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『イカれたガキにはエアガンを』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:風神
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あらすじ・作品紹介
クラスの皆は狂ってる。バカが集まるとロクなことがない。ニコニコしながら、エアガンを手にしている。
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学校祭は、盛り上がる高校と盛り上がらない高校がある。私の通っているような、頭の悪い連中が集まっている香蓮高校は、後者だ。
私のクラスも例に漏れず、ぐだぐだとホームルームの時間を無駄に過ごしていた。
「皆やりたい事ないのー?」と、委員長の女子が教卓の前に立ち、甲高い声で叫んでいる。
「なぁ、可奈子」
私の隣の席に座っている笠原夏海が話しかけてきた。夏海とは幼稚園からの付き合いで、ずーっと同じクラス。昔からとてもクール。何があっても冷静で、いつもドシンと構えている。自分一人で考え、行動出来る。是非とも見習いたい性格。
ちなみに担任は放任主義で、つまりかなり適当な性格をしているので、こういう生徒が主役の学校祭の決め事にもなると教室にはいない。なので皆やりたい放題に騒いでいる。
そんな喧騒の中で、夏海は声を大きめにして喋る。
「大体さ、こんな頭の悪い活気の無い高校で学際なんてやったって、意味ないよ。だって平日開催だよ? どう楽しめっていうんだよ」
「私に愚痴らないでよ。やらなきゃいけないことは、やらなきゃダメなんだよ」
私たちがそうグダグダ言ってると、女子のリーダー格の加藤梨花が喫茶店を提案。そして男子のリーダー格の森崎大介がカラオケ大会を提案して、女子全員が喫茶店で男子全員がカラオケ大会と、ザックリと意見は別れた。
普段おとなしい人たちが喫茶店とカラオケ以外にも案を出していたが、それは無視された。話し合いにすら参加できない人たちは、どこにでもいるもんだ。
ここからが問題だ。このクラスは女子十八人、男子十八人で編成されている。私たちは民主主義者なので、こういう時はとても困る。
「カラオケ大会とかそんな調子こいたの、絶対シラけるだけだってー。無難に喫茶店でいいじゃん!」
と女子が言うと、すかさず男子が「喫茶店とかありきたりすぎんだろ。珍しいのやろうぜ」と反論する。
二十分ほどキーキーと言い合う。集団ヒステリーは見苦しい。
「あぁもう、しょうがないから女子の代表と男子の代表でジャンケンして決めましょう」
委員長がそう言うと、夏海が嘆いた。
「結局こうなるんだよね。こういうのは、中学校でも高校でも変わらないね」
「そうだね。騒ぐだけ騒いで、最後はジャンケンか」
しかしこれでは治まらなかった。そんなくだらないことで決めていいのかと、皆騒ぎだしたのだ。更に十分が経過し、ホームルームも終わりに差し掛かったころ、加藤梨花が席から立ち上がり、教卓の前に立った。
梨香の髪のボリュームはかなりある。ワックスで全体をフワッとさせ、上手くウェーブをかけている。後ろ髪は肩に付くくらいの長さで、パーマをかけてここもウェーブになっている。
目はとても大きい。そしてとてもキツイ目をしている。化粧のおかげで、一年生とは思えない大人びた顔だ。
「ジャンケンは確かにくだらないさ。でもくだらないのが嫌なんじゃないでしょ? 運で決まっちゃうのが怖いだけでしょ、みんな?」
梨香がバカにしたような口調でそう言った。
「そりゃあ、運なんかで出し物決めても、納得はいかないよね。どうせやるならスッキリした気持ちでやりたいし」
そう私が言うと、梨香はわざとらしく微笑んだ。
「佐伯の言うとおりだよ。運なんかで決めても、納得いかない。じゃあ、どうすれば納得するんだって話よね。簡単よ。自分でやればいいのよ。やりたい事は、自分の力で切り開くのよ。それでダメだったとしても、納得して出し物に専念出来るんじゃない?」
「具体的に言うと?」
また、梨香は笑った。今度は嘘のない純粋な笑顔。その笑顔が、ちょっと怖かった。
「私、実はエアガンマニアなの。この際、エアガンで勝負して決めない? これなら勝っても負けても文句ないでしょ?」
放課後の誰もいない教室で、私と夏海は喋っていた。高校に入学して四ヵ月たち、もう今は夏。入学した時から、二人で放課後の教室で雑談をするのは、もう日課となっている。
「にしてもさ、エアガンで決めるとか、イカれてるよね。バカだよ、バカ。夏海もそう思うでしょ」
「当たり前よ。しかも、結構皆乗り気じゃない」
「なんで同じクラスなのに、物騒なもんで争わなきゃダメなのさ。私には理解出来ない」
