人であろう、大きな筋肉質のスキンヘッドの男と、その男とはあまりにも対照的な、小さい背丈、ピンク色の髪に白いローブを纏った可愛らしい少女が居た。レデンと同い年くらいだった。
「お願いします!」
「そういわれてもなぁ……、俺はここを離れられないんだよ……」
 小屋の主人はポリポリと頭を掻く。
「どうかしたんですか?」
 レデンはカウンターまで行き、カウンターに片膝をつく。
「いらっしゃい、いや、この女の子……ルシアっていうんだがね、どうしても首都に行きたいってんだよ」
「徴集……とかいうのがかかってるんです! お前は能力を持ってるから何とかって…」
「そうはいってもなぁ……」
 小屋の主人は再び頭を掻き出す。
「何なら、俺が連れて行きましょうか?」
 小屋の主人と、ルシアの目が一瞬輝き、その後、焼けるほどにレデンを見つめる。
「ほんと?」
 ルシアが首を傾げてレデンを見つめる。
「あぁ、丁度、俺も首都に向かうんだし…」
「ありがとうございます! 私、ルシア……ルシア・ユーフィといいます。お願いします!」
 ルシアは深々と頭を下げる。
「あ、はい、自分はレデン・アノージュです」
 いきなり深々と頭を下げられて少し戸惑いながらも、レデンも頭を下げる。
「ぁ、それと、移動手段、何かもってますか?」
「はい、一応、馬を……」
「良かった、俺も馬なんだ」
 レデンは胸を撫で下ろす。
「少し休んでからでも良いですか?」
「はい、私も今ここに着いたばかりなので……」
 2人は近くにあった椅子に腰掛けた。その後、小屋の主人が紅茶を持ってきてくれた。2人はそれをゆっくりと飲んだ。
 ある程度、雑談をして、それなりに長い時間ゆっくりとした後に、小屋を出た。
 小屋の外には、レデンと恐らくルシアも手綱を預けたおばちゃんが、茶色い馬と、ルシアの馬であろう白い白馬をブラシで撫でていた。少しすると、コチラに気付いて、馬達をこちらに渡してくれた。
「あら、お2人で駆け落ちかい?」
「ち、違いますよ!」
 ほんの冗談にレデンは明らかに動揺し、真剣に答える。
「わかってるよ、ホラ、馬は綺麗にしといたよ!」
 おばちゃんは2匹をそれぞれの主人の元に渡した。そして、2人は馬に跨る。
「あ、この子はディーナね」
 ディーナに跨ったルシアが鬣を撫でながら囁く様に言う。
「こいつはエルナっていう」
 レデンはルシアの方を見つめながら言う。
「宜しくね、エルナ」
 ルシアはディーナを鬣撫でを止め、エルナの首にそっと触れる。すると、エルナはブルブル…と震えた。
「それじゃ、良い旅をね!」
 おばちゃんが元気いっぱいに言う。2人も、「はい!」と元気に返事を返す。

 再び平原……太陽は2人の真上に、時間帯はもう昼近くだった。眩しい太陽が2人を照らし続ける。
 どこまで歩いても歩いても辺りが変わらない。まるで同じ場所をぐるぐるとループしてる様だった。
 何時間か歩き、日が傾きかけた頃、レデンがエルナから降りる。
「この辺りでキャンプにしようか」
「はい」
 ルシアもディーナから降りる。
 レデンはその辺りに落ちている木の枝や枯葉を掻き集めると、パチン、と指を鳴らす。すると、発火した。小さな火種だったが、スグに大きな火になった。
「私、ちょっとお魚捕まえて来ます!」
 丁度、ここから見える位置に川があったのだ。
「あ、危なくない?」
 レデンは少しビックリしたようにルシアを見る。
「こう見えても得意なんです」
 それだけいうと、ルシアは川に向かって行った。
「よーし、とるぞー!」
 スカートをまくって、腕もまくって、川に入っていく。水の温度はそんなに高くないようだ。
「……やぁ!」
 少しの間黙りながら一点を見つめていたルシアが素早く腕を川に突っ込み、引き抜くと、そこには魚が捕れていた。
 その様子を見て、レデンが感心してた頃、ウオォォォォォォォン……と獣の遠吠えが聞こえた。
 2人の顔が歪み、ルシアは危険を悟ったのか、火のあるレデンの元に急ぎ足で戻った。

