『黄金の血』 ... ジャンル:ファンタジー 未分類
作者:こゆび                

     あらすじ・作品紹介
S.B.Rで働くブラディアン、エディ・ノーマンは、中央の指示で、一人の少年の面倒を見ることになる。その少年は、かつて起こった事件、「ギルナール人間牧場事件」の生き残りだった。中央は、その少年を囮にして、未だ捕まっていない事件の犯人をおびき寄せるつもりらしいが……。

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西海岸で出会ったキュートな美少女のナンパに成功して、一夜を共にした後の記憶がなかった。その一夜の情事の後、彼は高熱を出して一週間寝込んだ。
やっと回復したと外に飛び出したら、太陽がピリピリと肌に痛かった。まだ体が本調子でないせいだ、と深く考えずに家に戻った。
趣味で集めていた十字架のアクセサリー。突然見るのも嫌になって突発的に全て捨てた。次の日、いつものように日曜日のミサに行こうとしたが、教会に近付くにつれて気分が悪くなり、教会の前でついに昏倒。それも彼は、体が本調子でなかったのだろう、と軽く流した。
味覚の好みも変わった。
大好きだった、馴染みのニンニク料理屋(というよりもニンニクをよく使うパスタ屋だったが)は、店の周りの臭いを嗅ぐだけで吐きそうで、近寄ることもできなくなった。彼は大好きだった店と、店の女の子とやっと取り付けた合コンの約束を同時に失った。
いくら飲んでも、喉の渇きが満たされなかった。いくら食べても体からは力が抜けた。変な病気かもしれないから病院に行きなさいと家族に言われ続け、やっとその気になった日。
汚い話だが、トイレの中で、汚物入れから覗いていた母のナプキンに無性に惹かれた。
あのナプキンについた経血でいいから舐め取りたいという謎の衝動。
この時初めて、彼は自分に起こっていることの全てを理解したといえる。
考えてみれば簡単なことだった。
十字架への嫌悪。教会の前での昏倒。吐き気を催すニンニクの臭い。太陽にあたった時の肌の痛み。その全てが一つのことを指していたではないか。
信じたくないが、自分は吸血鬼になってしまったのだ。彼は悟る。他に説明のしようがない。