実際、皆は出し物を決めるためというよりも、退屈な日常とかけ離れた、エアガンで戦うという刺激的なイベントに好奇心炸裂してるんだろう。ガキ。
私と夏海はそんなバカげたイベントには参加しないけどね。
「ねぇ、夏海はどっちやりたいの?」
「どっちでも」
「そっか。私も、どっちでもいい。……しっかし、本当に皆の考えてることは理解出来ないよ」
「理解してもらわないと困るのよ」
いきなりドアの方から声が聞こえて、驚いて振り向くと、そこには加藤梨花がいた。
梨香はニヤニヤと笑いながら私たちに近づいてくる。青色のワイシャツ、緑と赤のチェックのスカートという可愛らしい制服も、この大人びた顔の梨香には不似合い。
「悪いけど、理解出来ないね」
私がそう言うと、梨香はイラッとした表情に変わった。軽く舌打ち。
「貴方たち、文句言うくせには出し物どっちでもいいんじゃない。何それ。ムカツク」
確かに私たちは、やりたいことも無く、何かをやろうともしなかった。そして何か良い案を出した訳でもないのに、クラスの人たちを批判してしまった。それはちょっと他力本願なくせして勝手だったかもしれない。
でもね、アンタらは批判されても文句言えないことをやろうとしてるんだよ?
「何よその嫌そうな顔は。……あのね、今んとこ女子十人、男子十二人は参加決定してるの。残りの十四人は不参加。でね、このままじゃ人数的に不利なのよ。しかも、佐伯さんと笠原さんって体育の成績五でしょ? 戦力としてはエースクラスなのよ」
「そりゃあ有難う」
私がそう言うと、梨香は探るように上目遣いで私を見た。
「出る気はないのね?」
「当たり前だよ。そんなくだらない事に参加するかよ」
「アンタ、一週間前に本屋で万引きしてただろ」
驚いた。まさか見られていたとは。夏海が呆れた顔で私を見る。
そして梨香はスカートのポケットから携帯を取り出し、少しボタンを操作したあと、携帯の画面を私に見せ付けた。
「……気づかなかった」
画面には、私が本を鞄に詰め込んでいるところが写っていた。
「この画像を先生に見せたら、アンタどうなっちゃうんだろうね? でも、女子チームが勝ったら画像消してあげる」
私はこのくだらない戦いで、必ず勝ってみせる。
梨香が「エアガンについて無知なアンタに、良いエアガンを教えてあげる」と笑顔で言って来たので、早速三人で近所のデパートへ行った。
夏海は、私のために参加してくれる事になった。
「ほら、アンタ達ぼーっとしてないで、よく見なさい」
エアガンコーナーには、沢山のエアガンの箱が並んでいる。たかがちっこい弾を撃つだけなのに、なんでこんなに沢山あるんだ?
「おい可奈子。このでっけぇのカッコいいぞ。一万円もするけど」
「夏海のバカ。そんな高いの買えないわよ」
私の財布はパチモンのルイヴィトン。中身は四千円程度。
「二人とも、まずは私の話を聞きなさい。アンタ達、ホームルームの時に説明したルール聞いてなかったでしょ」
確かに聞いてなかったので、頷く。梨香は声を張り上げて話を続けた。
「まず、ルールを説明するわよ。エアガンの種類だけど、電動式は禁止」
「はーい。電動式ってなんですかー」
私がそう質問すると、梨香はわざとらしく溜息をした。
「鈍いな、お前。電動ってくらいだから連続で弾撃てるんだよ。マシンガンって言えばわかるか」
そう言うと、梨香は横三十pぐらいの箱を手にとって言った。
「これがこの店で一番小さいかな。これはハンドガン。一発撃つごとに撃鉄を引っ張るの。それぐらいは知ってるでしょ?」
「あぁ、よく男の子がエアガンで遊んでるとき、いちいち力入れて銃の上の方引っ張ってるのよく見るから、仕組みはわかるよ」
「で、こういう銃は撃つたびに反動が大きいの。でも大丈夫。安全を考えて子供用のエアガンしか使用は認めてないから」
確かに箱の裏には、対象年齢十歳以上と書いてあった。
「子供用のハンドガンを一人一個、後はゴーグルね」
梨香はそう言うと、いきなり黙りだした。真剣な目つきで棚にズラーッと並ぶエアガンを物色する。そんな梨香を、夏海は呆れた顔で見つめる。
「さて、と……。佐伯はこれかな。デザートイーグル」
渡された箱の写真は、黒色でとてもスマートな銃だった。
「本物のデザートイーグルってのは、素人が簡単に撃てる代物じゃないんだけどね」
「おい、梨香」
「そんな怒らないでよ。あのね、さっきも言ったけど、このエアガンは子供用なのよ。アンタでも簡単に撃てるわよ。しかもこれ、オートハンドガンなの。いちいち撃鉄引っ張らなくても、勝手に弾を補充してくれるの。だからひたすらトリガー引いてれば連射出来るわ」
梨香は子供みたいな笑顔でそう説明してきた。そろそろうんざりしてきた。
「お前さ、結構美人なんだから、こんなマニアックな趣味捨てて彼氏でも作れよ。誰か紹介してやるか?」
「それで笠原はねぇ……。ハイグレードグロックかな」
なんの暗号ですかぁー?
