『待ち合わせ』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:シモネッティ                

     あらすじ・作品紹介
季節は熱い夏。日の光が人に照らしつける。だがそれは時には辛い。女は待っていた。そんな日差しの強い中でも会いたい人を待つために待っていた。でも、それはもう願望にしかすぎなかった。男は待っていた。そんな日差しの強い中でも無理やり待たされていた。そんな弱気な男。でも、男はそれでも会いたい人のために待ち続ける。そして、ふと共通点がつながったとき二人は出会った。テーマとしてはワンシーン的なものを表現してみました。ある日常風景でどんな物語がうまれるのか?そんな疑問が頭によぎり、『待ち合わせ』と短編がうまれました。

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 (なんでこうなったんだろう)
 穏やかなるBGMが店内で流れる中にて僕と彼女はいる。というか、無理やり僕はこの場に居る状況なのだが。
 彼女は苛立ちを包み隠さず嫌みったらしく僕に対して愚痴を言い続ける。対して僕は何も言わなかった。否、言えなかった。目の前のアイスティーの氷が少しずつ溶け、カランと心地よい音を出す。だが僕の心境は全くといってほど心地よくない。
 (……帰りたい)

 待ち合わせ

 僕は知人の待ち合わせをしていた。
 僕が待ち合わせの場所にきたのは30分前。性格上、時間に遅れるって事があまり好きじゃないためか、どうしても早く来てしまう。神経質タイプって言われるけど決してそうではない。相手が神経質なんだ。時間に1分でも遅れるとキレる。本気でキレる。まさしくキレる若者だ。
 時間が時間なために結構待ち合わせ場所には人が混んでいた。これじゃあ相手が来てもそうそう分からないんじゃないかと苦笑する。
「さてと」
 手すりに持たれてかかって目を見開き視界をクリアにさせる。目に飛び込んでくるのは人々の群れ。その群れを何も考えずに視ている。僕が待ち合わせのときに必ずといってすることがある。
 人間観察。
 もはや趣味になりつつある。目の前を通り過ぎていくをただ観察しているだけ。観られる側からしてみると気味が悪いかも知れないけどそんなことは気にしない。待ち合わせ相手の知人から教わった。まぁ僕も相手から教わったときは胡散臭いと思ったけど意外とおもしろい。その人の服装から歩き方、どこに向かっていくんだろうとか。様々なバリエーションがあって、やっぱり十人十色。ひとりひとりちがうんだなぁって思い知らされたものだ。
 その時、思ったことがある。僕らって意外と『止まる』って行為をあまりしたことがないんじゃないかな。言葉どおりではなくて。
 僕らは人生を歩いていく。進んでいく。でも急いでいくことはないんじゃないか?って思った。だって、“人間観察”をしてみればすぐわかる。みんな早足で中には駆け足で人生という道を進んでいる。なにをそんなに急いでいるんだろうか。なんで時間に縛られているんだろうって。そして、その中に自分も含まれている。だから、こうして“人間観察”を通して自分を見つめなおしている。
 閑話休題。
 とまぁ、かっこつけた言い回しをしたけれど結局はただぼぉーっとしてるだけなんだけど。そんな暇つぶしで相手を待っていた。待ち合わせの相手が来るまで後、何人くらい観察できるかと思っていたら、
「ねぇ? あんた暇?」
 と、知らない女性から声をかけられた。歳は僕と同い年くらいの女性か。
 僕なんてブサ(以下略)だから逆ナンでもあるまいし、ポン引き(意味をよくわかっていません)か新手の詐欺かと思ったので、
「人待ちなんで暇じゃないです」
 と、丁重にお断りしたら、
「待っているんだったら暇じゃん」
 と、言い返されてしまった。
「それはそうだけど、待っているんだから暇であって暇でもないよ」
 と、更にお断りを入れる。
「まぁ、そんなこといいや」
 人の話聞けよと、言いたかったけど生憎そんな度胸は微塵もなかった自分が情けない。いい加減、この性格を直したいものだ。
「じゃあ待っている間、暇なんだからさ。ちょっとあそこ行こうよ」
 と、指さした方向には喫茶店があった。約束の時間まで20分を切っていた。

 彼女は喫茶店に僕を半ば強引に連れてきた。しっているか?それを一般的に拉致という。そして席についてからいきなり自分の身の上話を切り出した。僕は彼女がひたすら喋り捲る気まずい中、彼女の愚痴に近い話をほとんどスルーしながらアイスティーをすすっていた。味は不味かったし、店内に流れているBGMもシケていて憂鬱になりそうだった。否、もう憂鬱だった。
 なんでこうなったんだろう。僕は知人を待っていたのではなかったのか?と自問自答していたら、
「ねぇ聞いてる?」
 と睨まれて僕は思わず頷いた。睨んだ彼女の目が怖かった。蛇に睨まれた蛙とはこのことかもしれないな。
「はぁ…なんでこうなっちゃったんだろう」
 彼女はソファー型の椅子にうなだれて呟き、ため息をついた。僕も彼女に気づかれない程度でため息をついた。約束の時間まで5分を切っていた。

