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『ミラー・アース〜暗闇の世界〜』 ... ジャンル:異世界 ファンタジー
作者:ふぇるあ
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あらすじ・作品紹介
その時のことは、ほとんど覚えていない。ただ、覚えているのは、わたしはすごく必死で、けれど涙が止まらなくて、そして、そこで最後に見たのは、失われたはずの蒼い蒼い空だったこと。 《それは、鏡に映した地球のような世界だった。けれど、正反対のように全く違うところもある。だから、鏡に映した地球。しかし、ある者のためにその世界は変貌を遂げ、地球から離れていった。そして暗闇に閉ざされた。暗闇に閉ざされてもなお希望を失わない者達が住むその世界の名は、『ミラー・アース』》
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序章 約束に現れない彼女
「あり得ない…あり得ない。」
バス停に一人たたずんでいる少女は、呆然とつぶやいた。
時刻は午前七時五十分。約束の時間から二十分が経過しているのに、彼女は現れない。
「あり得ない。」
少女はもう一度、つぶやいた。
おかしい。絶対におかしい。どう考えても少女にはおかしいとしか思えなかった。
そしてまた一言、つぶやく。
「真利奈が時間に、遅れるなんて…」
少女は知らなかった。まさかこの日を境に、親友と自分が長きに渡り争い続けることになろうとは……
第一章 予想外の出来事
少女の名前は水谷麗。中学三年の十四歳。成績は中の下といったところで、性格はまあまあ。友達もそこそこ居る。よく言えば、わりとできた子。悪く言えば、特に良くも悪くもなく、個性も面白みもあまり感じられず目立たない子、といったところだ。
この少女、麗がバス停に居るのは、もちろん待ち合わせ、かつバスに乗るためである。そして麗が待ち合わせている彼女、というのは麗の、親友にして幼馴染である桐谷真利奈のことだ。
この、麗の親友の真利奈とは、かなり時間に几帳面な少女だ。
一分以下でも時間に遅れれば、遅刻は遅刻。必ず三言以上は説教をする。逆に自分が一分でも遅れそうなときは、必ず連絡する。さらに、実際に遅れた場合は、連絡してきたわりに、しつこくしつこく謝り、もういいと言っても、しばらく謝り続けているのである。
もっとも、それだけ時間に几帳面な真利奈が遅刻することはめったにないことで、それだけでも彼女のその几帳面振りを知る者にとっては、自分の家から遠くないところに隕石が落ちてくるぐらい意外なことだったりする。
さて、彼女の時間に対する几帳面さを分かってもらったところで、今、麗がおかれている状況を詳しく説明しよう。
前にも述べた通り、麗と真利奈とは、同学年であり、幼馴染の親友同士である。
中学最後の年という実感もなく日々を過ごしていた麗は、夏休みが近づいてくると、親友、真利奈との思い出作りの旅行の計画を思いついた。
とはいえ、中学三年というのは忙しい年でもあり、旅行ばかりにそんなにじかんをかけてもいられない。したがって、旅行先もさほど遠いところではなく、宿泊期間もギリギリまで長くして二泊三日という短期間。大して楽しみにできるようなものではないかもしれない。しかし、親を説得しての二人だけの旅行に麗はかなり張り切っており、中学最高の夏休みの思い出にするつもりだった。そう、つい数十分前までは。
しかし、そんな麗を、予想外の出来事が襲った。
麗は、約束の五分前にバス停に到着した。その時、先に真利奈が来ていないだけでもかなり意外ではあったが、とりあえずはまってみることにした。ところが、約束の時間になっても真利奈は来ない。連絡も入らない。こんなことは初めてだった。なにやら、胸騒ぎを覚えつつさらに待ってみるが、やはり真利奈は来ない、連絡も来ない。という状況で約束の時間から、二十分が経過してしまったわけである。
今、麗は天地がひっくり返るほどの衝撃を受けている。
「絶対、なにかあったんだわ。突き止めたやる。まず、家に帰って、連絡入ってないか、聞かなきゃ。」
