『Smoking Girl』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:金色の雫                

     あらすじ・作品紹介
学校の屋上で、授業をサボる少年そしてそこに来たのは「タバコを吸う女」屋上から始まる二人の関係。そして―――

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『Smoking Girl』
遠くで学校のチャイムがなる。
この音がなるといつもアイツのことを思い出す



ここは学校の屋上。いるのは俺一人。中学三年生になってこんなところで授業をサボっているのは俺ぐらいだろう。
皆、受験、受験、受験……。やけになって他の奴が授業を受けているというのに、自分は受けない。
将来、未来が決まっているものにとって授業など出る気にもなれない。
 そんなことを考えていると誰かが階段をあがってきた。
また担任か生活指導の田中かと思ったが、そいつこの学校の制服を着た、女子生徒だった。見たことのない顔。というより、クラスの奴の顔もよくは知らないが。
 そいつは当たりを見回すとおもむろにポケットから、タバコとライターを取り出した
俺は、親父がタバコを吸っているのでタバコは嫌いだった。女はタバコに火をつけて勢い良く、吸った。
「ごぅほッ!ごほッ!なんだこれ!」
その光景を見て俺は思わずふきだしてしまった。
「誰?!」
俺は物陰から出た。
「誰だお前?」
「教える必要はないだろ?べつに」
「別にいいけど。このことは誰にも言うなよ」
力強く言ったようだが、言葉遣いと裏腹にかわいらしい声だった。
「んなめんどくさい事言わねぇよ。それより何でタバコなんて」
女はまだ火のついたタバコを持っていた
「関係ないだろ。そんなことよりなんで…」
「俺、今から寝るからその間は吸うなよ」
女は驚いたように眉を細めた。
「あんた今からねるの? いい子はさっさと授業に出な」

俺はそのまま夢の中に入った。



それから、屋上に顔を出すたびに、あの女と会った。あの女は俺が学校の屋上に行くたびにそこにいた。
「あんたいっつもここにくるね」
そんな声に起こされ、あくびをする。なかなかいい目覚め。
「おまえもな」
最初はこんなやり取りだったが徐々に一言、一言と交わす言葉が増えていった。そのときでも絶えず彼女の口か手には「タバコ」
 最近では気にならなくなってきたが近くで吸われるとやはり嫌だ。親父の匂い。自分の親父はいつもタバコのにおいがしていた。親父はいつもえらそうに高そうな椅子に座っている。
おふくろを捨て、あととりとなる自分を連れ、ここに来た。
だから俺は「タバコ」と親父は嫌いだった。しかし彼女といるときはそんなことはなかった。親父は嫌いだが。
俺の隣で空を眺める彼女。それを眺める俺。これがずっと続けばいいと思った矢先、いたずらっぽく笑う彼女のまっすぐな視線。
「なに見てんだよ」
腹に刺さる右拳。



「お〜いるのか〜?」
いつもの景色、いつものあいつ。手を振ってくる。 ちなみに名前はまだ知らない。
「いつもどうりだよ。親は学校にいけって言うからな」
そのときふと思った。こいつは俺以外に友達はいるのか。当たりさわりのないよう考え、聞いた。
「俺より女友達のほうが話あうんじゃねぇの?」
そういうと彼女は黙り込んでしまった。この質問はだめだったようだ。すまないと言おうとしたとき彼女の口が開く
「あたし、こんなに沢山話が出来る人は他にはいないんだ」
そういうと立ち上がりフェンスのほうに行き、グラウンドでのサッカーの授業をみおろす。そのときの彼女はとても美しくかった。しかしどことなく悲しい目をしていた気がする

「まぁ俺もいないけどな」
そうすると、彼女は見下したように笑っていった。
「こんなとこにいるような奴だもんな」
「ふん、てめーも同じだろうが」
「それもそうか」
その瞬間大きな笑い声が伸びていった。久方振りに笑う。前に笑ったのは確か母といるとき、毎日が楽しかった日々。
しかし、今は彼女といられるこの日々がとても楽しい。

