『メダカの旅』 ... ジャンル:童話 未分類
作者:翼                

     あらすじ・作品紹介
人に飼われていたメダカが川を目指すお話。いっさい名前のでてこない、主人公もいないシンプルな作りがミソです。

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「最近ご主人見ないですね」
 宙に無数の小さなゴミが漂い、天上には緑色の植物がうごめいている。その隙間からは宝石のような眩しい光が射し込み、大きな半円の部屋を照らしていた。
「ああ、あのデカ物ね。確かにそろそろ食料が……欲しいところよね」
 その部屋には、五十匹のメダカがいた。
 皆まだ小さく一センチに満たない彼らは、このところ食料も新鮮な水も降ってこないせいでやせ細り、天井はどんどん低くなってきていた。
「確かにそろそろデンジャラスだな」
「セッシャもそう思う」
 部屋の天井近くを数匹のメダカがゆっくりと泳いでいた。
 外からは、鳥の警戒する声が時おり聞こえてくる。
「こうなれば伝説のリバーとやらを目指すしかないぜ。このままじゃいずれ飢えか、部屋がなくなって全滅する」
「それは反対だな。この部屋の外にはセッシャ達の住める部屋がほとんどないと聞く。デカ物が来るのを待つほうが賢明だ」
 天井から差し込む光が途切れ、部屋が暗くなった。
「いや、目指すべきだね。ミーの聞いたところではリバーはこの部屋よりも、とてつもなく広いと聞く。それだけで十分目指すべきだ」
「まあ、まあ、そう熱くならないでよ。ただでさえ、このところ部屋が熱いんだからさ」
 一匹が仲裁に入り、そのまま巨大な口の中に吸い込まれていった。
 天井が大きく激しくゆれた。
 部屋よりも巨大な影の塊がその上でうごめいている
「エサや! うまいエサや!」
 大きな不気味な声が真上から響いてきた。
 全員が慌てふためき、すばやく天井から離れて低いところに逃げた。
 それでもその影は巨大な腕を伸ばし、天井をすり抜け部屋の中のメダカを狙った。
 しかし爪の長いその腕は、すばやいメダカ達を捕らえることはできず、天井や宙にある無数のゴミを揺らすだけだった。
「足りん! こんくらいじゃ腹の足しにもならんわ!」
 巨大な影が叫びながら、腕をでたらめに暴れさせた。
 天井は大きく揺らされ、小さな泡が立っていった。
「くそ、食わせろや。ワイは腹が減ったんや!」
 そのとき一匹のメダカが声を出した。
「そいつは、コンディションしだいだ」
 巨大な影が腕を止め、天井の揺れが少しずつ収まっていく。
「なんや、ワイに持久戦、挑もうゆうてるんか?」
「いやいや、コンディションとは条件という意味だよ、巨体君」
 巨大な影は少し唸ってから静かな声で、どんな条件や、と聞いた。
「まず、ミーらをリバーに連れて行ってくれ。そうすればこの中の十匹をユーに差し出すと約束しよう」
 巨大な影が再び唸った。
「その……リバーってなんや?」
「セッシャの聞くところによると……ここから遥か遠い、デカ物でもサンフンの低い土地に、巨大な水の通路がある。それがリバーだ。常に、ある程度の水が流れる道と深さが備わっている場所だ」
 メダカの説明を巨大な影はピクリとも動かずに真剣に聞いていた。
「だがセッシャはやはり反対だな。そんな遠い場所に我々が行ける確率は無に等しい」
「私も。確かに一度見てみたいとは思うけど、さすがに遠すぎる」
「魚や……それなら、すぐそこにあるで」
 巨大な影の発言に、メダカ達が硬直した。
「ほ、本当ですか?」
「ああ、すぐそこや。ほなら運ぶから、後で食わせてや約束やで」
 巨大な影が消えて再び天井が輝き、その後に半円の部屋が大きく揺れた。
 低い唸り声のような音が、部屋中に響き渡る。
 メダカ達は巨大な影に聞こえないよう小声で相談しだした。
「どうだろう、本当かな?」
「とりあえず、信じるしか……あるまい」
「そうですね。じゃあ先に食べられる者を選びましょう」
「ワシが行こう。この先なにがあるかわからないような所に行くより、仲間のために死ぬのを選ぶわい」
「確かに一理あるな、アタイも」「マロも」「オイドンも」
