『運命螺旋』 ... ジャンル:SF 時代・歴史
作者:時永 渓
あらすじ・作品紹介
いつもと同じ、日常の繰り返しだった。 いつもと同じ、乾いた笑い声。 いつもと同じ、囁き合う少女達の潤んだ瞳。 いつからだろう狂ってしまったのは。 あの幸せな日々が最高に不幸せな日々になってしまったのはいつだったろうか。 昨日か、先週か、昨年だったか、それとも八百年前? 今日とは何? 昨日とはいつ? 来るべき明日は何処へ?
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【 序章 蛍雪の紅 】
物凄い数の蛍が舞っていた。
暗黒の夜空へ真赤な灯りを放ちながら、揺られるように昇っていく。
徐々にそれの数は増え、やがて音を上げながら緋色の炎が高々と両手を伸ばした。
燃えている。
あれは蛍なんかではない。火の粉だ。
平屋の家屋が炎に侵されていく。
火の手は次第に大きくなり、家屋を完全に飲み込んだ。
漆黒の夜空を夕刻の真紅に塗り替えていく。
炎に包まれた家屋の中には人影があった。
一つは長身。きっと男。
一つは細身。たぶん女。
そしてもう一つは――異形。人に有らず。
異形のものと対峙するように男と女は横に並んでいた。
男は女を庇うように前に数歩歩み、女は怯えたように半歩退く。
異形のものは軽く跳躍し、女に飛びかかかった。
一瞬だった。
女の影は声もなく崩れ落ちた。
男は腰に差した棒状の細長い何かを引き抜く。
異形のものが低く咆哮をあげる。
二つの影は同時に跳躍し、縺れ合いそして片方が崩れた。
残ったのは、人に有らざる者だった。
【 第一章 】
世界は白い。
蒼鉛のように変に赤み掛かった雲も、それを映す大きな海原も、吐く溜め息も総てが白かった。
地元の高校の制服に身を包む茅野晶は紫煙をあげる煙草を啣えながら季節外れで人気のない白い砂浜を眺めていた。
潮騒だけが虚しくあたりに響く。
夏場は平日の昼間でもあんなに賑わっていたというのにそれがまるで嘘のようだ。
「また煙草? 全く茅野ちゃんは」
背後から声をかけられた。晶は振り替えらずとも誰だかすぐにわかった。
男子は勿論、女子を含めても晶のことを「茅野ちゃん」と呼ぶのはクラスでただ一人。幼馴染みの井坂恵美だけだ。
恵美は晶の前に回り、風に攫われる長い髪を押さえながら笑みを浮かべた。
「学校さぼってこんなとこにいると補導されるよ」
言って恵美は晶の隣に腰を下ろす。
「大丈夫。誰も来やしないよ」
晶は煙を吐き出す。冷たい風に流され、紫煙はすぐに掻き消された。
恵美はそれもそうかと呟いて白く細い指を一本立ててきた。
「何、その手」
晶が顔をしかめると、恵美は満面の笑みを浮かべた。
「まったく、気が利かないなあ。一本、あたしにも」
晶は目を見開いた。
昔からずっと一緒だった恵美が煙草を吸うところなんて今まで想像をしたことがなかった。
晶は渋々、脇に置いた鞄の中から煙草の箱を取り出して、一本恵美に渡して百円ライターで火を点けてやった。
「むせても知らないぞ」
恵美は煙草を口に啣えてすぐに眉間に皺を寄せた。
「何これ、空気吸ってるのと変わらないじゃん」
言って、恵美は煙草を防波堤のコンクリートに擦り付け、おもむろに自分の鞄から煙草の箱を出した。そして手慣れた手つきで値の張るブランドもののジッポを操り煙草に火を灯した。
「恵美はいつから吸ってるの?」
「中二から。勉強と部活の両立が出来なくて苛々してる時に吸い始めたの。毎日一箱は吸ってるよ」
晶は呆然とした。優等生ぜんとした幼馴染みがヘビースモーカーだったとは。