階段を誰かが上ってくる、二人は同時に固まる。今までに何度か屋上で一緒にいるところを他の生徒に見られたことはあるが、今までとは違う足音。
「貴様ら! 何でこんな所に居るんだ、授業に出ろ!」
生活指導の田中だ。声で場所がばれたか、しばらくあそこは使えないだろう。



それからの二人だけの時間は登下校だけだった。屋上には鍵がかけられている。
「はぁ〜ヤッパダルイな学校は」
タバコをくわえながら、帰り道で彼女は言う。
「中学生が言う言葉じゃね〜な」
「だろうなっ」
二人の笑い声があふれる。最近笑うことが多くなったような気がする。これも彼女のおかげなのか、ちなみに彼女の名前は知ったがどちらも名前では呼び合わないようにしている。休みがちだった学校には毎日行くようになり、毎日が楽しい。
 急に彼女の空気が変わった。表情がくもる。
「ねぇ……あんた進路どうする?」
その質問で最初に頭に出てきたのは親父の会社。
自分には縛られた未来がある。親父の会社という鎖からは逃れることは出来ない。
「親の会社を継ぐために、高校に行くんじゃないかな」
「私はどうしよう……」
こんな弱気の彼女を見たのは初めてだ。今までは俺に拳を向けてくるような、強い彼女だったのに。次の言葉が出てこない。
おもむろに俺は口を開いた
「ひとまず高校に行ったらどうだ? それからいくらでも考えればいい」
「高校か……私馬鹿だからなぁ」
「だろうな」
彼女の右拳が俺の右頬に刺さる。しかし、その拳には今までの力は感じられない。

このときは何も考えていなかった。今後のことなど。未来のことなど。そして彼女ことを。



 次の日、いつものように通学路を歩いた。
なにもない、ただの道。いつもならもうそろそろ彼女が後ろから殴りかかってくるはずだが今日は何事もなく学校に着く。
そして学校に彼女の姿はなかった、そしてその日……彼女は来なかった。
うすうすわかっていたのかもしれない。彼女がいつか俺の前から消えることを、
そしてそれを認めたくない自分がいることを。

それから一週間、彼女は学校には来なかった。彼女がいない日々がこんなに悲しい、胸に穴が開いているかのような、心が出張しているような……なにを考えているんだ、俺は。
その日の帰り道、携帯電話が久しぶり鳴った。この前の迷惑電話以来だろう。そして……それは彼女からのものだった。
そのこえは確かに何度も聞いた彼女の声だ
彼女はかすかな声でいった。
「私、アメリカにいくことになったの……母が迎えに来て、一緒に住もうって」
俺は愕然とした。何か良くわからなくなりながら、声を振り絞る。
「そっ、そうか。いついくんだ?」
「すぐにでもって言ってる」
彼女のためを思えば喜びの言葉を彼女にかけるべきなのだろう。今まで相談を受けていた『友達』として。
しかし俺はそのまま電話を切った。俺は……俺は、ただの「友達」で、いたくない。
彼女は自分の道を見つけたのかもしれない、しかし自分は素直には喜ぶことはない。アメリカに行くということは、もう会えないということを意味する。

 今、ようやくわかった。彼女は僕にとってとても大切な人である。一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に過ごした時間。
いつもこうだ、大切なものはそれが大切なものと気づく前に消えてしまう。そして後に残る後悔
だが、今回は違う。まだ自分の前から大切なものは消えていない。まだ気持ちを伝えることぐらいはできる
そしておもむろに走った先は学校の屋上だった。