「レデンさん……」
「うん、今の遠吠え……間違いなく魔物の……」
 少しの間、辺りに静寂が訪れた。星が輝き、強く光る三日月にかかっていた雲が動き、月明りで周囲がほんの少しだが、明るくなった。
 焚き火の燃える音がパチパチと響いている。すると、周囲に急に獣の臭いが漂いだした。その臭いに2人は思わず顔を顰める。そして、レデンは静かに音もなく剣を鞘から抜いた。
 月明りが先程よりも暗くなった。不気味な静寂はこのまま終らないのではないか、とレデンが思い始めた時だった。
 ガサガサと草木の揺れる音が響いた。そして、獣の雄たけびが耳を貫くように響き渡る。
「な!」
 レデンは目の前に出てきた魔物を見て冷や汗を浮かべる。
「魔狼(ライカンスロープ)……!」
 銀色の毛並みをした、普通の狼の数倍の大きさと強靭な筋肉の鎧を持っていた。
「そんな…上級の魔物とこんな所で出くわすなんてよ……」
 ライカンスロープはレデンの事を見つめたまま動かない。また、レデンも金縛りにあったかのように動かない。
「ルシア、少しじっとしててね?」
「うん……」
 レデンの言葉にルシアは頷くしかできなかった。
 少し、睨みあいをした後、両者は駆け出した。ライカンスロープは右前足をなぎ払う。レデンはその攻撃を頭を下げてその攻撃を避ける。すると、レデンの背後の岩が深く抉れた。その岩の破片が周囲に飛び散る。
「やぁ!」
 攻撃を避けられて隙が生じたライカンスロープの横っ腹に一閃を叩き込む。しかし、その一閃はライカンスロープに少し食い込み、軽い傷と出血をさせただけだった。それどころか、中途半端な攻撃を怒りさえかってしった。
 低い呻き声と共にライカンスロープの頭突きがレデンの腹部に入る。
「っ……!」
 レデンはそのままその場に倒れこみ、腹部を押さえると、その直後に容赦なく、ライカンスロープの一撃がレデンの左腕にあびせられた。そのままレデンは吹き飛ぶ。
「くっそ…」
 レデンは倒れたまま、流血する左腕を押さえ込む。まるで余裕を気取ってるかのようにライカンスロープは歩いてくる。
 ガァァァァァ……その雄たけびと共にライカンスロープは飛び掛ってくる。
「リントヴルム!!」
 そう高い声が聞こえた刹那、ライカンスロープの体が吹き飛んだ。
「……!」
 恐る恐る目を開けると、レデンの目の前には鱗がビッシリとついた蛇の様な尻尾があった。その尻尾の主は、2本の前足を持ち、鰐の様な頭に蝙蝠の様な翼を持った竜だった。
「お願い! リントヴルム」
 ルシアがそう叫ぶと、リントヴルムは翼を羽ばたかせて飛翔し、ライカンスロープの前に降り立った。そして、尻尾の一撃でライカンスロープを半分にした。
 ライカンスロープの断末魔が響いたが、それもスグに消える。
「はぁ、はぁ……」
 ルシアの目には涙が浮かんでいた。少しすると、リントヴルムも魔法陣の中に消えていた。
「ありがとう……、ルシア」
 レデンはルシアの元に駆け寄った。
「あ……うん」
 ルシアはただ返事をした。

