『後ろの正面だぁれ』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:藤野                

     あらすじ・作品紹介
目立たない女の子と、それに執着する得体の知れない男の子の話です。

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(彼が私を付け狙うようになったのは本の少し前からです。一月も前じゃない。半月も前じゃない。そんな短い時間を持って彼は私の世界をかき回し始めた。執着と言う名を持って、愛情と言う名を語って、それはどんな明確な感情を持ってなのか足らずの私には少しも分からなかったが、だけど彼の目は常に私の背中を追った。得体の知れない男の視線は常に私を怯えさせた。少し前まで唯の高校のクラスメイトだった。私はクラスで友達がいなくたって少しも気にされないような目立たない女子高生で、彼はいつだって和の中心。友達も多い。恋人もいる。だから、私には少しも転機が分からない。何故私に執着するの。何があなたをそうさせたの。少しも分からないまま、いつも彼の目が私を追ってきた。それは私にとっては不可解で、訝しくて、さらに言えば不快で。だけど私の真情など少しも気にしないように、彼の視線は私を捉え続けて、そしてとうとう、)(捕まった。)


此処にこないで下さい、近づかないで、私を連れて行かないで下さい。どうしてあなたは私を構うのですか。あなたにはたくさんあるじゃないですか。友達だっているじゃないですか。家族だってあるじゃないですか。恋人だっているでしょう。それだけあれば十分でしょう。なのにどうして私にまで手を伸ばしてその好奇心の餌食にしようとするのですか。


(夕日が真っ直ぐに差し込んで充満する部屋。机は沢山並んで、まるでマスゲームの一部みたい。沢山の人間がここにはいました。今はいません。教室と言う小さな檻。どろりと血だまりの様に溶けた色彩に私は殺されそうで、それは息苦しささえ感じる。だけど背筋を辿る悪寒こそが真たる苦痛。私は目を閉じます。私は涙を流します。私は殺されます。今から化け物に殺されます。制服のスカートを握る。手が汗ばんでいる。手、背中に手が置かれた。後ろにいるもののを知っています。だけど振り向いてはいけません。私は震える体を抱きしめます。)


あなたは私のことが好きだからと言うけれど、やはりその言葉は私にとっては、違和です。不可解です。私はあなたが理解できない。しかし理解できないまでもこう思う。私はあなたの残酷なエゴイズムがあなたの心に都合のいい勘違いをさせたからじゃないですか。あなたは知識を得ることが好きですね。いつも図書館で遅くまで本を読みふけるあなたを知っています。ね、知っていますよ、あなたにとってすべてはその頭に吸収集約される情報だ。あなたは文字ばかりを見つめる振りをしながら、実のところは世界の全てすらを知識と言う情報媒体に変換して無機質に機械のように見つめていると言う事を私は知っている。あなたの周りのすべては情報だ。本も、図書館も、学校も、廊下も、教室も、クラスメイト達も、家族も、恋人も。私も。ねえ、私はあなたの知識の中でも特別珍しい存在なのでしょう、だからでしょう。たかが17年のあなたの軌跡が、その浅薄さ故に初めて見た人格のプロトタイプ。私は自分を否定してばかりの人間です。クラスメイト達の明るい和に紛れ込む事もできず、ただ教室の隅で俯いている。(下賤です。下らない人間なのです。人間の器が小さい、その言葉すら烏滸がましい。人間という存在を自身に語るのすら分不相応だ。ただにんげんの形をしているから、にんげんという扱いを受けているだけです。あんな輝かしい、ありとあらゆる可能性を秘めた生き物の範疇に自分が身分を偽って人間の面をして入れてもらっているなど恥ずかしくて浅ましくてとてもとても耐えられない。私は居きる価値のない虫けらだ、いや、私に例えるなど虫に失礼です。虫はあの厳しい野原で食い食われながら必死で呼吸をし生きている。あれも輝かしい生き物だ。素晴らしい。生き物の鏡です。それに比べて私の浮薄とは、怠惰とは、懈怠とは!私には生きている資格などない。私のために消費される食べ物の時間の、酸素ですら私の存在につりあっていない。私には義務があります。私は死ぬべきなのです。死ぬべき、似非の生き物なのです。)そうだ私は死に急いでいる。しかしそれでいて死刑台を指差されれば怯え竦みすっかりうろたえてしまう無様な人間です。この矛盾。愚昧な我が身に共存する願望と恐怖のアンビヴァレンス。あなたの貪婪な知識欲の格好の好餌だったのでしょう。あなたは残酷な瞳で、私の皮膚を剥ぎ取り骨を砕き、私の内臓を白日の下にさらす事を望んでいる。(あなたは最初の邂逅の時言いましたね、ねえ君、なんて君は面白い生き物なんだろう!愛を告白する子供のような無邪気な瞳で、あなたは言いましたね。)不可解な精神構造の全てを、あなたの理解に当てはまるような論理に成り変えようと画策している。本当ですよだって私は気づいている、私を見るあなたの目はたまにメスを持った手術医の様な色のない目をしていることを。あなたにとって私は唯の病巣で病態だ。否定は偽りでしかありませんよ。欺瞞だ。
ねえ、あなたが所詮私に求めているのは論理の解明であり即ち知識だ。それは、愛などでは、ない。
ああ、なんて傲慢なんだ。その欺瞞を、エゴを、愛と言う。私を切り裂くメスを暖かい毛布に見せかけてそれで私を包みたいと言う。私の予測は正しいですか。その毛布に仕込んだ刃物で私の内臓を撒き散らせば、満足ですか。


