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『灰色の世界で』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:玖犀
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あらすじ・作品紹介
自由な世界で十五回目の春を迎えた少年。 一つの出会いで彼の人生に色が宿った――。
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俺を囲む腐った壁達、灰色のアスファルト、小さな路地裏の鼠。
おかしな手違いでこの世に生まれて早15年――。初めて盗みを犯した春。家に帰ると家族が切り刻まれて死んでいた、春。やけになって路地裏に飛び出した、春。また廻ってきた野花咲く季節、春。
いやなことばかりを思い巡らし何も口にしないまま真昼間の太陽は夕日に変った。
ふと眼に映った黒い人影。廃れた路地裏の一番奥に居る俺に向かって歩いてくる。夕日が後光のようにそいつを照らし、顔が見えない、服も見えない。聞こえてくるのはざわついた商店街の音と、布のかすれる音と、規則的な足音だけ。
常にポケットに忍ばせてあるナイフに手をかけた。俺の人生に他人なんて必要ない。養いなんていらない。――でも記憶には、人を殺したことなんて無かった。夕日に眼を瞑りそうになりながらも、そいつを睨む。でもそいつは、不適に笑ったまま自分の帽子に手を当てているだけだった。
顔が見えてくる。生まれつきのような、細目。薄緑の髪をした短髪。帽子から靴まで、何もかも黒い装飾品。俺に近寄ると、いきなり黒い帽子をはずして一礼してきた。
「ウチに来ないか?不良少年」
ろくなことの無い春。こんな薄汚い灰色少年に声をかける変な奴。俺は一瞬拍子抜けていたがどうせ他の腐った奴らと同類だろう、そんな風に思い込みナイフを抜き出した。
無言でナイフの刃を相手の胸元へ突きつける。――フツーの奴ならこれで逃げてく。二度と来ない。だが、こいつは違った。ナイフにおびえもせず、動じもせず、ただその場に立ち尽くして同じ言葉を吐くだけだった。
「ウチに来いよ。お前が必要だ」
その言葉はどんどん強さを増して言った。いつの間にか後ずさりしていたのは、動揺を隠せぬ俺自身だった。微笑を崩さず、帽子は手に持ったままでナイフを取り上げようともしない。
「ナイフは脅しのためにあるんじゃないぞ。少年」
一言もしゃべらない俺に向かってそいつは溜息をつき、さらに俺に近寄ってきてそう言った。脅しのためじゃない、そんなこと分かってる。お前のせいだ。お前のせいで手が動かない。ほかのジジイだったらとっくに手をあげて他の路地裏に住み移ってる。
「人を殺すほどの意思もないならそれは手放した方が身のためだ」
そいつは、さらにそう続けると俺の手を強引に引っ張った。鼻がくっつきそうなほどに顔を近づけてくる。
「ナイフが切り裂くのは生き物だけじゃない」
何かを諭すようにそいつは続けて俺にそういうと、俺の手にあるナイフを強引に取り去り、俺に向けた。
「関係だって切り裂けるし、また上下関係を築くこともできる」
喉元にナイフを突きつけられて俺は声が出せなかった。
「何がしたいんだよ」
喉元から少し離れたナイフを見つめて俺はそう声を絞った。横から小さなタンポポが日陰から顔を出している。
「その根性を叩き直さないとね。おせっかいなんだよ、僕は。それが仕事でもあるから。ウチに来いよ」
そいつは不敵な笑みを零してまた俺に同じセリフをはいた。物好きな奴とか思いながらも惹かれてしまい、俺はそいつについていく羽目になった。
――こいつについていけば、俺の人生は変るとでも言うのか?自問自答は虚しく心を駆け巡るだけで、明確な答えは見つからなかった。
だが、そいつに連れられて久しぶりに路地裏から表通りへ出たときの夕日の光は灰色に染まりきった俺に新たなカラーを与えてくれているようだった。
自由な灰色のアスファルトから離れて縛られた小奇麗な白い孤児院生活が俺を待っていた。
自由な秩序の無い世界から掟で溢れる世界へと俺の人生は変っていった。
他人なんて必要ない、そう思ったのは自由な世界に居たからで、掟で縛られる世界では同じ仲間を探すことに必死になっていた。
何時しか、生きたいと思える毎日が俺を包んでいた。
何時しか、護りたいと思える人が俺をこの世に留め続けていた。
俺は春に死んでまた生まれ変わった。
灰色の世界から色のある世界へと。
−了‐
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2007/04/22(Sun)14:27:36 公開 / 玖犀
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■作者からのメッセージ
はじめまして。
お初の作品で、色々へんなトコもありますが、頑張って書いた一作品です。
結末を予想するどころではない短さですが、色のある世界と灰色の世界について想像してくだされば嬉しいです。
舞台はきっとヨーロッパかアメリカの某商店街です。
少年の人生の一場面が明確にかけていれば何よりです。
読んでくださった方有難うございました。
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