『スクエア(青春編)』 ... ジャンル:リアル・現代 恋愛小説
作者:D
あらすじ・作品紹介
幼馴染4人の恋愛模様を描いた作品です。
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「おはよう」
またいつも通りの朝が来た。
俺は五十嵐慶(いがらし けい)。15歳。中三。俺はいつもの様に朝飯をトースト一枚
で済まして学校に登校した。
「オッス!慶。」
「おはよう。大介。」
こいつは佐藤大介(さとう だいすけ)。小さい頃からの幼馴染で同い年。まぁ、一番仲のいい友達って言うかちょっと腐れ縁っぽいところもある。
「慶、今日放課後暇?」
「まぁ、暇といえば暇だけど…。」
「じゃあ放課後いつものとこ来いよ。」
「ああ。って言うか俺ら受験生なのにこんなに遊んでていいのか?」
「受験勉強は夏休みになってからでいいの。」
「あっそ。」
いつものとこと言うのは、ネットのチャットの事だ。
‘キーンコーンカーンコーン’
こんなムダ話をしているうちに1時間目が始まった…。
俺は休み時間は大介と話してる以外は本を読んでた。
本は出されればなんでも読んだ。とにかく本が好きだった。
*
学校が終わり俺は大介と約束していた通りチャットをやる為
パソコンに向かっていた。
K:サダオ居る?
サダオとは大介のチャットでのニックネーム。何でサダオなのは俺も知らない。
Kというのはもちろん俺のニックネームだ。なんてわかりやすいんだ…。
サダオ:居るよ
ディー:コン。
ディーというのはチャット仲間。たぶん中学生だと思う。
詳しい事は知らない。
K:ディー、今日学校どうだった?
ディー:今日授業くそつまんなかった。
サダオ:学校は基本つまんないけどね
ディー:確かにネ
…このあとは他に誰も来なかったので(チャットに)
皆落ちて(止めるの意)俺の一日は終わった。
*
次の朝も同じだと思ったら昨日とはちょっと違った。
朝にある人に声をかけられた。
朝、いつもの様に通学路を歩いてると後ろから
「おはよ!」
後ろを見ると2人の女子が立っていた。
鶴岡沙紀(つるおか さき)と鶴岡真紀(つるおか まき)だ。名前の通り双子だ。
「おはよ。」
俺はできるだけ自然に言った。そう俺は沙紀のこと(方?)が好きなのだ。
沙紀は明るくて活発な奴。部活も陸上部だった。(この頃はもう夏休みも近く
部活は引退していた。)
で真紀は沙紀に比べ大人しく、部活は美術部だ。(文化部は10月の文化祭まで
引退しない)
この2人とも幼馴染で好きだと気付いたのは小5だったがもしかしたら
もっと前から好きだったのかも。
この2人は性格をよそにすごく似ていた。恐らく何も言わずに並んで立っていれば
簡単には見分けはつかないだろう。
だが俺は幼馴染というのもあるが見分けがつく小数の人間の一人だった。
もちろん大介もこの2人とは幼馴染で仲が良かった。
しかも大介は真紀のことが好きという不思議な四角関係なのだ。
「珍しいな、お前等がこんなに遅くに登校するなんて。」
この双子は普段は二人そろって7:45には学校にいるのだが
今はもう大体8:00だ。
「ちょっとあたしが寝坊しちゃったから。それより大ちゃんは?」
大ちゃんとはもちろん大介の事。
「あいつも今日寝坊したから後から来ると思う。」
なんて運の悪い奴なんだ…。大介。
「もうすぐ夏休みだね。慶は夏休み何か予定あるの?」
「あるとしたら、勉強やんないといけない事くらいかな。」