そう言うなり麗は駆け出した。
第二章 消えた真利奈
「お母さんっ!!」
麗は家に帰るなりいきなり母親に抱きついた。
「お母さん!麗の家から電話来てない!?」
「電話?来てないわよ。どうかしたの?麗。」
心配そうに麗を見つめながら母は問いかける。その母の様子を察してか、麗も話をできるように、息を整え、できるだけ落ち着いて、語り始めた。
話を聞き終わった母はというと、なんのことはない、という表情である。
「なにか、事情があって遅れたとか、時計を見るのを忘れてたとかだけじゃないの?」
冷静に、諭すように母は言うが、麗にはとてもそうだとは思えなかった。
「真利奈が、連絡もなく遅れるわけないわ!それに、真利奈は誰より時間に几帳面で、しょっちゅう時計を見てるんだから!」
「そうは言ってもねえ。何か急用とかで連絡するひまもないとかは?今頃、バス停にいるかもしれないわよ?」
「もういいっ!!わたし真利奈の家行ってくる!!」
バタン!!と乱暴にドアを閉めて麗は家を飛び出した。
* * *
何も考えずに家を飛び出してきた麗だが、手がかりひとつないのだから、とりあえずバス停に行ってみるか、と軽い気持ちで来はしたものの、やはりバス停には真利奈の姿はなかった。
「仕方ない。真利奈の家、行ってみるしかないかあ。」
行くと言って家を飛び出したくせにどうやらあまり本気で行く気はなかったような麗であった。
麗は、例えようもない胸騒ぎがしていた。真利奈がどこか遠いところへ行ってしまって、もう二度と会えないかのような、そんな気がしていたのだ。だから、ひたすら、急いで、走った。体育の内申点が3である麗の限界を超えたスピードを出していたかもしれない。それでも、麗はひたすら走った。大切な、幼馴染を失わないために。
もともと、バス停も真利奈の家も麗の家にわりと近い所に位置している。歩いてもそう時間はかからない距離を、かなりのスピードで走ったせいもあってか、真利奈の家には二分ほどで着いた。
「真利奈、いますか?」
息もたえだえにいきなり言い出した麗にやや驚きながらも、真利奈の母、雪子は、すでに家を出た、と答えた。
「失礼しましたっ!!」
頭を下げて普段とはまるで違うスピードを出して走り去っていく麗を見て、雪子は不思議そうに首をかしげたのだった。
それからも麗は、日が暮れるまで真利奈を探し回ったが、真利奈はどこにも見当たらなかった。
夜になって疲れ果てたように帰ってきた麗を見て母、佳奈美は驚いたようだったが、大体予想はできたのか、何も聞かずに、麗をベッドに寝かせた。
翌日、珍しく朝早くに起き出した麗は、真っ先に真利奈のことを聞いた。
「まだ、家に帰ってないそうよ。今朝、警察に連絡したって。」
「そっかぁー。やっぱり、絶対何かあると思った。」
しかし、実際警察は、今忙しい事件があるだの、一晩帰ってこないぐらいで大げさだのいって、まともな調査はしていないらしい。
『警察なんて頼りにならないわ。わたしが、真利奈が消えた真相を突き止めてやるんだからっ』
その時ひそかに麗が心の中でそう誓っていたことは、誰も知らない。そう、誰も。
第三章 鏡の水面
麗の親友、真利奈が姿を消してから、二週間が過ぎようとしていた。
その間も麗は学校に通い続けてはいたものの、何もかも集中力が無いなどの理由で手付かずの状態だった。
「ねぇ〜、麗ー。ホントそろそろ切り替えないとやばいってー。受験だって控えてるんだよ?真利奈のこと心配する前に自分の心配しなきゃ。真利奈だってただの家出かもしれないじゃない。」
麗の友人、未夏は、麗を励まし、自分のやるべきことに集中してもらうために言葉を選んだつもりだったが、この言葉が、麗の逆鱗に触れることとなった。
「真利奈が今どこでどうしてるかも分からないのにわたしだけ受験のことなんて考えてらんないよっ!それにっ、真利奈は家出なんて絶対するわけ無いんだからっ!!」
「あたしはただ、麗に自分のことに集中してほしくて…」
「真利奈がどこかで心細い思いしてるかもしれないのに、自分のことに集中なんてしてられないわよ!!」
「でも、そんなんじゃ、受験落ちちゃうわよ。」
未夏にとっては、麗を精一杯励ましているつもりだったが、真利奈のことだけで頭がいっぱいの麗には、そうとることはできなかった。
