『洞窟とタイムカプセル』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:驟雨                

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洞窟とタイムカプセル

八月も終わりにさしかかりセミの鳴き声にも悲壮感が漂い、お盆明けの都心には人が戻り始めていた。また今日も新しい一日が始まりそして終わる。それの繰り返しの生活を謳歌しつつお盆休みも返上し最近は過労死で死ぬんじゃないかと思えるほど働き詰めだったのだが、たった今上司から1週間程休みをとる許可がようやくおりて明日から束の間だが休みをとることが出来る。その高揚感を抑えきれず喜び勇んで外に出ると、焼けたアスファルトがお出迎えをしてきた。昨日が雨だったせいだろうか、日本の高温多湿な夏のイメージをそのまま再現しましたといった感じの湿度で立っているだけで汗がにじみ出てくる。照り返しを防ぐはずの街路樹が初夏頃に毛虫に軒並みやられてしまい悲しい事に何の意味もなしていない。早く飯を済ませて会社に戻らなくてはならないので、小走りで近くのこじんまりとした食堂へ向かうことにした。道路にも冷房くらい置けよなと朦朧とした意識下で考えていると、やっとお目当ての食堂に到着した。
昨日までなら甲子園中継がテレビに映っていたのだが、昨日で甲子園の決勝戦が終わってしまっていたので、今日はニュースが映っていた。政治の話、倒産した会社、強盗殺人犯の判決…やらいろんな情報が耳に入ってくる。注文を済ませ携帯を片手に水をチビチビ飲んでいると、テレビから聞き覚えのある地名が聞こえてきた。
「昨日、宮崎県延岡市の小学生3人が近くの裏山に遊びに行ったまま行方不明になっていた事件で、行方不明だった3人が3人の自宅から程近い裏山の防空壕の中で倒れているのを近所を歩いていた人が見つけ、119番通報しました。3人は既に死亡しており、死因は一酸化炭素中毒と…」
大変に痛ましい事故であるが、戦時中に掘られた防空壕がある自治体ではこういう事故が時たまある。が、埋め戻す特別予算がつかず放置されているのが現状である。しかし今回の事故は少し印象が違った。なぜならその事故現場は地元であり、20年以上住み慣れた土地で事故の起きた裏山や洞窟で遊びもしたし、いろいろな思い出がある場所である。
九州南部は戦時中に本土決戦に備え防備が固められた。その結果として大量の防空壕が掘られた。しかし本土決戦は行われることなく、戦後いくつかは埋められはしたが60年をけみした今現在でさえも50以上は存在が確認されている。未確認を含めるとその数は200以上になると見られていて今でも把握しきれていない。
さらにキャスターは続ける。「…場は大量の防空壕が散在している事で有名ですが、延岡市役所土木課の…氏は警察の現場検証が終わり次第危険な4ヵ所の防空壕を埋め戻すとコメントしています…」
防空壕…。昔、よくみんなで裏山で遊んでいたことを思い出してきた。小川でカエルをとったり、裏山でかくれんぼをしたり田んぼに自転車で頭から突っ込んだ時みんなに助けて貰ったこととか…。
…ふと思い出した。確か中学校3年の頃だったか仲の良い友達でタイムカプセルをいつもの遊び場所であったとある防空壕の中に埋めたんだっけ。いつ掘り出すかも決めてなかったりで結構ずさんな計画だったけどちゃんと埋められたし、今となっては良い思い出だ。
「あの防空壕が埋められる可能性もあるんだよな…」
と思わず声に出た。地元の人にもあまり知られていない防空壕だったが、4年ほど前に住宅地での防空壕跡が原因となった地盤沈下事件があったので市役所が調べていたはずだ。おそらく発見されているだろうから埋め戻されてしまう可能性が高い。いてもたってもいられず、携帯電話で航空券を予約し帰省することにした。