「じゃあ大ちゃんも誘って4人でどこか行かない?」
願ってもない誘いだ。
「俺はいいけど、あとで大介にも聞いてみるよ。」
まぁ、大介が断るわけないけど…。
「でもどこかってどこ行くんだよ。」
「ん〜。プール行くとか、映画見るとか。」
「俺は何処でもいいけど。真紀はどっか行きたいとこないのかよ。」
真紀がぜんぜん喋らないから振ってみた。
「私はプール行くよりは映画のほうがいいかな。」
「じゃあ映画ってことで、大ちゃんに言っといて。」
「分かった。」
*
学校で遅れてきた大介にさっきのことを言ってみた。
「マジで!あっちから誘ってきたのかよ?」
「ああ。俺も驚いたよ。まさかあっちから誘ってくるなんて。」
「気があるのかもな?」
「お前その単純な頭何とかならないのか?幼馴染だからだろ。誘ったの。」
正直ちょっと俺もそう思った。
「まぁそうだろうな。」
その日の学校はちょっと楽しく思えた。
*
そして数日が経ち終業式になった。
そのあと四人で話し合って日程は7月27日になった。
今日は丁度7月20日だからあと一週間。久々に楽しみになってきた。
27日までの一週間はすごく長く思えた。何をやっていたかと言うと、
受験勉強→チャット→飯、の繰り返し。
はっきり言ってつまらなかった。その分27日の前の夜はなかなか
眠れなかった。俺はそういう柄じゃないけど落ち着かないものは
落ち着かない。
27日はできるだけ自分をよく見せようとした。
でもあまり手を加えすぎるとバレバレになるので、程よく整えた。
待ち合わせ場所に行ったら沙紀と真紀はすでに居た。
私服の2人は久しぶりに見た。ちょっとドキッとした。
その三分後くらいに大介が来た。
大介も俺と同じように整えていた。自然に。
「ワリー、ちょっと遅れた。」
「俺も今来たとこだよ。じゃあ行くか。」
映画館まではバスで行った。割とこの町は田舎なので
映画館までは距離がある。バスで20分くらいだ。
バスはできれば沙紀の隣が良かったが、さすがに
そこまで勇気は出なかった。結局俺は大介の隣に座った。
映画館までの20分は沙紀と真紀はしゃべっていたが、
俺たちは変なくらいにしゃべらなかった。俺はこのあとの事を考えるので
精一杯だった。多分大介も同じだったと思う。
バスは俺たちの降りる停留所についた。
そこから映画館までは歩いて5分くらいだった。
「映画どんなの見るの?」
「アクション系とか冒険物はまずないだろ。俺らしか楽しめないからな。」
どんなものを見るかは俺と大介で事前に決めていた。
もちろんラブストーリー!!これしかない。
俺と大介でそっちに仕向けるようにするつもりだった。
「お前等は見たいのあるの?」
「あたしは特にないけど。アクションと冒険じゃなきゃいいよ。」
「真紀は?」
今のは大介。多分この科白でいっぱいいっぱいだったんだと思う。
「現実的なものなら何でもいいよ。」
真紀は美術部だけど超理数系なのでお化けとか神様とかは
まったく信じない。描く絵も風景画とか人物画とかそんなのだけ。
って言うかラブストーリー以外の現実的な映画ってかなり少ない気が…。
「じゃあ何公開してるかとりあえず見てからネ。」
そうこうしているうちに映画館に着いた。
「今公開してるので現実的なのって恋愛物しかないね。」
「じゃあこの『エターナル』ってのにしよう。上映時間近いし。」
「いいよ。」
「うん。私もいいよ。」
「あたしもOK。」
上映までは近いといっても30分あった。なので
チケットを買ってから近くのファーストフード店に行って軽く食べる事にした。