この銃は、なんかちっこくてカッコ悪い。
「で、私はもちろんコルトガヴァメント。よし、決まり! 頑張って白軍を倒すわよ!」
「白軍って?」
夏海がポカンとした顔でそう聞いた。
「笠原……。アンタら、本当に何も効いてなかったのね。女子が赤軍。男子が白軍」
くっだらねぇ。夏海が更に質問を続ける。
「戦いに参加しないのは何人いるんだ?」
「十二人。そいつらには審判やらせるわ」
確かに審判は必要だろう。梨香は続けて言った。
「まぁ、あいつらも無理やりチームに入れようと思えば入れれるんだけどね」
「じゃあなんで入れなかったんだ?」
「だって、あいつら鈍いもん。使えないやつはいらない。それに比べて、アンタ達二人は使える女」
翌日の日曜日。ついに戦いの日。くだらないじゃれ合いの始まり。
こんなアホくさい事、さっさと終わらせよう。いざとなった時は、女の方が強い。昨日クラスの男子にメールして探ってみたら、「俺マジ怖いよ!」とか「やってみたいけど、痛いのは嫌だな!」とか戦う前から逃げ腰だ。まぁ、それを白軍リーダーの森崎がどうまとめるかだ。
女子は活気ずいている。普段調子こいてる男子共を叩く気満々。私はそんな事思っちゃいないけど、別に怖いとは思ってない。別に死ぬわけじゃないし。
昨日の言葉を思い出す。やりたい事は、自分の力で切り開く。
学校は窮屈だ。やりたいとか言いたいと思っても、教師や友達によって押しつぶされることはある。特に教師にはほとんど意見出来ない。理解不能な発言をする教師は沢山いる。だが少しでも言い返すと、暴力と暴言で抑えられる。
だが、今回はどうだろう。沢山の味方がついている。一人じゃない。しかも相手は自分と同じ同い年の子供。違うのは性別だけ。この条件なら、自分の力で道を切り開く事も出来る。
……とは言っても、だからってエアガンで争うとはね。バカが集まるとロクなことしない。
そんな事を考えながら私はチャリを漕いでいた。目指すは学校の近くの参角山。標高五百メートルのちっこい山。
今の札幌は夏真っ盛りだ。今日の西区の気温は三十度。なんでこんな暑苦しい中、エアガン持って走り回らなきゃダメなんだ。めんどくせぇ。
山の入り口に自転車を停めると、もうほとんどの生徒が来ていた。そして、梨香が大きい目を更に大きくして、私に小走りで駆け寄ってきた。
「どうした?」
と私が言うのも無視して、なんと梨香は思い切り私の頬をビンタした。周りの生徒がいっせいにこちらを見る。
「な、何!?」
「お前ほんとバカだな! なんなのその格好?」
私の服装は、上は黒色のTシャツに白色のカットソーを羽織っていて、下は黒色のスカート。結構シンプルに決めてきたんだけど、ビンタされるほどダサかったか?
