『Color World』 ... ジャンル:ショート*2 童話
作者:CLOWN                

     あらすじ・作品紹介
子供の頃に読んだ絵本をイメージして作られた大人への物語

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いろのせかい


なにもないせかいに かれはいました。
かれはじぶんのことを しりませんでした。
だって なにもないのですから。
かれはしらないことを しりませんでした。
じぶんがいるのかすら しりませんでした。
でも かれはたしかに いました。
そのせかいには かれだけが いました。
だから なにもないせかい ではありませんでした。
だから かれはじぶんがいることを しっています。
かれはじぶんのことを しりたくなりました。
でも しることはできませんでした。
なぜなら かれいがいにだれもいないからです。
だれかにきくことが できません。
だれかとくらべることが できません。
だから かれはしらないままでした。
だから かれはたびにでました。
じぶんをさがして たびにでました。
じぶんいがいをさがして たびにでました。


あるひ、きいろいひかり にあいました。
きいろいひかり にかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
わたしはあなたとおなじですか?」
ひかりはくびをふってこたえました。
「わたしはきいろいひかりです。
しかしあなたはきいろではありません。
わたしはしんじつをみせられるでしょう。
でもあなたはできません。
だからちがいます。」
かれはひかりをしりました。
そしてじぶんがひかりでないこともしりました。
ひかりはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、あおいうみにあいました。
あおいうみにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
わたしはあなたとおなじですか?」
あおいうみはくびをふってこたえました。
「わたしはあおいうみです
しかしあなたはあおではありません。
わたしはいろいろなばしょにいけるでしょう。
でもあなたはできません。
だからちがいます。」
かれはうみをしりました。
そしてじぶんがうみでないこともしりました。
うみはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、みどりのもりにあいました。
みどりのもりにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
みどりのもりはくびをふってこたえました。
「わたしはみどりのもりです。
 しかしあなたはみどりではありません。
 わたしはしずかにそだてるでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれはもりをしりました。
そしてじぶんがもりでないこともしりました。
もりはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、ももいろのはな にあいました。
ももいろのはな にかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
ももいろのはな はくびをふってこたえました。
「わたしはももいろのはなです。
 しかしあなたはももいろではありません。
 わたしはあかるくいやすでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれは はなをしりました。
そしてじぶんが はなでないこともしりました。
はな はかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、あかい いのちにあいました。
あかい いのちにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
あかい いのちはくびをふってこたえました。
「わたしはあかい いのちです。
 しかしあなたはあかくありません。
 わたしはいのちをつくるでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれはいのちをしりました。
そしてじぶんがいのちでないこともしりました。
いのちはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、だいだい いろのゆうひにあいました。
だいだい いろのゆうひにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
だいだいいろのゆうひはくびをふってこたえました。
「わたしはだいだい いろのゆうひです。
 しかしあなたはだいだい いろではありません。
 わたしはすべてをつつむでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれはゆうひをしりました。
そしてじぶんがゆうひでないこともしりました。
ゆうひはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、むらさきのそらにあいました。
むらさきのそらにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
むらさきのそらはくびをふってこたえました。
「わたしはむらさきのそらです。
 しかしあなたはむらさきではありません。
 わたしはゆうきをあたえるでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれはそらをしりました。
そしてじぶんがそらでないこともしりました。
そらはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


かれはつかれてしまいました。
どこにもかれとおなじはありませんでした。
かれはひとりになりました。
だれともちがうからひとりでした。
かれはかなしみました。
それをひかりも、うみも、もりも、はなも、
いのちも、ゆうひも、そらも、みていました。
かれらははなしあいました。
そしてみんなでかれのところへいきました。
そして、かれにひとつのものをさしだしました。
それは『くろ』でした。
ひかりのきいろと、うみのあおと、
もりのみどりと、はなのももいろと、
いのちのあかと、ゆうひのだいだいいろと、
そらのむらさきをまぜたいろでした。
かれはおどろきました。


『くろ』はなにもないせかいでした。
きいろとちがいしんじつをもっていません。
あおとちがいどこにもいけません。
みどりとちがいせいちょうをとめました。
ももいろとちがいものがなしくもありました。
あかとちがいいのちをつくりませんでした。
だいだいいろとちがいひとりでした。
むらさきとちがいちからをとじこめました。
でも、かれらのいろからできていました。
だからすべてがありました。
かれはやっとしりました。
じぶんがくろだとしりました。
やはりかれとおなじはありませんでした。
でもかれはひとりではありませんでした。
なぜならかれはなにもないけれど
たしかにかれらのせかいだったからです。
かれはくろのせかいでした。

2008/03/18(Tue)22:00:03 公開 / CLOWN
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■作者からのメッセージ
絵本をイメージして作ったので、あえて全てひらがなで書きました

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