『おとこど』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:修羅場                

     あらすじ・作品紹介
前世は異性なんじゃないかと思い込んでる神楽坂神也(20)と神也いわく我侭でロリコン気味の同僚・菊池秀雄(25)のコンビが山小屋で出遭ったのは子供とオッサンと難事件?

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 ――……どうして。どうしてなんだろう……
 ……僕が何をしたっていうんだ。……ねえ、……だれか――だれか教えて……。

 だれでもいいから――…僕に教えてよ。
 白いクレヨンで塗りつぶしたようなまっしろいお空がひろがってるしたで、ねずみいろがまじったしろい土の上にきづいたら僕がいた。
大きな木がなんぼんか囲んでる森みたいなところ。
ぼんやり透けててとうめいなふわふわの雪みたいなほうせきが白いお空から降ってくる。
それで白く冷たい雪のなかで大きく開いたあかい花の真ん中に僕と――だれだろう?

 目の前にだれかがたおれてて僕はそれを見ていた。
 そこから綺麗なあかい花が咲いていたんだ。

 とても綺麗で――僕が一番、大好きな色。

 *

 今年の冬はやけに肌寒い十二月の朝を迎えた公園前の派出所の中まで外の冬景色に負けじと冷え込んでいた。
「神楽坂」
「……?」
 やけに冷える部屋の中でろくに身体を動かさずデスクに向かって書類を整理していたら不意に後ろから声をかけられたから態々振り返ってやったのに伸びきった長い黒髪が十二月の風に乗って靡いただけでそれを見ていた同僚に気味悪がられた。
「なんでもない」
 気味悪がっている割には何度も俺の反応を見て暇つぶしをしている先輩達は悪戯に笑い出すといつもの様にしらけて言い残した後は自分の持ち場に戻る。
単純に放っていたらいつの間にか伸びきった黒髪を縛り上げる事もなく垂れ流していたもんだから自棄に後ろ髪が重く感じる。この冬場はこれで丁度良いと俺はそう思っているのだが「後姿が女に見えるから止めてくれて」とか言われる事が多い。
もともと俺の実家はオカマバーで物心付く前から女装を見につけていた俺は幼稚園に上がる前から入った後と小中高校と社会人になった今でも俺が女装を本心でやっていない事を知る昔からの同僚ですら気味悪がる様になってきたが最近ではその同僚にも異変が現れてきた。

 暫くデスクに向かっていた俺自体の体もそろそろ熱を欲しがり始めた頃で空からちらついて地に降り積って止まない白と灰色の混じったモノクロの景色をのそのそと歩きながら見流しつつ熱を篭らしたストーブに近づき腰を下ろす。
ふと視線を上げるとストーブの上に置かれたヤカンが勢いよく沸騰しているのが見えた。つまりコーヒーが沸いたのだ。
ヤカンで茶は沸かすがコーヒーはコーヒーメーカーだろうと思ったのは今更の事ではない。
冷めぬうちに沸いたコーヒーをマグカップにつぎ込んで俺は自ら注いだホットコーヒーを1杯飲み干しながら凍えた身体を中と外から同時に温めながら何気なく時計の針を眺める。
時計の黒い針は午後1時を指して昼時を知らせていた。いつの間にかちらつく雪も止んでいて見回りをするには丁度よい天気になっていたので俺は隣に並ぶ出卓上で突っ伏して寝こけている金髪の天パ男を横目に声をかける。
「――菊池、……」
 見回りに行くぞ。そう言おうとした直後、無線から急な情報が飛び込んできた。
『雪の中で血まみれになってぶっ倒れている三十代後半と思われる男性と五歳くらいの幼い男児を山小屋にて捕獲した――至急、応援を頼む』
 山小屋からの情報を受けた俺――神楽坂神也は無国籍なのか国籍なのか判らない金天パ(金髪の天然パーマ)の菊池を叩き起こして雪山に向かうことにした。……が、菊池はいくら叩き蹴り上げても起きなかったのだ。だから俺は……。