「あのな、佐伯。なんで腕をそんなに露出してるんだ? なんでそんなに太もも露出してるんだ?」
「エッチ」
男子がチラチラと私の足を見てくる。チラチラみんな気持ち悪い。
「佐伯。弾が当たると痛いのはバカでも解るよな? じゃあせめて肌が隠れるような服着てくるとか考えないのか?」
確かに、皆パーカーなどを着ている。私、場違い。
「それに山ん中走るんだよ。スカートだと走りずらいだろ。男子にパンツ見られても知らないから」
「私お嫁に行けなさそうだね」
「あぁ、いけねぇな」
そんな会話をしてると、夏海が黒色のマウンテンバイクでやってきた。ハンドルの上にはメーターがある。チャリにメーターつけてる女子高生は、世に何人いるだろうか。
夏海の服装だけど、上は胸元がかなり開いている黒色のTシャツ。銀色の十字架のネックレスが胸元でチャラチャラ揺れている。下は赤色のチェックのプリーツスカート。
夏海は私と梨香に気が付くと、しなくてもいいのにわざわざ腰をひねらせて、ドリフト(のようなもの)しながら自転車を停めた。
「そのきったないドリフト止めてくんない」
と、梨香が毒づくと、夏海はムッとした顔をしたけどすぐに私に振り向いた。
「遅くなってごめん」
「佐伯も笠原も、服装ちゃんと考えてよ……」
梨香がわざとらしく顔を両手で覆った。いちいちうざい奴。
「全員揃ったかー!」
白軍のリーダーの森崎大介が、大声でそう言った。
森崎は私の正面。山の出入り口に立っていた。その後ろには緩やかな坂。無数の木。そして雑草。後ろを向けば、遠くに西区の町並み。前を向けばガンを飛ばした森崎と三十五人の生徒。そしてもちろん参角山。
「揃ってるよー」
梨香がそう答えた。
「よし、じゃあルール一応確認しとくぞ。オプションは禁止。ゴーグルは絶対付ける事。なるべく頭は狙うな。頭に当たったらセーフ。そしてエアガンの種類はハンドガン。連射出来るのは禁止だ。ただし、チームに一人だけオートハンドガンの所持を認める。審判団の十二人は、的確に当てられた人をチェックすること。当てられた奴は山頂で待機。以上!」
……ちょっと、待て。
「ねぇ梨香。私のエアガンってさ」
「そうよ。うちのクラスの女子で一番運動神経が良いのは佐伯。だから貴方にオートハンドガンを買わせたのよ。私は扱いに慣れてるから必要ないの。アンタがボスで、私がリーダーだからね」
「リーダーとボスの違いがわかんない」
くだらない。でも、オートハンドガンは有利だ。私の万引きがバレないためにも、頑張らないといけない。それこそ、自分の力で切り開くんだ。停学もしくは退学なんて冗談じゃない。
皆、狂ってる。
「お前ら、俺の話ちゃんと聞けよ。続けるぞ。武器を持ってるとはいえ俺たち男子と女子では、やっぱ体力とかの面で差が出るのは当然だと思う。それはさすがに可哀想だから、赤軍は先に山でスタンバイしてていいぞ。俺たちはそうだな……。お前らが出発してから二十分後に攻撃を始める」
「あら、森崎結構優しいじゃない。ハンデをくれるなんて」
可哀想? 優しい? ハンデ? お前らバカじゃないのか。今から私たちは、エアガンで相手を傷つけようとしてるんだ。
優しいも何もあるか。全員、ただのバカ。そして私もバカ。
「じゃあ始めるぞ」
森崎はそう言って、エアガンを空に向けて一発撃った。私たち女子は一斉に山の中へ走っていった。
くだらねぇー。マジくだらねぇー。でも万引きは先生にバレるわけにはいかない。
そうだ、これはただの遊びだと思えばいいんだ。そう、私は小学生。恥も世の中の汚れも知らない無邪気なガキ。だから、こんなくだらない遊びはくだらないと感じない。純粋に走り回るただの子供だ!
そう思わないと、恥ずかしくてぶっ倒れそう。
私と夏海と梨香で一緒に山を走って登った。数分ほど走ったところで、梨香が走るのを止めた。
「皆ストップ!」
梨香がそう言うと、全員走るのを止める。
「なんだよ」
夏海が不機嫌そうに言う。
「誰かタバコ持ってない?」
「そんなことで止めるなよ、バカ」
と言いながら、夏海はスカートのポケットからマルボロメンソールを取り出して、一本投げた。続けてライターも投げる。
「サンキュ」
梨香は火をつけて、上手そうに煙を吐いた。
「皆聞いて。十二人固まってたらダメなのはわかるでしょ。だからといって、一人で動いて囲まれたらヤバイわよね。でも、男子の中に必ず何人か、一人でカッコつけて突っ込んでくる奴がいると思う。二人か三人で行動するのが得策よね」
梨香は実に楽しそうだ。私はちっとも楽しくない。でも、どうせやるんだったら死んでも負けたくない。万引きバレてたまるかよ!