「皆さん、ありがとうございます。僕達は必ず生き残って見せます」
「ふぉ、ふぉ、そう言うでない。ワシらの分もがんばってくれればええよ」
 揺れと音が同時に止んだ。
「この下にあるから、落とす前に十匹食わせてや」
 巨大な影が嬉しそうな声を出した。
「ええ、好きにしてくだされ。……できれば苦しまないように一瞬で」
 影が天井に近づいてきた。
 巨大な口を開けると、中の鋭い牙が現れ注文通りすぐに十匹をたいらげた。
 しかしまだお腹が空いているらしく、巨大な影は名残おしそうに、そこにしばらくの間とどまった。
「リバーってとこには、あんさんらのようなのが他にもおるんかいな?」
「もちろん、いくらでもいますよ」
 巨大な影が、ゆっくりとした動きでまた消えていく。
「ほなら、これ終わったらワイも行ってみようかな」
 部屋の天井が少しずつ傾き始めた。
「それでは……皆さんの健闘を祈ります」
 全員が天井近くに集まり、お互いを励ましあった。
 天井が外に引き込まれるように低くなっていく。
「ではミーがファーストで」
 一匹が天井に向かい、消えた。
 他の四十匹も、決心を固めた者から順に天井に向かいそして消える。
 最後まで何匹か残ったが
「まあ、契約は契約や」
 毛に覆われた鋭い目をした動物が、残念そうな迷いの声を出してから、全てはらい落とした。
 メダカ達は、外の世界に落ちていった。
 次の瞬間、目の前一杯に口を開けた巨大な石の入れ物が見え
「やはり……騙されたか」
 何匹もそう言いながら、石の入れ物に落ちていった。
 ポチャン、と水が跳ね、メダカ達は水中にいることに気づく。
 その石の入れ物は、深さはさっきの半円の部屋より低いが、真っ直ぐに進むとても広い水の通路だった。
「おお! ……しかしこれがリバーなのか?」
 メダカ達が流れに逆らってその場に集まり相談しだした。
 何匹かは落ちた衝撃で動かなくなり、そのまま流されていった。
「いや、セッシャが知る限りではリバーはもっと広く植物に囲まれた所と聞く」
「だけど、ここにずっといるのはよくないですね。この浅さだといつ水がなくなっても不思議じゃない」
「では通路の先へ進もうか」
 メダカ達は一斉に流れに乗って、泳いでいった。
 通路は下も横もほとんど平らの石で、水の天井よりも遥かに高いふちがあった。
 しばらくなんの景色の変化もないまま進んでいき
「本当に僕達は進んでいるのでしょうか。もしかしてグルグル回っているだけなのでは?」
 不安の声が少しずつ現れてきた。
「いや絶対そんなことはない。ミーのフィスィクロウによれば下に傾きながら同じところを回るのはありえない……はず」
 さらに時間が流れ、ようやく景色が変わった。
 通路が少し先でなくなり、暗い闇に吸い込まれるように水が流れ込んでいる。
 メダカ達は手前で止まった。
「どうします?」
「行くしかないだろ」
「確かにいまさら戻ってもどうしようもあるまい。さっきの動物もセッシャ達を元の部屋に戻すことはできないだろう」
「ああ、ゴチャゴチャうるさい! 行くしかねえならロスの必要はねえだろが」
 一匹が、闇へと向かって行った。
 さっきの巨大な口とは比べ物にならないほどの、不気味な闇と重なった瞬間、そのメダカは消えた。
 残った者も、その場にいても意味ないと結論し、自殺覚悟でその闇に吸い込まれていった。
 水と一緒に投げ出された彼らは、自分達の体の数十倍、いや数百倍の高さをまっさかさまに落ちていった。
 再び水面に落下し、反動でかなりの深さまで沈む。
 浮上して集まったのは、三十匹ほどだった。
 そこは、どこまであるのか見えないほど深い四角形の部屋。
 天井からわずかに光が差し込んでいた。
 出口は半円の狭く浅い道で、先に行くほどに濃厚な闇が漂っている。
「よし、ばんばんゴーだ」
 一匹がさっさと出口へ向かったが、他の一匹は
「いや、その先は危険すぎる。光が差し込まないということは食料がないということだ。しかしここなら、ある程度食料が来るかもしれない。セッシャはここに残る」
 その意見に皆が奥に行くのをちゅうちょした。
 しかし大部分が、どうせ駄目もとだ、とさらに深い闇へと進んでいった。
