『仮染めの都市伝説 〜鈴鹿村の悲劇〜』 ... ジャンル:リアル・現代 ホラー
作者:神楽 時雨                

     あらすじ・作品紹介
近頃ネットで噂になっている1つの都市伝説。主人公ら三人はT県の山間にあるというその都市伝説の舞台『鈴鹿村』に行ってみる事にした。オカルト研究会で行う初めての課外研修。三人の中でも気合や感情が高まっていた。その前日の深夜、別の六人組の人達が不運にもすでに村の中へと足を踏み入れてしまう。その時、鈴鹿村の悲劇が再来する。

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西暦一九三〇年八月 十五日、午後八時三十二分『鈴鹿村北部』

「ねえ、やめようよ。不発弾なんてほっといて虫取りしようよ?」
 鈴鹿村北部の山腹、麓からだいぶ離れた場所で二人の少年が話していた。
 二人のうち片方の少年は背が小さく、肩に虫かごを背負っている。もう片方の少年の手には、虫取り網とコブシ大の石が握られている。
「冗談いうなよ。大人たちが気づかないうちに俺達で壊しちまおうぜ。どうせアメリカ軍が作った失敗作の爆弾なんだから壊したとしても平気だよ」
 笑いながら虫取り網を持っている少年は、手にもっていた石を爆弾に向けて投げている。
 隣ではいつ爆発するかも知れない爆弾を恐れて木の陰から見ている少年がいた。
「えっ?」
 ひどく間の抜けた言葉が最初少年の鼓膜に響いた。次の瞬間、鼓膜が破けるほどの爆音が少年達二人を包み、そして吹き飛ばした。少年が投げた石のショックで、信管が動いたのだ。
 木々が吹き飛び、爆発した爆弾の細かい破片が少年の身体に突き刺さる。
 そして少年は意識を失った………。
 麓でも爆発の振動で付近の火薬貯蔵庫のニトログリセリンが引火、そしてさらには村の中央役場にて貯蔵されていた約一トンにも及ぶ重火器及び火薬、燃料類にも引火し、村全体を包むかのような大爆発が起きた。
 鈴鹿村は光と轟音の中で滅んでしまった。
 それは最初の爆発が起きてからわずか十分足らずの出来事であった。
                                      【都市伝説】 爆弾村回想録より

 
 西暦一九九九年八月 十五日 午前七時八分『Y県S市の某公園にて』

 一台の黒いワゴン車が、駐車禁止のマークがあるスペースに停めてある。そばでは三人の男女が地図を広げて話し合っている。
「つまりは、ネットで言ってた爆弾村と呼ばれている鈴鹿村が、T県の山中にあるのか?」
 茶髪で耳に三連ピアス、そしてサングラスを掛けている見たまんまのラップ系の青年が言った言葉に、隣で地図を広げている一人の女性が首を横に振った。
 彼女は地図の上を指でなぞりながら、一つの道筋をたどる。
「正確には山の中ではなく山間の今はもう住んでいる人がいない廃村ね」
 彼女の声に「あっそう」とだけ呟いて胸ポケットからタバコを取り出した。吸おうと思い、箱から出した一本をもう片方の青年に取られてしまった。
 彼はすばやく口にくわえるとジッポを器用に手の中で回しながら火を点けた。
「悪いねえ、どうにもこの時間は吸わないと眠くなって……」
 灰を落として口の中から白い煙を勢い良く吐き出す。
 それを横目で見ていた女性が、煙たそうに折りたたんだ地図で煙を霧散させる。
「私の前でタバコは吸わない。約束でしょ?」
 女性の言葉に、二人の青年は残念そうに咥えていたタバコを地面に落として踏み消した。
「で?どうするのさ。行くならさっさと行って現物見てみようぜ!」
 茶髪の青年の言葉に二人は首を縦に振って同意する。
「じゃ、そういうことで山に向かいますか?」
 異議なし! と他の二人の言葉と共に、三人は車に乗り込んでエンジン音高らかに出発していった。
 不幸はこうして始まっていった。


