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『ドラゴンインザロッカー』 ... ジャンル:ファンタジー 未分類
作者:青リンゴ美味丸
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あらすじ・作品紹介
魔法使いである主人公は、使い魔を学校のロッカーに降ろしてしまいましたとさ。
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第一話 ドラゴンインザロッカー
聞いてくれみんな。オイラは今、もの凄く困っているんだ。だからみんなの元気を分けてくれ。いや違った。オイラが今欲しいものは元気なんかじゃあない。知恵だ。そう知恵が欲しい。だれか、「フタのある穴」を知らないかい? この条件を満たしていれば何でもいいんだ。そう。何でもいい。だから早く、ああ早く教えてくれないか。何か、何か身近に、この一年四組の教室にある物で何か。
「何かフタのある穴ぁー!」
オイラは頭を抱えて、そして祈りを込めて周りを見回す。
ここは深夜の学校。私立睦月高校の一年四組の教室。そんな場所、そんな時間帯にオイラは何をやっているのか? だから「フタのある穴」を探しているんだってば。え? 何故って? それは……何て言うか今ちょっと必要なんだよね……それが無いと、オイラは食われてしまうんだ。いやぁ恐ろしい恐ろしい。え? 誰に食われるって? いやそれはほら、あいつ……今オイラの目の前に漂っている、でっかい竜のような形をしたモヤモヤ。暴食竜、ニーズへグの魂にさ。
分かんないかも知れないけど、名家の生まれってのはなかなか大変なんだよ。我が家のしきたりでは、十六歳の誕生日に使い魔と契約しなくちゃいけないことになっている。それもそこいらの動物とかじゃあダメなんだ。最低でも中級以上の魔物とかじゃないといけない。出来なきゃ家を追い出されるんだよ……。そこそこ裕福な家庭でヌクヌクと育ったこのオイラに、一人で生きていくだけのチカラなんてあるわきゃない。何が何でもこの契約を成功させなきゃならない。
使い魔を降ろす時には、必ずそいつがこの世界に存在するための媒介を用意せにゃならない。そしてその媒介ってのは、例えば猫の悪魔だったら猫の死体……とか、その使い魔に合った感じの物じゃなきゃならない。そういうわけで、ニーズへグは竜だから、オイラは媒介としてトカゲの死体を用意したわけなんだけど……ところがぎっちょん、ニーズへグの野郎は、「そんなんじゃダメなのよ」とかぬかしたんだ。あ、ちなみにこれは奴の口調を正確に再現したんだけどね。断じてオイラの喋り方ではない。
そして、奴が要求した媒介が「フタのある穴」。どういう意図かは知らないけど。「今すぐ用意できないんだったら、アンタの魂を喰っちゃうわよ」だってさ。以上でオイラの説明は終わり。さーぁ次はみんなの番だぞ。時間が無いってのにこんなにキチッと語ったんだ。見つけてくれるよ。フタのある穴を。
「あと十秒ー」
え? ちょ、まずいぞみんな、急いでくれ。何でもいいんだよ本当に。とりあえずこの場をしのげればいいから!
「あと五秒ー」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいよー! な、何か無いか何か。
「二秒ー」
うおおおおおおおおお!?
「一秒」
奴の目が光る。もうダメだぁー! と、思ったその時だった。オイラの視界の片隅に、ある物が映り込んだ。それは学生達の宝箱。ジャージやら置き勉はもちろん、マンガやエロ本、バレンタインなんかにはチョコが入ってたらどうしようなんて淡い希望、そしてほんのちょっぴりのホロ苦い思い出までもが詰まっているアレ……そう、ご存じロッカーだ!