俺はそんなに腹が減ってなかったからアイスコーヒーとアップルパイだけにした。
沙紀はショコラクロワッサンとバニラシェイク、
大介はハンバーガーとコーラ、
真紀はお茶だけ頼んだ。
時間は11時を回ったあたりで、徐々に人が増え始めていた。
俺たち4人は窓際の席に着いた。
「2人は高校どうするの?」
沙紀が話のきっかけを作った。
「俺は近めの高校で文学部に入りたいな。」
これはもちろん俺。本が好きなのもあって国語はそこそこ得意だったし
好きだった。言語つながりなのか英語のなかなかのものだった。
「ふ〜ん。あたしは法学部に行きたいな。弁護士になりたいから。」
沙紀の弁護士はなんとなく想像がついた。俺は合ってると思ったが、
それは口に出さなかった。
「俺はバスケの強い学校に行きたいな。できればスポーツ心理学とか
教えてくれる所で。」
「大介バスケ強いもんね。」
行っていなかったが大介は181cmある長身で、バスケがかなり上手かった。
部活では県優勝をしていて関東大会では(ここは群馬県だ。言うの忘れてた。)
去年はベスト8になる実力校だ。ちなみに俺も174cmありまだ成長しつつけていて
俺も180cmを超えそうな勢いだ。沙紀と真紀はというと160センチ行かないくらいの小柄な双子で俺たちと並ぶと頭1.5個分くらい違う。
「私は理数科か工業とかそんなところに行きたいな。」
まぁ、真紀の答えは分かりきっていた。なんか真紀は大学の教授とかになっても
おかしくない気がした。ノーベル賞とか取っちゃったりして。
今の話をまとめると、卒業したら4人はばらばらになるような気がした。
(沙紀と真紀は離れないと思うけど)だけどそれ以上は考えない事にした。
「もう上映の10分前だよ。そろそろ行かないと。」
「そうだなもう行くか。」
そして4人は映画館でポップコーンとMサイズのドリンクを人数分買って
上映室に入り待っていた。すぐに映画は始まった。
映画は何てことない普通のラブストーリーだった
2人の男女が出会い、いろいろ苦難を乗り越えて、最後は永遠の愛を誓う。
ただそれだけだった。途中で少しエロティックなシーンもあったが、
つま先のアップだったり指先だけが見えてたりすごく間接的で断片的だったので
そんなに気にはならなかった。まぁ最後はちょっと感動したけど涙が出るほど
ではなかった。
「普通の映画だったね。」
沙紀が言った。いつも話は沙紀から始まっている気がした。
だねっと俺。
「俺はケッコウ泣けたけどな。」
とは言っているけど、大介は少しも涙を浮かべていない。
「ラブストーリーらしいラブストーリーだったね」
と真紀。まぁそんなに感動する映画じゃないことは確かだ。
なぜなら上映室を出る人の中に大泣きしてる人は一人も居ないから。
せいぜい啜り泣きくらい。
時間は2時を少し回っていた。
俺たちはまたバスに乗りバス停からそれぞれ家に帰った。
俺と大介はもうその頃はチャットに行く暇もなく
俺は勉強したり休んだりの繰り返しだった。
気付けば夏休みもあと3日だった。俺は夏休みの宿題を残さないタイプなので
慌ててやる人の気持ちは分からない。
だけど大介は慌てていた。部活で関東大会まで進んでベスト8になっていた。
去年と同じ成績で大介は不満そうだったが、相当すごい成績だと思う。
しかも大介は優秀選手賞を取っていた。(優秀選手賞は4人に与えられる。
参加校は18校)それもあって、夏休みの3分の2は部活をしていた。
