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『幼馴染』 ... ジャンル:ショート*2 リアル・現代
作者:サトー カヅトモ
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「……ね、なんかあった?」
その一言に、流石に長年付き合いのある相棒だと思った。
俺とあいつは幼馴染とでも言えばいいのか、とにかく長い付き合いだ。俺が生まれ、あいつが生まれ、それからずっと一緒だったと思う。
「なんで? 別になにもねえよ」
ずっと顔を突き合わせていれば些細な変化でもわかるものなのだろうか。そんな考えがふと浮かんだ。俺はあいつの飾り気のない顔を眺めつつ嘘をついた。
――本当は、あいつが言い当てたように俺には最近できた悩みの種がある。しかし、それをあいつに言いたくはなかった。
「嘘。顔真っ青じゃない」
もとからこんな顔だよ、と俺は顔を背けた。
あのことは俺にとっては悩みでも、あいつはそれを羨ましいと思っている。以前、ぽつりとあいつが漏らしたそれらしい言葉が未だに忘れられない。
――君が羨ましいよ。わたしにはないものを持っているから。
その言葉に俺はどきりとした。俺にとってはうざったいことでしかないのに、あいつはそれを羨んでいたのだ。そんなことはないと、あんなのは邪魔なだけだと、そう続けようとしたのに、あいつの寂しそうな顔に向けてそう言い放つ気にはなれなかった。
俺があいつに悩みを話すということは、あれを悪くなく思っているあいつに、その悪口を聞かせることになるのだ。辛そうな顔になるあいつを思い浮かべると、どうしてか俺は心苦しくなってしまう。
俺はあいつに背を向ける。僅かにあいつとの距離が開いた。
「――あのことで悩んでいるんでしょ?」
突然の言葉に俺の中を駆け巡る液体がさっと退いていくのを感じた。
「それは……」
「わたしに気を使ってくれなくても平気。――馬鹿だな。わたしだっていいことばかりじゃないってことくらいわかってるよ」
「……そっか。はは、全部お見通しってことか」
俺はもう一度あいつに顔を向けた。
「当然じゃない。五年や十年の付き合いじゃないんだから」
あいつは変わらず俺を見ていて、そのことが少しだけ照れ臭かった。
数え切れないくらいの仲間がいるこの世界。もっと時間が経てば色んなヤツと出会う機会なんかもあるかもしれない。だけど、どんなヤツがいようと俺にとって一番身近に存在を感じられるのはこいつなのだろうな、とそう思った。
こいつには大勢のヤツらをひきつける力なんてないし、集団の中心になるような柄でもない。だけど、俺の一番側で俺だけを見つめてくれるこいつのことを、俺は――。
そこまで自分の気持ちを確認したところで、ぼん、と火山が噴火したような気がした。
……なにを考えているんだ俺は!
自分の中にあまりにも自然に浮かんできたその感情を誤魔化すために、俺はもう一度あいつから顔を背けた。
「あれ? 今度はどうしたの?」
「なんでもねえ!」
気分を落ち着けるために周囲を見渡す。真っ暗な世界にきらきらと輝く彼方の星たちがとても綺麗だった。そうして無言のまま星を眺め、しばらく時間を置いてから向き直る。あいつはやっぱりじっと俺を見つめたままだった。
なあ、と俺は切り出した。
あいつが折角気にするなと言ってくれたのだから、俺はその厚意に甘えることにしよう。
「――ちょっと悩みがあるんだが、聞いてくれるか」
「うん。もちろんだよ」
予想通りのあいつの言葉を聞いて、俺はとても暖かい気持ちになれた。きっとさっき爆発した火山から溶岩でも流れ出したんだろうな、なんて少し気障ったいことを思った。
どこまでも広がっていく宇宙を思えば、俺やあいつの存在なんて本当にちっぽけなことなんだろう。そんな広すぎる世界を思うたびに孤独感に襲われても、俺はこいつが側にいてくれる限り、きっと大丈夫だ。例え喧嘩の一つや二つしたって、その程度で消えてなくなる脆い結びつきじゃないと、そう信じられる。
だから、俺はあのことを少しだけ愚痴ることにした。あいつに話したってどうにかなる問題でもないし、もしかしたら二人で暗くなるだけかもしれない。それでも、あいつの優しさに応えたいと思った。あいつが手出しできない問題であったとしても、俺の悩みを、あいつにとっては羨望の対象にもなりうるそれを、側で聞いてくれるあいつを思うたびにきっと俺は頑張れるから。
そう心を決めると、俺は真っ直ぐにあいつの顔を見ながら言った。
「最近、人間の環境汚染が本当酷くてよ……。オゾン層とかもうボロボロなんだ」
「わたし、寂しがりだから人間がいるの羨ましかったんだけど――そんなに酷いの? 太陽風とか大丈夫? 良かったら皆既日食の回数とか増やそうか?」
「そんなに心配すんなって。一万年も耐えればあいつらもいなくなるさ。俺自身はそうでもないんだけど、植物とか他の動物たちのことが心配なんだよ」
四十五億年続いた俺たちの絆は、これからもずっとずっと続いていく――。
了
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2007/07/22(Sun)00:13:06 公開 / サトー カヅトモ
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ウィキペディア情報によると実はちょっとずつ離れていっているらしいです。彼ら。
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