 西暦一九九九年八月 十五日 午前零時三十分『T県山中東 鈴鹿村入り口』

 白いワゴンの車内で数人の男女が酒とつまみを食べながら無邪気にはしゃいでいた。
 ここまで来た理由に大きな意味は無く、ネットで噂になった爆弾村へ行ってみようとの軽い気持ちで彼等はこの場所までやってきた。
「行くならやっぱ深夜でしょ?」との誰かの一言にみんなが同調して、彼ら六人は呑気に昼間から酒を飲んでいた。
 どうということは無い、車は彼らの乗っているほかにあと三台、ボックスタイプのワゴン車が駐車してある。食料はその中にたくさんあるのだ。
「ねえ? そろそろ頃合じゃない?」
 顔を紅潮させた女性が、隣にいた男性の肩をゆすって外を指差す。男性も腕時計を見て小さく頷く。
「じゃあ、クジでペアでも決めよっか〜!」
 相当酒が回っている男が、爪楊枝を色ペンで先を塗りつぶしたのを回していく。
「じゃあ、このペアで異議のある人は〜?」
 な〜し! との満場一致の言葉で彼等は車外へと出て行った。
 目の前には赤い十三連の赤い鳥居、そして付近には赤子を模した首なしの仏像が置かれている。
 誰かが息を呑むのが聞こえた。
「いちば〜ん! 斎藤、三浦ペアいっきま〜しゅ!」
 ろれつの回らない下で意気揚揚と歩き出したペア、そして数分後にもう一組、そして最後にもう一組のペアが鳥居をくぐって見えなくなった。
 そして気がつけば、二台のワゴンがすでにボロボロになっていた。


 西暦一九九九年八月 十五日 午後一時八分『T県山中東 鈴鹿村入り口』

 三人はGPSの接続やラジオの調子が悪くなるのも気にせずに、ようやく鈴鹿村の入り口までたどり着いた。
 そこには観光客か同業者か?はてまた何も知らなかったのか、三台のワゴン車が駐車してあった。しかしそのどれもが廃車寸前までボロボロになっているではないか?
「ずっと前に放置されたのかしら?」
 彼女の言葉に二人のうち茶髪の青年が近づいて車を見て周る。そしてもう一人の青年を手招きで呼ぶと、落ちていたビニール袋を拾い上げて一言二言呟いた。
「五十鈴。この車最低でもここに停まってから二、三日と経ってない」
 五十鈴と呼ばれた女性は、告げた青年に理由を聞いた。
「このサンドイッチの袋の賞味期限は十六日の午後七時。サンドイッチやおにぎりなどはコンビニで売られていてもスーパーで売られていても賞味期限には大して差は出ません。
最低でも二、三日。つまりこの車の持ち主はこのボロボロの状態で来たか何らかの理由でここから離れたか?」
 まあ、十中八九この鳥居は通ってるんじゃないかな?」
 青年の言葉に五十鈴は悩んだ。あまり先客がいるとムードが台無しだからだ。
「まあ、私達もしばらくは下準備がいるし、もしも持ち主が鳥居を越えて帰ってきたら話だけでも聞いてみましょう?なにかスクープになるかも?」
 三人はそれぞれ車の中から必要な機材を次々と運び出した。
 懐中電灯に予備の電池パックを三つ。携帯食料二食分に三人とも一本ずつのサバイバルナイフ。そして茶髪の青年は、なぜか本物の九ミリ拳銃をベルトに挿した。
「おい忍。バトロワじゃないんだからさ。本格的っていうかなんで本物持ってんだよお前」
 忍と呼ばれた青年は、軽く笑いながら「オークションで落とした」と告げた。
「面白半分で落札したらマジで本物。しかもパーツをつければバーストも撃てる優れものだぜ!」
 そういって腰にあるポーチに四本のマガジンまで備え付けた。
「もしも見つかったらサバゲーやってるって言えば万事完璧だろ?三越」
忍の言葉にあきれながら「それを言うなら『万事解決』じゃないの?」とだけ反論しておく。
 そんな二人を見ながら、五十鈴は二人が入部したときの事を思い出した。
 最初部を作ったとき、皆が皆あきれたような顔をしていた。『いまどきどんな物好きだ?』『趣味悪い』などと言われ続けて一年が過ぎたとき、彼等は部室のドアを開けたのだった。
「ここってオカルト同好会?」
 無邪気な声で告げた忍の言葉に、三越君は慌てて彼の口を押さえて黙らせた。
「すいません! ここって都市伝説的に興味を持っているところですよね?」
 変な言い回しの彼らの言葉がおかしくて、私はそのとき怒るよりも笑ってしまったのだった。
「先輩、準備できました。…先輩?」 三越の呼びかけにふと思い出から現実へと意識を戻す。
「ごめん。じゃあいこうか?」
 あれから一時間ほど経ったが、車の持ち主は戻ってくる気配は無い。
 忍は、青のバンダナにビデオカメラを片手に歩いている。三越はデジカメとポラロイドカメラを持ってあちらこちらを適当に撮影しながら木々を避けて歩いている。
 私はというと、懐中電灯片手にみんなよりも先立って道を作っていっている。
 初めての本格的な都市伝説への挑戦。ぜったいに何か起きて欲しい。彼女はそんな願望を胸に、そして二人も同じ感情を胸に村へと歩を進めていく。これから起きる事も知らずに。
 そうして私達は鳥居を抜けて奥へと進んでいった。