「どうせわたしのことバカにしてるんでしょ。あんただって人のことほっといてさっさと受験勉強に集中してもいいわよ?わたしには真利奈がいるし。」
「なによ、真利奈真利奈って。あたし達友達じゃなかったの?………人の気も知らないで。あんたなんかもう友達じゃない!!」
そう言うなり未夏はすたすたと歩いていった。後に残された麗はやっと自分がひどいことを言ってしまったのに気がついたが、時はすでに遅く、何度謝ろうと未夏は許してはくれなかった。
放課後。いつもなら未夏達といっしょに帰っているはずだった。しかし。未夏以外の友人も、すでに未夏と共に麗とは敵対関係になってしまったため、麗は一人寂しく帰るしかなかった。
「何やってんだろ、わたし。バカみたい。大切な人を失わないために、他の大切な人をどんどん失ってく。そして結局、真利奈だって戻ってこないかもしれない。」
悲観的な考えをしながら歩いていた麗は、無意識にまるで知らない場所へと入り込んでいた。そこは、この都会のどこにこんな場所があるのかと思わせる美しい湖。透き通った水面は、まるで磨き上げられた鏡のようだった。
「あれ。こんなとこ、あったっけ。」
辺りを見回してはみるが、周りに人の気配は一切なく、立て札のようなものも無い。地図を開いてもみるが、載っていなかった。
「それにしてもきれい。」
しばし時を忘れて一人物思いにふけろうと湖の岸にしゃがみこみ、水を間近で覗き込んだそのときだった。麗の脳裏に何かが浮かんでは消えた。不思議な感覚だった。今まで経験したことも無い、恐ろしいまでの速さで、いくつもの場面が、浮かんでは消え、また浮かんでは消えるのだ。その場面は、まるで知らない場所であったり、幼い頃旅行に行った先にあった森に似ていたり、様々だった。ただ一つ共通点を挙げるとするならば、どの映像も、瞬間的な速さで移り変わっていくのに、必ず何が写っているのかがわかり、そして写っている場面は、どれも新月で、星の出ない夜よりも暗いことだった。
「なんなの、これは。」
その不思議な感覚の体験を終えた麗は、呆然とつぶやいた。
ふとそこにある湖の水面を覗き見ると、さっきまでは何でもなかったはずの湖の底に、麗が今いるのと同じ場所が写っていた。ただ一つ違うのは、先ほど麗が体験した場面と同じ、空が深い闇に包まれていることだった。まるで、湖の底に巨大な鏡を置いたかのような光景だった。
それは、意識もしない体が動いた、ほとんど衝動的な行動だった。麗は、その湖の向こう側にある世界を引き寄せるかのように手を伸ばした。そして、確かに何かを掴んだという感覚とほぼ同時に、めまい、吐き気を感じた。まるで、天地がひっくり返るような感覚で、頭はくらくらし、まともに働かなかった。
その時、少女は運命から逃れることができなくなった。
第四章 暗闇の沼地
麗が気がついたとき、最初に思ったことは、『これは、夢だ。』というものだった。
何度記憶をたどっても、麗がさっきまでいた場所は、こんな底なし沼だらけのような気味の悪い場所ではなかったはずである。そう、鏡のような水面を持つ湖のはずだった。
頬をつねってみたり、髪を引っ張ったり、頬を思いっきりひっぱたいたり、あらゆることを試してはみたが、すべては無駄に終わった。そして麗の前に立ちはだかったあり得ない現実は、麗はあの湖からここへワープのようなことをして来た、というものだった。
「あり得ない。でもあり得てる。どうしよう。」
麗は呆然とつぶやくが、その声は強風によってかき消されてしまった。
まず最初にすべきことは何か、などと物事を冷静に考えてなどいられない麗は、とりあえず事の次第を振り返ってみたが、ごく最近にいたるまで、現実にあり得ないような体験はしていないはずである。麗がしたごく最近のあり得ない体験といっても、こんなところにトリップする理由とするにはあまりに現実味がありすぎる気もした。
そこで麗が取った行動とは…
「さあ、思い立ったが吉日よ。とにかくどこまでも真っ直ぐ歩きましょう!」
あまりにバカのような、しかしそれしか方法が無いような気もしてくる、ただ歩くだけ、であった。しかしその時、唐突に、麗には声がかけられた。