(耳元に背後から唇が近づきます。やあ、こんにちは。ここにいたね。何で君はいつも逃げるのかな。僕は君が好きなだけなのに(僕は君が好きなんだ。本当だよ。本当だよ。(だまってくれ、だまってくれ、だまってくれ!!)

もういいでしょう。此れだけ言いました。私のことなど放って置いてください。あなたの知識の、エゴイズムの餌になるのは勘弁だ。はっきり言います。私はあなたが嫌いです。あなたが無機の眼をしたまま私に恋を囁く時など、本当に怖気立って仕方がない。今さっき分厚い文献に触れたその指であなたが私の肌に触れてくる瞬間を、私はそのまま舌を噛み切ってしまうほど嫌悪している。すみません。けど分かりますか、あなたでは駄目なのです。そして私には全てが駄目だ。無為だ。私には何かに側にいてもらうような資格はないし、誰かにも私の側に居る権利などない。理解してください、これこそを理解して欲しいんだ私は。あなたに。あなたは賢いでしょう、分かるはずだ。なのにどうしてあなたは私の手を離さないのですか。あなたは私の手を握ってどんどん行く。口先だけで卑怯な弁解を、見かけだけ熱い愛を囁いて、手術医の目をしたまま、あなたは私を引っ張って歩こうとする。その手は私の手のために用意されているのでは無いと何故分かってくれないのですか。あなたにはたくさんあるでしょう。なのにこんな虚の私を連れて、どこへ、いくの。行き着く先はあなたしか知らない。恐らく捕まってしまえば最後、無気力な私は手を引かれるまま、鬱のようにぶつぶつと拒絶を呟き続けるだけだ。たまに振り返って笑うでしょう、けどそれは神父が死刑囚の最後に向ける哀れみの笑顔でしかない。何処へ連れて行きますか、あなたが囁くような愛の地ですか、それともビニールシートの上であなたが刃物に手を掛ける、私の惨殺の場所ですか。私をどうするのですか、そう聞いたってあなたは静かに笑うだけですか。怖い、私はこれからどうなるのかな。大嫌いなあなたの手に引かれたまま。遠くへ?分からない、分からないんです。ねえ、…くん、どこへ、つれて、いくの。










(振り向いてはいけません。後ろの正面だあれ。いつかは頭を捕まれ無理やりこの目はその姿を辿るでしょうが、それでも振り向いてはいけません。「…、」名前を呼ばれて呼吸を止める。目を瞑る。ああ、私は殺されます。今から化け物に殺されます。私の何が殺されるのかは、化け物しか、知らない。)「きみがすきだよ。                     

2007/03/14(Wed)01:31:44 公開 / 藤野
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