 同日 午後二時四十五分 『鈴鹿村内役場』

「ねえ、みんなどこ行っちゃったの?」
 役場内、廃れて壊れて何も無く、窓も砕けて床はところどころ抜け落ち、歴史を感じさせる土壁も剥き出しの状態だ。
 彼女の名は『霧崎 杏奈』昨夜二番目に入り口を抜けていった女性である。そして隣にいるはずの男性の姿はない。
 一心不乱で彼女は一人、霧の中を走ってきたのだった。
「なんなのあの霧は!そうよ。あの霧のせいだわ。あの肌にまとわりつくいやな湿気。あれのせいで彼はあいつらに…」
 村についてしばらくの間、彼女は民家の中を転々と移りながら時間を潰していた。
 そしてここに来る前、近くの民家で他にも来ているのか三人分のリュックサックを発見した。中には非常用の食料と思われる携帯食料が合計六袋やいろいろな電子機器があった。
 彼女は真っ先に携帯食料へと手を伸ばして疲れよりも飢えを満たし、ほんの刹那とも思える休息をとって他の隠れられそうな場所を探して家を後にした。
 その時にリュックを一つでも抱え込めば、このリュックの持ち主を探しさえすれば、もっと彼女は楽に立ち回れたはずだろうに、その時彼女の頭には『ここから離れたいという感情しか残っていなかったのかもしれない。
『ガタン!!』
 ビクッ!と背筋を凍らせて彼女は手近にあった手すりと思われる一本の棒を握り締めた。
「だ!……っだれ!?」
 受付の奥、休憩室と書かれている扉がいやな軋みと共に重々しく開いていく。
『ウワゥッ!!ウウッ!ワン!』
 奴らだ! 杏奈は確信した。霧の中で彼を襲い、悲鳴をあげさせた奴らが来たのだ。
 杏奈は棒を捨てて走り出した。行き先も隠れる場所も思いつかないまま、とにかく誰にも見つからない場所を探して彼女は走り続けた。
 

 同日 午後一時五十三分 『鈴鹿村麓 折れたバス停の前』

「いや、薄気味悪い場所だな。あたかも都市伝説はここから始まった。みたいな?」
 忍の言葉に五十鈴は頷く。しかし三越は別の感情をもった。
「人がいなくなると村なんてすぐに消えてなくなるんですね? あたかも元からこんな場所だったみたいなノリで」
 三越はファインダー越しに辺りを見回しながらそう告げた。
 その時ファイダー越しに何か横切ったように見えた。慌てて肉眼で確かめてみるが、そこにはなにもいない。
 確かに今なにかいたような? 気のせいか……。
 頭から雑念を払い、三人は村の中央へと足を進めて行く。
 五十鈴は中央に着くとふと辺りを見回し、霧が出てきた事に気づいた。
「霧が出てきたわ。そこらの廃屋にでもいったん避難しましょう。はぐれたらこんな村でも危険だわ」
 五十鈴の言葉に、三人は近くの民家へと足を運んだ。
 彼らの恐怖はここから始まるのだ。爆弾の誘爆で滅んだと云われるこの村のように跡形も無く消されるために…。