それが五年前、彼、エディ・ノーマンに起こったことの全てである。

それでもまだ、自分は幸運だったのだ、と今現在、エディはそう思っている。どうしようかと街をふらふら歩いていた時に、吸血鬼仲間に発見されて保護された。新しい生き方を教えてもらえたし、職も紹介してもらえた。今の生活は悪くない。
輝く血液の輪、略称S.B.Rが設立されて、すでに七年になるという。S.B.Rが設立されてから、吸血鬼たちの生活は大きく変わった。
吸血鬼たちはブラディアン(血飲主義者)と名乗り、鬼という呼称を自ら捨てた。吸血鬼。そんな呼び名は人から名づけられた差別的な呼び名である、と。人から隠れて生きていかなければならない事に変わりはない。それならば何故、自らを貶めるような鬼という呼称を使う必要があるのだ、と。
ただ、人と少し主食が違うだけ。ただ、人より寿命が長いだけ。ただ少し、不思議な力を持っているだけ。
エディは現在、S.B.Rの西海岸支店で働いている。エディの血統は太陽を浴びても火傷をする程度で、すぐに灰になったりするわけではないらしい。長袖パーカと帽子は手放せないものの、エディは日中勤務として毎日頑張っている。
「こんにちは……」
ちりん、とベルが鳴って、一人の女性が店に入ってきた。
「あれ、ラファールさん。どしたの昼間に。珍しいね」
そう声をかけると、ラファールと呼ばれた女性がにっこりと微笑む。青白い肌の、細身の女性だ。彼女が微笑むと、何だかそのまま儚く消えてしまうのではないかという気分になって、エディはいつもハラハラする。
「いえ、今日は夜は、仕事があるものですから。頑張って昼間に来たのです。大丈夫ですよ、完全防備のUVカットガラスの車で来ていますから」
「ふうん。気をつけてよ。ラファールさん、日光に弱いんだから。えーと、じゃあこれね」
エディが受付票を差し出すと、ラファールはそれを受け取って、机に向かう。そうこうしているうちに一般の客もやって来るので、そちらにも受付票。
ラファールに渡したのは、ブラディアン用の受付票。次のお客に渡したのは、人間用の受付票。
S.B.Rは、表向きは、民間経営の献血所として存在している。
何百年と生きている大物ブラディアン、アーサー・F・メリルビークが、その有り余る知識をもって会社を起こし、国を代表する大企業に育て上げた所からS.B.Rは始まった。
七年前、彼は、会社の収益の一部を社会に還元するためと言う大義名分のもと、福祉政策の一環として、献血所を設置することを発表。民間だからこそ出来るきめ細やかなサービスと、充実した血液検査、そして仮眠室設置の24時間営業という点で、S.B.Rは若者たちの間で大ヒット。
それでも、以前からの献血ファンや、民間では不安だという人々は、昔ながらの献血所に向かって行く。しかし、そうではない新たな客層を呼び込むことに成功したS.B.Rは、今では規模を拡大して、各地に支店を増やしている。
そして、S.B.Rの裏の顔。
それが、ブラディアン達への、血液の販売。
一般の人々から提供された血液を、それぞれの好みに応じて、寄付と引き換えに少しずつブラディアン達に提供する。エディが渡した受付票の違いは、血液を提供する側と、提供される側の違いなのだ。
人間側は、いざという時の血液不足の不安が多少なりとも解消され、ブラディアンの側は、好みの血液が、少しばかりの寄付で、いつでもコンスタントに手に入る。
もちろん、受付票を間違えれば大事だ。好みの血液型は? だの、脂肪分は多い方がよいか? だのそんな質問が書かれた受付票が人間側に流出したら大騒ぎである。ぱっと見分からないように、良く似た外見に作ってある分、日頃からきちっと管理をしなければならない。エディの責任は重大だ。
そして、S.B.Rにはもう一つだけ、重要な役割がある。エディの主な仕事は、受付というよりも、むしろそちらの方だと言ってもいい。

「おはようございまーす」
明るい声とともに、裏口の扉が開く。エディの先輩たちが出社してきたらしい。
「お疲れ様、エディ。いきなりだけど受付交代よ」
「ん、何か事件すか」
入ってくるなり言い放ったアリア・ワーベルグ。最初の頃はこの高圧的な口調に戸惑ったこともあったが、今ではもう慣れたものだ。アリアは金髪長身の美女で、キツめの顔立ちと口調も相まって非常に近寄りがたいが、決して悪い人間ではない。多少横暴な所もあるが、可愛い一面もちゃんとある。本人を前にしては言えないが。
「あ、じゃあ今から私受付しまーす。エディさん、奥行っちゃって下さいね」
最初の挨拶の主が、アリアの後ろからちょこんと顔を出した。長身のアリアに隠れて、小柄なミムラ・サチコは霞みがちだが、立派なS.B.Rの一員だ。東洋人にありがちな童顔のせいで、アリアと並ぶと高校生にしか見えないが、実体は(ブラディアンになった時点で)二十四歳だった有能な受付嬢。ブラディアンは年をとらない。サチコはこれから先も一生童顔のままだろう。
S.B.Rはその組織の性格上、従業員は、当然ブラディアンで揃えられている。支店の差はあれ、国中のブラディアンが集まる場所。当然、各地のブラディアン達の情報や噂も、S.B.Rにはどんどん飛び込んでくる。
受付をサチコに任せて、裏側の従業員部屋に戻った。部屋に入った瞬間、アリアは口を開いた。