 数匹が残って、その広すぎる部屋にいすわった。
「じゃあ、さようなら。気が向いたら追いかけてきてください」
 別れを言ったメダカも闇に消えた。
 出口の先は、一部の光も差し込まない文字通りの闇だった。
 先になにがあるか、などではなく目の前にあるのが仲間かゴミかすら、わからないほどだった。
 その闇を今は二十匹ほどになったメダカ達が、ゆっくりと泳いでいるのを水の揺れと、かすかな音だけが暗示していた。
「ねえ、前の方。……いますよね」
 と、不安になった者は声を出して仲間の返事を聞きながら。メダカ達はゆっくりとその通路を進んでいった。


 そのころ四角形の部屋に残った数匹のメダカ達は
「やっぱり、半円の部屋から出ずに主人を待てばよかった。あいつの口車にまんまと乗せられちまった」
 水面に集まり愚痴を言い合っていた。
「確かにな。だがここまできたら仕方がない。セッシャはここで食料が落ちてくるのを待つ」
「けどよ、こんなところに来るか? 水も流れてきてはいるが自然の水じゃないぜこりゃ」
「だからといって、この先には行かない方がいい。暗ければ暗いほど我々が生き残れる確率は低くなるんだ」
 愚痴を言っていた者が唸った。
 他のメダカ達も黙って、それぞれ必死に考えていた。
 と、彼らのはるか頭上から大きな声が聞こえてきた。
「やめたほうがいいって」
「別にいいだろ。ここなら」
 大きな声がした後、すぐに頭上から入る明かりがさえぎられた。
 彼らが警戒して水中に潜り込む。
 上から少し大きめの影がゆっくりと落ちてきて、派手に水しぶきを上げた。
 水の跳ねた音が部屋に響き渡った。
 しばらくの静寂の後
「食料だったりして」
「セッシャが見に行こう」
 一匹が水しぶきの上がったところに近づいていった。
 辺りをうろついてから「なにもないぞ」
 と、振り返った瞬間、彼は真下から来た大きな丸い口に飲み込まれた。
 メダカ達が一斉に、水中に、出口の通路に逃げこむ。
「エサだ。オレのエサだ!」
 暗い部屋の中、空腹でたまらないという声が響き渡った。
 メダカの十倍はあろう赤い体のそれは、逃げまどうメダカをすばやい動きで次々に飲み込んでいき、すぐに動く者はいなくなった。
「足りない。まだ、まだ足りない」
 赤い体がゆっくりと、暗い通路へと向かっていった。
 
 
 目の前には、見たこともない大きな水のフィールドがあった。
 植物が水の流れに揺られ、眩しい光が辺り一面を照らしていた。
 自然の綺麗な水が大量に、右から左へと流れている。
 今はもう二十匹程になったメダカ達が、その光景を眺めていた。
 メダカ達がいるのは、川の手前の薄暗い水場。
 広く深い水場で、周りは全て土でできている。
「なんで、よりによってリバーの手前の通路がないんだ」
 彼らと川の間には道が一つある……メダカ五匹ほどの短い道だが、そこには十分な水がなく、湿った土があるだけだった。
「とりあえずゴーだ」
「無理ですよ! いくらなんでも浅すぎます。ここは水が増えるのを待って、それから行きましょう」
「うるせえ! 目と鼻の先にあのリバーがあるってのに、待ってられるか! ミーならできる」
 一匹のメダカがその道を渡ろうと、向かっていった。
 当然地面にひっかかり、それでも尻尾を揺らして進んでいく。
 他の者が息をのんでその光景を見守っていた。
 少しずつ、少しずつ川との距離を近づけていく。
 あとメダカ一匹分で届くところで、次は植物にひっかかった。
 今度は尻尾を揺らしてもびくともしない。
「がんばれ!」「なんとかしろ!」「あと少しです!」
 応援を受け、そのメダカは必死に尻尾を揺らした。
 
 
 周りの光が徐々に弱まっていき、やがて真っ暗になった。
 虫の鳴き声が、目の前の川からさぞ楽しそうに聞こえてくる。
「なぜ、こんなに近いのに届かないんでしょう?」
 一匹のメダカが呟いた。
 近くにいた別のメダカが、沈んだ声でそれに答える。
「そりゃあ……水が少ないからでしょ」
「いえ、そうじゃないんです」
 それだけ言うと、最初のメダカは黙った。
 他のメダカ達は、明るくなるのを、水が増すのをじっとして待っている。