 (もうそろそろ行かなきゃな)
 拙いよな、ああ拙いとも、拙いとも。
 腕時計を見て頃合をはかり、僕は意を決して言った。
「あのさ…。そろそろ、行っていい? もう待ち合わせの時間なんだ」
 と、ほとんど駄目元で言ってみた。先ほどの状況下で抜け出せるとはとてもじゃないが思えなかったからである。だが、反応は意外なものであった。
「……」
 無視してやがった。
 彼女はこっちを見ずにずっと窓の外をみていた。近くの待ち合わせ広場をみているのか、遠くの光景をみているのか分からなかったがそんなこと知ったことじゃない。僕は被害者なんだぜ?一方的に話しかけられて、挙句の果てには無視をする人間を同情的に思えるほうがよっぽどおかしいってもんだ。
「もう行くから」
 きっぱりと言い放った僕に対して窓の外をぼぉっとみていた彼女は、
「そう。ごめんね、つき合わせちゃって。もう行っていいから。勘定は私が払うから」
 と結局、僕を見ないで一定の声で適当に言った。
 僕は席を立とうとしたとき、彼女は感情のこもらない声でぼやいた。
「あんたってさ…話やすいね。なんか透明人間みたい」
 ……はぁ?透明人間?
「なんだ、透明人間って? 薄っぺらい男でもいいたいのか」
 自分が怒っているのか、呆れているのかわからない状態で彼女に尋ねた。
 彼女はテーブルに突っ伏したままの状態で、
「違う違う。そんな悪い意味じゃないから。んじゃね」
 と、手をぶらぶらと振りながら言った。俗にいう「もうあっちいけ」というサインだ。
 僕はその場から立ち去ることが出来なかった。心にわだかまりがある。なんだこの後味の悪い感触は。
「どうしたの? 行かなきゃ拙いんでしょ?」
 けだるそうな声で相変わらずこっちを見ない彼女は僕に催促した。僕は一旦、間を置いてから言った。
「…あのさ、なんで見ず知らずの赤の他人の僕に話したの? 普通、友達とかに話さないか?そういうこと 」
 僕は無意識に言っていた。
 ほぇ?と呆けた顔で振り返り僕をみる彼女。そして、笑った。初めて彼女の笑った顔をみた。意外なほど可愛かった。
「…実はさ、誰でもよかったわけ。ちょっとむしゃくしゃして誰かに話そうと思ったの。でも、すぐに話せる相手居なかった。その辺にいる相手にいる誰かに相手してもらおうと思ったけどみんな私の相手なんかしてくれるわけないって思った。そんな時、あんたがいたわけ。あんただけ浮いてたのよ。あの人ごみの中で。それで透明人間ってわけ。あ〜浮いてたってのは悪い意味じゃないから。う〜ん、なんていうかな、他の人達と違って見えたんだよね、なぜか」
 なんだか彼女の言っていることが褒められているのか、貶されているのか分からなかった。ただ、同じことを言った人間が一人いることを思い出す。
「ちなみに私、友達なんていないから」
 その言葉に一瞬、時が止まった気がした。しかし、あくまで気がしただけで時計の秒針は規則正しく音を立てながら進む。
 僕は黙って椅子に座りなおした。ウェイトレスを呼んで、アイスティーのお代わりを頼む。
「何してんの? 行かなくちゃ拙いんじゃなかったの?」
 意外な顔をしていた彼女に対して僕は、
「中途半端な状態で行けるか。それにもうタイムリミットだ」
 と腕時計を見せる。とうに待ち合わせ時間は過ぎていた。これはもう酌量の余地なんてない。待ち合わせ相手の怒った顔が脳裏に浮かぶ。……嗚呼、恐ろしい。
「ありゃま、そいつは悪いことしたね。でも言っとくけど同情なんて要らないからね。私、そういうの嫌いだから」
「そんな気分は元からない。こうなったらとことん話してもらおうじゃないか。話やすい薄っぺらい男なんだろ?」
 もうほとんどヤケになっていた。
「だから違うって。……なるほど、私に惚れたか?」
「誰のせいだと思っているんだよ」
 彼女は笑った。
 それから、彼女はずっと喋りっぱなしだった。そりゃもう、聞くだけの僕がくたくたになるくらいに。僕は今度はアイスティーをすすりながらもさっきみたいにスルーなんかせず、ちゃんと聞いていた。彼女が今に至るまでの経緯を全て。話している内に最初の彼女とはうって違った顔になっていた。不貞腐れたような顔なんてどっか行ってしまっていた。
「私もさ、実は待ち合わせしてたんだ。あそこで」
 と顎をくいっと広場に向ける。そこにはオブジェの前で待ち合わせしているであろう人がちらほらといる。
「でも、来なかった。そりゃそうだ。こんな嫌な女なんか相手にするわけないもん」
 僕は何も言わなかった。同情は要らないといった彼女に何も言えるわけない。
「今日、こなかったらすっぱり別れようと思っていたところだったんだ。今までもアイツと付き合ってて嫌なことばっかだったし。それで今日の結果は来なかった。はい、終わり」
 言葉とは裏腹に彼女の顔はすっきりしていた。
「でも好きなんだろ?」
「うん、好きだった。だから過去形」
「そっか」
「そうね」
 喫茶店のBGMの曲が変わった。さっきまでのシケた曲が冗談だろと思いたくなるような爽やか曲だった。

