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『W.C.戦争』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:らびゅぅスクランブル
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前に一度失敗したから、今度は絶対やるまいと心に誓った。
――それなのに‥。
二度あることは三度ある。記憶というのは複雑だ。休み無く連なる記憶。
一年前に覚えていた記憶も、今となったら忘れている。
とりあえず残された記憶だけでも、パズルの様に組み合わせて「一文」を造るが……やはり駄目だ。
鮮明に思い出せそうな簡単なことでも、所々あやふやである。
古今東西、通勤ラッシュというものが盛んである。
だけど、案外身近なところにもラッシュがあったりする。
……。
一応、……盛んなのか?
【W.C.戦争】
朝、二つの声が木霊する瞬間。
ラッシュは戦争である。
ラッシュとはある物事が一時的に多数押し寄せることを言う。
おばちゃん達ならバーゲンセール。サラリーマンならラッシュ時の通勤電車。
ラッシュは至る場所、時間帯、世界各国に存在する。
飛行機、電車、エレベーター、更には休憩所の公衆トイレ。意外とエスカレーターは空いている。
交通に便利と思われる手段と、生理現象を外に出す場に多く見られる。かと言ってさすがに男女両方の公衆トイレは見たことがないが……。
案外、野外にはたくさん見られるものの内側のことは余り触れることが少ない。
例えば、一人暮らしの寂しい浪人生や恋人の居ない独身の人達には申し訳ない話だが、四人家族ましてや十人、二十人と拡大している大家族の皆様に大変かかわりある身近なラッシュ時を言おう。それは――トイレだ。
言い換えれば手洗い場とかWCなんて略されたりもする。
これはそんな内側で物凄く身近な苦しみを味わった少女達の物語である。
■
ある日の夕方。
元々一人っ子で生まれた私の家に、たまたま家出してきたという女友達がやってきた。
友達は家出をする度に私の家へと上がりこんでくる。
それほど仲がいいというわけでもないが、なんとなく気にはしていた。
そもそも事の始まりは小学校2年生の頃。
夏休みの初めに受けた算数のテストの点数が悪くて母親と口喧嘩になり勢いで出てったという、ただそれだけの理由から始まった。
たかが点数だけで。と最初はあきれていたが、泊めている私に比べれば友達のほうが遥かに上の点数だったのを覚えている。
これが最初で最後だったら良かった。今になって思う。
なんせ小学校2年生の家出からはじまり、中学校1年生から3年生に上がるまでおおよそ16回くらいは家に泊めていた気がする。
その後も何かあれば私のところに必ず泊まりに着ていたという常連で、最初の頃は驚いていた身内までもが毎度の様にスルーするようになった。
慣れるというのは非常に怖い記憶だ。
「んねぇ、まだ〜っ?」
「………ッ」
既に誰も家出のことなんて忘れて、一人っ子だったという自覚すら薄れていった。
元々一人っ子だった私の部屋からは毎度のようにあれがない。これがないと騒ぎ立てる女友達の声と怒鳴る私の声が部屋の中から響く。
常に友達の立場は居候であり、あくまで私の部屋だから私のいうことを聞いてほしいと小中高校と言い続けてきた。それでも効果はない。
更には――緊急時に駆け込むあの場所までもが彼女との接戦になってしまったのである。
「早くしてよ〜っ」
「‥ッ、無理ッ!」
舞台はウォッシュレット・クローゼット。つまりトイレである。
これがなかなか手強い。……朝から汚い話をするようで申し訳ないが、真実なのだから仕方ない。
私が中で踏ん張っていると、外側で騒ぎ立てる声と打ち付けるノックオンが交互に奏でる。別に心地よいわけではない。
朝からお腹の調子が悪い。昨日何を食べたんだろ……変な物は食べて無いのに。
野菜不足? 運動不足? そろそろ私もメタボだろうか。
「……後3秒で出てきて!」
「む‥無理ッ!」
ぐるぐる回る。ぐるぐる回る。ぐるぐる回る。
ぎゅるぎゅる回る。ぎゅるぎゅる回る。ぎゅるぎゅる回る。