 同日 午後一時二十三分 『村西部焼け焦げた廃墟跡』

 かろうじて骨組みの残っている丸太に一組の男女が息を切らして座り込んでいた。最初に鳥居をくぐった斎藤と三浦だった。彼等は手にもっていた携帯電話を開いて耳に押し当てるが、聞こえてくるのは圏外アナウンスの音だけ。
「くそ!」 彼はもっていた携帯を地面に叩きつけようとするが、隣にいた女性がそれを腕ずくで奪い取る。
「やめてよ! これ最新の機種なんだから!」 
 三浦は大事そうに持っている携帯をショルダーの中へと滑り込ませる。
 それを横でみていた斎藤は、舌打ちして立ち上がった。見れば呼吸も落ち着いている。
「さてと、こんなシケた村なんざどうでもいい。あの野犬共から見つからずにとりあえずは車まで戻ろうぜ。他の連中もきっと戻ってるはずだからよ」
 斎藤の言葉に三浦は真剣に頷いた。
<冗談じゃないわよ。誰よこんなこと言い出したのは?>
 三浦は今回の爆弾村へ行こうと計画していた中では数少ない反対組の一人だった。
 そもそも男達の質の悪さにうんざりしていたのだ。特に隣にいる斎藤学とリーダー格の村田友則は見た目からして近寄りたくない存在でもあった。
<くじ運最悪だわ……>
人知れずため息をつく三浦を尻目に斎藤はそこら辺に転がっている木材の中から太く頑丈そうなのを選ぶと、振り回して感覚を確かめる。
「とっとと行くぞ!何でもいいからあいつらから離れたいぜ畜生が!」
 毒気付きながら歩き始める斎藤に、三浦は頼もしさとは正反対の頼りなさが湧き出てくる。
 本人としては強いところを見せようとしているのだろうが、彼女は斎藤という人物の本性を知っている。
 彼は仲間内でこそ強いと豪語しているが、小学校、中学校と苛められ、パシリ扱いされていた。
 そんな斎藤の前に現れたのがリーダー格の村田なのである。強い意志と統率力、個人としても家としてもかなりの資産家らしく、斎藤は村田と出会ってから常に腰ぎんちゃくのようにくっ付いて行動していた。
 そのせいか斎藤の周りから苛める人間は減り、今のような関係を持つまでに状態は回復していったのである。
 なぜ三浦がその事を知っているのかというと、簡単な事だ。
 彼女は彼、斎藤の家の隣なのだ。
 一緒に遊ぶなどといった事は無かったものの、苛めの相談などで斎藤の両親から相談を受けた事もある。
 くじ運が無いばかりか天命にまで見放された気分である。
「早く斎藤以外の男を見つけなくちゃ私の命が危ないわ…」


 同日 午後一時五十四分 『村北部神社境内 内部にて』

 村田は一緒に鳥居をくぐった女性の手を引いてひたすら走っていた。
先程のうなり声と悲鳴、そして大地を高速で蹴る四速歩行独特の足音。全てにおいて追跡してくるものが動物だと結論付ける。
「くそ!厄日だ…」
 毒気付く暇すらやつらは与えてはくれなかった。
<バウッ!>
 一際近くで聞こえてきた泣き声に対し、村田は手に持っていた数少ない餌を背後にまく。
「これでも喰らえ!」
 そう呟いて撒いたものは昨夜食べていた酒のつまみ、魚肉ソーセージとサラミを千切った物だ。
 最初こそ鞄に入れて歩いていたが、不意を突かれた奇襲で鞄を破かれ中身のほとんどを奪われてしまった。
慌てて鞄を取り戻して追い払おうとしたのが不味かったのか、奴等は総出でこちらを追いかけてきた。
 最初の時こそ巻く事に成功したものの、現在地を見失ってしまい、当てもなく仲間を探して歩き続けていたのだ。
 隣にいる女性は名を清水渚と言っただろうか? 酒が頭に入っていたのと先程の遭遇でぱっと名前が浮かんでこない。

2009/02/17(Tue)18:54:38 公開 / 神楽 時雨
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■作者からのメッセージ
 最後まで読んでくれた読者の方々誠にありがとうございます。
以前書いた物のリメイクとでもいう作品です。
内容としてはたいした変化は無いのですが、前々から続きを書こうと思っていた作品です。
ホラーというか逃げるタイプの作品だと思ってください。
他作品も含めてお楽しみに待っていただけると幸いです

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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