「私は笠原と佐伯と行動するわ。私たちが中心となって行動する。後の九人は、三人ずつ別れて。もしも一人になった場合は、すぐに近くの人と合流して。こまめにメールで連絡を取り合って、誰かどこにいるのかを頭に入れておいて」
お前はなんでそんなに楽しそうなんだ。皆ポカンとした顔をしている。
「おい梨香。場所はどうするんだ?」
夏海がそう聞いた。
「そうね。あんまり長引くと不利よ。足の速さや体力で男子に勝てる訳ないもん。だから、強気にいくわよ。男子は多分、私たちが山奥に隠れてると予想するはず。だから意表をついて、まだ出入り口からそう遠くはないここで待ち伏せするわよ。だから……そうね、三人ぐらい、そこのトイレに隠れてなさい。で、バカみたいに撃ちまくるの。なるべく引きつけてから撃つのよ。私たち三人ともう三人は、ここからもう少し離れた所で様子を見る。残りの三人だけど……」
梨香は楽しそうに空を眺めた。そしてフィルターを思い切り噛んで、唾を吐くようにタバコを口から吐き出した。
「一人はトイレの上に座ってなさい。状況をよーく確認して、メールで伝えるの。残りの二人は、ここらへんの木の後ろに隠れてて、白軍が来たら撃ちまくりなさい!」
そう言うと、皆それぞれの場所に散らばった。トイレは、どこの公園にもあるような平凡なトイレだ。私たちは、更に走った。なるべく出入り口から遠ざからなければならない。小さい山だから、なるべく山奥に入らないとすぐに見つかる。
「しっかし夏海。よくアンタが参加する気になったね」
「だからさ、私らが勝たないと可奈子どうなるかわかんないだろ。それにまぁ、男子の生意気な態度にはムカついてたしね。どうせやるんだから、私は本気でやるよ」
携帯で時間をチェックすると、もう十分経っていた。後もう少しで、男子が山に入ってくる。
このくだらないお遊びは、一時間以内に終わらせたい。
「ねぇ、梨香。男子さ、反則しないかな。殴ったり、蹴ったり」
「大丈夫じゃない? だって、反則した瞬間に自分たちの負けじゃん。本当に勝ちたいなら、正々堂々と来るだろ」
こんなくだらねぇ事に正々堂々もあるかい。
「それにもしも変なことされたら、先生に言えばいいんだ。男子に参角山で変なことされました……ってね」
男子はいい迷惑だな。つーか、そもそもこのイベントを企画したのはアンタだろ。とかなんとか考えてるうちに、もう山の中腹に来ていた。
「ここでいいかな。私、佐伯、笠原はここで待機。アンタ達三人は……」
梨香が、私たちの後ろを追って走ってきた三人を見る。
「適当にここらへんを散らばってて」
梨香さん、ツメが甘いですよー。
二十分が経ち、いよいよ男子が山に入ってくる。狭い山なので、すぐに戦いが始まるだろう。
「もうそろそろね。出入り口からすぐのトイレ班、大丈夫かしら」
トイレ班。嫌な名前だ。確か、トイレに隠れてるのが三人。トイレの屋根で見張りをしてるのが一人(屋根に登れてたらの話だけど)。近くの木陰に隠れてるのが二人。赤軍半分が出入り口でぶっ倒れることになるだろう。さてさて、白軍を何人潰してくれるのかな。
「おい梨香。携帯に連絡とか来てないのか」
夏海がマルボロメンソールを吹かしながら梨香に聞いた。
私はタバコを奪い取り、一口吸う。
「そうだよ梨香。出入り口付近がどうなってるか、ここからじゃ解らないよ」
「メール、来てないのよ。でもね、誰がやられたのかはすぐに解る」
梨香がそう言った瞬間、ピーッという笛の音が聞こえた。
「ほら! もう誰かやられたわよ。やられた奴は山頂で待機するルールだから、すぐにここを通るはず」
すると、立て続けに三回、笛が鳴った。そして梨香が携帯の画面を見て舌打ちをした。
「今メール来たんだけど、うちのチームが四人ともやられたって!」
しょぼい。もう八人しかいない。
そして更に二回、笛が鳴った。多分トイレ班の残りの二人だろう。即効で六人やられた。あーあ。これで私は停学かな。退学かな?
