『箱』 ... ジャンル:ショート*2 ホラー
作者:火崎                

     あらすじ・作品紹介
気が付いたら此処にいた。共通点はただそれだけの四人の男女。四人は箱のような部屋に閉じ込められていた。果たしてこの部屋から脱出することができるのだろうか?発見される出口。果たしてその出口を出口と読んでいいのだろうか?

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 箱

「や、これって結構危機的状況なんですかねぇ」
 中年風の男が呟くように言った。
「出られないんですから、危機的状況でしょう」
 それに若い男が答えた。
「ちょっと、分けわかんないんですけど」
 若い女は少しいらいらしているらしい。
「まあまあ、落ち着いて。ひとまず自己紹介でもしましょうよ」
 落ち着いた様子の女がなだめるように言った。
「それもそうですね。僕は高田信明と言います」
 一人目、男。年齢は二十歳かそこそこに見える。名前は、高田信明。
「じゃ、次私。千草奈保」
 二人目、女。年齢は高校生かそこらだろう。名前は千草奈保。
「え、私は戸森則人と申します」
 三人目、男。明らかに四十過ぎ。名前は戸森則人。
「では、最後に私が自己紹介させていただきます。津田縫と言います」
 四人目、女。会社では御局と呼ばれているかまだかぐらいの年齢に見える。名前は津田縫。
 四人が現在いる部屋は窓もなければ扉もない。ただ四方に壁があるだけの、まさに箱のような部屋だった。壁の色はにごったような赤い色をしている。そして不思議なことに四人ともどうしてこんな部屋にいるのかという記憶がない。それどころか、気付いたらこの部屋にいたというのだ。
「で、どうします?」
 戸森がおどおどした口調で尋ねた。
「どうするもこうするも、何もできませんよね」
 津田が相槌を打つ。
「とりあえず叫んでみない? 誰か気付いてくれるかもよ?」
 千草の提案に一同同意。そんなこんなでとりあえず四人の結論は「とりあえず声の限りに叫んでみよう」に落ち着いた訳で。
 「助けてくれ」とか「ちょっと出してよ」とか「誰かー」とか「気付いてください」とか。思い思いに叫んでみたはいいものの、誰かが気付いてくれている気配はまったくない。
 再び四人は首をかしげた。
 一時間ほどたっただろうか。高田がいきなり声をあげた。
「嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「なっ何なんですか、高田さん」
 戸森が耳を押さえながら尋ねる。
「僕達は恐ろしいほどの阿呆ですっ」
 何をいきなり言い出すんだこの男は。その場にいた三人の心がその瞬間、完璧に一つになった。
「上を見てください」
 高田の言うとおり上を向いた三人は、高田と同じように声を上げた。その声は、さっきの声の限りの叫びよりも大きかったかもしれない。
 四人の目に映ったものは小さな四角い扉のようなものだった。いや、この部屋が箱によく似ていることから蓋といったほうがしっくり来るかもしれない。
「あそこから外に、あそ、あっあそっ」
 あそあそいっている戸森を押しのけるように高田が叫んだ。
「あそこから外にでられるかもしれませんよ」
「やったぁ、これでアイスが食べれるっ」
 この女、こんなときにアイスの事など。さっきとは違う三人の組み合わせだが、再び心が一心同体な程に一つとなった。
「でも、随分小さいですね。まず男性陣には無理でしょう。となると、私か千草さん。私は年齢的にきついので、ここは」
 三人の視線が千草に集まる。千草は、引きつったような表情をした。
「私スカートだもん!」
 千草が怒った様に抗議する。すると、津田が提案をした。
「緊急事態なんですから、コレしかないと思います。千草さんが高田さんのジーンズをはき、高田さんがとりあえず千草さんのスカートをはいていたらいかがでしょう?」
「えっ」
 高田と千草の吸い込むような声がかさなった。そして、お互いに目を合わせる。

「ねえ、これってどうよ?」
 千草が怪訝そうな目をして尋ねる。
「丈、すっごい丁度いいんだけど。これって高田さんが足短いって事?」
 千草の足元に四人は注目し、そして沈黙した。
 高田ははきなれないスカートのせいか、戸森並におどおどしている。
「では、早速」
 そういうと千草は身軽に高田の肩に足を乗せ、いとも簡単に扉にたどり着いてしまった。
「鍵、かかってない」
 そう呟くが早いか、千草は小さな体で小さな扉をくぐり、箱の上にあたる部分に到着したようだ。
「どうですか?」
 津田の声が響く。
「や、どうって」
 千種の声が心なしか困惑しているように聞こえた。三人にはまだ分からない何かを千草はわかっていてそれゆえに困惑しているのだろう。三人は千草の返答をまった。
「校長室? っぽい」
 は? パードゥン? リピートアフターミー。そんな言葉が三人の脳を支配する。そして、聞き間違いだろうと思おうと必死だった。しかし、聞き間違いなどではない。
「うりゃあっ」
 千草の掛け声と同時に、扉周辺の天井の一部が破壊された。
「な、ななななななななな何なんですか、千草さん」
 戸森のデコから汗が噴出す。破壊された天井の奥から千草の声が聞こえる。
「あんねーなんかツルハシ?っぽいのあったからそれで天井、高田さんとか入れるくらいまで、破壊するのー」
 ズゴーン。バギャッ。ガラガラガラ。千草は破壊している天井の下に三人の人間がいることなどとうの昔に忘れていた。

 千草の破壊により、無事ではないが全員が校長室に上ることができた。
 どうやら、ここは中学校の校長室らしかった。
「早くでましょうよ!」
 戸森の声をあいずに、四人は出口があるであろう方向に走り出した。そして、そこに出口はあった。
 「やっとでられる!」と四人は確信していた。
 しかし――――。その確信はいとも簡単に崩れさった。
 外の光景を見たとたんに狂ったのは高田だった。発狂した人間をみた恐ろしさと、外の光景に千草は泣き叫んだ。発狂した張本人の高田はなにかとてつもなく可笑しいものを見たかのように大声で笑い、津田は泡を吹いて倒れ、戸森は何故か残り少ない自分の髪の毛をむしりだした。
 彼らはが見たものは。
 学校がすっぽりはいった、巨大なもといたところと同じつくりの巨大な同じ壁の色をした、「箱」部屋だったのだ。
 合わせ鏡のように、校舎と箱は続いてゆく。
 箱、校舎、箱、校舎、箱、校舎、箱。箱。箱。箱。

 とある秘密組織。
「あの連続殺人事件の犯人のイニシャルがN.Tだと聞いたので容疑者で当てはまる人間をみんな箱にいれてみたのですが」
「うむ、それでどうなった? 自供したか?」
「はあ、それが、四人とも発狂してしまったようで」
「なんだと、それならもうどうしようもないじゃないか」
「はあ、それで、いかがなさいましょう」
「死ぬまで箱に入れておけ。ああ、死体は死体用の箱にいれておくんだぞ」
「はあ、わかりました。では」
 箱、校舎、箱、校舎、箱、校舎、箱。箱。箱。箱。死体箱。
「はあ、また死体箱が埋まってしまった」
「新しい箱が必要ですね」
「はあ、ではまた、死体を原料に壁を作らせておいてくれ」
 箱、校舎、箱、校舎、箱、校舎、箱。箱。箱。箱。死体箱。箱の、壁。
      ―――完。

2006/12/10(Sun)22:10:14 公開 / 火崎
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■作者からのメッセージ
ふいに昔のネタを引っ張ってきて衝動的に書いた作品です。

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