 *

 せっかく温まった身体を雪景色に放り込み肩を震わせて俺と菊池は公園前の派出所の外に踏み出した。
大体は雪かきを施してある道が長く続いているのだが車の鍵を貰い忘れたので俺等は徒歩で現地に向かう事にしたというか菊池をロープで縛り上げ強引に引き吊り出しながら雪に囲まれた路上を歩き出す。
「いってえ! 糞ッ! 放せッッ!! でなけりゃ僕に縛らせろ〜〜っ」
 意味不明な菊池の言葉を右から左に受け流しながら俺は漫然と無表情で地元の駅前を堂々と突っきり駅の中央口を通り越した先の路上にバス停が立っていてバスを待つ人の群れを横目に中国のお話ではないがとりあえず西の方角を辿ってみた。
歩いているうちに西なのか東なのか分からないが心の中のコンパスが指し示す方角を元に俺と菊池は歩き続ける。
暫くして人気のなさそうな殺風景な風景が広がり田んぼの量は増えて軽トラの姿がちらほらと現れてきた。砂利と小石の入り混じった路上の周りにも雪があるから余計殺風景に見えてきた。
今まで気づかなかったが……菊池、お前なんでそんなに汚れてんだ?
民家の続く1本道を大体、八時間近くかけて歩いていくと完全に人の気配すらない、いかにも野生の熊か鹿が生息していそうな森林の入り口を目の前に俺と菊池は唖然となった。この時ばかりは阿吽の呼吸とでもいうのだろうか見事な具合にテノールが二重になった。
「……最悪……」
「………つーかさあ、あんた。どーりょーの扱い酷くない?」
「ん、そうか?」
「…………いつかマジでシバいちゃる」
 何かを小声で呟く菊池を他所に深い森の中へと入った俺等は物騒と茂る根強そうな木々に左右前後が覆われていて辺り一面がマイナスイオン大量発生気味の森林の中をひたすら歩く。
地面にも雪が降り積もったためか地面を踏み込むたびにグチョリと嫌味な感覚が靴の底からひしひしと伝わってくる。
「ねえ〜……まだあ?」
「まだ」
「お腹空いたんですけどお〜」
「我慢しろ」
「ねえ〜……」
「………」
 山道を登り始めてから数時間。先程からあまり大差のない同じ会話を繰り返しながら山道を登り詰めていて、ちょうど今の会話で20回目。
登り詰めていくに連れて山道の不安定な土に雑じって積もりかけの雪量も肌に触れる寒さも増して今更ながらこれが富士山とかヒマラヤ山脈級の雪山で無くってよかったと思っていたのだが流石にこの数時間歩きっぱなしの現実に俺等の体力は愚か体の熱まで冷め始めてきていた。
「…………」
 ただ登り詰めるだけならば、そんなに体力を消費しないと思うのだけど案の定この調子で対話をしながらの登山は流石に底を突いてきていた。
最初は菊池の駄々捏ね発言に反応していたが今となっては額に青筋が浮かび眉間に皺を寄せ口元を「へ」の字に曲がらせて菊池とは殆ど口も聞かない状態で俺は菊池を連れて山道を登っていく。
多分、最初からこんな無駄話を零さないで黙然と登っていたらこんなに疲れない筈だ。それなのに……。
「ねえねえねえ〜っ、疲た! もう嫌っ! お家帰るっ!」
 尤もな発言を言い出す菊池。デパートの地下一階にある食品売り場の中のお菓子売り場か、その何階かにある「おもちゃ売り場」か、はたまた屋上にある「ちびっ子ひろば」で五歳くらいの子供があれが欲しいだのこれが嫌だの泣き叫び喚きだす。
まさにあの現状を思い出させるのが今の菊池そのものだと俺は思う。こいつの脳は五歳児程度か。
五歳といえば俺と菊池の年齢も五歳分離れているらしい。