「ギルナール人間牧場事件、覚えてる?」
喋りながら椅子を引いて、座る。彼女はせっかちだ。
「忘れるわけないっしょ。あれ、俺がここに入って最初の事件すよ。最初にしてはちょっとインパクトありすぎたっつーか……忘れられないっす、気分悪くて」
冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、二つのコップに注ぐ。お茶出しや洗い物は下っ端のエディの仕事だ。
「あれ、結局まだ犯人捕まってないんすよね。あー、思い出したら気分悪」
「そ、犯人よ。重要なのはね。あいつがまた暗躍し始めたって噂があるの。で、あいつがまたあんな事件を引き起こさないうちにって……」
一気に喋って喉が渇いたらしい。アリアはそこでジュースを一口飲むと、だん、と音を立ててコップを机に置いた。
「うちの上層部が、超絶クソな計画立てやがったわ」
「はあ、クソっすか」
「クソもクソ。正気を疑うわ。作戦聞いた時には顎はずれるかと思ったわよ」
その時のことを思い出したらしい。アリアは髪の毛をかきむしり、一気にオレンジジュースを飲み干した。感情表現が分かりやすいのは、彼女の美点の一つだ。エディはすかさず、アリアのコップにジュースを注ぐ。
「で、何なんすか、作戦て」
自分もちびちびとジュースを飲みながら、エディは尋ねる。アリアはまだ怒りがおさまらない様子で、ピリピリした雰囲気が伝わってくる。はっきり言って、怖い。
「あの事件のときに、被害者が一人生き残ったじゃない。あの子を使った、囮作戦。ほら、あの犯人、やたらあの子に執着してたし」
「はぁ!?」
さすがにエディも、オレンジジュースを机に置いた。
「いやだって囮ったって、被害者って人間っすよ!? 巻き込んでいいんすか!?」
「良いわけないじゃん、普通に考えてさあ。またあんな事件が繰り返されるよりはって上の奴らは言うけど、大勢のためになら一人を犠牲にしてもいいって考えがそもそもむかつくし。あのさ、これはあたしの予想なんだけど」
アリアはため息をついて、ジュースを一気に飲み干す。エディは再びコップにジュースを注ぐ。ペットボトルが空になった。
「……持て余してるんじゃないかと思うわけよ」
「え、その被害者の子を、すかね」
「そうそう。あの子は人間で、でもブラディアンの事を知ってる。あの屋敷にいたんだから当然よね。で、社会に戻してペラペラあたしたちの事を話されたら困る。普通なら、記憶消去が出来る血族に頼んで、記憶を消してもらって人間世界に戻すけど、あの能力も完全じゃない。特にあの子はずっとブラディアンの力の影響下にいた。耐性あるかもだし、いつ記憶消去が切れるか分かんない。あの子が生きてる限り、監視を付けざるを得ない。そこでよ。めんどくさいからもう囮にして、あわよくば……」
そこでアリアは、手を横にして、首を横切らせてみせた。首切りのポーズだ。
いやいやいや、と否定しつつも、アリアの言葉にはほのかな真実味があり、エディはとても嫌な気分になった。

ブラディアン達のことを人間に漏らさないため。危険な行動を取るブラディアンを取り締まること。
それが、エディたちの、最後の重要な仕事だ。
エディのような新しいブラディアンにはそんな記憶はないが、大昔から生きているブラディアン達の記憶の中には、中世の魔女狩りや吸血鬼狩りの記憶が、今も根強く残っているらしい。あの悲劇を繰り返してはならない。彼等は言う。
何よりも恐ろしいことは、そのパニックになった人々によって、何の罪もない普通の人間や、動物たちが犠牲になること。魔女だと言われて虐殺された人々や、使い魔だと言われて火あぶりにされた猫たちや。
科学技術は進歩したが、人間たちはいまだに迷信を完全には捨てきれない。中世の時点でああだったのだ。今、人間たちのヒステリーと、進歩した科学技術が組み合わされば、どんな惨劇が起こるのか。
そんな最悪の事態を引き起こさないために。上層部は、一人の人間など、確かに顔色一つ変えずに犠牲にするのかもしれない。
「何が腹立たしいって、それでも指示に従わないといけない自分たちよね」
はあ、と重々しいため息をつくと、アリアは立ち上がる。
「あいつの最後の目撃証言が西海岸なんだって。というわけで、明日にでも犠牲者の子がこの支店に移送されてくるっぽいよ。あんた、世話よろしくね」
「はあ……って、え?」
突然の言葉に、エディは思わず立ち上がる。
「え、世話って、え、俺?」
「あんた以外に誰がいるのよ」
アリアにぎろりと睨みつけられて、エディは思わず口をつぐむ。
「あのー、ちょっとお客さん増えてきたからそろそろ手伝って欲しいなー、とか」
扉からちょこんと顔を出して、サチコがエディを呼んでいる。やはり客は昼の方が多いのに、昼間動けるブラディアンは少数派だ。日中のS.B.Rは、いつも人手不足に悩んでいる。
「じゃ、私、ヴィスパの方にも話まわしに行くから」
愚痴るだけ愚痴るとすっきりしたらしい。アリアは笑顔でエディに手を振る。
「ちょ、まだ話終わってないっすよ!」
「エディさんってば、手伝ってくださいってばー!」
ああ、ちょっと待って、とサチコの方を振り返った時には、もうアリアは歩き出していた。そのまま振り返ることなく支店を出て行く。
焼け付く太陽の下、上着も羽織らず日傘もささず、颯爽と歩いて行くアリア。
「冗談じゃないって……」
呆然と呟いた後、痺れを切らしたサチコに手を引っ張られ、エディは再び受付へと向かった。