 その後は特に魔物に襲われることもなく、夜を越した。



 第二話 イカリ


 次の日の朝

 レデンとルシアは朝早くから起きてエルナとディーナと共に出発していた。昨夜、ライカンスロープとの戦いで、レデンは左腕をケガしていたが、傷は深くなく、レデンは左腕の部分に包帯を巻いてそのままにしておいた。たいぶ歩き、陽が丁度、二人の真上に来た頃、ルシアが口を開いた。
「首都まではあとどれくらいなんですか?」
「う〜ん……何とも言えないけど、このペースだったらまだ最低でも三日はかかるんじゃないかな?」
「三日……ですか」
 ルシアの顔の表情が曇った。レデンもその表情をみて心配になる。
「徴集の事?」
「……はい」
「期限があるの?」
 レデンは少し小さな声で早口に言う。
「いえ、期限はありませんが、できるだけ速い方がいいので……」
「そうか……、急ぐ?」
「はい」
「少し厳しいけど、エルナとディーナを飛ばして殆ど休憩なしに走り続ければ後二日せずに着くけど……」
 その言葉を聞いてルシアが顔を上げる。しかし、それは喜びの表情ではなく、悲しみの表情だった。
「エルナとディーナにそんな無茶はさせられません!」
「うん。俺もそう思ってた」
 レデンのその言葉を聞いてルシアがホッと胸を撫で下ろす。
「でも、このままエルナとディーナを歩かせてたんじゃ、確実に遅くなる。少しくらいは走ってもらわないと……歩いて進んでるんじゃ時間を食うだけだ」
 ルシアは少し黙り込んだが、やがて上を向き、「はい!」と力強く返事を返した。
 それからはエルナとディーナを走らせた。周囲の木々や岩が物凄い勢いで過ぎてゆく。
 澄んだ青空だけが、変わらない景色を映し出している。レデンはルシアが着いて来れるか心配だったが、その必要もなく、軽々と着いてきていた。
 実際、エルナとディーナは普通の馬以上の速度を出していたのだが、二匹は疲れる事もなく走っていた。エルナは仔馬の頃から走る事に徹して育てたので速いのは当たり前だが、ディーナの事は解らなかった。
 ある程度進んだ所で二人はそこに泊まる事にした。
「今日はこの辺りで野宿かな」
 レデンはエルナから降りると、スグ横にあった木にとめる。ルシアも同じ様にディーナをとめた。
 レデンはエルナとディーナをとめた木によじ登って行くと、枝を何本か折って持ってきて、それを集め、燃やす。
 パチパチとなる音だけが星のカーテンに包まれた夜空の効果音の様だった。
「ルシアはドコの出身なの?」
 レデンは焚き火に枝を加えながら言った。
「私はフォールと言った村からの出です」
「フォール……っていうと乗馬が有名な……」
「はい」
 これでルシアが乗馬慣れしている理由がようやく解った。ディーナも乗馬のレースの為にエルナと同じ様に仔馬の頃から何度も何度も走る練習をしてきたから速くなったのだろう。
「レデンさんは?」
「俺はアデノって村の出身。何もない所だったけど、いい場所だった」
「そうですか……」
 ルシアはニコリと微笑む。
「後さ、俺の事、さん付けしないでいいよ」
 レデンが少し照れながら言う。
「レデンって呼んでくれ。後、敬語も抜きな?」
 ルシアは一瞬、考え込むようにしたが、やがてスグに返事をした
「解ったわ、レデン」
 ルシアは再び笑う。
 その後で二人はスグに眠りについた。明日は早くに出発するということになったのだ。

 次の日の朝、速く起きて二人はエルナとディーナを飛ばした。周囲の木々を追い抜かし、地面を蹴り飛ばして進んでいった。
 夕方になった頃、首都が見え始めた。
「あれが首都だけど……今日は無理かな」
 首都は周囲全てを壁と川で囲まれていて、入れる道は唯一、橋のみなのだが、その橋も日が傾き始めると鎖で吊り上げられて渡れなくなってしまう。
 今はまさに吊り上げられている途中だった。
「しょうがない。あそこの村で休もう」
 レデンが指差したのは首都から少し離れた高台にある村だった。
 二人はそこに急いだ。