一年の頃から大介は夏休みラスト3日前になると宿題を山ほど抱えて、
うちに来る。1年の頃は正直嫌だったが、3年目にもなるともう慣れた。
3日間は大介の宿題をひたすら手伝って終わった。
よく考えたら俺はすごくお人好しなのかもしれない。
そして始業式があって2学期は風のように過ぎていった。
実力テストがあったり、志望校の願書を書いたり、面接の練習をしたり、
文化祭があったりもうとにかく忙しかった。忙しすぎて、特に俺にとって
何か楽しかった事とかは全然なかった。文化祭も参加名簿に名前だけ書いて
(参加しないと美術とかの成績に多少関わる)サボっていたし、他は家に
帰っても受験勉強しかほとんどしていなかった。
*
冬休みに入った。冬休みは天国だった。受験生だからといって宿題は
極端に少なくなるし、(5教科のプリントが3枚ずつだけ。)ほとんど
一日中暇なので、一日4時間くらい勉強すればあとは暇だった。
時々チャットにも行ける位だった。
ある日俺は勇気を出して誘ってみた。沙紀と真紀を。
電話で誘った。電話の呼び出し音が緊張を際立たせた。
プルルルル、プルルルル、プルルルル…。
「はい、もしもし鶴岡です。」
「五十嵐ですけど、沙紀さんいますか?」
「はいはい私だけど。」
「今度さ、いつもの四人で遊びに行かない?」
「あたしはいいけど。多分真紀もOKだと思う。まさかまた映画とか言わないよね?」
「そんなワンパターンな…。フツーに街歩いて買い物したり
飯食ったりするだけでいいじゃん。」
「冬だし、スケートとか行こうよ。」
「いいよ大介には俺から言っとくよ。」
「うん、分かった日程は?」
「俺はいつでもいいけど。そっちは?」
「じゃあイブの日は?」
「いいよ。じゃあそういうことで、大介に言っとく。」
「分かった。じゃーね。」
「うん。」
ガチャ…ピーピーピー…。
メッチャ緊張した。まだ心臓がバクバクしてる。
電話でもこんなに緊張するものなのか!?って言うか電話のほうが
緊張する!とりあえず大介に連絡になくちゃ。
プルルルル、プルルルル。
「はい、佐藤です。」
「五十嵐ですけど。」
「おお、慶か。なんか用か?」
「2人と遊ぶ約束したぞ。」
「2人って、鶴岡達の事か?」
「あぁ。」
「おお!!よくやった、友よ!!」
「イブの日だって。もちろん来るだろ。」
「あったりまえよ!!」
「じゃあそれだけだから。朝10時に家来いよ。」
「はいはい。」
ガチャ。
とりあえず、OK。
イブまであと10日。なげー…。
10日間はイブの日のことばかり考えてた。
どこ行くかとか、何食うかとか、そんなことばかりだった。
*
今日は12月24日、イブの日!!
大介がうちに来た。そのままバス停に行った。
例のごとく2人は居た。いつも何分前くらいに居るんだろう?
でそのままバスに乗り街に行った。
最初にスケートに行こうという話になったので、スケートリンクに行った。
沙紀はフツーに上手かった。三回転ジャンプとかそんなことはできないが、
すいすい滑っていた。真紀もそれなりに滑れていた。
俺も沙紀ほどではないがそこそこ上手く滑れていた。
大介はと言うと、駄目駄目だった。情けないほどに滑れていなかった。
大介のでかい図体が転ぶ転ぶ。壁伝いにも、滑れないくらいだった。
大介は「慶〜、助けて〜。」とか「俺を置いてかないで〜。」とかばっかり言っていた。
俺はしばらくはフツーに滑っていた。沙紀も完全無視だった。
真紀はちょっと気遣いながら滑っていた。だんだん大介がやっている事に
