『スリラー』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:サトー カヅトモ                

     あらすじ・作品紹介
 

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 ――そこいくあなた、もしもお時間をいただけるなら、海の向こうの一人の青年のお話でもいかがでしょう。

 
 夢があった。
 そのためには友達が欲しい。僕の夢は一人ぼっちじゃ叶えられないから。
 少しくらいなら性格が歪んでいてもかまわないから、僕と同じ夢を見てくれる人。そしてその人と一晩中、そのことについて語り明かしたりしちゃったりなんかして。実際にやってみたりできれば最高だ。……でも、僕の夢がちょっと、数多あるそれらの中でも特殊な部類になると思うから、叶わぬ夢ってやつだろうだけど。
 そして二十年。待ち望んだ友達は現れてはくれなくて、僕は夢を諦めた。
 仕方がないから、ひっそり寂しく生きていこうと、そう思ったんだ。
 
 仕事帰りのレストラン。別に毎日激務をこなしてるってわけじゃないのに、その日の僕はこっくりこっくりと船をこいでいた。手の中のワイングラスの中では小波が生じ、波高は徐々に大きさを増していく。――かしゃん、とグラスの割れる音で意識を取り戻すと、なんとワインは宙を舞い果敢にも純白のコートに飛び掛っていた。ざ、と頭の先から血の気が引いていく。僕は、僕よりも少し若い、二十歳前後くらいのその女性を知っていた。
 すいません、と謝るよりも早く、石のように硬い拳が僕を吹っ飛ばした。派手な音をたてて僕は床に倒れる。頬の下にある絨毯には、ワインが染み込んで跡ができていた。
 ――お前、大変なことをしてくれたな。
 僕はじろりとワインを睨んだ。同時、僕を殴り飛ばした黒服のお兄さんが胸倉を掴み、無理矢理に僕を起こした。
 ――お前が襲い掛かったあの人、マフィアのボスの娘さんなんだぞ? それも、僕でもボスの顔と名前くらいはわかるくらいに有名なファミリィの。
 再び殴られる衝撃、椅子やテーブルを薙ぎ倒す轟音、立ち上る客の悲鳴。
「それくらいにしておけ、リヒァルト。他の客に迷惑だ」
 冷たい声に制され、黒服は動きを止める。まるで音声入力式のロボットみたいだと思った。そして僕は蛇に睨まれた蛙。彼女は――、うん、どんな比喩の言葉よりも、マフィアのボスの娘という肩書きそのままで充分だと思った。冷徹な瞳。指先一つで黒服たちを動かし、中世の貴族のように優雅な立ち姿。気品と、威厳と、ついでに美しさまで揃っている。
 そんな彼女を安物のワインで汚してしまったのだから、これくらいの制裁は仕方がないさ。そんな、台風が過ぎ去った後を眺めるみたいな気持ちになっていた。だってこの流れだともうこの辺で勘弁してやるって感じじゃない。
 ところが、
「続きは外で、だ」
 過ぎ去ったはずの台風が引き返してきた。
 嘘でしょ、お嬢様。貴女方はビジネスマン。お金にならないことはしないはずではないのでしょうか。これだけ痛めつければ充分貴女のファミリィの面子も保てますから。ああもう、勘弁してください……。
 なんて思ってはみても、僕には黒服に引き摺られながら、カードでお支払いを済ませるお嬢様の指先を眺める以外の選択肢はないようだった。
 


 僕は、ゲームが大好きだ。
 加えて勝者が敗者から何かを得られる類のものであれば最高。でも、ギャンブルは嫌いだ。あれの在り方は美しくない、と思う。ばれなければ構わないイカサマや、親元と子の間に権力の壁なんかがある場合は、もう最低だ。それこそが醍醐味だろう、という人もいるだろうが、僕は好きになれない。だけどあれが持つハイリスクハイリターンっていうシステムが嫌いなわけじゃない。むしろ、大好き。
 僕にとってのベストシチュエーションは、騎士の一騎討ち。名誉とか誇りとか、そういう一見すれば無価値なもののために命を賭ける。ああ、想像するだけで全身が震える。
 