「煙草なんか吸っておばさん、泣かない?」
晶が聞くと、恵美は一瞬きょとんとしてそれから声をあげて笑った。
鈴を転がしたような心地よい音が響く。
「泣かないよ。お母さんが味を教えてくれたんだもん。お母さんが居ない時に寝煙草とかで火事にすれば別だろうけど」
恵美の母は水商売をしながら一人きりで恵美を育ててきた。今も老いていく一方の体に鞭を打って夜間に働いている。
晶は続ける言葉を見付けられなかった。
波が立ち、潮騒が大きくなる。
時間ばかりが流れていく。けれど二人は動こうとしない。やがて、雲間から雪が零れ落ちてきた。
晶は小さく身震いをした。
「寒っ。雪降ってきたし。そろそろ授業も終わる頃だろうから家に帰るけど、恵美はどうする」
晶は恵美の顔を見た。
彼女はぼんやりとどこかを見つめていて晶を見ようとはしない。
「いいよ、帰えって。あたしはもう少しここに居たいから」
雪は少しずつ強くなっていく。
晶は鞄から学校ジャージを取り出して、恵美の肩にかけてやった。
「風邪、ひくなよな」
晶は鞄を掴み、腰をあげると恵美に背を向けた。
「また明日。学校で」
言っても返事はなかった。晶はもともと期待などしていなかったが肩を竦める。
もう一度身震いをして歩きだした。
晶は振り返えらない。あの状態になってしまった彼女は何も手に付かない事はずっと一緒に過ごしてきて知っているから。彼女は晶を見送ってはいないだろう。
見慣れた街が近付く。
街の大半は観光地になっていて、夏場は人で賑わうが今は地元の人だけが客だ。商店街も夏場の儲けを狙って土産屋が大半だ。晶はその商店街を通り抜け、住宅街へと入る。
晶と恵美はこの街で隣同士の家で育ってきた。
小さくて、夏場しか栄えない田舎でずっと。
恵美はともかく、晶はこれからもずっとここで暮らすのだろう。
この街の冬景色も晶は好きだった。
何もないけど、居心地がよかった。
今みたいに、雪が降る景色も感傷的だが嫌いじゃない。
交差点に差し掛かり、赤信号に足を止める。
飛びかうように走る自動車のテールランプが白い雪を赤く染める。
歩道に植えられた裸の木々に白い雪が積もり始める。
晶の他に外を歩いているのは降る雪にはしゃぐ帰宅途中と思しき、小学生達の群れだけだった。
晶は信号が青に変わると横断歩道を歩き始めた。
晶の横を女が抜き去る。
その時、不思議な感覚がした。
声が聞こえた。
女が何かを囁いたのだ。
はっきりと晶には聞こえた。
晶は横断歩道の真ん中で足を止めていた。いや足元が覚束ない。まるで前に進むことを拒んでいるかのようだ。
横断歩道の白いラインが歪み、波をうつ。
顔をあげ、色を失った歪んだ視界に横断歩道の向こうで白黒の女が気味悪く薄く笑っている。
――捜しなさい。貴方の本当の運命を。むかしむかしで始まる話は終わりにしましょう。
女は晶にそう囁いた。
本当の運命? 何だよそれ。
晶は更に混乱した。
鮮やかな色をなくした信号機が明滅を始める。
耳障りなクラクションがあたりに響き、晶はその場に倒れ伏した。
目覚めは悪く、夢見は最悪だ。
雪の降る景色と、横断歩道、明滅する信号機と笑う女、それと激しくなるクラクション。
あれは一体何だったんだろうか? 晶は体を起き上がらせると辺りを見渡した。
上は夜空のように暗いが星は一つもなく、地面一面が白い。あの雪がもうこんなにも積もったのだろうか?
そう思ったが、違った。
晶は真っ白い花の中に立っていた。
なに、これ……。
呟いてもその声は晶の耳にすら届かなかった。
どうなっているの? 耳が聞こえなくなったのか?