「じゃあ、なにが?」
「……なんとなく思うんですよ。いつも近くにあって届かない物があると」
 話を聞いていたメダカが黙った。それから少しあきれた様子で
「あんた……変な魚だね」
「けど、そう思ってしまうんです。彼だって……」
 川の方で、もうピクリとも動かなくなり干からびつつあるメダカがいた。
「彼だって、ちゃんと止めればあんなことには、ならなかった」
「……いいじゃん。あいつが行かなければ別の誰かが行った。だから役に立ってあいつは満足した。人一倍、目立ちたがり屋だったからね」
 小さな波が二匹を揺らした。
「そうですね」
 最初のメダカが少しだけ、元気な声で言った。
 大きな波が、二匹をゆらゆらと揺らした。
 ピンク色の大きな物体が水の底に沈んでいる。
「私達は生き残ろう。彼のためにもさ」
 突然、巨大な水しぶきが上がった。
 一匹のメダカがその場からすばやく逃げ出し、それを見た。
 赤い巨大な塊が、闇の中を暴れまわっていた。
 逃げ場のないメダカ達が、水の通路を引き返そうとする。
 それを、すばやく力強い動きで大きな赤い魚が封じていた。
「ねえ……さっきの変な魚くん!」
 呼びかけても返事はない。
 赤い魚は次々にメダカを追い込み口に入れていく。
「もっとだ。オレの腹はまだ満ちていない!」
 地響きのような低い不気味な声が響いた。
「変な魚君、どこ?」
 一匹のメダカがその声に負けんばかりに叫んだ。
 しかし、他のメダカの叫び声以外に返事はない。
 必死に尾を動かし、逃げ惑うメダカをまるでロックオンされたミサイルのように赤い塊が追いかけていた。
 メダカもすばやく方向転換して上手くかわすが、すぐに追いつかれて口の中に吸い込まれていく。
 そうして逃げていく者が先に追いかけられた結果、水場にはその場から動こうとしない一匹だけが残った。
 赤い支配者が、今度は闇の中で必死に叫んでいるそのメダカに狙いを定めた。
 勢いをつけ、こちらを見てもいないメダカに猛スピードで近づいていく。
 あと少しで届くところまで近づき
「僕はここです!」
 違うメダカの声がした。
 一匹のメダカが、陸に打ち上げられてじたばたしている。
 もう一匹の、叫んでいた方のメダカがそれを発見し、前に動いた。
 突進していた赤い魚はその動きについていけず、狙いを外して勢いあまって陸に乗り上げた。
 大きな津波が、陸をおおいつくし、すぐにまた水は元の場所に戻った。
 赤い魚は、陸から戻ろうと必死に体を暴れさせていた。
 陸のメダカが願いをこめて、その光景を見守る。
 水中のメダカは、陸から戻ってくる水を見ていた。
 赤い魚の動きが除々に小さくなっていく。
「動くな! 動くんじゃない……」
 陸のメダカが必死に声を上げ、やがて赤い魚は完全に静止した。
「よかった……。僕はもうだめですけど、君はまた水が増えたらここを渡ってください。がんばって」
「……うん」
 水中のメダカが小さな声で返事をしたその時、赤い巨体がいきなり跳ね上がった。
 空中で一回転してから、尻尾だけが水中に届く所まで転がった。
「オレがこんなことで、負けるか!」
 唸りながら小刻みに体を揺らし、ゆっくり確実に体を水中に沈ませていく。
 水中のメダカは急いで赤い魚から離れた。
 陸のメダカが必死に、やめてくれ、と叫んだ。
 もう赤い体のほとんどが水中に入っている。
 逃げていたメダカの動きが突然、止まった。
 方向を変えて赤い魚と、陸のメダカがいる方に向き合う。
「やめた。どうせあっちに逃げても私は……助からない」
 完全に水の中に戻った赤い悪魔が笑った。
「そうだ。諦めたほうが疲れずにすむぞ、魚」
「逃げてくださいよ! 約束はどうしたんですか!」
 猛烈なスペードで、動かないメダカに突っ込んでいく。
「うん。ごめん」
 じっとしていたメダカが……またすばやい動きでそれをかわした。
 しかし、赤い魚もそれに反応しすぐにまた追いかける。
「オレに二度も同じ手が通用すると思ったか、魚」
 ミサイルから逃げる飛行機のように水中をかけまわりながらも、その差は少しずつ縮まっていく。
 メダカが今度は、一直線に川の方向に逃げた。