「おい、こんなところで何をしている。」
この場所に来てから最初にかけられたその声は、かなり物騒なものだった。
麗はすぐにその声を発した人物を見つけることができた。しかしその容姿は、声から考えた麗の想像とはまるで違うものだった。
まず、髪はぼさぼさで、何か分からない汚れだらけ。何色かは判別不能。さらに顔や腕、足などほぼ全身は、すすだらけ。おまけに服はぼろぼろ、しかも体は痩せ細っていた。まるで、なにかの物語に登場する乞食だった。ただ一つ確かなことは、その人物は、男だということだけだった。その姿からは、年齢すらも推測不能だったのである。
「おい、何をしていると聞いているんだ。」
ぼー、っとしていた麗に謎の男は再び声をかける。
「あっ、ごめんなさい。ところでここ、どこですか?」
自分が質問されたことをちゃっかり忘れて質問をし返す麗に、謎の男はため息で応じた。
「ちょっと、聞いてるんですけど。ここ、どこなんですか!」
麗は気が短い。自分が相手の質問に答えなかったことに相手は怒ってはいないのに、相手が自分の質問に答えなければ怒る。対する謎の男はというと、別に怒ったようでももなく、ただ一言、
「ついて来い。」
と言っただけだった。
「え?あ、はい。」
さっきまで怒っていたはずが気を取り直し、あっさりとその男について行く。麗は警戒心というものをあまり持ち合わせてはいないようである。
* * *
たどり着いた先は古ぼけた小屋だった。ところどころ苔が生えており、つるのようなものもからんでいる。ひょっとするときのこまで生えているのではないかと思われるほど放置されていたようだった。
しかし。
「なにをぼー、っと突っ立っている。早く来い。」
麗がかけられた言葉は、無情にもこの小屋に入れというものだった。裕福ではないものの、手入れされた場所にいるのが普通である麗に、どうしてこんなところに入れと言えよう。対する男はというと、別に気にしている様子も無い。まあ、この男とは先ほど出会ったばかりなのだから麗の育った状況を理解などしていなくても、当然といえば当然なのだが、もちろん麗はそんなことには思い当たらない。かといって、何も分からないこの場所で、一人あの沼地を歩くよりは遥かにましだと判断し、麗は小屋の中へ入った。しかし、その景色は、麗が予想もしていなかったものであった。
何よりも、まず、明らかに外から見た様子と、中の様子がかみ合っていない。外から見れば薄汚い小屋であるはずが、中に入るとそこは、ぴかぴかに磨き上げられた床。曇りの無い透明な窓。そして簡素ではあるがしっかりと手入れされていることを物語るいくつかの家具がそろえられたすごしやすい場所に変わっているのだ。
「何なの。ここは…」
麗は、うっとりしているとも呆然としているともとれる呟きをもらしながら薦められるままにいすに腰掛けた。
「説明は後だ。まずはお前の名前を教えてくれ。」
「…水谷、麗よ。」
男の表情にはちょっとした変化も見られなかったが、内心ではかなり驚いていた。
「水谷麗…とするとやはりお前は、日本人か?」
「そうよ。それがどうしたっていうのよ。ここは一体どこなのよ!ねえどうなってるの。教えてよ!!」
パニックになりかけの麗の口に、ふわりと甘いものが突っ込まれた。
そして男はつぶやいた。
「悪いな。少しの間、眠っていてもらう。」
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2006/11/19(Sun)13:16:43 公開 / ふぇるあ
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■作者からのメッセージ
はじめまして。ふぇるあと申します。まだまだ初心者で、内容もだめだめかもしれませんけど、とりあえず頑張って書いてみました!
ご感想、ご意見等ありましたら、どうぞ。
頑張って書くので、これからもどうか、よろしくお願いします。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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