『ひまわりと宇宙人』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:春内                

     あらすじ・作品紹介
あたしはひまわりを見ると死ぬ。そんな恐怖観念を抱いて生きる少女・有澄姫子。彼女が受験生として夏休みに経験するのは唯一の友人の失恋やムカつくあいつと過ごす時間。そして“宇宙人に追われる夢”に苛まれるようになった姫子にひとつの変化が訪れる――。

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 あたしはひまわりを見ると死ぬ。

 こう言うとクラスメイトは必ずなに言ってんの超意味不明だわみたいなことを口にする。そりゃあそうでしょうね。あたしだって「僕はリンゴダメダメ症候群を患っていてバーモントカレーを食べただけで卒倒するんだ」とか大真面目に語るやつがいたらかなりひくわよ。
 へぇそう〜。大変ね。でもそういうことは同じ星のお友達と話してね、みたいな。
 でもあたしは本気。本気であの馬鹿みたいに明るくてデッカイ花を見ると死ぬの。死ぬほど嫌い、とはまた意味が違うわよ? 確かに名前を呼ぶことすら全力で拒否したいくらいにいや。だけどもっと『嫌』の質が別なの。嫌いで嫌いでなにより恐くて、それは禍々しさすら覚えるくらい。
 あのヒマとかワリとかそういう名前のやつを少しでも視界に捉えようものならあたしはたちまちゴートゥヘル!! その瞬間、次の呼吸を続けられるなんて微塵も思えない。

 有澄姫子はひまわりを見ると死ぬ。

 それはもはや確信。予言でも真実でもない当然。卵を落としたら割れる、とでもいうような『これだけは言える』って感覚があたしの心に渦巻いているの。
 頭がおかしいんじゃないって思う? あたしは思う。自分で自分がキチガイに違いないって言えてしまう。友達の「姫子それちょっと異常だよ」なんて意見も全面的に肯定。ゼッタイあたしおかしいのよ。
 一時期すごく不安で晩御飯も喉を通らなかったときがあって、あたしお婆ちゃんに連れられて精神病院に行ったことがあるのね。自分からなんとかしてって頼んだの。
 東京まで車で3時間の道中は飽きるくらい長くて、サイドシートから見える見慣れない光景がなんだか不快に見えた。
 そしてやっぱりダメだった。どこに原因があるのか云々以前に二度とその医者にかからなかったわけ。突然に植物図鑑を引っ張り出して「じゃあまずは実際にひまわりを見てみようか」なんて言い出すヤブはノーセンキュー。けど他の医者にかかったって似たような流れになるのは明白だったからあたしはもうお婆ちゃんに病院に行きたいなんてせがむことはなくなった。
 そのときね。あたしが普通と決定的に違うんだなって思い知ったのはさ。あれはちょっと寂しかったな。
 なんでこんなにひまわりが恐いんだろう。実際に見たことはないのよ? だって見たらあたしはこの世からいなくなってるもの。
 それでも心臓の裏側には恐怖と確信がはっきりこびりついている。触れたこともない花には経験したはずもない死の印象が深々と刻み込まれている。
 きっと幼少時代のトラウマとかが関係しているんじゃないかしら――この前ふとそんなことも思った。ガッコの図書館で借りた本にそういう事例がたくさん載っていたの。えーと……ドメスティックバイオレンスとかいったかしら?
 でもあたしの両親って物心ついたときには事故で死んじゃってたし、その親もたまにあたしをめちゃめちゃ叱ったぐらいで基本的には優しかった。学校の裏山でイノシシとケンカすればどんな親だって怒るわよね。
 結論として普通の親の元で育ったわたしがそんなフラッシュバックとか起こすわけない。 
 大体ひまわり恐怖症に繋がるDVってなに? 夏が来るたびに怪談話で脅されてたとか? アホらし。言っとくけどあたしはお化け屋敷で恐いと感じたことは一度たりともないんだから。

 もうイヤよ。
 夏になるたびに外が歩けなくなるのはもうたくさん。
 だから高一に上がったときあたしはひとつ目標をたてた。目指せ某有名大学。大学生になったらこんな田舎はとっとと出て行ってやる。
 たまにテレビで「将来は田舎でのんびりやりたい」なんて語ってる都会の人を目にするけど信じられないわね。庭先の原っぱなんかが夏場に黄色一色に飾られたらどうするのよ。
 引っ越すんだコンクリートジャングル東京へ。
 そう胸に誓ってあたしはこれまでの高校生活二年とちょっとを過ごしてきた。受験本番まであと半年。いよいよこれから正念場という時期までさしせまってきている。


 明日から夏休み。
 あたしの大嫌いな季節がやってきた。


2006/05/09(Tue)15:40:45 公開 / 春内
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■作者からのメッセージ
まずは拝読ありがとうございます。
初見のようで実は一年振りの投稿だったり。
まだ作品説明のほうが余程内容を含んでいるような状態の投稿で感想など書いていただけるものでもないでしょうが、
これからも節の区切り毎に投稿していきたいと思います。
長い目を持って読み続けていただけるなら幸いです。

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