宮崎も相変わらず暑かった。道中の鹿児島空港でも30℃オーバーだったのであまり期待はしていなかったが、バスを乗り継ぎ延岡駅に着いた時には暑さと疲れでヘトヘトだった。
駅まで迎えに来た親父の車に乗り近況の話をしていると、防空壕での事件の話になった。やはりというかなんというか、相当大きな騒ぎになったようで地元のローカルテレビ局では特番も組まれたとのことだった。
「市役所も埋め戻しのために災害時の積立金を切り崩して特別予算を組むみたいだな」
「へぇ〜。でも台風とかがこれから来るかもしれないじゃん。来たらどうすんの?」
「まあなんとかなるんじゃないか?」
とまあ意味のない会話が続き、四十分程で実家に到着した。もう既に軽く日が傾いている。いつもの癖でふと携帯電話のアンテナピクトを見ると、圏外になっている。これは、ずっと前から携帯電話業者に掛け合っているのだが一向にアンテナが立つ気配がなく、さらに光回線はおろかADSLも来ていないのでもっぱらISDNしか使えないというさみしい事態になっている。だから親父はよく口癖で取り残された集落という。現代の便利な生活を享受できない悲しみか、発達しすぎた現代社会への皮肉なのかよくわからないが酔った時によく言ったものだ。が、兄貴の息子にまでその口癖が伝染し、両親の眉をひそめさせているという事実も付け足しておく。
この暑さの中で今から防空壕に行く気もしないし、親父も数日は埋め戻しは出来ないから大丈夫と言っていたのも手伝って、実家の居間で寝ることにした。扇風機の風にあたりつつまどろんでいるとどこからか聞き慣れた声が聞こえた…気がした。ふと目をさますと母親と誰かが話しているのが聞こえる。玄関まで見に行ってみると、同級生の谷中がいた。
この谷中はタイムカプセルを一緒に埋めた仲であり今でも年賀状くらいは送っていたが前に会ったのは2〜3年前の正月休みだった。
「おー、やっつぁん。」と思わず声をかけた。声が意味なく上滑りした。谷中もこちらに気づき、「お、これで全員揃ったな」と嬉しそうに言った。
「みんな帰ってきたんか?」と聞くと
「ああ。大橋なんてニュースを聞いてすぐ帰ってきたって言ってたぞ。」と谷中は終始嬉しそうに言った。
「まあ、お上がり」と母親が言い、谷中と途中から駆けつけた大橋を含めてみんなで夕食をとることにした。その夜は思い出話や近況で盛り上がったのは言うまでもない。

翌日、二日酔いの頭をさすりさすり全員でタイムカプセルを掘りに行くことになった。途中、事故のあった防空壕の前に線香と花を供えて全員で黙祷した。
「えーと、どのあたりだっけ?」と大橋が聞くと
谷中が「このあたりじゃなかったかな…。」と自信なさげに言った。
今日かけつけてきた宮田と柳沢が、「こっちだって。」とみんなを誘導し、タイムカプセルの埋まった防空壕を探しだした。「この防空壕の一番奥だったと思うんだけど…。」と宮本。この防空壕は入り口はそんなに大きくない防空壕だが奥行きが200mほどあり一番奥は広く大人十人はゆうゆう入ることが出来る広さがあった。スコップと懐中電灯片手に防空壕に入って行くと一番奥に大きな石が置いてあった。「これみんなで手伝って運んできた目印の石だな」と回想にふけっていると谷中が早く掘ろうと言いだした。ひとまず石をどかし3人がかりで地面を掘っていく。大人3人が黙々と地面を掘るのだからすこぶる早い。この状況を誰か知らない人が見たら死体でも埋めるんじゃないだろうかと勘違いされそうだ。2分ほどでスコップの先に何か固いものが当たった。12年前に埋めたタイムカプセルがついに出てきたのだ。辺りに歓声の声がわいた。その声が洞窟内に反響し不気味な音が響く。「大橋、そっち持って。」と宮田が引き上げ作業にかかる。
12年ぶりに開かれたタイムカプセルには古びた紙と当時流行していた物が詰め込まれていた。古びた紙は12年前の自分からの手紙だった。
未来の自分へと書かれた手紙には短くこう書いてあった。
10年後か20年後かわからないけど未来のあなたは元気にしていますか?辛いこともあるだろうけどくじけずに頑張って下さい。
何を書くのか決めあぐねて適当に書いた文章だったが、こうやって再び見ると感慨深いもので、他のみんなも自分の書いた手紙を見て昔を思い出したのか泣いていた…。

-東京。会社から程近い食堂のテレビは今日もついている。食堂内は人であふれいつも通りの賑やかさである。そして、今日もニュースキャスターは事件を伝える。
「…崎県延岡市で行方不明となっていた会社員数名が防空壕の崩落に巻き込まれ全員死亡していたことがわかり警察は事件・事故の両面で捜査を開始しています。昨日南洋上で発生した台風8号は北上を続け…」
そして今日もニュースキャスターは凄惨な事件を伝える。

2006/11/10(Fri)12:59:21 公開 / 驟雨
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■作者からのメッセージ
どうも、はじめまして。驟雨と申します。
先日小説を書く機会があり、この作品を書き上げたのですが
まともに書いた小説はこれが初めてで、経験不足がたたって
大変に拙い文章となってしまっています。
アドバイス等いただければ次回に生かしたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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