 高台の村は辿り着くまでが長い坂道だった。坂の麓に着いたのは夕方だったが、頂上の村に着いた頃にはすっかり陽が暮れていた。
 家は全てが藁の屋根で出来た家で、各家の前に最低でも一つ、畑があった。
「宿はないのかな……?」
 レデンとルシアが村に入っていき、少し当りを見渡していた時だった。
「う、動くんじゃねぇ!」
 背後から突然声がした。振り向くと、クワを持った老人が震えながらこちらを睨んでいた。すると、周囲に続々と人が集まってくる。
「首都への税はもう納めたハズだ! まだ俺達から物を奪おうってのか!」
 クワを持った老人が叫び声をあげる。その老人の後に続いて村人達が「そうだそうだ!」と叫ぶ。
「ち、違う。俺たちは首都の人間じゃない」
「なら、何で剣を持ってるんだ!?」
「私達、今から首都に行こうとしたら、橋か吊り上げられてたんで、ここに立ち寄っただけなんです!」
 ルシアが必死に講義するが、老人や村人達の耳には入っていないようだ。
「うるさい! 首都に様がある奴にロクな奴なんぞ居るものか!」
 老人が声を荒げる。
「アークス様以外の人間は首都では信用できん!」
 老人が叫んだ時だった。
「うるさいのは貴様らの方だろう」
 村の奥から全身を比較的スリムな白銀の鎧で固め、片手に槍を持った赤い髪の男を先頭に、後ろにゴツイ鎧に兜をつけている騎士が二人居た。
「今は夜だ。ドンチャン騒ぎは昼にしてくれないか!?」
 赤い髪の男が叫ぶと、老人は後ずさりする。
「す、すいません。ラフカ様……」
 ラフカと呼ばれた赤い髪の男は老人を睨む。
「それに、首都の事を悪く言った様だな……? 俺達の所までしっかりと聞こえてたぞ?」
「そ、それは……」
 この騎士達は恐らくこの村に駐屯している者だろう。ここから少し奥に行った所に明らかに周囲とは違う建物があったので、恐らくそこに住んでいるのだろう。
「貴様の考える事はわかっている。大方、そこにいるガキ二人を人質にしようとしたのだろう? それで俺達を追い出そうと」
 ラフカは低い声で老人に言う。
「そ、それは……」
「誤魔化そうとしても無駄だ。狭いこの村じゃぁ、貴様らの井戸端会議の情報はスグに入り込んでくる」
 ラフカは老人に歩み寄った。体格と背の高さの違いは歴然で、圧倒的にラフカの方が大きかった。
「貴様ら農民風情がふざけるんじゃねぇ!」
 ラフカはその老人を片手で殴り飛ばすと、倒れこんだ老人をそのまま蹴り飛ばす。そして、その光景を見た村人達がだんだんと後ずさりしてゆく。
「お前等は税金を収めてりゃぁ良いんだよ!」
 ラフカが手に持つ槍で老人を突き刺そうとした時、レデンがその槍を持って止めた。
「止めろよ」
「何だ? 貴様」
 ラフカの後ろから騎士が歩み寄ってくる。
「こいつはレデンとかいう、アークスの元に入る部下の様ですね」
 騎士の片手には一枚の紙があった。恐らく、採用試験の合格者の写真等が記された物だろう。
「もう一人のガキは徴収がかかっている竜召喚のガキです」
「そうか……、今ココで気に入らないアークスの部下を一人位殺すのもいいか……」
 ラフカが少し手に力を入れると、槍に電光が走った。レデンは電光が自分の持つ位置に到達する前に槍を離してジャンプで後ろに下がって距離をとる。
 村人達は危険を悟ったのか老人を置いて何処かへ走り去っていく。
「さぁ、こいガキ」
 ラフカが片手で挑発する。
「うぉぉぉ!」
 レデンが走りながら剣を構えてラフカに斬りかかる。ラフカはそれを軽い動きでかわすと、レデンの鳩尾に一撃を入れる。
「ぐっ……」
 レデンはその場に倒れこむ。
「レデン!!」
 ルシアが駆け寄ろうとしたが、ラフカの背後から二人の騎士が歩み寄ってきてルシアを捕まえる。
「レデンーッ!」
「うるさいぞ、コラ!」
 騎士がルシアを殴って気絶させる。
「お前等!」
 レデンが怒りをあらわにする。しかし、スグにラフカが蹴ってレデンを黙らせる。
「じゃあな。ガキ」
 ラフカが槍をレデンに突き刺そうと、振り上げる。
「死ね」
 槍を振り下ろし、レデンを突く。
 しかし、ラフカが突いたのはレデンではなく、地面だった。
「何?」
 ラフカが当りを見渡すが、レデンの姿は見えなかった。
「うぁぁぁぁ!」
 背後から呻き声し、ラフカが振り向くと、いきなり吹き飛ばされる。そこにはレデンが立っていた。
「! この糞ガキ……」
 レデンの左腕は狼の様な獣の腕になっていた。
「ライカンスロープの傷をほったらかしにしときやがったな? 畜生」
 ラフカが立ち上がって目を閉じ、集中する。すると、槍の先に緑色の魔力が集う。
 そうしている間にもレデンが飛び掛ってくるが、ラフカはレデンが間合いに入ると、槍で左腕を突く。
 すると、血は出ず、獣の腕が消えていき、やがて人間の腕に戻る。
「次こそさらばだ」
 ラフカが槍を振り上げたときだった。
「待て! ラフカ!」
 男の声が響いた。
「チッ」
 ラフカが舌打ちをする。
「アークスか」
 村の入口には金色の髪に、ラフカと同じ様な白銀の鎧、片手に剣を持ち、真紅のマントを纏った男とその後ろに銀色の騎士がいた。
「その子は俺の部下だ。手を出すな。それと、王が呼んでいたぞ」
 アークスは静かだが、気魄に満ちた声で言う。
「チッ、行くぞお前等」
 ラフカが命じると、ルシアを掴んでいた騎士がルシアを離し、ラフカに着いていって村を出る。
「全く、ラフカめ……。よし、そこの子供達を保護しろ!」
 アークスは倒れこんでいた老人の元に歩み寄り、手を出す。
「立てますか?」
「はい」
 老人はアークスの手を借りて立ち上がる。
「ヴァイルさん。少しヴァイルさんの家の医務室を借りたい」
 ヴァイルと呼ばれた老人は素直に頷く。
「ありがとうございます」
 アークスは軽く礼をすると、騎士達の方を向く。
「よし! 二人を医務室に運べ!」
「はい!」
 騎士二人が返事を返し、二人を村に入っていき、村の一番奥にあったヴァイルの家兼医務室に入ってゆく。


