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『ショートケーキ』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:カメメ
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「いらっしゃいませ」
週末に一度、妻と子供とこの店に来て小さなショートケーキを3つか、シュークリームを3つ買って帰るのが僕らにとっての楽しいぜいたくでもあった。10代の最後に結婚し、子供が出来た僕らにとって、子供が出来て4年たっても何だかいつもジェットコースターに乗っているみたいに忙しく過ごしていた。いろんなものが足りなかったけれど、何よりまずお金が足りなかった。
僕は16号のデコレーションケーキを見つめていた。仕事を終え、僕はふっと気がついた。今日は4年前に婚姻届を出した日じゃなかったかと。結婚式も何もしなかったので、ちゃんと考えた事はなかったけれど、確かに今日は結婚記念日だ。
「誰かの誕生日か何かで」
店員の真っ白な服と同じぐらい肌の白い女の子が僕に言った。ここに一人で来るのなんて何年ぶりの事だった。僕の事を知っていてもらえるのは何だかとてもうれしかった。僕らはここに週に1度くるのを本当に楽しみにしていたし、なんだかそういう事を分かっていてもらえているように思えたから。
「いや、まあちょっとしたお祝い事で」
店員の女の子は何だか不思議そうな顔をしていた。僕に何かを言いかけて、また少し考えているようだった。僕は今月の残りの日数を考えていた。今日3千円を支払ってしまうとやっぱり苦しい。僕は今月からまた初めてしまったタバコの事をくやんだ。女の子は優しく笑って奥にいる店長を呼んできた。
「めずらしいですね、プレゼントか何かで」
店長さんはゆるやかな表情が身についている人だった。
「ちょっとした記念日です。たまにはちゃんとお祝いしないとって思ったんです。怖い妻がもっともっと怖くならないように」
僕はお昼を6回抜けば何とかなるとだけ考えた。
「そんなに怖くは見えませんがね。まあ、でも世の奥方というのはね、私もよーく分かりますよ。あ、こういう店ですからその奥方との商売が多いので、これはここだけの話しにしておいてくださいね」
僕と店長さんは少し声を出して笑った。16号のデコレーションケーキとサービスでの「4回目の結婚記念日」というチョコレートのプレートを頼んだ。店長さんは奥で用意をしてきますからと店の中に入り、しばらくしてきれいな包みでくるんだ箱を持ってきた。
部屋に戻ると子供は寝ていて、妻が僕のプレゼントを複雑な顔で受け取った。
「いつもの店よね」
妻がテーブルを指差すと4分の3残っているデコレーションケーキが置いてあった。
「やーね、ほんと。私がケーキを買っていったのを覚えておいてくれても良いようなものなのに」
僕は自分で考えている以上にがっかりしていたようだ。
「まあ、でもあなたみたいな人が、こういう日を覚えておいてくれて、ちゃんとケーキなんかをかってくれるなんてうれしいじゃないの」
妻は明るく言った。僕はなんだっていつもこうなるのだろうと考えていた。もっとちゃんとやれるはずだったんじゃないか。今よりももう少し稼げていて、もう少し楽な生活をしているはずだった。少なくとも4年前の僕はそう考えていた。僕はしばらくぶりに妻にこれからの生活の不安について話した。今の仕事だっていつまで続くか分からない。この先もっと低い給料になるのかもしれない。それなのに僕はこうしてつまらない失敗ばかりをするんだ。
「もっと良く考えてから行動するべきなんだ。いつもあまり考えないで行動して、馬鹿みたいだ」
妻は黙って聞いていた。
「それなりであれば、がんばれているんじゃないの。馬鹿なりには良くやっていると思うわよ」
妻の方こそ先の事を考えると不安になっているのを僕は知っているはずだった。だから僕は極力そういう話題を避けるようにしてきた。そうしないと不安に飲み込まれてしまいそうだったから。でも、僕が考えている以上に妻は強かった。妻は僕の買ってきたケーキ箱を高々とあげて言った。
「とにかく、めずらしくもいつもこづかいでブーブーしか言わないあなたが買ってきたケーキの方で私達の記念日を祝いましょう。たまには美佐抜きで、2人だけでケーキを食べてしまうのよ。丸まる一つ、なんか素敵じゃない」
「贅沢な事だね」
残っているケーキが全部自分のものだと目覚めた時知ったら、美佐もまた喜ぶだろう。
妻が包みを開け、ケーキ箱を開いた。僕らはしばらくはその箱の中味を見ていた。中にはシャンパンが1本と封筒が2通入っていた。一つ目の封筒には手紙が入っていた。
「いつもご利用ありがとうございます。我々も楽しそうにしているお子様の姿に心をなごませてもらっています。本日の結婚記念日おめでとうございます。いつまでも良いご夫婦でありますように。
私も男性として、こうした日にちをちゃんと覚えておいておかないとと教えていただきました。ケーキとシャンパンは教えていただけたお礼として、当店よりのサービスとさせていただきます」
そして、もう一通の手紙にはケーキ2つ分の代金が入っていた。
「なんだろうね」
と僕言った。
「たまにはね、あなたも良い事をしたって事よ。特に私に良い事をすれば、ちゃんと報われるって少しは分かったでしょう」
きっとどうにかなっていくのだろうと思えた。週末にはまた3人でケーキを買いに行き、忙しく過ごしている間に少しづつ何かは良くなっていくのだろうと思えた。
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2007/03/05(Mon)00:03:35 公開 / カメメ
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■作者からのメッセージ
久しぶりに書いたものです。うーんほんとに「小説を書く」というのは難しい作業ですね。いろいろな感想や意見を聞かせてもらえるとうれしいです。
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