しかし、歩めば足音がはっきりと耳に入ってきた。耳が聞こえなくなったわけではないようだ。
だが、その音はおかしかった。
どう歩こうとも花を踏みつけてしまうのだが、花を踏むと地面に張った薄い氷の上を歩くような小気味良い音がした。
晶は恐怖の為に震えていた。
どうして、誰もいない?
どうして、こんなところにいる?
ここは死後の世界か?
知らず知らずのうちに足は駆け出していた。
しかし晶以外に人はいない。それどころか終わりは見えない。
孤独だと思い知る一方で、余計に不安が募っていく。
叫んでも叫んでも喉が痛むばかりで自分の声が耳には届かない。
なんで自分一人きりなんだよ。
晶はがむしゃらに走った。
だけど、終わりは見えない。あるのは花、花、花。
「どこへ行く?」
背後から声がした。
晶は足を止め、振り返って事情を説明しようとした。
だけどそれは自身の耳にすら届かない悲鳴に変わった。
あの女だった。
交差点で囁きかけてきたあの気味の悪い女。
晶は後退る。
女が歩み寄る。
「本当の運命を捜しなさい」
だから何なんだよ。本当の運命って。
晶は泣きそうな顔をしながら口を開いた。だが、声はやはり自身の耳には届かなかった。
しかし、女には伝わったようだ。
「大丈夫。それはすぐそこにある。それは過ぎてしまった。だけど、ずっと先に」
わけわからない。帰りたい。あの街に仙月に帰りたいんだよ。
晶はもうほとんど半狂乱だった。なんとしてもこの気味の悪いところから離れたいと思った。
晶は強く拳を握ると、女に向かって殴りかかった。
女は避けるでもなく、ただ目を閉じた。
晶の拳が女の顔に当たった。
しかし、それに手応えはなかった。
花を踏んだ時と同じ音がそれよりも更に大きく聞こえた。
一瞬、目を疑った。
晶の拳を受けた女の顔に罅が入った。
やがてそれは下へ下へと広がり、女の体は放射状に散った。
晶はまた後退る。
女が立っていた所を中心に花が波紋を描くように飛び散り、どんどん、闇に飲まれていく。
女の声は徐々に遠くなりながら四方八方から何度も何度も聞こえた。
――運命はすぐそこに
声にならないと知りつつも晶は悲鳴をあげた。
夢なら覚めろ。夢なら覚めろと願いながら。
暗転。
晶は自分の心臓が大きく跳ねたのを感じた。
胃の辺りを中心に体を捻られたような鈍い痛みが全身をはい回る。
倒れこみ、胃の上をきつく押さえ込む。
息が荒くなる。
熱い。体中が焼かれているようだ。
晶はのたうち回る。
体が引きちぎられていくような気分がした。
やがてその闇が晶の意識の中で真っ白く変わり始めた。
そして痛みが鎮まり、荒れた息を整えると恵美がいることに気が付いた。真っ白いところに恵みが立っていた。
茅野ちゃん、と笑みを浮かべて手を振っている。
やがてたくさんの音に包まれ、恵美のいるところに色が塗られる。
喧騒にも似た笑い声、陽だまりのような暖かさ。
学校に、居た。
晶は教室の入り口に立っていた。
恵美が走り寄って来る。
「茅野ちゃん、事故大丈夫だった?」
小首を傾げる恵美を晶は見下ろす。
「う、うん。大丈夫」
よかった。
さっきのは夢だったんだ。
辛く、苦しい夢。
事故のせいで見た夢だ。
晶は胸を撫で下ろした。
「本当に?」
恵美は傾げた首を更に深く曲げた。
「うん、本当に」
晶が言うと恵美は安心したように頬笑んだ。
「よかった」
俯いて恵美はしゃくり上げた。しかし、それは甲高い笑い声に変わっていた。
「体がばらばらになっても、茅野ちゃんが生きていてくれて」
恵美は大きな目を更に大きくして、狂った笑い声をあげる。
晶は体に痛みがあるのに気が付いた。
見ると胸から下を失って、何故か血塗れになった体が宙に浮いていた。
晶は悲鳴をあげる。
しかし、声は出ず、口から大量の血が溢れてくる。
苦しい。
死にそうだ。
誰か、助けて……――
「目を覚ましたようです」
凛とした女の声だ。
「そうか。よかった」
今度は低い男の声。
晶はゆっくりと重い瞼を持ち上げる。
黒髪の若い女の顔が目の前に飛び込んできた。
晶は起き上がり、辺りを見渡した。
病院のベッドの上だろうと思ったが違った。
晶は布団で眠っていた。
床も壁も板張りで、晶の寝ている布団の下に畳が敷いてある。
道場には入ったことがないが、晶のイメージする道場とぴったりと重なり、混乱した。
ここは一体……?