 僕はスリラー。
 
 ゲームの見返りに、お金はいらない。名誉もいらない。ただ、スリルがほしい。
 でも、一人ぼっちじゃゲームはできない。だから、友達がほしい。ちっぽけなもののために命を張れる――、僕の望むゲームに付き合ってくれる、素敵な友達が。

「見た目通り、ひ弱なのね」
 彼女の飲みかけのジュースを頭から浴びて、僕は意識を取り戻す。
 レストランを出て路地裏に引きずり込まれ、始まったこの私刑。なすすべもなく、ボロボロになっていく僕を見て、彼女は無邪気に笑った。例によって黒服は彼女が口を開くと、ぴたりと行動を停止する。
「……ええ。この腕も仕事でパソコンをいじることと食事以外ではろくに使ってませんから」
 ひゅうひゅうと吐息が漏れる。ニホンゴでいうところの虫の息って状態だなぁ。そういえば、同僚のタナカくんには色々と教えてもらったな。……ふむ、なるほど。これがソウマトウか。
 気の緩みに連動して頬まで緩んでしまった僕の腹を革靴が抉った。
 その衝撃なのか、僕はタナカくんが教えてくれたある言葉を思い出した。酔いに酔った彼が言っていたのは、――そう、確か「一心腐乱」という言葉。
 
 他の全てなど腐り果てても構わない。この、ただ一つの心以外は何もいらないから。

 素敵な言葉だと思った。
 そして僕にも、そんな一つの心があったことを、思い出してしまった。いわゆる夢ってやつ。尤も、僕のそれはとても少年少女には見せられない、有害指定は確実の、ドラッグみたいな夢だけど。
 でも、そんな夢もいいんじゃないかな。
 正気のままで見る夢なんかじゃ物足りない。正気のままで叶えられる夢なんていらない。この身を狂気の渦に投げ入れて、ようやく届くかどうか。
 そんな夢だって。
「ところでお嬢さん」
 ――今の僕はゼンマイで動くブリキのオモチャ。それが巻かれる、きり、きり、きり、と。
 芋虫のように這いつくばったまま口元を吊り上げ、僕は尋ねた。
「こんな一方的なもの、見ていても詰まらないでしょう。どうです? 一つ、ゲームでもしませんか」
 君には暴走癖があって困るよと、いつだったか、誰かにいわれたっけ。
 ぺりぺりと一般人の擬態が剥がされる音が聞こえる。この状態に持ってくるまで随分と時間をかけたのに、不思議と勿体無いとは感じなかった。
 ごりごりと地面との摩擦で火花を散らす僕のネジ。なんて素敵な気持ちだろう。今ならあの月までだって届きそう。さぁ、いくぜ。フルスロットル・オーヴァーラン。
「ゲーム? ゲームだって? お前と私でか? はは、面白いな。そのゲームは勿論何かを賭けるんだろうな?」
 歳相応の少女の顔で笑い、
「お前は何を賭ける。金か? 臓器か? 我々に勝負をふっかけることが何を意味するか。知らないわけではないのだろう?」
 悪魔の瞳で最後通告をする。
 貪れると知られたら最後、アマゾンのピラニアの如く骨の髄までしゃぶられる。
 だが、それがどれほどのことだというのだろう。
「それでは粗品で申し訳ありませんが、僕の命を」 
 
