『紫陽花』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:上月                

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 母が死んだ。父はわたしにそう告げた後、電話越しに嗚咽の声を漏らした。わたしは迷惑千万だと言わんばかりに大きなため息をつくと、乱暴に電話を切った。死因は癌だったらしい。しかし、その知らせを聞いたあともわたしは涙一粒さえ流さなかった。強がって泣くのを我慢しているわけでも、悲しみがあまりにも大きすぎて泣くことも忘れて硬直しているわけでもない。何も感じなかったというよりかは、わたしの知らない誰かが死んだ知らせを聞いた気分といったところだろうか。心にぽっかりと大きな穴が開いたわけでもなく、わたしは普段と変わらない心持ちでベランダに出た。ベランダの戸を開けた瞬間、生温かい風が体当たりしてきた。もう五月の下旬だというのにも関わらず、日は燦々と照り、まるで天気の良い春の日のようだ。手すりに身を預けながら、わたしはぼんやりと母を想った。空に浮かんでいる、まばらに散った雲のように、母のことはほんの少ししか思い出せなかった。
 そろそろリビングに戻って一服しようと手すりから離れると、アマリリスが咲いていることに気がついた。大きなラッパのような赤色の花びらを広げて、いっぱいいっぱいに太陽の光を浴びようとしているように見える。そう言えば以前、妻が嬉しそうにベランダで花の植え替えをしていたことを思い出した。プランターの傍で妻が花を植え替えながらわたしに笑いかける姿が目に浮かんで、思わずふっと笑ってしまった。

 「アマリリス、きれいに咲いていたね」
 夕食の途中、わたしは昼に見た花のことを思い出して、魚の刺身を箸で摘みながら言った。最初、妻はきょとんとした目でわたしを見つめ、それからああっと思い出したように声を上げると、「そうね」と小さく笑った。妻につられてわたしもにっこりと微笑むと、その後はお互い無言で箸をすすめた。
「そういえば、母が死んだと今日知らせがあったよ」わたしは残りのビールを一気にぐいっと飲み干すと、何でもないふうに言った。
「今、何て?」
 わたしはさらりと流したつもりで言ったのだが、妻はどうも聞き流せなかったらしい。先ほどまで穏やかに笑っていた妻の顔は豹変し、青ざめ、そして眉を顰めてわが耳を疑うかのようにわたしをじっと見据えた。一瞬わたしはたじろいだように目を泳がせたが、最後には妻の鋭いとげのような視線に圧され、渋々詳しく説明することにした。
「今日父から知らせがあったんだよ、母が死んだって」
「死因は?」
「癌だったらしいよ」
「それより、今まで両親がいるなんて言ってくれなかったじゃない」
「ああ、それは……」
「それは?」
「また今度話すさ」
「後回しにしていい話と悪い話があるでしょう」
「話すと長い」
「でも、あなた、おかしいわ。だって、両親のことなのよ」
「光代(みつよ)、落ち着いて。わたしにも色々あるんだ」
 でも、と妻が言いかけたのを、わたしは無理やり手で制して止めさせた。妻は納得いかないように眉間に皺を寄せ、わたしを睨みつけたが、それ以上は何も言わなかった。
「通夜には行かないよ。葬式には一応出るけどね」
「どうして」妻が訝しげに細い眉を吊り上げた。
「それは……」
「それは?」
「今から九州に飛ぶのは大変だし、着いた頃には朝になってしまうからだよ」
「そんなの理由じゃないわ。あなた、行きたくないんでしょう」
「そんなことないよ」
「あら、そうかしら」
「ああ」
「ふうん」
「今日は疲れた、もう寝るよ」わたしは立ち上がり、妻の赤みがかった頬を撫でると、リビングを出た。