ギルナール人間牧場事件。
ここ数十年の間では、最悪と言われる規模の犯罪だった。
アリナス・D・ギルナールという名のブラディアンが、個人の屋敷の中で、何十年にも渡って、人間たちを飼育していたのだ。……そう、それは正に、飼育と呼ぶに相応しかった。
人間たちは、一応丁寧に扱われてはいた。しかし彼等は、人語を解さず、外の世界に出た事もなく、衣服も何も、身に纏ってはいなかった。完璧にコントロールされた屋敷の中で、家畜のようにギルナールに食されるのを待つ人々。
加えてギルナールは、人間の品種改良も行っていたらしい。
味の良い血液を持つ人間同士を掛け合わせ、最高に美味い血液を持った人間を作り出す。
その結果出来た子供たちをまた交配させ、いつか最高の血液を持った一人が出来上がることを夢見て。ギルナールは、何十年と前から、この交配実験を繰り返していたようだ。
偵察に入った仲間から情報を聞き、エディたちが屋敷に踏み込んだ時には、屋敷の中には、屋敷で生まれ育ったと思われる、若い人間たちしかいなかった。そして彼らは、無残にも全員殺されていた。ただ一人の少年を除いて。
その最後の一人を連れて逃亡しようとするギルナールを追い詰めた所までは良かったのだが、結局ギルナールは、一人でも逃亡する道を選んだ。彼は、連れ去ろうとしていた少年の首を掻き切り、エディたちが少年に気を取られている間に、逃げ去った。
少年をエディに任せ、慌ててアリアとヴィスパが後を追ったが、捕まえることは出来なかったらしい。
少年は、結局一命を取り留めた。ギルナールも、最初から殺すつもりはなかったのだろう。出血は多かったものの、大した傷ではなかったようだ。
しかし、何故屋敷の人間全員を殺しておきながら、少年だけを連れ去ろうとしたのか。しかも、少年は言葉を喋ることが出来た。特別の教育を施されていたらしい。何故、その少年だけが特別扱いされていたのか。

少年は、S.B.Rの中央センターに保護され、そこで治療と教育を受けることになるはずだった。
あれだけの事件の被害者を、再び囮に使うなど、許されることではないとエディは思う。しかし、もうすでにその案は通り、しかもこの西海岸支店へと少年は移送されてくるという。
気が重い。
エディはため息をつく。
そういえば自分は、あの少年の名前すら知らない。彼に名前があったのかどうかすらだ。こんなことで、少年の面倒など見れるのだろうか。