 ――躊躇いも、後悔も、絶望も、みんなみんな、腐り乱れてしまえ。

「後に尾を引くのは止めましょうよ。わざわざ面倒でしょう? そんなのは」
 
 ――ただ一つのスリル以外は、何もいらないから。

「ここで全部決めましょう、一発勝負です。……そうですね、ロシアンルーレットなんて如何です?」
 僕は右手の指でこめかみを弾いて見せる。顔に張り付く狂気の笑みが、実に心地良く口元を歪めてくれた。
 これさえもゲーム。話にならないと私刑続行、気に食わないとこの場で処分。どちらも考えられる展開だ。腹の奥で何かがうねる。それは蛇のようにとぐろを巻き、チロチロと舌先を遊ばせている。這いつくばった地べたから身を起こし、天を仰ぐ。夜空は厚い雲に覆われ、月明かりさえ見えない。ここは大通りから遠く離れ、人々の声も聞こえない。銃声なんて、こんな薄暗い夜には真夏の蝉くらいに鳴り響くだろうから、この路地裏からもそれが聞こえたって誰も気にも留めないだろう。
 黒服はさっきまでの僕のようにうろたえ、そわそわと彼女を窺い見ては、時折僕を睨む。そのリアクションから判断すると、もしかしたら彼女もこういうゲームが好きなのかも。だとしたら嬉しいな。初めて僕にも友達ができるかもしれない。
 腹の蛇がするすると臨戦態勢に入っていく。
 出してください、ゴーサイン。
 そして始めましょうよ。
 とびきり過激で、とびきり素敵な僕らのゲームを。





 一番古い記憶の私は喧しく泣き喚いていた。父の側近だった男が反旗を翻したのだ。
 私は人質にとられ、こめかみに当てられた銃の冷たさに恐怖した。五歳? 四歳? それくらいの歳だったことを差し引いても、人前で失禁してしまうなんて、舌を噛み切りたくなるほどの屈辱以外の何でもない。
 その一件は無論、父が勝利した。いや、勝利と呼べるほどの大層なものでもないだろう。数百人単位の父のファミリィに対し、ヤツらはほんの数人しかいなかったのだから。子供と大人の喧嘩以上の戦力差だ。
 文字通りやつらが蜂の巣になるのに、そう時間はかからなかった。そのことが私の傷口に更に塩を塗りたくった。
 ――私は恐怖した。
 ――あんなやつらの銃口に怯えて泣き喚いたのだ!
 堪らなく悔しかった。
 二度とあんなものに怯えたくない。
 私は父に強請り、銃を貰った。そして毎晩それを、こめかみに当て、引き金を引く。そうして、あのときの恐怖を克服したと思い込むことで、どうにか自分を保っていられた。なんて馬鹿馬鹿しい。弾丸の入っていない銃なんて、オモチャと大差ないのに――。



「ロシアンルーレット?」
「そうです。ロシアンルーレット」
 リヒァルトに痛めつけられていたときは泣きそうだったくせに、この男は今や、水を得た魚のように活き活きとしている。二重人格か、と疑ってしまうほどに雰囲気ががらりと変化した。先ほどまでの気弱そうな男とはまるで別人だ。男は億劫そうにネクタイを振り解き、投げ捨てた。吐き出した唾は赤黒く、顔は青く腫れている。そんな満身創痍の姿であるにも関わらず、怯えの色は一欠けらたりとも見せはしない。
「いいだろう」
 私は即答した。
「但し、場所を移す。ここでは死体の処分に手間がかかるからな」
 男のにやにやとした笑い方が、あのとき私に銃口を突きつけていた男と重なる。不愉快だ。こいつが纏う空気は、私が克服したかった恐怖に似ている。逃げるわけにはいかない。こいつからは、絶対に……! 徹底的に痛めつけ、恐怖の悲鳴を上げさせてやる。
「ふふふ、それじゃあお呼ばれしちゃおうか」
 私の敵意を涼しげに受け流す男のその瞳は、既に正気のものではなかった。