「あーもぅ! 行くわよ皆。こうなったら集団で突撃よ。それしか勝ち目はない!」
そう言うと、梨香は凄い勢いで坂を下っていった。思い切り走れば、すぐに男子たちと鉢合わせしちゃうぞ。
「しょうがない。行くぞ、可奈子」
夏海は走り出した。続けて私たちについて来た三人も走り出す。
坂を下る途中で、とぼとぼと山頂に向かって歩く女子六人とすれ違った。当然梨香がその女子たちに説教する。
「バカ! なんでマッハでやられるのよ。使えないわね。そんなんだから男子にバカにされるのよこのバカッ!」
人を一番バカにしてるのはアンタだ。本当に人を見下してる人ってのは、相手をバカにしてるのに気づかない。だからタチが悪い。
「いたぞ!」
ヤバイ。坂を凄いスピードで下っていると、男子四人と審判二人と鉢合わせになった。私たちと男子は、緩やかな斜面で睨み合う。こっちが山の上にいるので、男子を見下ろす格好になる。
するとビックリ。なんと夏海は男子を見た瞬間、ためらうことなく引き金を引いた。外れ。すぐに撃鉄を引き、更に一発。
「な、夏海容赦ないね」
「お前も早く撃て。万引き先生にバラされてもいいのか」
と言った瞬間、男子がめちゃくちゃに撃ってきた。
私と夏海はとっさに木陰に隠れる。もう一度ビックリ。梨香がニヤニヤしながら男子に突撃していく。そして、男子が呆気にとられているうちに、関口とかいう男子のこめかみに銃を突きつけて、撃った。
奇声を上げて関口は倒れた。いやぁ、狂ってる狂ってる。
「あ、ごめんね」
と梨香はタバコを咥えたまま言う。そして、笛が鳴った。夏海の撃った弾が関口に当たったのだ。
残りの男子三人と梨香も木陰に隠れる。沈黙。
「おい佐伯! アンタはやくバカスカ撃ちなさいよ! なんのためのオートハンドガンなのさっ」
「で、でも! 関口凄く痛そうだよ。ねぇ、やっぱ私こんなくだらない遊び嫌だよ」
「なんで万引きする勇気あんのに、おもちゃで同級生撃てないんだよ。アホ」
アホはお前だ。でも私はこの戦いに勝たなきゃいけない理由がある。
いやもう、本当にやりたくない。だが、何度もいうが万引きは先生にバレたくない。夏海は私に言った。「いくら梨香でも、本当に先生にバラすか?」と。答えはイエスだ。
例えば生卵事件。相田という女子が、梨香の靴に生卵を入れてぐちゃぐちゃにかき回したのだ。梨香はブチギレて血眼になって犯人を探し当てた。そして、相田の友達の佐々木にこう言ったのだ。「アンタ今度相田の家に泊まるんでしょ? もちろん酒は飲むよね? 相田が酒飲んでるとこ、カメラで撮ってきて。じゃないと、佐々木の彼氏奪うよ。私、アンタの彼氏に昔告られたんだ。しかもまだ私のこと好きらしいよ」と。
悪魔である。だが、これは動機があってのことである。
しかし、梨香は動機が無くてもやるといったらやる。だって、梨香が暇つぶしで相田の上靴にゆで卵入れたから、相田は梨香の上靴に生卵を入れたんだもん。
私がそんなことを考えてるうちに、夏海は烈火のごとく撃ちまくっていた。梨香は、無邪気にテレビゲームをするような楽しそうな笑顔で撃ちつづける。
笛が鳴る。ヒョロッと木から出てきた男子を、すかさず梨香が撃った。これで六対十。
「おいバカナコ! アンタも撃ちなさいよ!」
梨香がリステリーを起こした。めんどくせぇ女。
冷酷に打ち続ける夏海。さっき関口を撃って傷つけても、「だから何?」って感じの表情だった。梨香は、むしろ撃つことに快感を感じている。当たればそれはもうハッピー。
解っちゃった。そもそもこれは、あくまでも”学際の出し物を決めるため”にエアガンで戦って決めようってことだったはず。
でも違う。本当は皆、エアガンで相手を傷つける理由が欲しかっただけ。私たちは退屈な日常にイライラしてる。高校生になってから、特に意味もないのに一日中イライラすることがある。友達の不可解な発言がムカツク時がある。上っ面なんかめんどくせぇ。上っ面の付き合いなんかいらない。皆も上っ面は嫌だと感じてるはずだ。なのに、私も含めて誰もが上っ面をしてでも良い人間関係を築こうとする。でもそれは表面から見ると良い友達に見えるかもしれないけど、中をえぐってみると、それはもうドロドロしてて気持ち悪いものだ。
憎みあっているんだ。あの調子こいた男子を、一度でいいから傷つけてみたかった。あのキーキーうるせぇ女を、一度でいいから撃ってみたかった。皆そういう事を思ってこの遊びをやってるんじゃないか。
私の被害妄想じゃない。五十メートル先の木に隠れてる男子も、ニコニコしてる。今からクラスメイトを撃てるのだ。傷つける事が出来る。痛くて苦しむ私たちを見れる。
そういった事が、クラスメイトの顔を見てると手に取るようにわかる。
私は別に、男子を傷つけても嬉しくない。だって、別に何かされたわけじゃない。ただ、目障りだと思ってるだけ。
「あーもう! お前ら男だろ。こっちに来いよ。度胸ねぇなぁ。普段調子こいて女子に悪口言いまくってる勢いはどこいったんだよ」
梨香が叫んだ。すると、男子たちが凄い勢いで走ってきた。単細胞。でもヤバイ。五十メートルぐらいしか離れてないんだ。このままじゃやられる!