しかし、それでも朝は来る。
太陽の眩しさに目をしばしばさせながら支店に出社すると、すでにアリアが待っていた。
「遅いわよ」
偉そうに言っているが、いつもはアリアは、先輩特権だと言って、エディの一時間後くらいに出社してくるのだ。
「はあ、早いっすね」
とりあえず無難に話を流して、エディは朝の受付の準備を始めた。受付票を出して、ブラディアンと人間用が混ざらないように、箱に補充する。夜のシフトの社員から、引継ぎを受ける。全て終わる頃に、サチコが出社してくる。
「おはよーご……」
「サチコも遅い」
いつものようにサチコが挨拶を終わらせようとする前に、アリアの声。
「え、え、っていうかアリアさんこそ早くないですか?」
いきなり怒られたサチコも困惑顔だ。そりゃそうだろう。いつもサチコと同じか、それより遅くにしか来ない人間が、すでに来ていてしかも「遅い」だ。
「も、もう、いいから受付、エディと変わって。大事な話があるのよ」
アリアも自分の理不尽さに気付き始めたらしい。多少早口に、誤魔化すようにサチコを受付に座らせると、エディを従業員室へと引き込んだ。
「……もうすぐ来るのよ」
扉を閉めながら、意味もなく声をひそめてアリアが言う。
「後五分くらいかな。ヴィスパがつれてくるから」
「ああ、あの例の……」
エディが言い終わらないうちに、裏口が開く音がした。重い足音が近付いてくると、ゴンゴンと扉がノックされる。
「はーい。早かったのね」
アリアの返事と同時に、扉が開いた。
「ああ、中央の奴らが早く来てな」
扉を閉めたヴィスパの横には、小柄な少年が並んでいる。頭の剃りあがった、筋骨隆々のヴィスパと少年が並ぶとまるで……
「なんかあんた、誘拐犯みたい」
エディが言葉を飲み込んだずばりそのことを、堂々とアリアは口にした。
「……ほっとけ」
自覚はあったらしい。
「何と言うか、お前の言葉は胸に刺さる。もっと優しく話せんか」
「性格だもん。無理よ」
はあ、とヴィスパは大きなため息をついた。ヴィスパは、元はアジアの方の寺の住職だったらしい。そのせいかは知らないが恐ろしい見た目に似合わず生真面目な性格で、アリアとは合わない面も多いようだ。
少年が所在なさげに立っているのを見て、とりあえずエディは椅子を勧めておいた。少年は大人しく椅子に座る。
「あの、で、この子、どうすんすか」
ヴィスパのことよりも、今は少年のことだ。エディが口を挟むと、二人はようやく少年の方を見た。
「とりあえず、面倒はあんたに見てもらうとして」
その決定に変更はないらしい。エディは思わずため息をつく。露骨すぎたか、と慌てて少年の方を見たが、彼は特に気にした様子もなく、ジュースを飲んでいた。
「で、あんたの仕事はしばらく、この子の護衛。支店に出社する必要はないわ。ギルナールに支店に来られたら大パニックだもの」
確かに、ギルナールがこの子を狙って来る可能性が高いからこその囮作戦。実際に彼と対峙した場合、戦わなければならないことも考えられる。こんな支店で騒ぎを起こすわけにはいかない。
「私たちも、普通の仕事はしないといけないけど、とりあえず定期的に様子は見に行くわ。バックアップは任せて」
普段のことは、エディに丸投げということか。
「えーと、じゃあ家とかも、俺んちに泊めた方がいいんすよね?」
「当たり前」
アリアは一言で言い切った。
エディは、ブラディアンになり、S.B.Rで働くようになってから、自立を建前に一人暮らしを始めた。少年が一人増えた所で支障はないが、
「それって……俺んちにギルナールが来る可能性もあるってことっすよね」
ためらいがちに話を切り出すと、ヴィスパが気の毒そうに頷いてくれる。
「はあ、分かりました、分かりましたよ。やればいいんでしょ」
もう観念するしかないらしい。こうなったら、とにかく少年を守って守ってギルナールがやって来た時の被害を少しでも少なくする事が、自分の家を守ることでもあるだろう。
「よし。じゃあ今日はもう家に帰ってオッケーよ」
エディが決断した瞬間、アリアはにこやかに笑顔を浮かべて見せる。笑っていると顔のキツさも緩和されて、彼女は本当に美人だ。
「多分その子さ、屋敷から出てから義務的な扱いしか受けてないからさ。優しくしてあげなさいね」
言いながら、手を振られて、エディはため息をついた。
たまに、こういう優しい事を言うから、ついつい普段の傲慢さを許してしまうのだ。

2008/02/15(Fri)18:16:38 公開 / こゆび
■この作品の著作権はこゆびさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なんだか、こういう序章の書き方で、世界観が上手く伝わるのか不安で、投稿してみました。
説明不足な気もするし、説明しすぎてうざい気もします。
始まったばかりですが、ご感想など、いただけたら嬉しいです。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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