 波の音を掻き分け、私の遊び場としている倉庫へと男を連れて行く。かつては父様が麻薬やら銃器やらの取引に使っていたこの倉庫も、今では私の遊び部屋になっている。
 街をうろつくチンピラに、適当な理由をつけてはここに連れ込み、子供がオモチャで遊ぶようにいたぶった。屈強な男が、怖いもの知らずな権力者の子供が、恐怖で顔を歪ませるのは快感だった。
 目前まで死が近づいた状態では誰もが怯え竦み、涙を浮かべて許しを請う。それを確認して、ようやく私は安心できるのだ。あのときの私の反応は人間として極自然なものなのだから、それほど悩む必要などはない、と。
 私はそうやって、克服できなかった恐怖と折り合いをつけていた。多くの人間を壊し、傷つけ、殺して、ようやく手に入れた安寧を、こんな男に乱されるわけにはいかない。
 薄暗い倉庫には、リヒァルトからの連絡を聞きつけたファミリィの下級構成員が既に五十名前後集まっていた。
 か、と私たちを待っていたかのように灯されるライト。映し出されるゴロツキどもは皆、何かしらの得物をその手に遊ばせていた。私はその様子を眺めて、懐から愛銃を取り出す。父様に貰ったリボルバー。名前も整備の仕方も知らない。知っているのはこれが人殺しの道具だということだけ。
「銃弾を一発だけ込めて交互に自分の頭を撃つ。それで構わないな? 賭けるものはお互いの命!」
 私は告げて、男の目の前で装填された七発の弾丸のうち、六発を捨てた。もちろん、こんな馬鹿げた話に最後まで付き合うつもりなど毛頭ない。適当な頃合を見計らって、いつも通りこのイカれたクソ野郎をいたぶってやろう。私はそう考えていた。
 男は放心したようにぽかんと大口を開けて周囲を見渡した。あいつが連れてこられたこの場所、この状況を考えれば、青ざめてもおかしくはない。私は自らの圧倒的優位にほくそ笑む。

 しかし――、

「あはは、ははは! すごい、すごい! 何度お礼を言っても足りないよ。こんなにすごいステージを用意してくれるなんて!」
 男は両手を挙げてスポットライトを浴び、周囲を取り囲むやつらなど見えていないかのように振舞った。光の当たり方のせいなのか、男の身体がやけに大きく見える。
 味方など一人もいなく、大勢のごろつきに囲まれる。あのときの私よりも濃厚な死の恐怖を感じるべき状況で、この男は笑ったのだ。けたたましく、子供のように無邪気に、そして悪魔のようにおぞましく。冷汗が背筋をなぞる。怖気が奔り、私は生唾を飲み込む。みしみしと男の身体が軋みを上げる。
 あはははははははははははははははははは。
 外してはいけないネジが外れてしまったように、ただ笑い声だけを放ち続ける。
「さぁ、早く始めようよ。どっちが先行? ……そうだ! いいこと思いついた。あれで決めようよ、コイントスで!」
 荒い息を蒸気機関車のように吐き出し、血走った真っ赤な目が妖しく輝く。目の錯覚なんかじゃない。こいつは、本当に巨大化している。そして、まるで獣のようになった男は不気味に口元を吊り上げた。
 ――なんなんだ、この男……。こいつは、本当に人間なのか……?
 身体が震え、歯の根が合わない。私をそうさせるのは紛れもなくあのときと同じ、圧倒的な恐怖だった。





 ――人間って生き物はね。色んな鎖で自分を縛ってようやく形になっているんです。そんな鎖が腐っちゃったらどうなると思います? そうなるともう獣と同じです。何かを突き詰めることを悪く言うつもりはありません。ですが、一つ何かを捨てるたび、一つ鎖が解けるたび、あなたの中の獣が大きくなっていくことを、どうかお忘れなく。