こっちが恥ずかしくなってきたので、三人で手伝って大介を滑れるようにしてやろう
ってことになった。大介はでかいくせに腰が引いていたからバランスが取れていなかった。
いくら言っても腰を直さないので沙紀が「しっかりしなさい!!」って言いながら
大介の腰を叩いた。もちろんびっくりした大介は思いっきりこけた。
そのあとも根気よく練習したらちょっとは滑れるようになった。
俺と沙紀と真紀は大介がある程度滑れるようになったら三人でフツーに滑った。
そのときは勉強の話はしないで、このあと何処いくかとか、
昼飯どうするかとかを話していた。大介はクソ真面目に練習していた。
ちょっとおかしかった。12時半になったらスケートは止めて
昼飯を食べに行くことにした。昼飯は真紀のリクエストで、
近くのパン屋で食べる事にした。そこは買ったパンをそのまま
カフェで食べれるようになっていた。
パン屋に向かう間は俺と沙紀と真紀は何処いく?とかもうすぐ卒業だねとか話していたが
大介は一人でブルーになっていた。スケートが全然滑れなかった自分が
悲しかったんだと思う。
さすがにパン屋に着いたときは、大介もふっ切れていた。
俺はホットドックと一口大のメロンパンのようなパンを一つずつ買って
テイクアウトのコーヒーを頼んだ。
沙紀と真紀はクロワッサンとクリームの入った砂糖パンみたいのとコーヒー牛乳
を買って、大介はカレーパンとあんぱんと牛乳を買って席に着いた。
飯は30分くらいで食べ終わって、そのあとに本屋に行った
真紀と沙紀が買いたいと言ったからだ。俺も丁度本が読み終わってたから
ついでに買った。本を選んでる間大介は三人の間を
行ったり来たりしていた大介はジャンプとかサンデーとかそんな本しか読まないから
本はほとんど近くのコンビニでしか買わないらしく、本屋にきたら何をしていいのか
分からないらしい。本を買ったあとは、ゲーセンに行った。
俺はレース系のゲームが恐ろしく強い。ほとんど負けない。
大介は格闘系がめちゃくちゃ強い。だけど、そんなの沙紀と真紀の
趣味に合わないので、UFOキャッチャーをした。
俺は一つも取れなかった。
なのに大介はめちゃくちゃ取れてた。人形とか腕時計とか全部で
7つくらい取ってた。
「大ちゃんってUFOキャッチャー得意なの?」と沙紀。
そんなの俺も聞いた事ないぞ!と思いながら大介を見たら大介もびっくりしてた。
「俺UFOキャッチャーなんかやったの初めてだぞ。」これも才能か!?
沙紀と真紀も1つか2つは取ってた。俺だけ取れない…。
スケートのときの大介と俺の立場が逆転した気がした。
時計は4時を回っていたので帰ることにした。
バス停に向かう途中俺は気になっていた事を沙紀と真紀に聞いてみた。
「お前等ってさ、どっちが姉でどっちが妹なの?」
10年近く付き合っているが、その事は知らなかった。何でだろう?
「あたしが妹で真紀が姉。」
「やっぱり。」
「うそー!!」
俺と大介のリアクションは違った。やっぱりが俺。
「なんか慶のリアクションちょっとむかつく!。」
沙紀がふざけた感じに言った。
「それは自分が真紀よりも幼いと思ってるからじゃないの?」
「うるさい!!」
そう言って沙紀は俺の背中を叩いた。
すでにバス停に着いていて、バスも着たのでそのまま乗って帰った。
気付くと夏休みのような沈黙はなく、俺と大介もフツーにしゃべっていた。
バスが着いて別れ際に俺と大介は沙紀と真紀に
「手出して。」
「ん?」
と言って沙紀と真紀は顔を見合わせてから手を出した。