 第三話 エルフ


 朝、小鳥の優しげな囀りでレデンは目を覚ました。レデンの居る部屋はベッドが部屋の隅に二つと椅子が二脚あるだけの部屋だった。二つのベッドの内、一つにレデン、もう一つにルシアが寝ており、レデンのベッドの隣の椅子には銀色の鎧に真紅のマントを纏った男……アークスが下を向いて眠っていた。
「……ここって……? ドコだ?」
 レデンが寝ぼけながらそんな事を呟いていると、アークスが不意に上を向く。
「ん、起きたか」
 アークスはニコリを微笑む。
「ア、アークス団長!」
 レデンは驚き、上半身だけを起こす。
「久しぶりだね、レデン」
 アークスは椅子から立ち上がる。
「お、覚えていてくれたんですか?」
「もちろんさ。採用試験のペーパーテストと実技試験をトップで合格してるんだからね」
「こ、光栄です!」
 レデンはその場で敬礼する。
「ふぁ……」
 こうしている間にルシアが目を覚ます。
「あれ? ここは?」
 ルシアもレデンと同じ様に寝ぼけながら言う。
「ここは高台の村……アルカスだよ。覚えてるかい? ラフカに襲われた事を」
 レデンの表情が一瞬曇る。
「はい……覚えてます……、痛っ!」
 レデンは急に左腕を押さえる。アークスは静かにレデンの左腕を持つ。
「ライカンスロープの傷だ……。傷というよりは呪いといった方がいいのかな」
 アークスはレデンの左腕の服を捲り上げる。すると、レデンの左腕はライカンスロープの攻撃を受けた部分のみが紅くなっていた。
「ライカンスロープの呪いは時間が経つにつれて段々と体を支配される。過去にこの呪いでライカンスロープになってしまった者も居る」
「……この紅いのが広がるんですか?」
「いや、それは広がらない。だから怖いんだ。ドコまで呪いが侵食してるか解らないからね。今の所、首都には有効な策はないし、ライカンスロープの呪いを中和するには受けてからスグに治療を施すしかないんだけど……」
「自分は……それを行わなかった」
 レデンは俯く。
「そう。治す方法ははっきりいって無い」
 アークスの声も次第に低くなっていく。
「あの……、エルフはどうなんですか? 医療技術を専門としているエルフなら……」
 ルシアは早口で言う。
「私もそれが良いと思うが……。エルフの里に入る事はエルフの族長が固く拒むし、エルフは魔物の類を酷く嫌う。ライカンスロープの事を研究しているかどうか解らないんだ」
「そんな……」
 ルシアの目には涙が浮かんでくる。レデンも同じ様に涙を浮かべる。
「あくまで今の所、首都にはない。首都には……だ」
 その言葉を聞いてレデンとルシアは顔を上げる。
「駄目かもしれないがエルフの里に行くとしよう」
「でも、エルフの里って入れないんじゃ……」
「私が直接話し合えばいい。どうにかなるかもしれん」
 アークスが力強く言う。
「ということは……」
「少しの間、旅に同行する事になるな。宜しく頼む」
「……はい!」
 レデンは力強く返事を返す。
「それから、ルシア!」
「は、はい!」
「お前も同行するんだ」
「で、でも、徴集は……?」
 ルシアが困ったように言う。
「その事は今、私の部下が昨日の内に話しをつけた。大丈夫だ。レデンと一緒の方が良いだろう?」
 ルシアは自然に顔が明るくなる。
「ありがとうございます!」
 ルシアは力一杯、返事を返す。そして、アークスは立ち上がると言った。
「良し、出発だ。しかし、歩く旅になるがな」
「え?」
 レデンとルシアはお互いに顔を見合わせる。その後、その視線をアークスに向ける。
「馬なら首都だ。首都の施設で治療している」
「治療って……何かあったんですか!?」
 レデンが叫ぶ。
「恐らく、ラフカが八当たりの為に酷い事をしたらしい。麓で倒れていた」
「そんな……」
 ルシアの声が暗くなる。
「大丈夫だ。命に別状はなく、私達がエルフの里に行って戻る間には元気になっているだろう」
「良かった……」
 ルシアとレデンは胸を撫で下ろす。
「エルフの里はどれくらいなんですか?」
 レデンはエルナやディーナの事の怒りを無理矢理押さえ込んで震えた声でに言う。
「歩いて一週間だな」
「遠いですね……」
「心配するな」
 アークスは立ち上がる。
「そろそろ行くぞ。こうしてる間にもライカンスロープの呪いは進行している」
「……はい!」
 二人合わせて返事する。
「武器なら、ベッドの下にあるからな」
 レデンとルシアはベッドからおりて、ベッドの下を覗き込み、それぞれの武器を取り出す。
「行くぞ」
「はい!」
 アークスに続いて二人は建物を出た。