私は、反射的に引き金を引いた。
すると、テンポよく弾が連続で発射される。確かにオートだ。私が手を離すか、弾が切れない限り弾は出続ける。
笛が鳴った。私の撃った弾が、田島と木田という男子のお腹に当たった。分厚い服を着てるから痛くはないらしい。審判の人たちが、山頂に行くように指示する。
「バーカ」
梨香が冷たい声でそう言った。そして、山頂に行こうとして私たちの横を通った田島と木田の肩に、一発ずつ撃った。これで六対八。
目の前の男子を全員撃退したあと、数分座り込んで休んだ。山頂の方から笛が四回鳴った。確か山奥には、私たちと途中まで一緒だった女子が三人いたはずだ。あいつら、山頂まで移動してたのか。
「佐伯、笠原。メール来たぞ」
梨香は低い声でそう言い、携帯を私たちに見せた。画面には「ごめん梨香。私たち三人とも一気にやられちゃった。かなり撃ち合ったんだけどね、森崎君上手すぎるよ。なんとか相手一人撃つのが精一杯だった」と書いてあった。
三対七。うっわ。三十分しないうちに私たち三人だけになった。
「アホね。これで負けたら今より更に男子にバカにされるわよ」
「か弱い女の子がこんな野蛮な遊びで男子に負けたからって、バカにされる筋合いないだろ」
夏海が冷たくそう言った。すると、梨香は苦虫を噛み潰したような顔になった。
まぁ夏海の言うとおりだ。実際、男子が勝って当たり前の遊びだ。それは皆解ってることだろう。それでも何故このお遊びに二十四人も参加したのかというと、やっぱ非日常を体験したいから。そしてなにより、嫌いな奴を傷つけたいから。梨香は、誰でもいいから撃ちたいってところだろうけど。
「ここ、山の中腹だよね。危ないんじゃない?」
私がそう言うと、梨香は言った。
「どこでも危ないさ。つーか、やってること事体あぶねぇーし」
笑いながらそう言う。
「笠原、タバコ」
「アンタ吸いすぎ。完全に中毒ね」
夏海が呆れた様子で言った。夏海はパンツ丸出しであぐらをかいている。どうやらもうタバコは無いらしい。
しょうがなく、私はスカートからキャスターマイルドを取り出して、ライターと一緒に一本梨香に投げた。
「佐伯サンキュ。ま、確かに中毒だな。小六から吸ってるし」
梨香は上手そうに吸う。しばし沈黙が続いた。居心地が悪くなったので、話題を振った。
「ねぇ梨香。アンタほんとに喫茶店やりたいの?」
「別にどっちでもいい。ていうか、そもそもこの高校の学際なんてどうでもいい。先輩に聞いたんだ。ヤバイぐらいつまんないってさ。途中で帰るやつ沢山いるくらい。私はね、そんな学際なんか期待しちゃあいない」
確かに学校によって楽しい学際つまんない学際はあるだろう。でも、私にも言えることだけど、最初からどうせつまんないんでしょ? と諦めてたら楽しいものも楽しくならない。
「可奈子! 梨香!」
夏海が叫んだ。なんと、山頂の方から男子七人が突っ込んできた。後ろには審判が二人。
私たちはすぐにそれぞれ木陰に隠れた。私の左隣に夏海。その更に左隣に梨香。さっきとは逆で、男子が山の上から私たちを見下ろしている。
男子の山岸という人が、一発梨香に撃ったけど外れた。
「佐伯さっさと撃てって!」
嫌だ。山岸とは特に親交はなかったけど、良い人だ。私が購買で弁当を買ったとき、小銭が八十円足りなくて困ってたら、山岸は八十円出してくれた。そんな些細なことだけど、山岸には感謝してる。
で、なんで私はその山岸に意味もなく弾を撃って傷つけなきゃダメなんだ? そんなのおかしいだろ。
「バカナコ」
と、梨香は呟いた。男子七人は、私たちの正面にある大木に隠れている。距離は百メートルぐらいしか離れてない。でも木が邪魔で撃てない。
「佐伯、笠原。たまに顔出して撃ってくる所を狙うのよ」
梨香は興奮した声音で言う。
すると、三人の男子が私の木めがけて突っ込んできた。怖い。撃てない。たかがおもちゃだからって、人を撃つなんて出来ない!