フラフラな私は貴女の為には出れない。
というか、3秒って無理ゆうなよ。途切れないんだよ、このアレが。しつこくて硬くて。
未だに腹のそこに堪って悪あがきしてる奴がいるんだよ。そいつを何とかできたら、どんなに幸せだろ。
……ああ、これはちょっとした苦しみか。ぎゅるぎゅると腹の音が唸る。私も唸る。友人は叫ぶ。だが気は抜けないのだ。これだけは。
外と中で激しく唸る二つの声。全てに濁音が連なる今日この頃。
「は〜や〜く〜〜ッ!!!」
目の前にあるのに何故か遠くに居るように感じる貴女。私に意地悪をしているのか。最悪だ。ふわふわな私。いつの間にか現実逃避をしそうになる。
それでも出てこない貴女。私を殺すきか。朝からこんなところでラッシュを迎えたくないのは、どちらも同時に思うこと。避けて通れない道は必ず通らなければいけない。避けられるならとっくの昔に避けているはずだ。
正直、こんなところで足止めは食らいたくない。
「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
「は〜〜〜や〜〜〜〜〜ぎゅ〜〜〜〜ッッッ!!!」
内心、泣き。どうするんだよ。これ。切が無いじゃんかよ!! トイレという一枚の仕切りを間に挟んで、私たちはお互いに苦しむ。だけどそれはこの二人にしかわからない苦しみなのである。
だから外観的に見ている人は笑ってる。かなりムカつく。
トイレから怒鳴りたいが、今の私には怒鳴る余裕すらない。全ては腹筋に力をこめて踏ん張っていることだから。途切れることがないのだ。
意外と力を抜けば上手くいくなど今の私にはない。
考える隙間さえ失った私は、外観から見ればどうなんだろう。非常に気になる。
いや、それよりもこのWCラッシュ……いつまで続くんだろう。
■
なんやかんやで、この身近な戦いから逃れられた私。なんという幸福なんだろう! ……あぁ、いままでの苦悩と自由の○○○戦争は終わりを告げたのだ。
すまん。友人を犠牲にしてまで、私は生き残りたかったのだ。
ありがとう! 友人。さらば! 友人。
かわいそうだが、一回も本名を明かさないまま最後を迎えるのは辛かろう。私だって辛い。だけどこの開放感に比べれば、実は無名でしたっていうオチも大丈夫だ!
まあ、現実問題。遅刻決定になってしまったが……そんなの、このトイレットペーパーと共に水に流してしまおうではないか!
さあ! とっととこの場の締めくくりを終えて選手交代だ!
トイレットペーパーのある場所に眼を向けずとも、あるべき場所はわかっている。
ここまできて紙切れなんてベタなことはないだろう。頭の中での浮かれ想像に、私は現実を見失っていた。
――あれ? 本来あるはずなのに、やけに手元が寂しい。
妙に空気。手元がエアなのだ。
まさか。
いや、そんなはずはない。
きっとペーパーの在庫を設置し忘れただけだろう。こういうことはしょっちゅうある。
渦巻く疑問と少しの不安で89%くらい埋まった脳裏は、残りわずかな根拠のない11%くらいの希望を胸に託した。そしてトイレットペーパーの有り無しを私は知った。
気づいた瞬間、ふと我に戻った。………あれ? なんかやけに静かじゃね? 私の眼から観えそうで見えない空間からの声も、外観からの笑い声も、果てには友人の唸る声もなく、BGMの様に流れていた両親の会話すら綺麗になくなっていた。
そして………。
「………………ない」
私の大切なものまで無くなっていた。
後日、回覧板をまわしに着てくれたおばちゃんらしき人の声が聞こえてたので、きっと友人は連れて行かれたのだろう。
出るに出れない私は、………言うまでもないだろう。
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2008/10/15(Wed)21:23:37 公開 / らびゅぅスクランブル
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■作者からのメッセージ
……お粗末さまです。
いくつか誤爆があったので訂正もかねて、なんかオチ(?)っぽいものを加えてみました(笑
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