おかしいのは部屋だけではない。男も女も着ているものが洋服ではなく、着物のようなものを着ている。いや、着物のようなものではない着物だ。
どう見てもここは病院ではない。
晶は鋭い眼光の初老の男にじっと見られ、身動ぐ。
「あの、貴方は」
晶が男に尋ねると女が眉を吊り上げた。
「無礼な。礼儀も知らぬのか」
晶を睨み付ける女に男が良いと制す。
無礼。晶は友達とふざけながら言う以外に使ったことはない。ましてや、初対面の人には当然使わない。
何なんだよ、こいつら。
「名を問うときはまずそなたが名を名乗れ」
男がしわがれた声で唸るように言う。
その声に晶は圧倒された。
「晶です」
小さな声でそれだけ言うと、男は一瞬無表情になり、それから間をおいて大声で笑いだした。
晶はその姿に腹が立った。
自己紹介をして笑われるとは。
「いや、すまぬ。随分と短い名乗りだったものでつい、姓も名乗らぬとは」
男は笑いを止め、息を吸う。
「我が名は今井四郎兼光。そしてこれが下人のいや、門弟の鈴だ」
男――兼光に顎で示され鈴は頭を下げた。
古めかしい名前だ。
晶はからかわれているのだと思った。
「それ、本名なんですか? ふざけてるんですよね? 着物を着て、大掛かりなセットまで。わかった。何かの撮影だろ」
晶は知らず知らずのうちに早口になっていた。
冷たいものが背筋を這う。
何かの撮影だったとしても、事故にあったはずの自分がどうしてこんなところにいる?
兼光も鈴も眉をひそめ、困惑した顔で晶を見ていた。
「そなたが何を申しておるのかわからぬのだが」
ふざけたふうでもない兼光の言葉に晶はたじろぐ。
「あの、ここの地名は?」
晶は言葉を絞りだすように尋ねた。
喉がからからに乾いたように声が擦れていた。
「仙月だ。そなたはこの屋敷の門前に倒れておった」
少しだけ安心した。此処はどうやら町内のようだ。
「早く帰らなきゃ。お世話になりました」
晶は立ち上がろうとしたがうまく立ち上がれずたたらをふんだ。制服の所々が破れ赤黒く汚れており、胸の辺りが締め付けられるように痛む。これがあの夢の原因だ。
「無理はせぬほうがよい」
兼光に支えられ、うまく立つ。
「でも、帰らなくちゃ」
晶は支えられながら、戸に近付き、ゆっくりと引き戸を開ける。
「えっ……」
縁側のような長い廊下に足を踏み出した。
晶は赤く染まる空に目を細めた。
目の前には広い庭園が塀に仕切られながら広がり、その塀の向こうには木々が生い茂っていた。
それは晶の知る仙月とは違っていた。
晶はへなへなと崩れた。
「うそ」
嫌な予感はしていた。
事故にあったはずの自分が民家のようなところにいることも、二人とも着物のことも、自分の制服がぼろぼろなことも、全部そのせいだ。
たぶん、自分は事故で死んだのだ。
「どこか痛むのか?」
心配顔の兼光に顔を覗き込まれ晶は気付く、帰るべき場所はもいどこにもない。
「いえ、なんでもありません」
答えると、そうか、と呟き兼光は空を見上げた。
「じきに日も暮れよう。今夜はここに泊まれ。この辺りは日が暮れると狼が出るぞ。遠慮はいらぬ、なにせこの屋敷にはわしと鈴しかおらぬ」
それだけ言うと兼光は晶を抱きかかえ、布団の上に寝かせた。そして鈴を呼び、部屋を出ていった。
晶は戸が閉まる音を聞くと、声もなく涙を流した。
何が何だかわからなかった。
どうしてこんなことになったのかも、仙月の街並が全然違うことも理解ができない。
それに自分は死んだはずなのに、なぜ、こうして自由に動き回っているのだ。
晶は頭まで布団に潜ると、子供のように大声をあげて泣いた。
