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『古の鎖-私の中に潜むもの-』 ... ジャンル:ファンタジー 未分類
作者:沙耶
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あらすじ・作品紹介
古の鎖に囚われた者の一人、千縁。怪が人々を脅かすこの時代で、怪を撲滅する事はできるのか。怪に秘められた秘密とは何か。そして、千縁達に結ばれた古の鎖は解けるのか。陰と陽を合わせ持つ者達の運命の行方は――?
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闇が創りだした物の怪 『怪(アヤカシ)』
その奇怪な形をした人間の肉を好む物の怪は、いつしか世界を脅かす存在になっていった。
そして。
神に魅入られたのか、悪魔に魅入られたのか。
古(イニシエ)の邪念に囚われ、――それでも。
神への道を行く者達がいた。
1.逢
「おい……、これで何人目だ……?」
「この藍色の着物は……拓さん、だな」
頭がない上半身と下半身が引き裂かれ、拓さんと呼ばれた男の死体を、数人の男が苦い表情で覗き込む。太陽が高く上っているにも関わらず、木々に囲まれた森は薄暗い。そんな不気味な森に、冷たい風が吹き抜ける。
「誰か、奥さんと子供さんに知らせて来い」
「お、おう」
一人の男がその男の死体の家族に知らせに行った。その間残された数人の男達は、誰一人言葉を発しなかった。
暫くして二人の女が、髪を乱して着物を着崩し、裸足で男達のもとへ駆け寄ってきた。一人は髪を頭の後ろで纏めた30代ぐらいの女性、もう一人は髪を顔の横で三つ編みをした10代ぐらいの少女だ。
数人の男達を押しのけ、死体の傍による。そして二人は目を見開き、女性は、その無残にも首が無くなった死体の胸板に顔を埋め、泣き始めた。少女もその横でしくしくと泣いている。どうやら男の妻と子供のようだ。
「拓さんに、間違いないな……」
「ああ、どうして……、こんな事に……!」
「お父さん……!」
男の死体は、妻と子供との別れをすませた後、村の共同墓地に埋められた。埋没がすんだ後、村は異様な静寂に包まれた。夜、村では村長を中心に会議が開かれた。
――同時刻
村の大きな洞窟の前にたたずむ少女が一人。
「ここ……、か」
誰に言う訳でもなく、一人でに言葉を漏らす。明かりもなく、少女の表情は見えないが、声の調子からして闇に怯えた様子はない。
その時、月に掛かっていた雲が晴れ、少女の姿を映し出す。スラリと背が高く細身で、綺麗な顔立ちの少女だ。長い髪を頭から少し離れたところで紐で結い、一風変わった着物を着ている。――巫女衣装とも取れるだろう。腰に細身の長い刀を差している。
「おい! 刹那! そこに居るのは分かっているのだ、出て来い」
男のような口調で、大きな洞窟の中に向かって叫ぶと、声が反響して返ってきた。それが止んだ後、一人の少年が洞窟の中から姿を現した。少女と同じ着物を着ている。雲が月を覆い、そしてまたすぐに晴れた。
「……久しぶりだな、千縁」
驚いた様子で、刹那と呼ばれた少年が言った。――珍しい蒼色の髪と、切れ長の目を持つ少年だ。千縁と呼ばれた少女は、ああ、とだけ短く返して洞窟の中に入った。
「ここに住み着いたのか?」
「気に入っちまってな」
「悪趣味だ」
暫く奥へ歩いていくと、薄明るく、少し開けた場所に着いた。そこは決して広いとは言えず、洞窟の壁の窪んだところに蝋燭が一本だけ立てられ、床には蓑が敷かれていた。壁には太めの刀が立てかけてあった。千縁は遠慮なしに座る。
「相変わらずだな」
「貴様もな」
苦笑して刹那が皮肉を言うと、千縁もさらりと皮肉を返した。刹那の切れ長の目が、千縁をまじまじと見つめる。視線に気づいた千縁が言う。
「なんだ?」
「……いや、美人になったな、と」
「……たわけ」
千縁は暫く刹那を冷たい目で見ると、照れた様子もなく言ってのけた。そして、千縁の目が真剣になった。
「それで、どうなのだ」
「なにが?」
「怪による被害だ」
思い出したように、ああ! と声を上げ、真剣な目つきになった。
「それが、急に数が増えたんだよ。しかもデカイ奴ばっかり」
怪訝そうな顔で言う。すると、千縁の眉がピクッと動いた。
「……やはり、そうか」
「そのせいで村人が今週で……16人か。今日殺された奴合わせて」
刹那がそう言うと、普段あまり表情を変えない千縁からでも、動揺していることがわかる。
「そんなに多いのか?」
「始末しても、次から次に出てきやがる」
時刻は夜の12時を過ぎて、あたりは静まり返っていた。――はずだった。
ゴアアアアアア!!!! ギャアアアアアア!!!