 俺は菊池の発言に苛立ちを覚えながらも更に山の奥へと続く物騒な茂みの中を掻き分け凍える冷気を肌に感じながら上流から流れ落ちる滝を横目に岸を渡ってプラス五時間近くかけて雪山の頂上らしき風景が見え、頂上だけあって手を伸ばせば天に届きそうなくらい空白の空が間近に思えて辺り一面銀世界一色に染まりあがった雪景色がそこに広がっていた。
「うわっ」
「うわあ〜……」
 今まで田舎らしいのどかな風景を見てきたうえに深い森林のマイナスイオンを大量に浴びたその先を抜けたら――そこは別世界だった。
別世界ともいえる雪山らしい雪山の頂上の白さを目の当たりにした途端に口元が緩みだして思わず口から出た第一声に対して驚くより先に冬眠時期を迎えたような菊池は大欠伸を掻きだした。
 第一声からばらばらな俺等はとりあえず銀色の世界へ踏み入り白い地面に呑み込まれるようにザクザクと足音を立てながら漫然と広がる白いだけの景色を眺めながら何の当てもなく歩き始め途切れの無い真っ白な雪景色の中を突き進む。
その度に肌に感じるのは冷たい冷気だけ。目に映るのは白、白、白の世界だけ。木々の緑はほんの僅かにちらつく程度で、その大半は白に染まりあがっている。
暫して歩き続けているうちに俺と菊池の足は棒になり精神と気力が衰え始めていた。
今の状況を一言で言い表すと俺は気絶寸前で菊池は冬眠寸前。つまり緊急事態である。山を登り始めた俺は今になって山の辛さを身に感じて丘だから富士山だから小山だからと少々甘く見すぎていた様だ。
油断は禁物というが、まさにその通りだと言葉の意味を改めて知る。
遭難したの?――そうなんです。なんて笑い事じゃない。
いつの間にか俯きかけていた顔を試しに上げてみたら雪景色に溶け込んでいて曖昧に映りこんだ黒い影が俺等の眼の中に浮かぶ。
浮かんだ物が幻や錯覚でも何でも良いからと投げありな気持ちが急にこみ上げてきた俺は何かが建っている場所に向かって少し早歩きになり踏みつける足音も激しく早歩きというよりは猛ダッシュに近い勢いで突っ込んでみる。
猛ダッシュの様な勢いで走り出した俺と仕方なくそれに振り回された感じの菊池の目の前には木製で出来た山小屋が真っ白い雪に囲まれた中にぽつりと建っていたのだ。
「お疲れ様です」
 本当にお疲れ様だよ、自分。そう思いながら上がった山小屋の中で待機する先輩方と合流した俺と菊池は山小屋での再会を心から喜び合った。
「わあ〜、待っていたよ新人君! こんな寒いのに呼び出しちゃってごめんねえ。外、寒かったでしょ?」
「いえ、大丈夫ですよ。そんな事より先輩方も寒空の下での出張、ご苦労様です」
「いやいや、そんなカクカクした感じじゃなくっても良いよ〜。もっと砕けて。ね?」
「あはは……――今後、気をつけてみますよ。……あれ?」
「ん? どうかした?」
「……いえ。……お疲れ様でした」
 そんな最中、俺は僅かな違いに疑問を感じた。
 確か五、六人程度が出ていった気がしたのだが、今ここにいるのは――三人?
「んじゃ、後よろしくね〜」
 この時はまだただの見間違いだと思い深く気にはかけなかった。
「交代時間だから」という訳で先輩方と入れ替えに俺と菊池は山小屋に篭り始めて……。

 *

「もう一度訊くが――……それは死体なんだよな?」
「わからない」
 もう、どのぐらいたつのかな――僕がこのお兄ちゃんに”とりしらべ”というのにむりやりつかまえて木でできたお家のなかで長い答えあわせを始めたのは……。
同じしつもんに同じ答え。羊さんを数える事より、よる寝る前のお話を聞くよりも長い長いお話をお兄ちゃんとしている。
「じゃあ、なんで君はそんなところにいたんだ?」
「知らない」
「だから――いい加減にしろ、ふざけてんのか」
「………違う――僕は本当に何も知らないんだ」
 本当に知らないんだって何度もなんども同じ答を出してもいってもこの怖いお兄ちゃんは信じてくれない。
もうなんども同じ事をくりかえしてて、僕もう――あきてきちゃった。
「……っ……オイ、菊池。お前さ、何で俺に餓鬼の相手させるわけ? 嫌味? それともお宅の趣味?」
「ん〜?」
 書類を片手に掲げながら漫然と目を通して一旦そこから視線をずらし菊池は真剣に物事を考え込んで何かを思い出したかの様に気の抜けた垂らし目の中で黄金色の眼を目尻に転がした後に呟いた。
「強いて言うなら…どっちも……かなあ」
「………っ」
 変な空気を浮かべている様だったからそれを見た俺は迷わず彼との会話を避けた。心なしかウマが合わない気がしてきたから。
「てゆーか文句言うなら先輩達に言ってよね。僕、女の子とお金は拾うけど、こんなオッサンと男の子はいくらなんでも拾わないよ」
「……お前なら絶対この女顔の男児だけ拾ってくると思うぞ」
「それは………」
「…………もういい」
 俺とコイツは出会ってまだ半月も経っていない低学年同士――つまり新米警察官と呼ばれる俺等が何故こんな雪山を登山させたのか。俺は全く先輩達の意図が分からないまま出かける事になって今に至る。
先輩達と交代してから八時間後――俺と菊池。というより俺だけがこの糞餓鬼に喧嘩を売られることになり菊池は調査書などの整理をしながら暫く溜まった俺の怒りに触れる事無く漫然と書類に目を通していた。
 だけど八時間と三十分間コイツの隣と近くに居てようやく先輩達の意図が改めて分かって気がする。菊池と長時間居ると調子が狂ってヤバくね? て言う訳で俺に回したんだ。多分そうに違いない。
俺も始めの頃は先輩達に気を配り高齢者の渡る横断歩道の保佐と優しく丁寧に道を指導し現地まで送り届けるという菊池の丁寧な気遣いに礼儀正しい奴だと思っていたのだが……どうやら騙されていた様だ。
因みに入管当時に知らされた奴のプロフィールの中に志望動機が人の役に立つ事を懸命に遣り通すことです――的な事が書いてあった様な気がするが、それはどうでもよくて注目するべき点は血液と国籍不明。
国籍不明は……何となく怖い気がして触れないが、この血液の意味するのは唯一つ。
多重人格キャラの特徴なのだ! とはいってもAB型の誰しもがそうだとは限らない。だが奴の場合、多重人格決定だ。
その証拠に人の癇に障るような軽口と含みをこめた笑い、そして別のやる気を見せる様な発言と愚痴を零すのは決まって同期の俺の前だけ。そのわりには子供に好かれるという不思議な奴。