笛が鳴った。
夏海の撃った弾が、一人に当たった。しかし尚も二人は突っ込んでくる。私たちの目の前に来た。何故か梨香は撃とうとしない。
「来ないで!」
気づくと私は、木から顔を出して引き金を引いていた。男子二人に向かって撃ちまくる。二人の撃った弾は、私の足元に落ちた。そして私の乱れ撃ちは、二人の顔面とおなかに直撃した。
笛が二度鳴る。三対五。森崎と山岸。後の三人は不良系の奴らだ。
「くそっ。佐伯かよ!」
今、私が撃った男子がそう叫んだ。
なるほど。何故梨香が今撃たなかったのか解った。男子は九十パーセント、オートハンドガンは梨香が持ってると思ったのだろう。そう思って私に突っ込んできた。
そしたらあらビックリ。なんと佐伯可奈子がオートハンドガンで連射してきた。って訳か。
沈黙。五人とも、大木に隠れてる。
「おい、可奈子」
「夏海。どうかした?」
「大木の後ろにさ、審判全員集まってるぞ」
確かに、大木の二百メートルくらい後ろに、審判が全員集まってる。なんか、そわそわしてる。
次の瞬間、私は固まった。なんと、皆ポケットから小さいエアガンを取り出した。そして、審判の女子が(あれは及川さんだ)男子たちに向けて乱射しだした。オートハンドガン。
「マジかよ!」
森崎の声がした。男子は一斉に大木から出てきて、四方に散る。
及川は乱射したまま突っ込んできた。男子でなく、私たちに。それと同時に他の審判も、走りながらだれかれ構わず撃ちだした。ルールに乗っ取って、ちゃんとオートハンドガンを持ってるのは及川さんだけ。
「ちょ、ちょっと梨香。どういうこと?」
「わかんないよ!」
あっというまに男子は撃たれまくっていった。そりゃそうだ。いきなり後ろからみだれ撃ちされて、それに加えて十二人で突撃されりゃあ、勝ち目は無い。
「おい! アンタらそりゃないだろ。何遊びでマジになってんだよ!」
夏海が走って逃げながら叫んでそう言った。及川さんが答えた。
「うざい」
と言い、及川さんは夏海に撃ちまくった。そして梨香は五人に囲まれて撃たれた。そして、私もぼーっと立ち尽くしてるところを、あっさり撃たれた。
何が起きたのか解んない。いや、待て。整理しよう。
私たち女子三人は木に隠れていた。男子は大木に隠れていた。お互い牽制し合っていた。すると、審判が大木の後ろに集まり、及川を先頭にして突撃してきた。そして、あっさりと赤軍も白軍も全滅した。
えーと。こうい場合、勝ったのは誰? 最後に人数の多かった男子? それとも……。
及川が、黙り込んで座っている私たちと男子を見下ろして、言った。
「私たち紫軍の勝ち」
森崎が言い返す。
「そりゃないだろ。お前らはしょせん審判だろ。普段から静かで、いてもいなくても変わらない役立たず」
「アンタたちはその役立たずにあっさり負けたんだよ」
及川は、エアガンを捨てて、言った。
「何が女子がキーキーうるさいだ。何が男子が生意気だ。挙句の果てには、女子と男子で戦おう? 実際学際の出し物なんて、この遊びのための口実だろ。アンタらそれは酷いんじゃない? あのね、こんなくだらないお遊び、やりたきゃ好きなだけやれよ。でもね、私たちはどうなる。アンタらが意見言い合って喧嘩してる時、私たちの意見は聞いてもくれなかったじゃない。一番やりきれなくてイライラしてるのは、私たちだよ。……決まりだからね。学際の出し物とその進行は、私たちが中心になってやる。お前ら、絶対に従えよ」
そうだ。及川さんの言うとおりだ。私たちは、二十四人だけの空間で言いあってた。二十四人だけのことを考えてた。及川さん達のような、あまり親交のない人たちのことは無視してた。
私は、皆とは違う。他の人たちよりはマシな思考回路だと思ってたけど、それは自惚れだったのだ。最悪。
今後の教室での生活を考えると、寒気がした。
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■作者からのメッセージ
最後まで読んでくれた方、有難うございました。
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等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。