凄まじい何かの雄叫び声が村中に響き、木々のなぎ倒される音がした。
「これは……!?」
「怪だ! 行くぞ、千縁!!」
刹那が立てかけていた刀を掴み、洞窟の外へ飛び出す。千縁もそれに続く。
先ほどまで静まり返っていた外は、激しい風が吹き荒れ、村の方は赤々と燃えていた。
恐ろしいほど、――狂気に満ちていた。
「こんな……」
「なにやってんだ! 早く来い!!」
外の光景を見て、千縁は目を見張った。背を伸ばせば山を軽く越えるであろう怪が三体、民家に赤黒い不気味な手を入れ、狂ったように泣き叫ぶ人々を、鉛色の牙が生えた口に放り込む。グシャリと、耳を塞ぎたくなるような音がして噛み千切られた腕や足が地面に落ちた。その残飯を、下では人の背より少し高い程度の怪がギーギーと争いながら食べている。
「こんなにも巨大な物なのか……」
「千縁!」
「今、行く」
千縁は立ち止まって何かを考え、刹那に名前を呼ばれると、何事もなかったように足を進めた。小さい怪はすぐに千縁達に気がついて襲い掛かって来た。刹那が刀を素早く抜き、襲い掛かってくる怪を全て切り倒す。千縁は何もせず、ただ黙ってついて行くだけだった。
「村長! 村長居んのか!?」
「せ、刹那様……」
薄汚れた民家の裏から、村長と思われる老人が顔をほんの少し出した。白髪の一部が血に染まっている。
「他の人は!?」
「ま、まだこの裏に……」
「どこでもいい! 家の中に入れ!!」
怪に怯えているのか、なかなか言葉が出て来ないようだ。それに見かねた千縁が叫んだのだった。村長は体を強張らせ、やっとの事で返事をすると裏に廻った。その間刹那は近づいてくる怪を次々と切っていった。――返り血を浴びない様にして。
「刹那様! 準備が整いました!」
今度は村長ではなく、体格がいい男が声を上げた。巨大な怪はすでにこちらに気がついていて、身が凍るような声を上げ、民家を潰しながら向かってくる。
「千縁、誘導してやって! そんで結界張って!」
「分かった」
「血はなるべく浴びるなよ!」
怪に囲まれて、それでも無傷でいる刹那はとても腕が立つ。それを知っている千縁は頷き辺りを見回すと、ついて来い、とだけ叫ぶと一気に走り出した。生き残った村人はそれに続く。ある者は背負われ、ある者は他の者と手を繋いで、炎の中を必死に走る。
「早く来い! 逃げ遅れたら置いていく!!」
前から襲ってくる怪は千縁が貫き、横から襲ってきた怪は、村の腕の立つ若者が苦戦しながらも何とか倒す。千縁があまり被害を受けていない家を見つけ、その中へ村人を誘導する。全員が入ったのを確認すると家の戸を閉め、何かを呟くとその家を離れた。――その家に怪が触れることはできなくなった。
千縁が刹那の元へ戻ると、刹那は背中と足に傷を負っていた。小さい怪はもうほとんどやられていたが、巨大な怪は一体が倒されているだけだった。千縁は舌打ちをすると、刹那に向かって叫んだ。
「刹那! 結界を張れ!!」
「……ああ、わかった!」
刹那が結界を張ったのを確認すると、千縁は刀を抜き、地面に突き立てた。小さい怪と巨大な怪が向かってくる。
「刀よ! お前の主が願う。今ここに存在する怪を、全て焼き払え!!」
そう千縁が叫ぶと、刀を突き立てた位置から地面に亀裂が生まれ、炎が噴出した。その炎は家は燃やさず、怪と辺りの木だけを焼き払った。
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2008/02/26(Tue)15:58:48 公開 / 沙耶
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■作者からのメッセージ
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