 川と水場の間には少しずつ弱りつつあるメダカと、乾きったかつてのチャレンジャーがいる。
 赤い魚はなかなか捕まらないのにいらだち、スピードを上げた。
 二匹の間隔がみるみるうちになくなっていき、陸に近づいた所で追い込んだ。
 逃げ道がなくなったメダカはそのまま直線に進み、陸に乗り上げた。
 後ろを追っていた赤い魚も、同じように陸に打ち上がる。
 巨大な津波が再び、陸を進み……そこにいた二匹のメダカを押し出した。
 逃げていたメダカは、波に流されながら赤い大きな口の中に吸い込まれていった。
 陸にいた二匹が波に流され
「お……助かったのか、ミーは」
 干からびていたメダカが、いつもより数段弱い声で言った。
「ええ、そうみたいです」
 もう一匹が、さらに弱い声で言った。
 その二匹は憧れていた、広大な水溜りへたどりついた。 
 後ろの水場から、大きな声で赤い魚が叫んでいる。
「くそ、出れねえ!」
「そこで水が増えるのを待つんですね。もちろん僕達はその時ここにはいませんから」
 赤い魚は顔だけを水面に出した。
「……おい! そこの……そこの黒いアンちゃん!」
 メダカ二匹が振り返ると、目の前に赤い魚より数倍大きな、全身を毛に覆われた動物がいた。
「なんや、ワイのことか?」
 黒い大きな影が、下を向いて驚きの声を上げた。
「君らなんでここにおるん? 結局あそこは気にいらんかったんかいな。わがままなやっちゃな。けどあの契約はもう果たしてるし、今はなんの貸し借りもないで」
 嬉しそうな口調で巨大な影は言った。
 先ほどの水場からも大きな嬉しそうな声が聞こえる。
「なあアンちゃん。オレをここから出してくれんかな?」
 巨大な影が赤い魚の方を見た。
 それからメダカ二匹を見下ろし
「もちろん、ええで」
 黒い影がメダカの上を通り越し、水場に着地した。
「やばい、エスケープだ」
 二匹のメダカは一目散に逃げ始めた。
 それに焦り魚が言った。
「できれば早く終わらせて欲しいんだけど」
 影が少し楽しそうに笑った。
「おもろいわ、みんな同じこと言うなあ。わかったすぐに終わらせてあげるな」
 大きな腕が伸びてきて、無抵抗の魚を川と水場の間にある短い陸に引っぱりだした。
「……あかんなあ」
「もう一回はじいてくれたらいけるよアンちゃん……?」
 巨大な影が陸に打ち上げられた魚を見下ろして言った。
「そうやない。ワイが言いたいのは、猫に物を頼むときはそれ相応の代価が必要なもんやということや。悪いけど、あんたの願いは最初から叶えるつもりないねん」
「じゃあ……まさか」
 巨大な鋭い爪が、赤い魚を裂いた。
 叫ぶ間も無く、魚は絶命した。
 内臓が腹部から飛び出し、その穴から数匹のメダカが川にゆっくりと流れていく。
 黒猫はそれを見送った後、赤い魚をさぞうまそうにたいらげた。

2007/09/17(Mon)10:45:03 公開 /
■この作品の著作権は翼さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
あとがき

家で飼っているメダカを眺めて、なんとく書いてみました。
私が書いたものとしては、三つ目でそれゆえにレベルは低いです。
いつかこの『書く』という文字に『描く』を使えるほどの物を作りたいものです。
どうか『ここはこうしたらいい』という場所がありましたら教えてもらえませんか。ご指導よろしくお願いします。
作品については、私としては珍しく一週間で書き終えました。
過去二回「これじゃ駄目だ」「こんなんじゃ話にならない」と途中で投げ出してしまいましたが、今回は「まあレベルが低いのはしかたがない」と気軽に、軽い調子で最後まで書きました。
今回は展開に力を入れたつもりですので、見せ方などの感想や指摘をよろしくお願いします。
あと気になったのは、一つの段落につき文章が短いことですが悪ければ注意してください。
ありがとうございました。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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