 とびきり目覚めの良い朝ではなかった。あの忌々しい母親が死んだというのに、何か胸の中で黒いものが渦巻いているように感じる。わたしは掛け布団を押しのけ、目に薄っすらと浮かぶ母の姿を乱暴に振り払うと、充電していた携帯電話を持ってリビングに向かった。
 今日は雨らしい。いつもなら日の光で明るくなるリビングだが、今日は空一面を分厚い灰色の雲が覆って、太陽の光を遮り、代わりにザーザーと静かな音を立てて雨が降り続けている。妻はもう朝食の準備を済ませ、律儀に食事に手をつけずに椅子に座ってわたしが席に着くのを待っていた。携帯電話をズボンのポケットに滑り込ませると、わたしも椅子に腰掛けた。良い具合に焼けたトーストを齧りながら、わたしはベランダの方に目を向けた。外は薄暗く、本当にこれが朝なのかと、思わず疑ってしまうくらいにどんよりとしている。そういえば、随分昔に母が雨の降るのは誰かが死んだからなんだよ、と言っていたのを思い出した。今思えば呆れるぐらい馬鹿馬鹿しい言葉だと思うが、当時のわたしはそれを真剣に頭に叩き入れ、母のその言葉を鵜呑みにしてしまっていた。もしかしたら、母が死んだから今日は雨が降っているのかもしれない。わたしはトーストを一口、また一口と口に運びながら、ぼんやりともっと母のことを思い出そうとした。しかし、何も出てこない。思い出せるものといったら、さっきの言葉と、そしてわたしを家から無理やり追い出させた、腸が煮えくり返るような光景しか思い出せない。
「光代」
「なあに?」
「今から実家に戻ろうか」
「今から?別にいいけど、でも急ね」
「母が死んだっていうのに肝心の息子がお出まししないなんておかしいだろう」
「お通夜に出ない方がおかしいと思うけど」
「そこはいちいち気にするな」
「はあい」妻は口を窄めて適当な返事をした。
 わたしは残りのトーストを無理やり口の中に突っ込むと、急いで家を出る仕度をした。これを機会に、もしかしたら母のことをもっと思い出せるかもしれない。ドラマや映画でよくある、感動的でベタなシーンにめぐり合えるかもしれない。 わたしは淡い期待を胸に抱きつつ、正装用のスーツに袖を通しながら、妻がリビングで食器を洗う音を静かに聴いた。男は恋人に母親を求める、という言葉をどこかで聞いたことがあるが、実際わたしもそうなのかもしれない。ネクタイを締めながらぼんやりと考えた。妻は気立てがいいし、何かと心配やら説教やらをしてくれるし、本当はわたしは妻のことを、恋愛対象ではなく安心できる母親として見ていたのではないだろうか。色々な思いがわたしを急き立てるようにぐるりと渦を巻いた。そんなことはない。わたしは首を振りながら馬鹿げたことは一切考えないようにしながら無意味な行動を何度も繰り返しつつ、数分してようやく身支度を終えた。
 暫くして、妻の身支度も終わるとわたしは車の鍵をポケットに突っ込み、妻を連れて家を出た。

 雨の日の運転ほど面倒なものはない、とわたしは車のハンドルを握り締めながら強く思った。わたしはとりわけ目がいい方ではないし、端から端まで目を走らせながら運転をするなんていう余裕は全くない。今更ながら、突発的な発言をした自分を呪った。
「何時間掛かるかしらね」
 車の窓ガラスにぶつかる真珠のような無数の雨粒をまじまじと見つめながら、妻が言った。わたしはさあ、と首を捻りながら曖昧に答えると、目を細めて道路を見つめた。母の死によって雨が降ったのだとしたら、かなり迷惑な話だ。この雨のせいでもしわたしが運転事故をおこして、妻とわたしが二人一緒に死んでしまったらたまったものではない。わたしは左右に行き来するワイパーを目の端でとらえると、深く溜息をついた。