 学校の屋上の鍵は壊されていた。
時間は今5時をまわったところ。涼しい風が顔にあたり、上を見ると空は茜色になっていた。そこに彼女はいた。グラウンドのほうを見ている。ここで声を出したら彼女は消えてしまうのかもしれない。
そのような感じがあたりを漂っていた。俺は声を振り絞った。
「夏美!」
初めて呼ぶ本名。夏美はこちらを振り向いた。その顔はいつもと同じようだが、目は赤い、泣いていたようだ。そして少し笑っている。
「初めて、名前呼んでくれたね。嬉しい」
一週間ぶりの声。昔から誰ともしゃべらなかったのに、孤独というものからまた彼女によって解き放たれる。
「私ね、アメリカに行ってママの会社で働くんだ。ママは世界の子供たちのための会社を経営しているの。わたしも人の役に立てそうだよ!」
親の会社、その言葉に反応した。自分は親の会社を継ぐのにこんな希望に満ちた目が出来ただろうか。そして、俺の目を見て言う。
「私ね、ここを離れるのはとても嫌。だけどあなたが教えてくれた、自分が出来ることをやるって事」
そして時が止まったかのような、短い言葉。
「ありがとう」
その言葉は永遠の別れを告げるような言葉だった。そして彼女は俺の右側を通りすぎて、階段の方へ向かう。
ここで何か言わなかったら俺は一生後悔しただろう。
「なぁ夏美」
彼女が止まる
「俺は、お前が好きだ。そして……元気で。また会おう。」
これが俺の精いっぱいの言葉。お世辞にもいいとは思えない。
「私も」
そういって彼女はポケットに入ってたタバコとライターを投げながら言う。
「私禁煙するね、我慢できなくなったら、帰ってくるかも」
タバコとライターを受け取った。彼女は目を赤くしている。
「わかった。それじゃ、かえってくんなよ!」
タバコを振ってみせる。そして彼女は笑いながら走り去って行った。これでよかったのか、いや、良かったのだろう。
あいつは、あっちでもうまくやる。俺は……ここであいつが帰ってきたときにまた、送り出してやるためにここでがんばろうと思う。
残された俺。おもむろにまだふを切ったばかりのタバコから一本取り出し、火をつけ口に運ぶ。
「やっぱり。嫌いだ」
そして一粒ナミダを流した。上を向き。それ以上流れないようにして。
口から出ていく煙は空に上り、空の一部となって、消えていく。



 あれから結構な年月がたった。
俺はその後親父の反対を振り切り自分の力で会社に入社。親父はその後、養子をとったらしく連絡は上京してから一度も来ない。今ではすっかり会社の喫煙所で自分もタバコを吸い、昔のことを思い出す。一度だけアイツから手紙が来たことがある。彼女は親の会社で元気にやっているそうだ。そういえば返事を返していない。
口から白い煙を吐く。いまでは嫌だったタバコが手離せなくなってきてしまった。
俺は俺のやれることをする。親の人形でなく、俺の力で。
 そこに新入社員のようで、真新しい制服を着た女性社員が隣に座った。
そしておもむろに口が開く。
「タッタバコ、一つもらって、いいですか!」
俺の目をまっすぐに見て、大きな声で言った。
そのとき一瞬、目の前の子と、夏美が重なった。あいつはいつもまっすぐ目を見て話していた。
「どうぞ」
そういって一本渡すとポケットから100円のライターを取り出して火をつけ、恐る恐る、口に運んだように見える
「ごぅほッ! ごほッ!」
彼女はなみだ目にしてこっちを見る。すいませんとでも言っているようだ。その時、俺はもっていたタバコの火を消した。
「お前、タバコ初めてだろ」
目を大きく開いてまた大声で言った
「すっ…すいません!!」
「あやまられても……」
「あっすいません!」
「…………」
二人同時に笑う。久々に笑った。今まで失ってたこの感じ。

俺はこれからどうなるかわからない。だけどあいつがいたからこそ俺はここにいる。
今度は俺が何かしてやる番。
そして今言える事。


「なぁ……一緒に禁煙しないか?」


2008/02/01(Fri)17:24:16 公開 / 金色の雫
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■作者からのメッセージ
初投降で不自然な所や間違いがあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
二人の話をもう少しふくらましたいと思うのですが、思いつかなくて。
読んでくれた方、ありがとうございます!!
批判、感想御願します

→少し修正しました。
感想くれた方ありがとうございます。

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