「ここだぁー!」
オイラは自分のロッカーの扉を開け放つ。
「ここに入れ、カマ野郎ー!」
するとニーズへグはフン、と軽く鼻を鳴らし、ひらりと身を翻してロッカーの中に入って行った。そしてその姿が完全にロッカーに隠れる前に、オイラは鞭のようにしなった尾で強かに頬を打ちつけられた。
「カマ野郎は余計よッ!」
開き直れていないオカマというのは全くタチが悪い。
「いいこと、私はともすれば世界をも喰い尽くしかねない暴食竜ニーズへグ。使い魔とはいえ、少しは敬意を払いなさいよッ!」
カマ竜が一通り言いたいことを言うと、ロッカーの扉は勝手に閉じた。マグネットがぶつかる、カチャンという音だけが夜の教室に空しく響く。
「やれやれ……」
生命の危機を乗り越えたオイラは、激しい疲労感と激しい安堵に襲われる。でもこれでオイラも一人前だな。ニーズへグといえば上級も上級。特上の魔物だ。こいつを使い魔にしたともなれば、オイラはそりゃあもう無敵さ。こんな化け物を敵に回そうなんてバカはどこにもいやしないだろう。ただ一つ問題があるとすれば……。
「その能力を生かそうにも、ロッカーじゃあな……」
オイラはこいつの能力を使う度に、学校に忍び込まにゃあならんのか。能力バトルものの漫画なんかだとその能力にルールやら制限があると面白くなるけどさ。
「これはちょっとキツ過ぎだろ……」
何だか考えれば考えるほど疲れが溜まっていくので、オイラはもう家に帰ることにした。
翌朝。
オイラは今日も真面目に学校へ行くべく、朝食を摂る。その朝食の席で、我が家の母は契約のことを訊ねてきた。
「翠(みどり)」
翠ってのがオイラの名前。念のため言っておくけど、オイラは男だぜ。
「何?」
「契約には成功したの?」
納豆を混ぜ混ぜしながらそっけなく訊いてくるが、内心すごくハラハラしているのが凄くわかる。緊張のあまり箸を持つのを忘れて、人差指と中指で直接混ぜてしまっている。ていうか気づけよ。
「一応ね……」
「一応ってどういうこと?」
そして醤油と間違えて牛乳をかける。
「媒介にトカゲの死体を用意しといたんだけどさ」
ネギの代わりに豆腐が入る。白い、白いぞ納豆!
「それがどうも気に食わなかったらしくて」
そしてオン・ザ・味噌汁……って何ぃ!?
「色々悩んだ結果、学校のロッカーに降ろしちゃったんだよ」
そのまま指を味噌汁に突っ込んだところで、母はことの重大さに気づいたらしい(納豆のこと)。
「あらあら大変ねぇ」
こっち(ロッカーのこと)はそんなに大したことじゃないと思ってくれたようだ。とりあえずは契約できたことに安心している。
「姉さんは?」
「もう出たよ」
「早いね」
「部活の朝練なんだってさ」
姉はオイラと同じ高校に通っている。今年で三年生。部活は奇術部。奇術部の朝練だぁ? 一体、何をするっていうんだ。
ちなみにオイラは帰宅部ね。若干一年生にして全国レベルの帰宅力を持っていると目されていて、当然、先輩方にも一目置かれている。「お前ならプロを目指せる」とも言われたな。いやぁ、才能って怖い。
「父さんは?」
「出張」
父は仕事の関係上、家を空けることが多い。
父の職業は警察官。そもそもうちは代々警察官の家系なんだ。といっても普通の警察官じゃあない。魔法使いを取り締まる警察。
江戸だか明治だか大正だかの時代にこの国に入って来た西洋の魔法。その力を悪用する人もたまにいるわけで。そんな連中を取り締まるために当時の日本国政府に依頼され、イギリスかなんかから渡って来たのがウチのご先祖様。だからオイラには、もうだいぶ薄まってしまったけど、一応西洋人の血が入っている。そんな自覚は微塵もないけどなー。そんなわけで、由緒正しく連綿と受け継がれてきたこの役職。国に依頼されているわけだから、国家公務員ということにでもなるのかな。オイラの将来は約束されているのだ。
でもって、つい昨夜契約に成功し、一族の中で一人前の条件を満たしたので……今日からオイラもその仕事を手伝えるというわけ。まぁうちの教育方針で、「学業優先だー」ということにはなっているのだけれども。
幼い頃から憧れてきたとはいえ、最近はテロが多いから、少し気が重いかなーなんて。何? 過激派っていうの? 魔法使いの過激派。排他的というのか支配的というのか、とにかくそういう思想を持った奴らの活動が最近盛んらしいよ。迷惑なこって。みんなも気をつけろよ。
さて、一通り説明も終えたことだし……あのカマ竜のことも気になるしな。いつもより早めに出発するとしよう。
「じゃ、行ってきまーす」
そうそう、みんなは納豆をかき混ぜるとき、よく確認しながら混ぜた方がいいぜ。
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2008/03/25(Tue)20:41:27 公開 / 青リンゴ美味丸
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■作者からのメッセージ
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