 二時間ほどで止むだろうと思っていた雨だが、わたしの考えはどうやら甘かったらしい。家を出てから三時間ほどになるのだが、雨脚は強まるばかりで、一向に止む気配はない。最初の方は何かとわたしに話しかけていた妻も、段々と口数が減ってきて、ついには疲れてしまったのか小さな寝息を立てて寝込んでしまった。暑くならない程度の温度で暖房を入れると、わたしはようやく肩の力を抜いて一息ついた。しかし、ハンドルを握る力は緩めず、ずっとハンドルを握りっぱなしだったせいかひどく手の平が痛む。それでも事故を起こさないように安全運転を心がけながら車を走らせる。高速道路では車のスピードの遅さに、度々他の車の運転手が我慢しきれず、露骨に水しぶきを飛ばしながらわたしたちを追い越していくことがあった。
 昼食を抜いて走り続けること数時間。雨脚も弱まり、雲が薄れて夕陽が姿を現し始めたころ、ようやくわたしの故郷であり、両親の住まう町にやってきた。高速道路を降り、普通の一般道路を走りながら、数十年見ない内に、かなり町の様子が変わったのを見て驚いた。一面田んぼや畑で覆われていた場所は、人や店は少なく、都会のように活気はないものの、明るい洒落た商店街に姿を変えていたし、小学校時代の頃、仲の良かったみっちゃんという友人の家は、大きく立派なマンションに変わってしまっていた。
 しかし、更に車を走らせていくと、そこはもうわたしの知らない故郷ではなくなっていた。青々とした田園風景が一面に広がり、わたしは思わず車を止めて、外に出て走り回りたいという衝動に駆られた。いつもよりもスピードを遅くして、周りの風景を楽しみながら車を走らせていると、ようやく実家が見えてきた。数十年間思い出しもしなかった実家の姿は、あの商店街と同様に、わたしの知らない姿に変わってしまっていた。わたしの覚えている限りの実家は、古く黒ずんだ木で出来ていた、かなり古ぼけたような家だった。しかし、その家を丸々改築してしまったのか、鮮やかな新木で出来たような家が、昔よりも大きくなってわたしを出迎えてくれた。わたしは何度か瞬きをしてから、もう一度実家をまじまじと見つめた。家の裏の山は姿を消しもせず変えもせず、そこにひっそりと佇んでいるというのに、わたしの生まれ育ったこの家があまりにも様変わりしているというのは、何となく落ち着かない気分がした。
「起きろ。着いたぞ」
 わたしは優しく妻の肩を揺すった。妻は眉を顰めて欠伸し、それから重たそうに瞼を開けると、深く息を吐いて窓の外の景色を見つめた。
「きれいなところね」
 窓を開け、僅かに身を乗り出しながら妻はぽつりと呟いた。わたしは少々複雑な思いで小さく頷くと、車のスピードを更に落とした。
 家の少し手前で車を留めると、妻を先に車から降ろして、それからわたしもシートベルトを外し、車を降りた。久しぶりの帰郷はやはりどことなく落ち着かなかった。足が震えて、膝がガクガクとする。わたしは平静を取り戻すために、深く息を吸った。すると、すかさず懐かしい匂いのする空気が、鼻孔を通って肺の中で空気の冷たさを感じた。不意に郷愁が込み上げてきて、わたしは思わず泣きそうになってしまった。慌てて目頭を指でつまむように押えると、何度も深呼吸を繰り返して、一通り気持ちが落ち着いたところでようやくゆっくりと歩きはじめた。何やら楽しそうに顔を上げて辺りを眺めていた妻は、わたしが歩き出したのに気がつくとわたしの方へと駆け寄ってきた。妻はにこにこと満面の笑みを浮かべ、「空気が美味しいわ」と言いながらするりと腕を絡めてきた。
「緊張してないのか?」
「あら、どうして緊張なんかしなくちゃいけないの」
「だって、わたしの両親と会うのは初めてだろう」
「ああ、それなら大丈夫よ。寧ろちゃんとご挨拶ができるなんて感激だわ」妻は小さく笑ったが、すぐに表情を変えて、言葉を続けた。「でも、お母様とご対面できないのは残念ね」
「会えない方が良かったと思うよ」
「どうして?」
「息子思いの最高の母親だったからさ」わたしは自嘲気味に皮肉った。
 妻はわたしの言葉には何も言わず、唇を固く結ぶとわたしの腕に絡まっている妻の腕がぐっと強張ったのを感じた。