 村の入口にはヴァイルをはじめに、村人が集まっていた。ヴァイルはレデンとルシアを見ると、駆け寄ってきた。
「昨日は済まんかった。この通りじゃ」
 ヴァイルは深く頭を下げる。
「あ、頭を上げてください! 良いですよ。もう」
 レデンが優しい声で言う。
「しかし……」
「良いたら良いんです。また来た時はお願いしますね?」
 ルシアも笑いながら言う。その笑顔をみてヴァイルも自然と笑顔になり、その場から去る。
 アークスとレデンとルシアは、村人達の間を通り抜け、エルフの里へ行く為に村を出た。

 平原

 平原は変わらない様子でそこにあった。小鳥の囀り、木々のざわめき。全てが何千年も前からそこにある様に。
「エルフの里はここから西だな」
 アークスはそれだけ言うと、歩き出す。二人も遅れないようについて行く。
 それからは特に何事も無く、夜が過ぎ、朝が来た。その間にレデンとルシアとアークスは会話を交わして、お互いの事を知り合って言った。
 ――四日目の晩
 焚き火を中心に三人は円を描くように座っていた。ルシアは眠いのか、何度もそのまま転倒しそうになった。
 ルシアが何度か前に転倒しそうになった時、寝る事になった。ルシアは寝るという単語に敏感に反応してスグに横になった。レデンも横になり、アークスは後ろの岩にもたれながら下を向き、眠っているのか、死んでいるのか解らないような寝方をしていた。
 それから何時間か経った。寝ようと話になった頃は月はまだ、真上に来ていなかったが、今はそれを通り越してあと二時間程で夜明けだという時間帯……。
 出来るだけ足音を立てないようにしているのか、中途半端な足音が余計に響く。その足音は一つではなく、多数の足音があった。
「静かにしろよ……」
 レデン達の居る場所から少し遠ざかった暗がりの中で、背の高い青年が後ろにいる大男に小さな声で命令する。辺りが暗いので特徴が掴めないが、髪の色が黒だというのだけはハッキリと解った。その大男は頷き、右手をあげると、後ろにいた大男達がレデン達を囲む。大男達は全員が斧を石でできている斧を持っていた。青年も例外ではない。
「今だ!」
 青年が小さな声で叫び、駆け出した。すると、大男達は一斉にレデン達の周囲から出てくる。
「何の用だ?」
 大男と青年がレデン達の所まであと数メートルという所で声が響く。
 大男と青年はビクッと震える。
「何の用だと聞いている」
 アークスはゆっくりと立ち上がった。
「賊か? 金目の物でも奪いにきたか」
「俺の名はヴィラ。俺達はヴィラ一家、人から物を奪って生活するのが俺達だ!」
 ヴィラが叫ぶ。
「最悪な生き方だな」
 そのやり取りの中、レデンとルシアが目を覚ます。
「うぅ、って何だこりゃ……!」
 レデンは少し寝ぼけていたが、周囲を見知らぬ斧を持った大男に囲まれていたので、驚いて完全に目を覚ます。ルシアも同様だ。
「アークス団長……この方達は……?」
 ルシアが立ち上がり、ジリジリとアークスの元まで移動した。
「ヴィラ一家とかいう賊だ。金目の物を奪いに来たらしい」
「もしかしたらあの小さいのがヴィラさん?」
「そうみたいだな」
 ヴィラはそう小さくないのだが、この大男の集団の中ではどうにも小さく見えてしまう。
「ほう、そこの女、中々可愛いじゃないか。そいつも貰ってくぜ?」
 ルシアはその大男の言葉にかなりイラッときたらしく、チッと軽く舌打ちする。
「野朗に興味はねぇ。金目の物を置いて失せろ。じゃねぇと、痛い目見るぜぇ?」
「それはこっちの台詞だ!」
 レデンが剣を抜いて叫ぶ。アークスもそれに続いて剣を抜く。ルシアは杖が主の武器で、刃物の類は持っていないので、軽くジャンプし、ルシアの足元にでた魔法陣に乗って岩の上まで行く。
「ほう、そこの女、魔法使いか? こりゃぁ、金になるぜ!」
 大男が一人、アークスに斧を振りかざして駆け寄っていった。大男は掛け声と共に斧を振り下ろすが、それは軽く避けられ、剣の柄で後頭部を叩かれて気絶する。
「この野朗! 皆! やっちまえ!」
 ヴィラの指示で大男達は一斉にレデン達に駆け寄った。