俺は沙紀に青いガラスの入った、大介は真紀に赤いガラスの入った
クロスのキーホルダーを渡して、
「クリスマスプレゼント。」
と2人で言った。
すると沙紀と真紀はまた顔を見合わせてからにっこり微笑んで
「手出して。」
俺と大介は素直に手を出すと。沙紀は俺に、真紀は大介に
それぞれトナカイの小さなぬいぐるみのキーホルダーをくれた
よくみると、俺のはトナカイの鼻が青くて、大介のは赤かった。そして
「クリスマスプレゼント。」
と言った。
「手作りなんだよ。」
「慶のは沙紀が作って大ちゃんのは私が作ったんだよ。」
もう一度ぬいぐるみに目線を落とした。沙紀って結構器用なんだな〜と思った。
手作りにしてはかなり上出来だと思った。
「ありがとう。」
四人同時にそう言って家に帰った。
*
俺は家に帰って、貰ったキーホルダーを財布にくっつけた。
次の日、クリスマスにはさすがに15にもなったらプレゼントは
貰わないけどイタリア料理を食べに行った。だけど沙紀に貰ったキーホルダーが
一番うれしいプレゼントだった。今まで幼馴染とはいえお互い幼かったのか
一緒に学校から帰るとか学校でしゃべるとかそんなくらいしか関係を持たなかったから
クリスマスにプレゼントを貰うのは初めてだった。誕生日も俺は5月18日だが
プレゼントは貰ってない。大介も4月3日だけど貰った様子はない。
夏休みに俺たち4人の距離は一気に縮まったと思った。2人の誕生日は
早生まれで2月29日(4年に一度しかこないが、それ以外は28日に祝ってるらしい)
なので俺はプレゼントをあげることはできる。まぁその事はそのときに考えればいい。
そのあとの冬休みはフツーに過ぎてあっという間に終わった。
冬休みは大介が泣きついてくる事もないのでゆっくり過ごした。
年賀状は少しめんどくさかったけど社交性の低い俺は送る相手が大介と
従弟宛が2枚と鶴岡宛と兄貴(もう21歳で東京で働いてる)宛が家族の中で
俺の仕事なのでその1枚で合計5枚と言う脅威の少なさなのですぐに終わった。
そして始業式。俺は志望校が公立なので受験はあと一ヶ月くらいある。
大介も沙紀と真紀も公立なので今は最後の詰めだった。
学校はもう受験の話で持ちきりだった。私立を受験する奴等は
落ちたとか落ちないとか問題どうだったとか、面接緊張して言われる前に
席座ったとか、面接官チョー怖そうだったとか聞いて意味があるんだか
ないんだか分からない話をしていた。俺はそんな中でも相変わらず
本を読んでいた。大介は俺よりは社交性あるし、話す相手も結構いたから、
そんな話に混ざってた。まぁ俺と話すときは大介もそんな話はしなかった。
(大介は俺がそんな話に興味ないことを知っている。)
一月の上旬になるとさすがの俺も休み時間に小説とかそんな本は読んでなかった。
何を読んでるかと言うと、参考書とか教科書とかノート。
ひたすら覚えるように何回も読んだ。大介と一緒に問題出し合ったりもした。
*
受験の日。俺は冬休みに沙紀に電話したときと同じくらい緊張していた。
受験会場に行く途中も参考書を読んで最終確認的なことをしてた。
受験はある学校の文学科を受けた。思ったより問題はすらすら解けた。
その日に大介もある学校のスポーツ心理学科を受けていた。
大介も俺と同じように解けている事を信じた。
沙紀と真紀も同じように受験を受けていた。
あの2人は学校でも結構上位のほうだったので心配は要らないと思った。
次の日俺たち4人は受験の話をしていた。俺も他の奴等と同じか?