 インターホンを鳴らさなくても、家の戸は無用心にも開いていた。しかし、わたしはそれを疑問に思うこともなく、「お邪魔します」とだけぼそぼそと誰にも聞こえないような小さな声で言ってから、家に上がった。妻は困惑しているのか、眉を顰めながら不安げにわたしを見つめていたが、やがて決心したようにわたしに続いて妻も家に上がった。

 家の中は、わたしが予想していたものとはかなり違っていた。わたしはてっきり内側も改装しているのだろうと思い込んでいたのだが、どうやら改装したのは外側だけだったらしい。見覚えのある、焦げ茶色の板でできた古臭い廊下が長く続いていて、そこを通るとリビングに出た。
 「父さん?」
 外観だけとはいえ、美しくなった家とは裏腹に、父は昔から家族で囲んでいた卓袱台の傍に、情けなく腰掛けていた。父の余りの様変わりした姿に、わたしは思わず身震いして、息を呑んだ。父はわたしたちにようやく気がついたのか、振り向いてわたしを一瞥すると、よろよろと立ち上がった。慌ててわたしは父の傍によると、父の体を支えてやった。
 父の体もまた、昔と大きく違っていた。わたしが幼い頃は尊敬し、親しいながらも恭しく思えるほどたくましく頼りがいのありそうな体つきだった父だったが、今はもう、ただの老いぼれ爺さんのような、骨と皮だけの、生気のない姿になってしまっていた。
「やっと来てくれたか。母さんが喜ぶよ」
 数十年ぶりにようやく顔を出したというのに、父はそんなわたしを叱りもせず、拒むこともせず、嬉しそうに薄く笑った。
「光代」わたしは父を支えながら、妻の方を向いた。
「はい?」
「少しだけ、二人きりにさせてくれないか」
「わかったわ」妻は苦笑を浮かべた。「ここに座っていたらいい?」
「ああ、そうしてくれ」そう言ってわたしは、早く行こうと急かす父を宥めながら、リビングから出た。
 「ほんとに久しぶりだなあ、何年……いや、何十年ぶりだろう」
 本当に嬉しそうに笑いながら、指を折ってわたしが家を出てから今日に至るまでの年を数える父の姿を見て、わたしはなんて愚かなことをしてしまったんだろうと心の底から悔やんだ。母がどんな人であれ、毎日毎日わたしを気に掛けてくれた父には月に数回は連絡を取るべきだった。
 後悔の念を抱きながら、父に促されるままに進んでいくと、例え血の繋がっている家族であろうと入ることを許さなかった母の部屋の前に来た。わたしは反射的にそこで足を止めると、服の袖をぎゅっと強く握った。ここに入ることだけは出来れば避けたかった。母はもう死んだといえども、この部屋に入ると母に呪われそうな、そんな気がしてたまらないのだ。父は入らないのかと不思議そうにわたしの顔を覗き込んできた。ついにわたしは父の身長さえも超えてしまったのかと、ぼんやり思った。
「母さん、ここにいるの?」わたしはきっちりと閉じられた襖を指差した。
「いるよ。早く会っておやり」父はわたしを急かすように、わたしの背中をぐいぐいと押した。
 わかった、わかったよとわたしは父を抑えながら苦笑した。一度息を吐いてから、何も起きるはずなんてないと心の中で自分に言い聞かせ、ゆっくりと襖を開けた。部屋の中は想像していたよりもきれいに片付いていて、重苦しい空気が流れてくるかと思っていたが、逆に先ほど家の外で吸った空気と同じようなひんやりとした、自然の匂いがする空気が部屋の中を漂っていた。足元に目を落とすと、数十センチ先に大きな白い木でできた柩が置かれているのに気がついた。この箱の中に母が入っているのかと思うと、ぞっと背筋に寒気が走った。わたしは膝を折って正座すると、躊躇いながらも柩の蓋を丁寧に開けた。
「どうだ、母さんきれいだろ」父もわたしの隣に座ると、柩の中で眠るように目を閉じている母を見つめながら言った。
「母さん」わたしはぽつりと小さく呟くと、母の姿をまじまじと見た。