 第四話 ゲキトツ

 大男達が一斉にレデン、ルシア、アークスに襲い掛かる。その数の差は歴然だった。大男達が全部で三十近く居るのに対してこちらは三人。後の戦いの分かれ目は個々の能力だろう。
「うらぁ!」
 一人が斧をレデンに向かって振り下ろす。
「うわ!」
 レデンはその攻撃を間一髪で右に飛んで回避する。
「危ねぇな、この野朗」
 レデンはそこから素早く体勢を立て直すと、斧が地面に突き刺り、それを必死に抜こうとする大男の足のスネを剣の柄で力の限り殴った。
「ぬぅ!?」
 大男から変な声がもれた。目には涙が浮かんでいる。レデンはこの一撃で怯んだ大男の顔面を殴り、大男はそのまま後ろに倒れた。
「危ない!」
 ルシアの声が響いた。レデンの背後に別の大男が迫っていた。しかし、それはスグに倒れた。そこにはアークスが立っていた。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます」
 レデンは一礼して再び構える。
「個々の能力は圧倒的に私達のほうが有利だ。でもな、数では圧倒的に不利だ。気を抜けば死ぬぞ」
 アークスはそれだけ言うと少しレデンから離れた位置に行った。
「この野朗が……。総攻撃だ!」
 ヴィラの一声で大男全員が荒々しい叫び声を上げながらこちらに走ってきた。突撃してこなかったのはヴィラと一人、明らかに他の大男よりも大きく、強靭な筋肉を持った長い黒髪の大男のみだ。
 バタバタとうるさい足音をたてながら斧を振り回している。
「うらぁ!」
 その中の一人がレデンに向かって斧を振り下ろす。レデンは先程と同じ様に右に飛び、後頭部を剣の柄で叩き、気絶させる。しかし、別の大男がレデンの首を持つ。
「ぐっ」
 レデンは逃れようと暴れるが、大男はビクともしない。
『レデン!』
 アークスとルシアの声が重なった。しかし、アークスは別の大男と戦っているので動けず、ルシアも今レデンを助けに行っても捕まるだけだろう。
「くそ!」
 レデンは何とか大男の腕に右手の人差し指をつける。すると、そこから火が出る。
「熱ぃ!」
 大男は突然の熱に驚き、レデンを離した。しかし、スグに別の大男がレデンの両腕を掴み、離さない。
「このガキィ」
 腕に火傷を負った大男がレデンに近づいてきた。
「よくもやってくれたなぁ!」
 大男がレデンの顔を殴る。流石に体型が大きいだけあってパンチの威力も高く、レデンの口から血が一筋たれた。
「止めて!」
 ルシアが駆け寄ってきて大男を押し倒そうと体当たりする。
「うるせぇぞ、このガキ!」
 体当たりされた大男はルシアの顔を殴る。
「痛っ……」
 ルシアは少し吹っ飛ばされ、倒れる。
「くっ! こいつら……」
 アークスは目の前に立ちはだかった大男の右腕を斬った。そして、大男の悲鳴を聴く前に後頭部を攻撃して気絶させる。
「この野朗!」
 大男がアークスを背後から攻撃するが、それを難なく避け、その大男も腹部を殴って気絶させる。
「ひぃ……」
 大男の一人が、情けない声を出す。
「こ、この野朗ォ!」
 再び別の大男がアークスを襲うが、アークスは一撃を避け、そのまま勢い余って自分の横を走りすぎていく大男の腹部を殴って気絶させる。
「殺さない様にしてきたが、命の保障はもう出来んぞ」
 アークスは大男達を睨みつけながら言った。
「殺される!」
 大男の一人が斧を捨てて後ずさり、やがて逃げていった。その一人に続いて大男が次々と逃げていく。
「逃げるのか」
 ヴィラの声が響いた。大男はおかまいなしに逃げ続ける。しかし、途中で大男の逃走は止まり、次々に大男は倒れていった。
「つまらんな」
 ヴィラがアークスの方を向いた。
「アージェ」
 ヴィラがそういうと、ヴィラの横に居た一際大きい大男……アージェが前に進んでアークスに斧を向けた。
「相手をしておけ」
 ヴィラはそれだけいうと、元いた場所に戻った。
「いくぞ」
 アージェはそれだけいうと、アークスに向かって何かを投げる動作をした。
「!!」
 アークスは寸前でそれが何なのかを見破ると、その場から急いで移動した。
「毒針か」
「良く避けたな」
 二人は再び武器を構えなおすと、お互いに武器を振り上げ、走りだす。