 菊池は席を立ち勝手に俺と餓鬼の間に割り込んできて小さな相手を前に達視線を合わせるように腰をかがめて膝を進めてきた。俺には癇に障る言いかたでも、なぜだか子供には陽気に笑って話しかける”優しいお兄ちゃん”に見えているのだろう。
「まあ、どうでもいいけど……ところでそこの坊ちゃんさ、お名前はなんていうの? お兄さんに教えてくれるかなあ」
「……ひまり……あきひと……」
「ひまりあきひと君――偉いねえ、一人でも泣かないって凄く偉いよお」
「……ほんとう?」
「うん。…じゃあ、凄い偉いあきひと君にもうひとつ質問だよ? ――お家は何処かな?」
 同じ独身のくせに少々ムカツク。優しく微笑みかけながら淡々と話を進める姿勢は俺が見る限りでは手馴れているような感じがした。
「おうち……ここだよ」
「えっ……うーん……まあ、確かにここもお家だねえ……山小屋だけど」
 それに答えるように餓鬼は素直に菊池の問いかけに応じ続けていたが、そんな彼にも思いがけない回答が飛び出してきたようだ。
お家は何処?――ここだよ。これには流石の菊池も苦笑いを零し俺に目で助けを求めていた。まあ、餓鬼のいう事だ。
俺には想像の範囲内だが菊池には予想外だったらしい。ざまあ味噌漬け。
「ねえ〜、嗅ぐ裸あ〜」
「…………」
(……なんか…すっげえムカツク……)
 それで入管当時からのあだ名らしきものがこれ。しかも当て字が嗅ぐ裸って何だよ。そうは思ったが、今は良い気分。なんせ菊池が俺に縋る程こんなにも困ってるから。
悪いが助けてやれないんだ、頑張れ。とにかく頑張れ。無駄な足掻きしてでも俺にはどうにもできないからとりあえず頑張れ、糞菊池。俺は心の中でエールを小さく菊池に送ってやった。
本当は名無しの三十代オッサン(仮)も居るのだが見事に気絶していて喋れないらしいからとりあえず放置プレーをして置く代わりに多少の事は喋れる餓鬼のお守りをしていたら山小屋の外はいつの間にかまた雪が降り始めていた。
下手に動きが取れない以上、派出所にも帰還出来ずに俺と菊池――そして三十代オッサンと餓鬼の四人は小さく狭い山小屋の中で時間が過ぎるのを漫然と待っていた。

2007/10/24(Wed)16:21:22 公開 / 修羅場
■この作品の著作権は修羅場さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
「あかいゆめ」改め「おとこど」
『おとこど』を軽く摘んだら、単純に『大人と子供』
それを微塵切りしたら『大人三人子供一人』
更に微塵切りで『大人三人子供一人の劇場』になる。

 ● ―――――― キリトリ? ―――――― ●

 …スミマセン。急に何事かと思われますが…ごめんなさい。
 ここからは前作「コンクリートの事情」についてのお詫びです。
 前作「コンクリートの事情」編集しようとしたら間違えて消してしまって…
 いつか復帰させる予定で、また出直す感じで新装版にして「コンクリートの事情」を復活させます。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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