「あ、ははははははははははは! 表、表! 先行は君だね、さぁ早く。早く早く早く、早く早く早く早く、早く早く早く早く早く早く、はひゃ……!」
 からん、と男の口から白いものが落ちました。それは男の歯であったが、そのことに気づけたものが果たしてその場に何人いたことでしょう。女は明らかに怯えていました。目の前のそれが、どれほど異常な存在なのか、ようやく思い知ったのでしょう。
 周りの男たちも男の異変に感づいてはいましたが、金縛りにあったようにぴくりとも動けません。身動きは取れず、口を聞くこともままならないまま、石像のように成行きを見守ることしかできません。
 女は急かす言葉に逆らうことなどできず、哀れにも銃口を自分のこめかみに当て、トリガーを引きました。がきん、と鉄の音が聞こえただけで、弾丸は発射されませんでした。ですが、どれだけ冷酷を真似ても本当は臆病な彼女は、その臆病さゆえに、弾丸が自らの頭蓋を破壊してくれなかったことを呪いました。
 ぎちぎちと、信じられない速度で男の口に大きな牙が生えていきます。
「今度は僕の番だね――」
 涎を垂らしながら差し出した男の右手を見て、女は短く悲鳴を上げました。黒い体毛に覆われ、爪は醜く伸びています。
 ちかちかと怯えたように点滅する光を浴び、男は躊躇うことなくトリガーを引きました。
 がきん、と鉄の音。
 かかか、と獣の声。
 きりきりきりき、と古いゼンマイを巻くような音が聞こえたかと思うと、男の服の左袖が破れていきます。そして錆色の巨大な歯車が男の左腕で回り始めます。錆びた歯車は男の肉を裂き、その内側から顔を覗かせているのに血は一滴も零れません。代わりにどす黒いコールタールのようなものが歯車の間を縫って、ぽたぽたと床を汚します。
「うあああああああ!」
 女の護衛、リヒァルトと呼ばれていた大男が堪らず男の頭に銃弾を発射しました。リヒァルトはフルオートタイプのハンドガンを、全弾撃ちつくした後も、お守りのようにがくがくと震える両手で必死に握り締めていました。
 一発たりとも外れることのなかった弾丸はしかし、めりめりと突き出てきた角によって男に致命傷を与えることができません。男の耳のやや上から現われたそれは、螺旋を描いてその先端を前面に向けています。
 最早それは人間ではなく、一匹の歪な獣でした。二メートルを越える巨体、全身を覆う黒い体毛、禍々しい角、きりきりと嗤う歯車。
 一斉に悲鳴が上がり、倉庫はまるで地獄のような有様です。
「あ、ああああ、あ……」
 女はもう廃人寸前といった様子でした。
 だけど誰も動けない。壊れかけていた女は、機械仕掛けのオモチャのように同じ行動を繰り返します。獣から銃を受け取り、トリガーを引き、獣に銃を渡す。虚ろな目でそれだけを繰り返す姿はまるで操り人形です。

 がきん、がきん、がきん。

 空砲が一つ鳴り響くたび、獣はその姿を人間から遠ざけていきました。女は震える膝で辛うじて立っています。女が圧倒的優位にあった状況は覆り、その形勢は逆転していました。

 がきん――。

 空砲が六度轟きました。しかし、まるでそう仕組まれているかのように弾丸は発射されません。
獣が大木のような腕で拳銃を差し出します。最早、女の敗北は確定でしたが、かつてのそれを上回る恐怖に、女の頭にはそんなことを考えるだけの余裕さえありませんでした。哀れみを誘うように涙を浮かべ、肩を震わせ、女は最後のトリガーに指をかけます。
 
 ガォン! と黒鉄の獣が吠え、美しい真っ赤な薔薇が、薄暗い倉庫の中に咲きました――。





 ――この男のように、人間は誰しもが胸の奥底にそういったものを飼っています。男の中にあった狂気を、あなたは否定できますか? 怖いもの見たさ、明暗を分かつ刹那の快感、何もかもを忘れて自動車のアクセルを踏み込みたいという欲望。生と死の間にある快楽は、真夏の夜の誘蛾灯の如く、我々を惹きつけてやまないものなのです。あなたもいつかは獣に堕ちるかもわかりませんよ……。
 さて、最後までお付き合いいただいてありがとうございます。こんな長い話に付き合わされて身体が硬くなってはいませんか?

 きり、きりきりきりき。

 うふふふ。どうでしょう? 気晴らしに私と一つ、ゲームでも――?

 
  

 
 了

 

2007/06/02(Sat)13:30:35 公開 / サトー カヅトモ
■この作品の著作権はサトー カヅトモさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 結構手を加えたのでジャンルのショート*2は外しました。
 今回は「平凡な人でも一つのことに集中すれば、いい線いけるかもしれない」をテーマに置いていました。プッツンしたマニアが、大手マフィアを戦慄させる。でもそれだとよくある話だから、人間が獣に変身する話とくっつけてみよう、というわけでこうなりました。
 国語の教科書に載ってあった、人間が虎になる話を思い出しながら書いていました。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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