「あー喋った。喋った。人生の中で半分は使い果たしたね、話をしたの。今ので」
「案外短いんだな、君の人生」
「例えだって。ねぇ、あんたの待っている相手って恋人?」
 飲みかけていたアイスティーを吹きそうになった。
「なんだ、そうか」
 僕の態度を見てか、頬に手をあててジト目で問いかけた彼女は嫌みったらしかった。アイスティーが肺に入ったせいか咳き込みながら、反論する。
「違う。ただの知人だ」
「でも好きなんでしょ?」
「好きじゃない」
「じゃあやっぱり相手は女か」
「うっ」
 立場が逆転していた。
「あはは。最後まで楽しませてくれるねあんたって。…よし、行くかな」
 彼女はぐいっと手を組みあわせて背伸びをした。まぁ、あれだけ喋れば疲れないほうがおかしい。
「恋人さんには今日のこと話しておいて。それとごめんねと伝えておいて」
「だから、恋人じゃない。それに今日のこと話しても信用しないな、絶対」
「あはは。逆にキレるかも。勘定は私がしておくから。話を聞いてくれたお礼」
 と伝票を取り立ち上がる。
「安いな」
「聞くだけなら安いもんでしょ?」
「待ち合わせに間に合わなかったし、僕の時間もある」
「まぁ、そこはサービスしておいて」
 と言って、彼女は立ち去った。彼女の後姿に僕は最後の言葉をかけた。
「あいよ。楽しかったよ」
 すると、彼女は思い出したように振り返って、
「ありがとね。ばいばい」
 と、笑顔で言った。そして、出口から雑踏の中へと消えていった。

 ソファー型の椅子にうなだれて、ため息をついた。彼女と話して心地よい感触を得たにも関わらず、気分は落ち込んでいた。ぼぉーとしながら腕時計を見た。待ち合わせ時間に戻ってはくれないだろうか?と願いたくなるぐらい時が過ぎていた。
 (なんて謝ろうか?そもそも謝る機会が出来るのだろうか?)
 ほとんど絶望に近い中、もしかしたらという予感がした。ズボンの右ポケットの入れている携帯を取り出す。画面にはメールを受信した証があった。
 (しまった……。)
 僕には悪い癖がある。それは携帯が鳴っていてもバイブレーションが響いていても気づかないという、とても相手からすれば、
『殴ってもいい?いいよな?』
 と思っても仕方がないという、たちの悪い癖だ。だから喫茶店に入った時、ついうっかりモラルを考えてマナーモードにしてしまった自分を悔やんだ。
 携帯のメールには一言。
『サイテー』
 はぁ、とため息をつきながら出口に向かおうと席から立ち上がろうとした。
「彼女がすっきりできてよかった?」
 悪寒がした。振り返ると待ち合わせの相手が居た。僕と彼女がいた席の隣に。つまり、僕がアイスティーをすすっていた席の後ろの席に“彼女”はいたのだ。
「……なんで?」
 背中に嫌な汗が滴り落ちる。
「なんででしょうねぇ」
 手の力がぬけ、握っていた携帯電話という端末が落ちた。
「じゃあ、今度は私をすっきりさせてね」
 セクハラに近い恐ろしい発言だった。

2007/03/24(Sat)05:37:53 公開 / シモネッティ
■この作品の著作権はシモネッティさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして。シモネッティと申します。
昔お蔵逝きだったものを久々に読み、リメイクしてみました。
初投稿なので、よろしくおねがいします。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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