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……コッチ、コッチ、コッチ、コッチ…… 午前4時。 時計の音だけが部屋に響く。そとはまだ薄暗く、青白い死神が支配する世界。電線の上の烏が不気味にその目を光らせ、人々はじっと日が挿すのを待っている。凍えるような寒さ……朝はまだ来ない。 カタ……カタカタ…カタ… 薄暗い室内では、無機質なキーボードのタッチが響く。 ……カタカタ……カチ……カタッカタカタ…… (Hello?) (Do you love me ?) 眠ることのない時間。語られることない真実。画面を眺める瞳は、どこまでも虚である。 怪しく輝くブラウザの奥には、誰もいない。誰も答えてはくれない。 (Do you love me ?) 痩せ細った指。ギョロリと見開かれた大きな目。黒くて深い隈……彼女は硬直した姿勢で、パソコンの奥の世界に釘づけになっている。 (Do you love me ?) わたしを愛してる?お願い答えて。答えてほしいの。お願い……。 「愛してない」 「愛してない……」 あなたの口から聞きたくはなかった、その言葉。
……コッチ、コッチ、コッチ、コッチ…… パソコンの電源を入れた。部屋には無機質な時計の音と、わたしの吐息しか聞こえない。フローリングの床には、冷たくなった塊。もう愛した男の面影はどこにもない。血まみれのまま、パソコンの前に座り込むわたし。時刻は午前4時。 ネットワークには眠らない人達が巣くう。たくさんたくさんたくさん。誰かいるかしら?誰か答えてくれるかしら。この世界でまた一人ぼっちになってしまったわたし。だれかわたしの声にこたえて。だれかわたしを愛してるといって。 (Hello?) (Do you love me ?) 〜FIN〜