「離して!」
 大男の一人がルシアの髪を持ち、強引に立ち上がらせる。
「ルシアァ!」
 そのまま大男がルシアを捕まえようとするが、近づけた大男の手の人差し指に噛み付いた。
「ぐがぁぁぁ!?」
 大男はその場で大きな悲鳴を上げた。
「指が、指がぁぁ!」
 ルシアの口から強引に手を引っ張り出すと、指はかなり歪な形をしていた。当然の事ながら血が流れている。その為にルシアの顔は紅く染まっていた。
「この糞ガキが。よくもやってくれたなぁ!」
 指を噛まれた大男はルシアに早足で駆け寄り横っ腹を蹴り飛ばした。
「きゃぁ!」
 ルシアが短い悲鳴と共に倒れる。
「死ぬよりも酷い目にあわせてやる!」
 大男はルシアの腹部を蹴り飛ばす。ルシアの声は聞こえず、目に涙が浮かぶだけだった。
「うらぁ!」
 大男はルシアの腹部を先程までと違い、強く蹴り付けた。
「っ……」
 ルシアはそのまま涙を流し、目を強く瞑った。
「この……。この野朗ォォ!」
 レデンを掴んでいた大男が突然、吹き飛ばされた。
「うが!」
 その大男はそのまま岩にぶつかり、気を失う。
「止めろよ……。もう止めろよ……」
 消えそうに小さな声で言う。左腕は獣のものになっていた。
「あぁん?」
 ルシアへの攻撃を止めた大男がレデンを睨みつける。
「レデン……?」
 ルシアは心配そうな声を上げる。
 その大男はレデンの元にずかずかと大きな足音を立てながら近寄っていった。
「ガキ……。なんだ? その左腕」
 大男は何の躊躇も無しにレデンの左腕を触る。
「こんな狼みてぇな――」
 大男の言葉はそこで途切れた。レデンの左腕の発光により、その巨体は軽々と吹き飛んで宙を舞い、地面に落ちたのである。大男は意識を当然の如く失っていた。
「お前等……。ルシアに謝れよ……!」
 レデンは静かに宙を舞った大男の元に近寄っていった。しかし、気を失っているので返事は返ってこない。
「うぁぁぁぁぁぁ!」
 レデンが左腕で大男の体を貫こうとした時、その攻撃を何者かの手がレデンの左腕を掴んで遮る。
「仲間をこれ以上やらないでくれないかな?」
 そこにはヴィラが笑顔で立っていた。
「さっき逃げ出した奴等を殺しておいてか?」
 レデンが怒りの混ざった声で言う。
「あれは制裁だ。逃げようとした臆病者へのね」
 ヴィラの笑みは段々と不吉な笑みに変わっていった。
「ボクと手合わせしないかい? ライカンスロープの呪いを受けた人間を見るのはボク以外で初めてでね……」
 ヴィラは明らかに最初……アークスを一番最初に襲った時とは性格や周囲の雰囲気までもが完全に変わっていた。
「邪魔だ!」
 レデンは右腕でヴィラを攻撃しようとするが、ヴィラはそれを間一髪で避け、遠くに飛んで距離をとる。レデンも一旦飛び退き、先程、大男に首を掴まれた時に落とした剣を拾う。
「さぁ……。始めよう……。ライカンスロープとライカンスロープの戦いをね……」
 ヴィラの右腕はレデンの左腕の様に獣のものに変貌し、髪が伸びて耳を隠し、代わりに頭頂部に獣の様な耳が出てきた。
 

 
 
 

2009/01/13(Tue)19:53:48 公開 / 蓬莱
■この作品の著作権は蓬莱さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
まだまだ、描写などが未熟ですが、ご指導をお願いします!
上の方で、指で火を点ける、という事は魔法で、殆どの人間が使える為にそう珍しくなく、『竜召喚』にレデンが大して反応を見せないのは、今後、理由が明らかになっていくハズです!(因みに設定では竜召喚を持つ人は誰からも拒まれ、恐れられ、また、崇められている能力です)
追記:自分は受験に入るのでそろそろ更新が出来なくなります。何とか三話まで更新したです。再び更新できるのは2月〜3月程の間だと思いますが、お願いします。
三話更新しましたが、少し短いです、、
次回は3月後半〜4月の更新になってしまうと思います。

次回予告:ライカンスロープVSライカンスロープ開始……。そしてアークスVSアージェ決着……!

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