空腹で目を覚ますと、晶は部屋を出た。
澄んだ冷たい空気が心地よかった。
太陽はすでに真上に昇っている。
晶はすぐに学校にいかなくちゃと思い、それを打ち消した。
ここに学校はない。
お父さんもお母さんも恵美もいない。
独りなんだ。
また涙が溢れそうになる。
晶は目をこすり、息を大きく吸う。
潮の香のする仙月の冷えた空気が身体中を駆け巡る。
十分泣いた。
もう泣くのはよそう。
そう呟いて、息を吐く。
「お体のほうはもうよろしいのですか?」
庭の隅に鈴が立っていた。
身体中を泥だらけにし、ざるを抱えていた。
「はい。ありがとうございます」
答えて、腹の虫が鳴る。
「あ、すぐにあさげの用意をします」
鈴は何処かに歩み去った。
晶がしばらくそこに立っていると、今度は兼光が鞘に納まった刀と思しきものを持って現れた。
「目を覚ましたか」
兼光は昨日とは打って変わり緊張感があった。
「はい」
晶がそう応えると兼光は薄く笑った。
「わしは夕刻まで戻らぬ。話はまたゆうげの席で」
そう言うと兼光は厩から白い馬を連れて庭から出ていった。
「晶殿、晶殿」
鈴の声が自分を呼んでいることに気が付いた。
鈴は廊下の端に立っていた。
「あさげの用意ができました」
鈴はこちらですと、晶を招いた。
床の上に置かれた膳の上には幾つかの皿が載せられていた。
どれも野菜――というより植物がメインで、肉や魚は一切無く、ご飯も白米ではなく麦のようなものが混ざった雑炊のようなものだった。
晶は匙を取り、おかずを口に運んぶ。
奇妙な、決して美味しいとは言えない味が口中に広がる。
「口に合いませんでしたか?」
晶のそばに座っている鈴が淡々とした口調で言った。
「いや、そう言うわけではありませんよ。美味しいです」
美味しいです。
ここでは贅沢は言っていられないのだ。
晶は所詮、居候の身分。我儘を言っていられる立場ではない。それに、これからもこれを食べ続けなくてはならないのかもしれないのだから。
「ならばよいのですが」
鈴は安心したように息を吐く。
鈴はしっかりとしてはいるが、顔立ちからは晶とさほど変わらない年齢ではないだろうか。
そんな人がこんなにも働いているとは。
「あの、一晩宿を借りたお礼、と言っては何ですが、何か手伝えることとかって」
晶が言うと、鈴はきょとんとした。
「いえ、そんな」
鈴は両手を振った。
「晶殿は客としてもてなせと仰せつかっておりますゆえ」
「でもそれじゃ、こっちの気が済まない。というより凄く、なんて言うのか罪悪感? じゃないな」
晶が言い淀むと鈴はクスリと小さく笑う。
「じゃあ、共にゆうげの準備をしてはいただけますか」
「はい」
晶は返事をし、食事の残りを掻き込む。
味付けが薄い気もしたが、それは鈴が兼光の健康を気遣って塩分を控えているのだと納得することにした。
2007/12/09(Sun)11:03:43 公開 /
時永 渓
http://id49.fm-p.jp/36/drifters/
■この作品の著作権は
時永 渓さん
にあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
此処まで呼んでくださった皆様に感謝です。
ついでに改善策などいただければなと思います。
作品の感想については、
登竜門:通常版(横書き)
をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で
42文字折り返し
の『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。