「俺は思ったより簡単に解けたけどな。」
「俺も教科書の載ってる事問題にしただけだった気がするな。」
「何で大ちゃんいろんなとこからスポーツ推薦受けてたのに断ったの?」
「だって推薦する高校全部スポーツ系の学科なかったから。」
「フツーに勉強するのは嫌って事ね。」
「そういうこと。」
「沙紀と真紀はどうだった?」
「私も簡単に解けたな。」
「あたしは法学だから公民の教科書に載ってると少しあったけど、
あとはちょっと特殊な問題ばっかりだった。まぁ大体解けたけど。」
「皆それぞれ手ごたえはあったって事だな。」
「まず落ちた人はいないでしょ。」
「そうだね。」
*
合格発表の日。俺は合格していた。倍率は1.46倍のとこでそこそこ高かった
けど合格できた。
俺は携帯を持ってないから、(大介、沙紀、真紀も持ってないけど)すぐにあいつ等と連絡を取る事はできないけど、4人で発表を見たあと、学校前に集まる約束をしてた。
俺は一番最初に学校前に来た。その2分後くらいに大介が来て、その10分くらい
あとに沙紀と真紀は来た。全員合格だった。
「最初番号見過ごしててかなり焦ったよ。」
「あはは!!大ちゃんらしいね。」
「まぁ全員合格だったんだから打ち上げでも行くか。」
「うん。そうだね。」
そのあと俺たち4人は近くのファミレスに行って、互いを褒め合った。
*
俺はその数日後に沙紀と真紀にバレンタインチョコを(多分友チョコ、大介貰ってた)
貰った。俺は沙紀と真紀の誕生日プレゼントに迷ってた。
大介に連絡を取ったが、あいつも迷ってた。
考えて考えたあげくペアのシャツをあげる事にした。中学生のお小遣いじゃ、
これが限界だった。もちろん2人は喜んでくれた。
あとはもうフツーに学校生活を送っていた。
気付けば卒業式の練習も始まっていた。
卒業式当日は皆泣いていたが俺は泣かなかった。卒業のあとも、
大介とは連絡が取れるし、別れを惜しむような仲間も他に居なかったら。
卒業式の後に三人に告白された。(もちろん女子)
俺は全員断ったあと沙紀の所に行った。
沙紀の家に行き沙紀を呼び出した。
沙紀が家から出てきたあと、しばらく沈黙が続いた。俺はなかなか切り出せなかった。
そして…。
「沙紀。俺…。」
「………。」
「お前が好きだ。」
死にそうなくらいドキドキしていた。
「うん…。」
「付き合ってほしい。」
「慶。知ってた?」
「何が?」
「あたしも真紀も慶が好きだった事。」
全然知らなかった。そんなの少しも感じなかった。
「知らなかった。」
「あたしが慶に呼ばれたとき真紀は一瞬悲しそうな顔してそのあと笑ってくれた。」
「………。」
「でも…。」
でも……?
「付き合えない。」
「なんで?お前も俺を好きだと言ってくれた。なのに何で?」
「あたしの受かった高校ここから結構遠いでしょ。」
「うん。」
「それで、あたしの高校と真紀の高校が割りと近くて。」
「うん…。」
「近くにアパート借りて2人で住む事になったの。」
「でも付き合うことはできる。」
「できるかもしれない。だけど遠くに住んでたらなかなか合えないし、」
「合えないし?」
「真紀のこと考えたら、あたしだけ付き合えない。」
「…そうか。」
「うん…。」
「じゃーな。」
「バイバイ…。」
俺は走って帰った。全速力で。止めど無く溢れるものを抑えながら…。
泣いた。俺は泣いた。辛かった。あまりにも辛すぎた。
俺たち4人のスクエア(四角形)は俺の思っていた以上に
複雑だった……。
*
そのあと大介も2人の気持ちを知ったらしく、
俺に電話をよこした。
「まさかな…。」
「驚いた。」
「悲しすぎるよ。」
「仕方ない事なのかもな…。」
「かもな…。」
春休みの間はその事ばかり考えてた。
本当なら、中学卒業のあとの春休みは皆遊んで過ごすのがフツーだと
思ったけど、そんなことできる状況じゃなかった。
俺は鈍感なのかもしれない。気付いていたら、何とかできたのかもしれない。
俺は高校が始まっても、恋愛はできない気がした。
トライアングル(三角形)よりも複雑なスクエア(四角形)
を知ってしまったから。
2007/06/11(Mon)08:37:20 公開 /
D
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■作者からのメッセージ
初めて書いた小説です。どんな意見でも待ってます。
続編も書く予定なので、出来次第投稿したいと思います。
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