 母の顔の周りには、母が好きだったであろうものが沢山置かれていて、その中にわたしが一度だけ母宛てに送った手紙もあった。わたしは信じられない思いでその手紙を手に取ると、急いで便箋を取り出した。そこには、紛れも無いわたしの文字が並んでいた。所々、水か何かの液体が落ちたのだろう、文字がわずかに滲んでいる。あれだけわたしを嫌っていた母が、わたしの手紙を大事に取っているはずがないと、わたしは母の姿を凝視した。
 よく見てみると、母の顔の隣に紫陽花がひっそりと置かれているのに気がついた。今日摘んだものをここに添えたのだろうか、花はまだ生き生きとしているように見える。そういえば、随分昔に、母が庭に植えてある紫陽花に水を遣っている姿を見たことがあった。わたしは手紙を元の場所に戻すと、ゆっくりと立ち上がった。
「もう帰るのか?」父は寂しそうに肩を竦めた。
「いや、帰らないよ。久しぶりの里帰りなんだから」わたしは父の背中をぽんぽんと叩いた。
「母さん、お前の手紙何度も読み返してたぞ」
「今、何て?」
「だから、何度も大事そうに読み返してたんだよ。いつ帰ってくるのかって」
「そんな……。ありえないだろう、わたしをああやって追い出しておいて」
「母さんなりの愛情表現の一つだよ。お前、中途半端だったから、その中途半端さから卒業させたかったんじゃないのか」
「じゃあ、あれはわたしを成長させるためにしたことだったっていうのか?」
「ああ」
「理解に苦しむね」
 わたしは冷たく言葉を吐き捨てると、部屋を出た。
部屋を出て数メートル歩いたところで、わたしは周りに誰もいないことを確認してから壁に凭れ掛かり、ずるずると座り込んだ。堪えていた涙が溢れてきて、止まらない。わたしは目頭を強く抑えながら、泣き声を押し殺しながら息を呑み込んだ。胸がきゅっと締め付けられるような感覚がして、息苦しい。深く息を吸うと、懐かしい匂いがして、更に胸の中に熱いものが込み上げてくる。父の言う、母の余りにも不器用なまでの愛情表現が本当だったとしたら、わたしは本当に、なんて馬鹿なことをしてしまったのだろう。手紙のあのシミは、もしかしたら母の落とした涙だったのかもしれない。そう思うと、わたしは沸々と込み上げてくる自分に対する罪悪感に押し潰されそうになった。


 わたしの中で母は「他人」だという印象を受けたのは、まだわたしが幼い頃だった。小学校低学年ぐらいの頃のある日、父とのいざこざで母が突然発狂し始め、それをただ黙って見ていたわたしをストレス発散の対象にし、気が済むまで母に殴られ続けた日以来、どことなく互いに余所余所しくなり、密かにあの事件をきっかけに、わたしと母は親子という関係ではなくなったのをささやかながらも確信したのがきっかけだった。
 しかし、わたしも母親に甘えたい盛りだったので、何度か母と元の関係に戻ろうと努めてみたが、毎回わたしの行動や発言が母の気に障るらしく、殴りはしないものの、大声でわたしに怒鳴り散らした挙句、決まり文句のように「生まなければ良かった」と喚く有り様で、結局何の進歩も遂げられずに、わたしの試みも終わった。そして、寂しくて泣きじゃくるわたしを、父は困ったように笑いながら元気を出せと励ましてくれたのを覚えている。

2007/02/26(Mon)17:31:50 公開 / 上月
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■作者からのメッセージ
お久しぶりです、上月です。
今回は少しだけ長いですね。
次から多分「わたし」の回想モードに入ります。
かなりグダグダで文章的にも可笑しい表現があると思いますので、厳しく指摘して下さると嬉しいです。

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